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不可解




 急にやって来た私とお姉様に少し待つように言い、幾つかの書類に素早くサインをしたお父様はそれを側に控えていた執事に渡すと私達へ向いた。



「話とは?」



 ゲイル=カラー。

 私とお姉様の父でカラー侯爵家の当主。癖のある煌めく黄金の髪に濃い紫水晶の瞳の美丈夫。同年代の人と比べると圧倒的に若く見える。義母も同じである。私の容姿は青みがかった銀髪に父と同じ瞳の色。毛先に掛けて癖があるのは、髪質も父に似たからだろう。これに関しては姉と同じ。私の髪色は母と同じ。顔立ちも母そっくりだからこそ、母に恋した義母は恋心が目覚めないよう最低限にしか接しないのかもしれない。

 ほんわかなお姉様と違い、冷徹で見る者を凍らせる紫水晶の瞳に緊張感が格段に増すも、隣にいるお姉様が気遣うように頭を撫でてくれたから幾分か緊張が和らいだ。覚悟を決めてお父様にグレン様との婚約解消を求めた。

 勿論、理由も忘れず。


 私の話が終わるとお父様は「分かった」とだけ発した。


 え……?



「お、お父様、それだけですか?」

「それだけとは?」

「反対しないのですか?」

「お前は反対してほしかったのか?」

「いえ……あ、あまりにあっさり頷かれたので」

「……グレン殿の態度は目に余る。私はセレーネには勿論、お前にも幸せになってもらいたいと思っている。シュタイン家とは、必ず繋がりを持たないといけない事情がない。シュタイン公爵には、私から連絡を入れておこう」

「ありがとうございます」

「困るのは向こうだしな」

「?」



 どういう意味だろうか、と訊ねると珍しく父は目を丸くした。

 が、素に戻るのが早く聞きたくても聞けなかった。


 執務室を出るとお姉様に「良かったわね、ロリーナ」と婚約解消の了承を貰えた事に安堵された。



「あっさり受け入れられてちょっと不安です……」

「不安がらなくても大丈夫。後はお父様に任せましょう」

「さっきのお父様はどうして不思議そうな顔をしたのでしょう? それに、シュタイン公爵家が困るって……」

「さあ……でも、他人になるのだし気にしないでいきましょう」

「はい……」

「正式に解消になったら、新しい恋を見つけないとね!」

「お姉様、気が早いですわ」



 でも、助かっている部分もある。

 常に前向きで明るいお姉様に何度救われたか。思えば、クリスタベル殿下と仲睦まじいグレン様を初めて見た時、涙が止まらない私の側にいてずっと慰めてくれたのがお姉様だ。お姉様が根気よく付き合ってくれたから、何とか立ち直れた。

 今度、ロードナイト殿下にお姉様が喜ぶ物を聞いてプレゼントしよう。私が聞いてもお姉様は私がくれるなら何でもいいと仰るから。


 ――数日後。婚約解消に向けてお父様とシュタイン公爵と話し合いが持たれた。場所は何故か王宮。どうして? と首を傾げる私とは違い、お姉様は事情を知っているのかそれともロードナイト殿下がいるからかいつも通りほんわかとしている。きっと後者ね。

 お父様とシュタイン公爵が話し合っている最中、私はお姉様とロードナイト殿下から離れ一人薔薇園に来ていた。二人は一緒にいていいと気を遣ってくれたが相思相愛の二人を見ているとお腹一杯なので遠慮した。


