始まり
カーンカーン
あー、また誰か死んだのか、ここしばらく毎日だ。
訃報を知らせる鐘の音が今日も国中に響き渡る。
最近は国の伝統とも言える国葬も、あまりの数ゆえに追いつかず、行えていない始末である。
たった1人の若者が亡くなっただけで大騒ぎだったこれまでとは違い、国は死に慣れはじめていた。
『今日でこの寮ともお別れか。』
ハンター育成学園卒業式に向け、5年間お世話になった寮をあとにする。
『あー!いたいた。ちょっとまってよー!ライー』
『出るなら声かけてよね!』
部屋着姿の彼女は、今日も2階の窓から身を乗り出して俺を呼び止める。これも恒例行事になっていただろうか。
(最後は1人で歩きたい気分なのに。)
『そんなつれないこと言わないで』
この5年の学園生活の中で出来た最も親しい友人のうちの1人がこのセルネ。
毎度の事ながら心の中で思ったことに対し、大きな声で返答が帰ってくる。
しばらく待つと、わざわざ2階からジャンプし、下の茂みに落ちるも無傷かつ笑顔で出てきた。
(結局セルネの能力はなんなんだ。)
『さぁて、なんでしょう?』
『まぁいいか、じゃあ行こう。』
『モコモは今日も早いね。』
『あぁ。そうだな。』
パッパラパー、パッパッパパッパラパー
大通りに出たところで甲高いラッパの音と共に大勢が行進する音が聞こえる。
討伐祭の合図だ。
『なんでハン学の卒業式に合わせて[討祭]がやっているんだ?』
ハンター育成学園の卒業式は国に唯一ハンターになる若者を育てる施設なだけあって、王国でも有数のビッグイベントのひとつだ。
それに討祭を被せてくるなんて前代未聞、よっぽどの緊急時なのだろうか。
『うーんと、さっきいきなりマルクF地区の討伐隊が編成されたみたい。』
マルクFと言えばこれまで初心者ハンターが経験を積む為の場所だったが、最近はEクラスまで魔物のレベルが上がっていて死者が数人でている。
(へぇ、それにしても急遽編成されたにしては豪華な面々だな)
ハンター育成学園にはハンターの情報が常に入ってきており、覚えている限りでも、先頭をゆく男は現在DランクでC昇格確実と言われている天才のレイジ、それに続くのもCに近いDランクの大ベテランたちだ。
『レイジさんは20歳でDだから住む世界が違うよねえ。』
平均的にFが20歳、E昇格は30歳、Dは45歳、Cは100歳、BやAともなると運が必要になってくるとの話だが、20歳でC昇格目前というのは一言で言えば化け物だ。
医療技術が発達したせいで本来の30歳から150歳まで見た目がほとんど変わらないから見ただけで相手が何歳かは事前のハンター情報がなければ正直見分けるのが難しい。
『俺も早く強くなりたいな。』
『いいところだけど行進に見とれてたら卒業式遅刻しちゃうよ?』
そうだった、と頷くと急ぎ学園へと向かう。
『はぁ、はぁ、それにしてもなんでマルクに行くのにD級を送り込むんだろうね。』
『それが普通だからだろ。』
『あぁそっか。』
(先生から他言するなって言われてるんだから気をつけろよこいつは。)
するとセルネは少し怒ったふうを装った。
心の声が全て聞こえているのか、セルネはいつも俺の思考がわかっているような反応や言動をとる。
以前に1回だけずっと一緒にいるから考えてることがわかるんだよ、なんて言っていたが真相は謎だ。
会場に着くとようやく卒業、ハンターになれるということもあって卒業生は皆興奮し、ざわついている。
卒業生は席に着いてください
有無を言わせない放送委員の音響能力で段取りよく卒業式が始まろうとしていた。
1話投稿しました!
記念すべき1話ですが、ここからなのでじっくり考えて書いていきたいと思います!