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精霊魔法国家アスガイアが、大きな災いに見舞われるようになってから、アスガイア王族関係者の間では食糧難に備えるための自粛が続いていた。
「どうしましょう? これまで輸入に頼っていた東方倭国の牛やら、贅沢品やら……船便が停まってしばらくは食べられませんなぁ」
「いやはや、今は災害対策で精一杯。薬や布団、壊れた家の代わりになる仮設住宅など、そちらに予算を回しましょう。トーラス王太子もレティア様も構いませんよね」
「ええ、もちろんよ。会食なんてしなくても別に……よその国の方を招くような雰囲気ですらないし」
定期的に続いていたトーラス王太子の会食も、国難に贅沢をするなんて……という意見から取りやめとなっていた。だが、王族が質素倹約を続けることで逆効果もあった。
『不景気だから、贅沢な品は全然売れなくてね……このままじゃ商売あがったりだ』
『ねぇ、最近はトーラス王太子とレティア様ってお食事会出来ていないんでしょう? もしかして、この国って潰れちゃうの?』
『多分、トーラス王太子もレティア様も災害に心を痛めているだけだよ。まさか、お金や食糧が足りないなんてことは……どうなんだろうね』
もしかすると、このまま精霊魔法都市国家アスガイアは、災害から復興出来ずに潰れるのではないか? という噂が其処彼処で流れ始めた。
『やっぱり、お妃候補はきちんと予言が出来ていたらしいアメリア様の方が良かったよ。レティア様は、霊能力だけじゃなくて運気がね。なんというか……貧乏くじというか』
『けど、アメリア様ってもうペルキセウスの王族とご結婚なされたんでしょう? 今、旦那様は持病で長期療養されているとのことだけど、ご快復されたらまた表舞台に出てくるのでは。もちろん、ご夫婦でペルキセウスの王族として。やっぱり美人は、人生のステージが違うのね……羨ましい』
『アメリア様って不自然な形で隣国へと移住されたけど、まさか王妃候補の座を奪ったレティア様よりも先に隣国の王族とご結婚されるとは。相手が年下の方だからギリギリまで隠していただけで、実は最初から向こうの王家に嫁がれるために移住したとか? すっごいベタ惚れされて結婚したらしいし』
『……国の重要人物がそんな風に移住して、他所の王族とご結婚されるなんて。アスガイアにずっといるのが不安になっちゃったなぁ。我々民間人もアメリア様のように、移住を検討した方が無難なのか』
レティアが耳を塞いでも、新聞や週刊雑誌などを情報源にして噂は流れ続ける。秘密であったはずのアッシュ王子の情報も、極秘期限の18歳の誕生日を過ぎたせいか、容姿から経歴からメディアを通じて次々と流出していた。
『これがアッシュ王子? 流石ラクシュ姫の双子の弟、すっごい美少年じゃん! 最近成人の18歳になったんだ。あーでも、もう結婚してるのかぁ』
『やだっアッシュ様、黒髪青目で神秘的っ。可愛いし、かっこいい〜。トーラス王太子よりもいいかも』
『あぁ、メディアに彼の存在が判明した時点で、既にアメリア様のものだったのね。はぁ……いいなぁ』
絶世の美少年アッシュ王子と年上の美女アメリアという意外な組み合わせの夫婦は、いやでも注目される。災害続きで娯楽が少なく暗い話題の多いアスガイアの民間人の中で、二人のことは明るい話題の一種で気になる有名人の恋愛事情といった扱いだ。
『アメリア様は隣国の王族に見初められていた』
『やはり美人には、良い男がつく』
『もしかするとアメリア様は、隣国の王妃様になるかも知れない』
アメリアの夫であるアッシュ王子は実際には倒れているのだが、表向き生きていることになっている。火葬の土葬もせずに精霊として復活をさせる動きなのだから、長期療養扱いされても仕方がなかった。そういうところは、ペルキセウス国の王族がいわゆる人間と精霊のハーフであり、生命の概念の違いが顕著に表れている証拠だろう。
異母姉のアメリアが王族に嫁いだことも、アスガイアよりも隣国ペルキセウスの方が安定しているということも、事実には違いないが。まるで異母妹のレティアの方が貧乏くじで、国としてもアスガイアの方が劣ってきているといった風潮だ。
『要するに、アメリア様の方がレティア様よりも運が良いのだろう。レティア様は落ちぶれる国にしか残れなかったのだから』
(何よ、みんなして! まるでアメリアお姉様が隣国ペルキセウスの王族として、いい暮らししてるみたいな言い方。実情はそれほど優遇されていないって、向こうだって国難だから倹約した生活だって……報告書にもあるじゃない。我が国の民間の人達は、隣国ペルキセウスに夢見過ぎなのよ。どうしよう……完全にアスガイアの方が落ちぶれているイメージが定着しつつある)
特に異母姉アメリアの結婚については、アスガイアの民の中で予想外の噂が流れ出して、レティアはいよいよノイローゼ気味になってしまう。
「どうだろう、レティアよ。国民は妙に質素倹約した我らに不安感を覚えている。アスガイアは余裕がなく、このまま駄目になるのではないかと……。ここは民のためにも、諸外国に健在をアピールする意味でも、久しぶりに会食を行ってみては?」
「悪魔像様……いえトーラス様。そうね、このままではアメリアお姉様にボロ負けした印象だし、せめて私の健在ぶりを見せた方がいいわよね」
「ククク、その意気だよレティア。お前の良いところはその美しさ、承認欲求の強さと、アピール力の高さで人の心を掴むところだ。もしそれすら役に立たないのなら……そろそろ頃合いか?」
まだまだ精霊魔法都市国家アスガイアは潰れないという見栄を周囲に張るため、自国の食品はまだ生産できるということを他国にアピールするためにも、再び会食を行うことに。
――それがレティアにとっての最後の晩餐になるとは、レティア自身予想さえしていなかった。