 それに……



「駄目ね……」



 理想の恋人同士な二人を見ていると婚約者に嫌われている自分が惨めになる。薔薇園は王妃殿下お気に入りの場所で訪れる許可は事前に貰っている。

 それなりの時間が経ったら戻ろうか……と、見事な赤い薔薇の園を見て回っていると――見たくない人達がいた。



「あ……」



 一人は婚約解消予定のグレン様。

 側にいる女性はクリスタベル殿下。

 薔薇の花束を持ってグレン様を見上げるクリスタベル殿下の愛らしさと言ったら……そして、そんな殿下を愛おし気に見つめるグレン様。



「……」



 やっぱり……お姉様達の言葉に甘えて一緒にいたら良かった。

 惨めな気持ちはより惨めになった。


 違う場所へ行こうと踵を返すと「ロリーナ?」……気のせいにしておこうと、足を動かすも。



「ロリーナ」



 グレン様の歩く速度の方が速く、あっという間に捕まった。

 捕まってしまったら聞こえていなかったとは通じない。観念して振り向いた。グレン様のちょっと後ろにはクリスタベル殿下までいた。



「ご機嫌よう王女殿下、グレン様」

「何故君が此処に居る」

「お父様に言われ登城しました」

「カラー侯爵が?」

「手を離して頂きたいですグレン様。痛いので」

「……」



 逃げる意思がないと分かると渋々手を離してくれた。薄っすら赤くなってる……最悪だ。



「来ているのはロリーナ様だけ?」とクリスタベル殿下。

「お姉様もいます。今はロードナイト殿下と一緒です」

「そうなの。ではグレン、私は行きますわ」



 薔薇の花束を両手に持ったまま、複数の侍女を引き連れクリスタベル殿下は去った。残されたのは私とグレン様のみ。

 一緒にいても会話が殆どないので、二人きりの空間は気まずい。何より、お父様やシュタイン公爵は私達の婚約解消について話し合っているので尚更。



「登城理由を聞いているか?」



 この口振りからするにグレン様は事情を知らされていない?

 正直に話そうか迷うも……私を嫌っているグレン様は、婚約解消について話し合っていると知ったら喜ぶに違いない。

 さっさと彼を私から解放してあげようと私達の婚約を解消に向けての話し合いだと話した。



「は…………?」

「?」



 あれ? 思っていた反応と違う……。

 てっきり、喜んでくれるのだと思っていたグレン様から表情が抜け落ち、呆然と私を見る。

 もう一度言うと急に慌てだした。



「な、何故だ、どうして!?」

「私の台詞ですが!?」



 どれも今の私が口にしたい。



「どうして婚約解消などと……!」

「グレン様……本気で仰っているのですか? グレン様は私が嫌いでクリスタベル殿下が好きなのでしょう?」

「何の話だ!?」

「こっちが何の話ですか!?」



 喜ばれるどころか、慌て怒り出したグレン様についていけない。



「いつ俺がお前を嫌いだと言った!?」

「心当たりがないと本気で言っていますか!?」

「っ」



 心当たりはあるみたい……。なら尚更、自分の言葉がおかしいと気付いてほしい。



「私には冷たい態度しか取らないのに、他人……特に王女殿下には常に愛想をよくして、私と一緒だと常に嫌そうに目も合わせないグレン様にいい加減疲れました」

「ロリーナっ」

「大体、今までの態度の何処を見てグレン様が私を嫌いじゃないと言えるのです。好意的に見ていたと証言して下さる方がいたら連れて来てください」



 周囲からも婚約者に嫌われた令嬢だと嘲笑われていた。私が出自不明な踊り子の子だから。母の出自はカラー侯爵家ととある家が知る。周囲に言ったところで信じる者ははたしてどの程度いるか。

 私が本当の事を突き付けるとグレン様は言葉を詰まらせた。弁解しようにも事実だから他の言葉がない。



「お父様はシュタイン公爵家と繋がりがなくても我が家は困らないと言ってくれました。グレン様が不利にならないようにと頼んでいますのでお気になさらず」

「婚約解消なんて絶対認めない!」

「認めないと言われても……」

「い……今までの態度が悪かったのは認める。す、すまなかった。お願いだ、やり直しの機会をくれないか」

「……無理です」



 下に見ていた私に下手で出る程カラー侯爵家との繋がりが欲しいのだろうか? 魔法技術が絡んでいるからか。我が家が困らなくてもシュタイン公爵家にとっては痛手となるとグレン様の態度も頷ける。私が断ると傷付いた顔をなさるのは何故。私が嫌いなのでしょう?



「グレン様とこの先、一緒にいる未来を想像したら疲れ果てた自分しか浮かびませんでした。グレン様だって本当はクリスタベル殿下が好きなのでしょう?」

「王妃殿下と母が友人なのもあってクリスタとは幼少期から交流があるだけだ。王子達だって同じだ。クリスタに特別な気持ちは持っていない」

「だとしても、お断りです」

「ロリーナっ!」



 殊勝なのはどうせ今だけ……時が過ぎたら元に戻る。



「俺は絶対に認めない。父上達に話をつけに行く」

「な、ちょ、ちょっと」



 止める間もなくグレン様は行ってしまわれた。

 そうまでしてカラー侯爵家と繋がりを持ちたいの……?

 別の方法を探すにしても、きっと面倒じゃないから私と婚約したいままでいたいのだ。






読んで頂きありがとうございます。



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