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僕が貰う―グレン視点―


 今日は『花祭り』とあって人の密度は普段に比べて多い。目立つ容姿のロリーナでも見つけるのは困難だった。

 俺が贈ったドレスに珈琲が掛けられていたから、別のワンピースを着たと説明された時感じたのは一瞬の苛立ちだった。そんな嘘を吐いてまで俺と婚約解消をしたいのかと過ったのと同時に、ロリーナの中から俺は消えていたのかという絶望だった。だがロリーナや側にいた侍女の様子からドレスの件は本当のようで、カラー侯爵夫人が贈ってくれたと言うワンピースも似合っていた。いつものようにエスコートをして馬車に乗り込んだ。いつもなら向かいに座るのを今日は隣に座った。ワンピース姿のロリーナも可愛い。

 今日が最後の機会だというのに、一言でもロリーナの姿を可愛いと言いたいのに、素直になれない性格は簡単に直らない。ずっと窓を向いたままロリーナが話し掛けては相槌を打つだけだった。

 隣から感じる寂しそうな気持ち。言う機会は常にあったのに、街の広場に着いてもとうとう言えなかった。


 馬車から降り、早速何処へ行くか話し始めた時、護衛を三人連れたクリスタと遭遇した。

 今日クリスタにロリーナと来るとは言っていなかったが、意外そうに見られて俺が意外に感じた。婚約者と来るのは当然だ。クリスタには現在婚約者はいない。


 ……ロリーナに婚約解消を突き付けられた当日の夜、父に呼ばれ聞かされたのは俺がクリスタと婚約する予定だった事。元々は国王夫妻とクリスタの強い希望で打診があったのにも関わらずロリーナと婚約出来たのは、彼女に一目惚れした俺の願いを叶えてやりたかったからだと。

 心のどこかでは気付いていたがクリスタの事は妹のようにしか見ていなかった。クリスタが話し掛けても程々にしろ、まともに相手にするなと忠告するロードや、クリスタと親し気にする度に突っ掛かって来るカリアスの共通点はどれもロリーナ。クリスタと話す度寂しげに、微かな嫉妬を向けるロリーナ。

 ロリーナの気持ちが俺に向いているという優越感は気持ちがいい、同時に襲う激しい後悔は何時だって俺をロリーナに近付けさせない。いつかの夜会の時、ファーストダンスを踊った後クリスタがやって来て次のダンスの相手を希望した。断る理由もなく、クリスタといればロリーナから向けられる瞳に仄暗い喜びが得られる。ダンスを踊っている最中でもロリーナを目で追っていた。視界に映り出されたのはカリアスといる光景。途中で止め二人の間に割って入った。


 自分の事は棚に上げてロリーナだけ責めるなと怒気を孕んだカリアスの指摘は正論だ。ロリーナの側に自分以外の男がいるだけで頭がどうにかなりそうだった俺は「他人のお前には関係がない」と言い捨てロリーナを連れて別の場所に移動した。


 いつかロリーナに捨てられるぞ、とはカリアスの台詞だ。そんな訳があるか、と高を括ったツケが今こうして来てしまった。


 広場で会ったクリスタと会話を交わしているとロリーナが側から離れる気配を感じ、呼び止めても口から出るのは可愛げのない言葉達。嫉妬してくれているのだと分かっているのに、俺の口から紡がれるのはどうしようもない言葉だけ。売り言葉に買い言葉。可愛げがないと言った俺にロリーナはこのまま婚約解消を進めると言い放ち早足でこの場を去って行く。すぐに追い掛けようとしたのにクリスタに腕を掴まれた。



「待ってグレン! 婚約解消とはどういう事? 婚約を解消するなら、ロリーナ様を追い掛けなくてもいいじゃない。グレンの言う通り、あんな可愛げのないロリーナ様より私と一緒に……」

「悪いが離してくれクリスタ! すぐにロリーナを追い掛けないと見失ってしまう!」

「あ、グレン!」



 クリスタの腕をなんとか振り払い、背後から飛ぶ自分を呼び止める声に応えずロリーナを追い掛けた。すぐに追い掛けたつもりが今日は普段よりも人が多い。見つけ出すのは容易じゃない。

 ロリーナが行きそうな場所を当たるが何処にもいない。



「ロリーナっ、どこだ」



 ロリーナに会ったら謝って、花祭りを一緒に回ってほしいと言うんだ。

 これでは本当に最後になってしまう。

 ロリーナと離れたくない、今までの俺が悪かったのは分かっている、これからはと決めていたのに長年張り続けた意地は簡単には消えてくれない。

 クリスタや周囲の言う悪女なロリーナと俺が見る妖精のように愛らしいロリーナ。どちらが本当のロリーナなのかとずっと考え、果てに結婚してシュタイン家に嫁いだらずっと側にいてくれたらいいと至った。


 暫く探し続けているとロリーナから通信蝶が届けられ、もう探さなくていいこと、クリスタと仲良く回ればいいと言伝を渡された。まだクリスタといると思われていると愕然とし、彼女の中の俺への信頼はほぼ消滅している事実に絶望した。

