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神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜

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01


 貿易国家ペルキセウスに、聖女と噂される女性が移住してきた。美しく知的で魔法に長けていると評判の彼女の名は、アメリア・アーウィン。

 隣国アスガイアで神殿の巫女を務め、ゆくゆくは王太子トーラスと結婚するのではないか……。と、されていたアメリア嬢だが、次期王妃の座はアメリアよりも、さらに魔力が高いと評判の異母妹レティア嬢へと譲られる。


 彼女がペルキセウスのギルド所属者となったのは、王族関係者にも通達済みだった。が、なんせ緊急の移住だったため、未だに王族関係者とは挨拶がすんでいなかった。

 そもそも、体裁上はごく普通の民間人としてギルドに所属しているのだから、ペルキセウス現国王が面会するのも不自然だろうとの意見。その方が、平穏な暮らしを送ることが出来るだろう……と、複雑な事情を察したペルキセウス現国王の配慮だ。


『しかし、予言の日が近しいこのタイミングで、聖女と囁かれる女性が我が国に移住して来るとは……。ふむ、時が満ちたのかも知れん。パンドラの箱が封じられている白い山脈の聖地に、調査団を派遣しよう』


 こうして始まった王立騎士団初級調査部隊による聖地の探索。あくまでも簡単な現地のリサーチ活動であり、戦闘などは予定されていなかった。若手の育成を兼ねた効率の良い簡単なクエスト……誰もがそう考えていた。


 ――あの黒い影が現れるまでは。

 


「おい、白い山脈への道のり……本当にここで合っているのだろうな」

「初級兵士の集まりとはいえ、エリート試験を潜り抜けた王立騎士団の所属者が、随分と弱気ですね。オレのマッピング魔法を疑うんですかぁ」

「ふんっ。実践経験の少ない派遣地図魔法使いが、分かったような口をきくな。何かがおかしいのだ、まるでこの兵団だけが地図のどこにもない場所に取り残されているような……」


 グォオン!

 地面が揺れ、大気が震え、空が歪む。

 姿を現したそれはまさに、想像上の生き物のはずだった。神が遣わした黒い影は皇帝をも操るとされる五本の爪と、鋭い金色の瞳、闇のような翼、全てを薙ぐ尾。


「ひぃいいいいっ。黒龍だぁああっ! 騎士様達、早く、早く、ヤってくれよっ」

「ちっ! 非戦闘要員は、後方に下がってろっ。ペルキセウス王立騎士団初級探索部隊、例え黒きドラゴンといえども怯みはしないっ。行くぞっ皆のものっ」


「「「うぉおおおおおおおっ」」」


 キィイインッ!

 ザシュッ!

 

 聖地の守り神であり、人間を喰らうものであるそのドラゴンは、現代では伝説上の俗に言う架空の生物だと思われていた。


「はぁはぁ……駄目だ。まったく、歯が立たない。くっ駆け出しのオレ達じゃ、あの方の剣技には手も足も及ばないって言うのかっ」

「クエストの目的を失ってはいけないっ。オレ達は初級らしく、探索データを持って帰ることが仕事だろう。戦闘することだけが、クエストの全てじゃないっ」

「だけどっ。このままじゃ、全員アイツにやられちまうぞ!」


 棘のある漆黒の鱗は、王立騎士初級兵士達の剣技をいとも簡単に弾き返す。鋭い爪や牙で相手を屠ることすら億劫なのか、雑兵など相手にもしていないのか。


「「「ぐぁあああっ!」」」


 たった一人だけ、黒髪青目の……まるでペルキセウスの祖と呼ばれる精霊のような美少年が、その華奢な容姿に似合わず一歩前へと踏み出した。細身の彼を支えているのは、もはや肉体ではなく、魂の中に眠る気迫のみ。


「おっおい、アッシュ。一体、何をっ?」

「まっ負けてたまるかぁ! オレは、あの人みたいに、剣聖になるんだぁッッ! 喰らえ、魔法剣ドラゴン殺し!」


 ザシュッ!

