危機
歩き始めて2日。ここまで順調だ。天気もよく、このまま行けば明日には必ず着くとコハルは言った。やっと休める…。
「それにしても、順調だな。」
コハルはそう呟いた。だが、その言い方に少し引っかかった。
「順調、じゃなくて平穏すぎる…っていうこと?」
コハルの顔はさっきからすごく強張っている。
「ああ、うん、心配させるかもしれないが、普段はここを通るとき、熊とか出てくるんだよ。よく戦う羽目になる。まあ、ここで出てくるような熊はみんな弱いんだが…。」
「出なかったら平和でいいんじゃない?」
「それが、出ないってことはここらへんの熊が何処かに行ったってことなんだよ、多分。で、どこかに行く原因は、…」
グルァァァア!!
突然何かが鳴いた。いや、鳴いたとかのレベルじゃなくて叫ぶのレベル。
「ひえっ!」
「後ろに隠れろ!」
そこには、全長3メートルはありそうな熊。でも、こんなに大きな熊なんか見たことない…。
「噂をすれば…!」
うわ、コハルが言いたかったことって弱いやつが強いやつに縄張りを奪われたってこと?
熊はこっちを威嚇してくる。コハルは、いつの間にかナイフを取り出していた。
にらみ合いが続く。自分は眼の前の光景に気を失いそうだった。
熊がこっちに走ってきた。
コハルが熊に走っていく。
「コハル!」
血飛沫。こっちに突っ込んできた熊をギリギリ避ける。
数秒して、前を見ると熊は動かなくなっていた。
「なんとかなった…。」
コハルは…無傷。こいつどんなに強いんだよ。無敵かよ。
「これを見て気を失わない優花もすごいな。」
「今からでも倒れられるけど?」
「…できれば倒れないでほしいかな。」
「それは置いとくとして、コハルが言おうとしたのはこの熊が他の熊の縄張りを奪ってたってこと?」
「まあ、そうだな。まあ、今殺めてしまったからまた戻ってくるだろうけど。」
危険は去らないものだな…。
「念のため、早くこの地帯を抜けよう。」
「うん。」
……………………………………………………………
「やっと…ここまで来た。」
コハルが呟く。
僕は息を呑んだ。
今、僕らがいるのは小高い山の頂上。ここからは、荒廃した東京のビル群が見える。
まさか、初めて見る東京がこんなにも廃れているとは。笑える。
「今日中に着けるとは思わなかった。」
「ここが…、ここに"師匠"がいるんだよね?」
「ああ、ここが『旧東京特区』だ。」
彼はそう言うと、覚悟を決めたように山を下り始めた。僕もそれに続く。
僕らの旅はここからと知らずに…。