 ずっと彼女は俺を好きでいてくれるという慢心が心の何処かにあった……噂が事実なのか、そうでないのか、確かめる機会はいくらでもあった。もしも事実なら俺が見てきたロリーナは偽物で、偽りなら今までのロリーナへの態度をどう償っていくべきか。悩み続けてしまったせいで今に至る。

 とにかく、クリスタとは一緒に回らない、場所を教えてほしいとロリーナからの通信蝶に言伝を預け俺はまたロリーナを探し始めた。


 何時だったか、カラー侯爵はロリーナに平民の生活をさせていると耳にした。出自の不明な踊り子の娘は何時か捨てられる。社交界では密かに囁かれた話はカラー侯爵の耳にも当然入り、噂を流した者は以降その話をしなくなった。俺自身もロリーナに訊いてみた。彼女はあっさりと答えてくれた。

『年に三度程、一か月街で平民の振りをして生活をしていますよ』と。嫌な顔もせず、寧ろ、楽しいと語るロリーナは何度見ても可愛くて……。理由を知っているのかと訊ねれば首を振られた。

 ロリーナへの態度は横に置いても、カラー侯爵は侯爵令嬢としてロリーナを育てる気はあるのだと思っていたが違うのだろうか? 平民として暮らしてほしいのか? どちらなのかはカラー侯爵にしか分からない。



「あ」



 目ぼしい場所を訪れてもロリーナはいない。帰ってしまったのではと諦めかけた時、広場付近から人が大勢逃げてきた。彼等の言葉を聞いていると突然大きくて丸い蜂が現れ、花壇の前にいた白髪の女性や護衛と思われる騎士達にハチミツを掛け出したと。女性の容姿に覚えがある俺は急いで花壇へ走った。

 到着すると想像した通り、クリスタと護衛の騎士達がいて。街の人々が言っていた通りハチミツ塗れになっていた。



「クリスタ!」



 クリスタに駆け寄ったのと同じタイミングで別の方からカリアスが現れた。目が合うと睨まれて苛ついたがクリスタが優先だ。

 クリスタの側で膝を折るとハチミツ塗れなクリスタと目が合った。



「グレン……!」

「どうした、一体何があった」

「分からないの! ベルローズ公爵夫人やカリアス様、ロリーナ様と此処で会ったら突然花壇から現れた蜂に襲われて……!」



 ロリーナはカリアスだけじゃなく、おば上ともいたのか? 



「ロリーナ達は?」

「蜂に襲われる私を置いて逃げたわ……! 私は王女なのよ!? 王族が襲われているのに助けないなんて、城に帰ったらお父様とお母様に言って厳重に処罰してもらうわ!」


「母上があまりに怖がって泣いてしまったから、先に助けられる人を優先したから君達を助けられなかったんだ」



 さすがにハチミツ塗れだからか、抱き付いてこないクリスタに安堵しつつ、話を聞いていると逃げたロリーナやおば上達に憤りを覚えるも、いつの間にか側にいたカリアスの台詞に噛みついてしまった。



「王女が襲われているのにか?」

「何の為に護衛騎士がいる。まあ、三人もいて一人も王女をハチから守れていない時点でいてもいなくても同じかな」



 クリスタと同じでハチミツ塗れな騎士達は俯いていた。王族の護衛を任されているので腕は立つ。更にカリアスは続けた。



「グレンは王女殿下を助けに此処へ戻ったのか?」

「騒ぎを聞いて駆け付けただけだ。ロリーナは何処だ」

「ロリーナ嬢は僕の母上といる。ハチに襲われていないから無事だ。グレンは王女殿下を城まで送って差し上げろ。ロリーナをほったらかしにしてまで大事な女性なんだろ?」

「何の話だ!」

「ロリーナが一人でいた理由を聞いて君にはとことん呆れた。けど君が愚かなお陰で僕は助かった」



 苛立ちが増す。カリアスがロリーナを好きでいるのも、カリアスには素直な姿を見せるロリーナにも。俺自身に問題があるのだと分かっていてもカリアスへの嫉妬は止められない。

「グレンっ、一緒に城に戻ってっ」ハチミツに塗れた手に服を掴まれ、気がカリアスからクリスタに逸れた瞬間――カリアスが聞いたこともない呪文を唱えた。黄金色の魔力が俺を包むもあっという間に消え去った。

 何をしたと叫べば、美しいと評される黄金の瞳がドロリと溶けた。おぞましく、背筋に氷を当てられた気分に陥るとカリアスはうっすらと笑った。



「彼女は僕が貰う。君は二度とロリーナ嬢には近付けさせない」

「ま、待て……」



 誰がお前にロリーナを渡すか、ロリーナは俺の物だ、妖精の可憐な微笑みも愛らしさも愛しい声も全部、ロリーナは――!!



「君と王女程、お似合いな組み合わせはない。幸せにグレン」




読んで頂きありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] これっぽっちの同情もせん。 グレンはクソだ。
[良い点] グレンのダメな所の描写が的確でほとんど同情出来ないところがよかったです。 姉と姉の婚約者が優しくしてくれるところも良かった。姉妹の仲がよいのが救いだったな…。 [気になる点] 義母の気持ち…
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