 たった一度だけ、たった一撃だけ、ドラゴンに魔法剣が命中する。おそらく黒いドラゴンからすれば僅かなダメージ、かすり傷程度の攻撃。


「グルルルル……」


 その直後、黒いドラゴンは立ち向かって来る無謀な輩には留めを刺さずに、巨大な尻尾で薙ぎ払っていずこへと飛び去った。


「はぁはぁ……早く、転移魔法でペルキセウスの詰所に。このドラゴンの鱗だけでも……」


 勇敢な新米探索隊員の若者アッシュが、命懸けで採取した黒いドラゴンの鱗。手のひらの中で大切に握られたそれは、転移魔法で兵士達と共にペルキセウス王立騎士団詰所に送られることになった。



 * * *



【王立騎士団とクエスト募集要項】

 貿易国家ペルキセウスには二つ、他の国にはない自慢があると言う。一つは海路はもちろん、シルクロードの陸路を掌握しての貿易が盛んであること。そしてもう一つは、古代時代にドラゴンを討伐した騎士団の流れを汲むペルキセウス王立騎士団の存在だ。

 特に騎士団の中でも腕の立つ者を、ソードマスターもしくは『剣聖』と呼び、咆哮の槍使いと並びそのチカラは一騎当千と謳われている。


 さあ、魅力的な王立騎士団のクエストに参加するなら、今がチャンス!


 募集中のクエストは以下の通り。


【回復魔法の使い手や錬金術師向けのクエスト】

 王立騎士団の詰所にて、怪我人の手当てを効率よく行なって下さい。見習いからベテランまで回復要員が足りず、猫耳族の手を借りたい状態です。回復の範囲が高い全体回復魔法の使用や、錬金術によるポーションの在庫納品などをお願いします。


【占星術や四柱推命など占い師向けのクエスト】

 悩める所属騎士の運勢を占って、明るい騎士団ライフをサポートしましょう。実績を重ねて占い師としてのランクが上がれば、王立騎士団の顧問占い師として所属のチャンスあり。占い師の資格取得のサポートもあり、趣味を仕事として活かせるお仕事です。


【装備錬金術による武器の納品】

 一般普及の装備品に貴方の錬金術でひと工夫、王立騎士団の武器ランクアップに貢献してみませんか? 質の高い装備を錬金できる術師には、個別で依頼が届く可能性もあります。




「ふぅん。いろいろあるけど、一体何が良いのかしらね。私とラルドさんが一緒に出来るクエストは、やっぱり王立騎士団詰所の回復魔法やポーション納品かしら?」

「クルックー! 二手に分かれて、一気にポイントを取る方法もありますぞっ。アメリア様」

「うーん、武器の納品は魅力的ですが……今はまだお互いが単独クエストに挑む時期では無いでしょう。となると、やはり……」


 同刻、ギルドランクを上げるためにアメリア達は、ギルドのクエストカウンターで王立騎士団の緊急クエスト募集要項と睨めっこしていた。まだ中級ランクに達していないアメリアだが、ランク昇進試験の際にはワンランク上のクエストに挑戦出来るのだ。


 だが、運命はアメリア達にクエストの選択肢を与えてはくれなかった。


『誰かっ。回復魔法を使える冒険者、いませんかっ? 聖地白い山脈へ派遣されていた探索部隊が……大怪我して詰所に転送されてきたんですっ。急がないと……』

『ポーションや毒消し薬も、数が足りませんっ。一つでも多く、回復アイテムを……』


 突然、ギルド内が大騒ぎになったのは、転移魔法でクエストから緊急離脱してきた探索部隊が原因だった。怪我人の数が多く、一刻を争う者もいる。


「聖地白い山脈、パンドラの箱が眠るという? こんなタイミングで。アメリアさん……」

「えぇ。行きましょう!」


 アメリア達を導く、聖女の痕跡を辿るための運命の輪が廻り始めていた。


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* 2025年10月25日、外編全17話投稿済。第二部準備中です。 小説家になろう 勝手にランキング  i1061601
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