05
「貴女は、一体……。もしかしてオレを連れ戻しに来たのか?」
「初めまして、アッシュ王子。私は、最近ギルドに加入してきたアメリア・アーウィンという魔法使いよ」
「アメリア・アーウィン……聞いたことがある名前だ。確か、隣国アスガイアの次期王妃候補だった人だよな。ラクシュが夢中になっているトーラス王太子の……そっか、本当に形式上だけの婚約だったのか。あれっ。じゃあラクシュは、本当にトーラス王太子に?」
どうやら、アッシュ王子にとってはアメリアのことよりも、双子の姉ラクシュが惚れ込んでいるトーラス王太子の方が気になるようだ。
順当にいけばラクシュが女王になるのだから、アスガイア次期国王のトーラス王太子と婚姻する可能性は低かったが。アッシュ王子が王位を継承すれば、ラクシュはトーラス王太子に嫁げる可能性が出てくる。
考え込んでしまったアッシュ王子だが、アメリアからすれば彼を現世に連れ戻すチャンスだった。
「いろいろとアッシュ王子が思っている状況と、現実の状況は違っているかも知れないし。ねぇ、まだ時間はあるし船に乗るのは止めて、今は私とお話ししましょう。アスガイアの状況も、私が知りうる限りは教えられるわ」
「分かったよ。えっと、アメリアさん。あと、王子呼びはやめてくれ。慣れてないし、その……恥ずかしいから。アッシュでいい」
「ふふっ。じゃあ、アッシュ君ね」
上手く会話の糸口が見つかったため、取り敢えずは船に乗せずに場所を移動することが出来た。現世とあの世の境目であろうこの場所には、ごく普通の貿易と漁業の村らしく飲食店なども建ち並んでいた。
(どうしよう? 東方倭国の御伽噺では、黄泉の国の食事を食べてしまった神様は結局現世には戻れず、迎えにきた配偶者と永遠に別れてしまうのよね。ここで飲食してしまうと、私もアッシュ君も現世に帰れないかも)
通常であれば何処かでお茶でも飲みながら会話をした方が良いのだろうが、ここが現世ではないことを考えると飲食するのは考えるところだ。一緒にお茶をしたいのであれば、彼を現世に連れ戻して改めて誘えばいいだろう。
「クルックー! ちょうど、海を眺めがら会話ができそうなスポットを発見しましたぞ。精霊の守りを発動しやすいですし、そこが良いかと」
「ポックル君の精霊力のおかげでここでも無事に居られるんだものね。そういう事情だから、ポックル君が選んだ場所でいいかしら?」
小高い丘の上に展望台と会話しやすそうなベンチが設置されている。ポックル君の目が効きやすいスポットにいないと、あっという間に精霊の守りが切れてアメリアは危険になるかも知れない。
「オレは一応精霊でもあるから精霊の守りがなくても、別にどこでも構わないけど……アメリアさんはそうはいかないもんな。さっ……行こうぜ」
「ふぇっ。ありがとう……」
少し歩いて丘の上に移動する際に、無言でアメリアの手をそっと取ってエスコートしてくれる。急な道を登る際の配慮なのだろうが、アッシュのニコッと笑ったあどけない顔を見て思わずアメリアは頬が火照るのを感じた。
(うぅ……これじゃあ、ラクシュ姫に反応していたトーラス王太子のこと馬鹿にできないわ。確かに、ラクシュ姫に似てて可愛いし、男の子だからかやっぱりカッコいい……。アッシュ君って、もうすぐ18歳だっけ? 私、年下になんか興味なかったはずなのに)
エスコートもあり、楽に移動が出来てひと息つける。まるで普通に海を観に展望デートに来たような錯覚さえしてしまう。
「しかし、最近のフクロウは随分と魔法力が上がったんだ。まさか、精霊の守りなんて高度な技を使えるなんて。オレはそんな技要らないから習得すら考えなかったけど、他人にフィールドをかけるなんて大変だろう?」
守護フィールド魔法の精霊の守りなしで普通に過ごせていたアッシュ王子は、何だかんだ言って精霊の血を引いているのだとアメリアは実感する。そして、誰がどう見てもポックル君は、鳩ではなくフクロウにしか見えないのだということも。
「ふっフクロウ……初対面のアッシュ様まで、ワタクシのことをフクロウ呼びとは。ワタクシ、こう見えても精霊鳩という伝統的な精霊の遣いでして。決して、フクロウではないのです! スキルの違いに、格の違いを感じ取って頂ければとっ」
ドヤ顔、とでも言えばいいのだろうか。ポックル君は自分が精霊鳩であることが自慢であるらしく、一般の使い魔枠であるフクロウとの格の違いをアピールしているようだ。
しかし、相手は身分を隠しているとはいえ王族にして精霊。その辺りの事情にも詳しいらしく、さらにアメリアが考えていたものとも違う反応だった。
「えぇっ? オレも小さい頃は、王宮とやり取りするのに精霊鳩を飼っていたけど。もっとオーソドックスっていうか、顔は小さめで身体も羽根の量もスッキリしてたぞ。ポックル君だっけ? 現世に帰ったらDNA鑑定とかした方がいいよ。なんか、秘密があるんじゃ……」
「そうだったの、ポックル君ってまるで自分がノーマルな精霊鳩のように主張してたから。精霊鳩って、みんなフクロウに似てるんだと思っていたわ」
「……クルックー! ち、違うっ。ワタクシは決してフクロウなんかじゃっ!」
フクロウ確定、とでも言いたげな空気が漂い、これまで見たことないくらいポックル君が動揺しだす。
「あー……変なこと言って悪い。けど多分、オマエ出自になんか秘密がある系なんだよ。オレもいろいろ秘密のある暮らしをしてたから、そう落ち込むなって」
「うふふっ。そうよ、ポックル君」
ポックル君の秘密は、いずれ追及していくとして。少しずつ笑顔が戻って来たアッシュ王子にアメリアは安堵を覚えながらも、いつもとは違う感情が芽生えつつある自分に戸惑っていた。




