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レイチェルにそっくり


 花祭り前日。今日もグレン様から手紙が届くも、受け取っても封を切らないと知っている侍女は伝えるだけで木箱に仕舞ってくれた。枚数は六枚。一枚目を貰った五日前、ロードナイト殿下から聞いた話のお陰で今度の花祭りでグレン様をきっぱり諦めると決意を新たにした。一目惚れをされたみたいだが大切にされる訳でも、好意的にも見てくれない彼が本当に一目惚れしたのかと疑問が大きいものの、現に婚約が結ばれたのなら事実なのだ。……全然信じられないが。

 部屋にある本は大抵読み尽くしてしまい、書庫室にあるのは全てお父様が趣味で集めた本や仕事に関する資料のみ。新しい本が欲しくなった。



「街の古書店に行きたいわ」

「馬車を手配します」

「ありがとう」



 ついでに評判のお店でスイーツを買って帰ろう。私やお姉様、義母、お父様も甘い物が大好きだ。四人分となると多目に買おう。財布、ハンカチを入れる鞄をどれにしようか、とクローゼットを開けた時、先程出て行った侍女が困惑顔で戻った。どうしたのかと問うとグレン様が来ており、私に会わせろと執事に詰め寄っているとか。今お父様と義母は不在、お姉様は友人のご令嬢の招待でお茶会に参加中。対応出来るのは私しかいない。



「私が対応します。馬車の準備だけ済ませておいて。それとグレン様を応接室に」

「畏まりました」



 憂鬱だ……ロードナイト殿下の話を聞いた後だから余計。侍女数人を呼んでもらい、素早く着替えと化粧を済ませグレン様が待つ応接室に入った。

 挨拶を述べ、また先触れもなくやって来た事に嫌味を言うとバツが悪い顔をしながらも手紙の返事をくれないのは何故かと問われた。



「何故って……婚約を解消するのですから、今更ではありませんか」

「君は本当に俺と婚約を解消したいのか?」

「したくないならお父様に願いません」

「俺と婚約を解消したら次はないんだぞ」

「だとしても、私にばかり冷たくて碌に話もしないグレン様とずっと一緒にいるよりかはマシです」

「……じゃあ、君に優しくして話をすれば婚約解消を取り消してくれるか?」

「出来ない事を言わないでください」



 思い出してしまう……優しくクリスタベル殿下に微笑む彼を。私には冷たくして、他やクリスタベル殿下には……。

 突き放すように言えば傷付き、昏い瞳になった。暫し無言が訪れるも、先に破ったのはグレン様だった。



「……出来るさ」

「……なら、どうして今までしてくれなかったのですか。正直に言ってくださいグレン様。グレン様は本当はクリスタベル殿下が好きなのでしょう」

「クリスタを女性として見たことはない、俺が婚約者として側にいてほしいのは君だけだ」



 信じろと言われて信じる者がいるのだろうか。疑問だ。パーティーでもそう。エスコートはしてくれるがファーストダンスを踊ると友人かクリスタベル殿下の許へ行き、一人残された私に気を遣ってお姉様やロードナイト殿下が側に来て下さる。お陰で私は相思相愛の二人を邪魔する妹だと更に陰口を叩かれる始末。何度か、見兼ねたカリアス様がダンスに誘ってくれるがその度にグレン様は飛んで戻っては私を叱責した。自分は好きに動くくせに私には自由を許さない。思い出すだけで腹が立つも、それでも何時かはと待ち好きでいたのは私の意思だ。



「明日は俺の贈ったドレスを着て待っていてくれ。必ず迎えに来る」

「……分かりました」



 こうなったら私もとことん最後の思い出と開き直って口を挟まないでおこう。ホッとした息を吐いたグレン様は一言詫びを入れて帰って行った。

 ……疲れた。

 だが、折角馬車を準備してもらってやっぱり行かないは勿体ないので古書店へは行った。いくつかの本を購入し、更に評判のスイーツ店で多目にスイーツを買って帰宅した。


 私が戻った頃にはお姉様が帰っていた。誰かから聞いたのか、突然のグレン様の訪問を憤っていた。



「呆れ果てますわ。散々ロリーナを放置していたくせに、いざ自分が捨てられそうになると必死になるなんて」

「捨てるだなんて……捨てられたのは私の方です」

「捨てられるのはグレン様の方よ。ロリーナはずっと待っていたのに、貴女の好意に甘えて蔑ろにしたのはグレン様。明日の花祭り、嫌な事があったらすぐに飛んで帰って来なさい」

