波乱の卒業式
式は終盤に差し掛かっていた。
最後は卒業証書授与だ。
成績順に1位から30位まで、以降は無作為に卒業生の名前が呼ばれていく。
毎年この優等生30人の中から優秀なハンターが出てくるが、残念ながら俺はここには入っていない。
1位から10位までを竜位、11位から20位を虎位、21位から30位までを蛇位と呼び、その中でも竜位の1位から3位までには特別な名が冠せられる。
『竜位皇帝:アルマ=ヘイスト』
『はい。』
1位のアルマは、個人の戦闘能力はもちろん、味方がいてこそ真価を発揮する火系統の能力者で、人当たりが良く人望も厚い。
『竜位双竜 兄:ボダラ=ポール』
『うーす。』
2位のボダラはごつく見た目通り岩石系能力者だが、性格は軽率でチャラい。
しかし純粋な戦闘力は歴代卒業生でも5本の指に入るだろうと言われている程の実力者だ。
『竜位双竜 妹:セルネ=インフェイト』
『はーい。』
セルネの能力には色々な噂が立っているが、俺でさえ検討がつかない。
しかし、成績がトップクラスであることは紛れもない事実だ。
能力は一つであるが、本人しか知らない秘密の能力が隠されていたり、それを他人には明かしていけないという謎の風潮がある。
1番お世話になったマキア先生は『強いひとほどそういう暗黙のルールを守ってんの。何があるかわかんないから3人とも気をつけな。』
なんて言っていたから俺も気をつけているけど、何故それが危険なことなのか、理由は先生すら知らないようだった。
だからセルネに能力について直接聞くような事はしていない。
ヒュー
急に何かが風を切る音が聞こえ始めるも、周りは気にする様子がない。
なんだろうと考えていると、上位30名があっという間に呼び終わった。
俺はいつ呼ばれるのだろう。
ヒュー
ヒュー
どんどん大きくなってないか?この音。
それに先生側も何だか慌ただしいようだ。
『ライ=トーラス』
結局最後か。
『は、
ズゴォォォォォォォォォン
背後から音と共に爆風が巻き起こった。
なんだ!何が起こった!?
ザワザワと会場が騒ぎだす。
『せ、静粛に!静粛に!』
慌てる放送委員の声に反応するものはいない。
後ろを振り向くと先程遠征に向かっていたはずのレイジが傷だらけで膝をついていた。
どうやらモンスターに飛ばされてきたらしい。
『『静まりなさい。』』
決して静まらないと思われていた会場は校長のテレパシーによって平静さを取り戻した。
『『学医団員(学園医師団)は急いで彼を手当しなさい』』
''え、あれってレイジさんだよね、''
''キャァァァー!レイジ様〜''
''何があったんだ''
様々な小言が風に乗って聞こえてくる。
レイジさんが向かっていたのはマルクF地区だったんじゃないのか?
先生から聞いた話だが、モンスターのランクとハンターのランクでは大きな差があり、例えばDランクハンターなら、Dランクモンスターを狩ることに対して、何の懸念もない状態でなければならない。というように、同じ階級でもハンターの方が圧倒的に有利になっているらしい。
その上、ハンターは自分と同じ階級を含むそれ以上の魔物と戦ってはならないという二重の警戒がされている。
しかしこれを口外すれば、近頃調子に乗っている若者が過信し、死者の増加に拍車をかけることになるので他言はできない。
ハンター総数は減っても、ハンターになるような者は命知らずが多いからだ。
それゆえ、先程セルネが口を滑らせたような事は金輪際ないよう俺も気をつけなければならない。
それにしてもなぜレイジさん程の実力者が、と考えていると答えは直ぐに分かった。
''マルクに、、、、推定B、、、''
風に乗って聞こえてきたそれは絶望的なものだった。
直近の狩場にBランク、つまり国災級モンスターが出現することはここ数百年例がなく、前回Bがこのイシュジュに強襲して来た時は国が半壊したと記録に残っている。
俺は音の能力により、意識すればかなり詳細に声や音を聞きわけることが出来る。
しかし、今回のように重大な情報を経たところでどうしようもない場合が多く、あまり自分の能力を好ましくは思っていない。
『ハプニングが起こりましたが、最後の過程もほぼ終えましたので式を閉じたいと思います。皆さん1度宿に帰って頂いて連絡をお待ちください。』
返事をまともに出来なかった、、しかも1人だけ卒業証書貰えてないし、、
軽くショックを受けつつも、その後来るであろう警報に備え、別れを告げたはずの寮に一時帰還した。
2話!!!