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ある記事と依頼

 「悲しい事件でしたね…」

 そう言って秘書が甘い香りのするコーヒーを出してきた。

 今、先週解決したある事件の調査書をまとめているところだ。

 「誰も幸せにならない事件だったな…」

 そう言葉を落としながら。



***



 一か月前、老舗和菓子屋の大旦那、桜木清一郎が亡くなったというニュースが地元新聞で大きく報道された。以前より肝臓や腎臓を悪くしていたらしい。72歳だったと記されていた。充分寿命を全うしたように思う。

 だが、今目の前にいるこの男は違うようだ。

 力強くこの探偵事務所の扉が叩かれたのは、あの報道から約二週間後。幾度断っても尚、食い下がる。病死と診断された清一郎は殺されたのだ、と大声を張り上げて。

 「父は肝臓を悪くしてから、ずっと大好きなお酒を断っていた。ずっと何年も薬を飲んで容態は安定していたんだ。なのにこの数週間で、前触れもなく急変してあっけなく逝ってしまうなんて絶対におかしい。お願いだから、調査して、犯人を捕まえてくれ」

 一体全体、何を調査すればよいのだろう?もう病死だと医師より死亡確定され、警察からも事件性なしと言われているのに。再度丁重にお断りした。だが、男はこの調査に対しては法外な額を今度は提示してきたのだ。しかも、調査だけでいい、と付け加えて。

 「コロナ禍で不倫する人も減ってきてますし…。調査だけなら、良いのではないですか?」

 この探偵事務所の主な収入源は、不倫の調査。確かに昨今は依頼が極端に減った。いや、無い。

 あまり気が進まなかったのだが、秘書のこの悪魔の囁きに心が揺れ、この事件に首を突っ込むこととなったのである。



***



 桜木 清一郎

 江戸時代から続く和菓子屋の大旦那。

 55歳の頃、腎盂じんう癌を発症し、治療。

 片方の腎臓と管を取り除いた。

 そしてこの病気を機に事業から早期に退く。

 老後は趣味の酒と旅行を楽しんでいた。

 だが60歳を過ぎた頃、肝硬変になり、酒を断つ。

 2年前のコロナ禍で外も出ることが極端に減り、

 その頃から少しずつ痴呆の症状が出始める。

 そして二週間前、72歳で死亡。

 死因は肝臓がんの悪化による肝不全。


 特に不審な点は見当たらない。他の調書にも目を配る。


 桜木 清敬きよたか

 この調査の依頼人。

 清一郎の長男。結婚歴あり。子供なし。

 仕事は不動産会社の社長。

 だが、幾度の不倫で愛想を尽かされ離婚。

 離婚後、賭博にのめり込むようになり、

 現在、多額の借金を抱えている。


 桜木 暁清あきよし

 清敬の弟、桜木家の次男。

 結婚しており、二児の父。

 子供たちはそれぞれ結婚しており、独立。

 父、清一郎の事業を引き継ぎ、

 現在の和菓子屋の社長。

 真面目な性格。


 桜木 智恵美

 暁清の妻。

 一時はこの桜木家のしきたりに慣れず心を病む。

 だが、清一郎の娘の出戻り後、

 一家全員で桜屋敷から引っ越す。

 清一郎と離れて暮らすようになってから、

 心身共に回復。

 今では和菓子屋の女将として、

 事業の片棒を担っている。


 桜木 清華せいか

 清一郎の一人娘。

 化粧品会社に勤めていた際の同僚と結婚。

 一児の母。子供の留学中に旦那は事故死。

 死別後、実家へと出戻る。

 清一郎の死後、桜屋敷の女主人あるじ


 「こうして客観的に見ると、私はどうも長男が怪しく思えてなりません。借金を父親の遺産で返済しようとしたのではないか、と。遺産分けの際、何か目論みが外れたのではないですか?」

 秘書の意見には一理ある。だが、その配分された遺産の一部を借金返済に使わず、こうして依頼料に費やしているのだ。まだ今の情報だけで判断するのは時期尚早だ。

 ため息を吐いて何もない天井を眺める。

 「とりあえず、桜屋敷に行って聞き込みから始めるか…」




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