「ありがとう、お姉様」



 お姉様と心強い味方がいるだけで私の心は何度も助けられた。

 お父様や義母とぎこちないながらも過ごせているのも、使用人達に虐められてもすぐに人を変え普通に仕えてくれる人を選んでくれたのもお姉様だ。

 他家の子供に意地悪された時だって火球(ファイアー・ボール)で相手を執拗に追い掛け回し、水を掛けられた時は染み取りが大変なブドウジュースを浴びせたり。色々と守られてきた。



「街でスイーツを買って帰ったので、お父様とお義母様が戻ったら一緒に食べませんか」

「あら、いいわね。二人とも甘い物は好きだからきっと喜ぶわ」



 〇●〇●〇●



 夜。

 不意に目を覚ますと時計は真夜中を指していた。朝を迎えれば花祭りとなり、時間が来たらグレン様が迎えに来る。今日をグレン様との最後の思い出にする。それ以前に思い出があるかと言われると困ってしまう。誰もいないのに苦笑してしまった。

 一目惚れをしたから婚約を結ばれたと聞かされた時、最初に抱いたのは嬉しさよりも大量の疑問だった。一目惚れしたのなら何故私に優しくしてくれないの? 他人には、クリスタベル殿下には特に優しくしてるのに。

 お姉様を虐めている、家で我儘放題だという噂を信じるのも……。もしも私がお姉様を虐めているのならもっとギクシャクしているし、一緒にいる時間はずっと少ないし、何ならロードナイト殿下の私を見る顔付も違う。殿下はお姉様を心底愛していらっしゃるから、お姉様を虐げる私を許しはしない。我儘放題についても、着ているドレスや身に着けている装飾品は全てお義母様やお姉様が選んでくれたデザインばかり。悲しいが私にはあまりセンスがないらしく、自分で選ぶと二人にダメ出しを食らう。

 いくら考えても駄目ね。



「ううん、違うわロリーナ」



 グレン様の事は今日を以て忘れるのよ、想いを捨てるのよ。

 簡単に出来るのなら人は苦労しない、か。

 溜め息を吐くとベッドから降り、外に出た。当然だが外はまだまだ暗い。瞬時に明かりを出し、厨房へ向かった。喉が渇いたものの、寝る前に水を飲み干した為水差しは空っぽ。厨房に置いてある水差しを持って部屋に戻ろうとすると。「誰?」と声が。吃驚して水差しを落としそうになるも、寸でのところで掴み事なきを得た。声の主はお義母様。寝間着にストールを巻いている。キョトンとするお義母様に水差しを見せると理解してもらえた。



「貴女も喉が渇いたのね」

「お義母様もですか?」

「ええ」

「まだ代えはあります。取りましょうか?」

「自分でするわ。……今日の花祭りだけど、どうしても嫌ならわたしや旦那様がグレン様に帰ってもらうわ」

「お義母様……」



 接する機会は少なく、複雑な目を向けられるが私を心配してくれる。お姉様やお父様から話を聞いているお義母様にゆっくりと首を振った。



「大丈夫です。行くと決めたのは私です。それに今日をグレン様との思い出にしようと」

「そう……ロリーナが決めたのなら、これ以上は言わないわ。ただ、嫌になったらすぐに帰って来なさい」

「ありがとうございます」



 同じ事をお姉様にも言われた。こういう部分は二人似ている。

 お義母様の細く小さな手が私の頬に触れた。慎重に、宝物を撫でる手付き。



「レイチェルに瓜二つ……わたしが恋をしなければ、レイチェルは今でも好きな踊りをしていたのよね……」

「……」

「おかしいでしょう? 女性に恋をするなんて。でも、あの時は抑えられなかった。花に囲まれて踊るレイチェルに心を奪われたの。後から彼女が妖精だと知った時は納得してしまったの。妖精はね、人間よりも優れた美貌を持つと言われているの。特にレイチェルは妖精の中でも飛び切り美しい女性だから、同性でも魅了されてしまったのだとベルローズ公爵夫人に言われたわ」



 亡き母を私の中から見出そうとし、軈て、止めると手を離した。お休み、そう言って去って行ったお義母様の背はどこか寂しそうであった。



「戻りましょう……」



 水差しを持ったまま部屋に戻ったところで、グラスがないのに気付き、がっくりと肩を落とした。水分補給は朝になったらしよう……と。







読んで頂きありがとうございます。



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