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命じられし者-07

 宝石魔術によって爆風が包む集い場に、今プロフェッサー・Kが降り立ち、ヴァルキュリアの身体を担ぎ上げる。


彼女は僅かに背中を焼いていたが、しかし彼女へ爆発の影響があまりいかぬよう調節していたプロフェッサー・Kが生存を確認し、肩を貸す事で担ぎ上げる。


だが――ヴァルキュリアはプロフェッサー・Kの首を掴み、彼女の身体を地面へと押し付けた。



「ぐ、と……そっか、まだ支配能力、生きてるんだっけ」


『貴様、何者だ』



 爆発の中心にいて、身体の六割が爆風によって飛び散ったアスハの肉体が、少しずつ再生を果たしていく。


両脚から再生を果たしていく姿は随分とグロテスクな光景と思えたが、しかしプロフェッサー・Kは気にする事無く、ヴァルキュリアの胸元に触れ、その身体から力を失わせる。



『……何をした、貴様』


「ヴァルキュリアちゃんを仮死状態にしたんだよ。この状態なら支配能力が解除されると思ったんだけど、読み通りって事かな?」



 プロフェッサー・Kの言う通り、今ヴァルキュリアに付与していた支配能力が解けた感覚を覚えた。


彼女の能力は、支配能力に侵された者の死亡によっても解除されるようで、ヴァルキュリアは仮死状態にされた事で、死亡判定を受けたという事だ。



「面倒な能力だね。でも、これだけ面倒な能力ならある程度、付加条件とか何かが面倒になってると思うんだよねぇ……ま、それを調べるのもフェストラ君たちの仕事か。私の知った事じゃないね」


『貴様が何者かと問うている』


「それを貴方達に教える理由はないけれど、まぁフェストラ君達に色々してあげちゃったし、一つだけ。――少なくともレナ・アルスタッドさんに手を出すのは、二度と辞めた方が良い」



 言葉と共に、アスハの感知できる範囲内から、プロフェッサー・Kとヴァルキュリアの気配を、感じる事が出来なくなった。


アスハは肉体の再生を進めながら――しかし考える事は止めない。



「レナ・アルスタッドに、手を出さぬ方が良い……? ファナ・アルスタッドではなく……?」



 頭部まで再生を終えたアスハは、そう呟きながらポケットに手を入れようとするが……しかし舌打ちをした。


彼女は爆風によって全身を失くしたので、再生を終えた彼女は今、衣服をまとってもいなければ、通信可能な機材も吹き飛ばされてしまったのだ、と。



**



ハイ・アシッドとしての身体能力を用いた殺し合いというのは、私……クシャナ・アルスタッドとしてもそうであるし、幻想の魔法少女・ミラージュとしても、あまり経験した事のない出来事だったりする。


昔、それこそプロトワンとして戦っていた時は、相手へ幻惑能力さえ付与出来れば勝手に自我を崩壊させてくれていた面々しかいなかったし、以前のドナリア戦においても、幻惑能力で決着が着いてしまった部分もある。


だが、今は違う。


私が拳を振るって、その拳を掌で受けた筈のメリーが、いつの間にか私の手首を握っていて、その身体を捻らせながら背負い投げに持っていく。


そのスピードも元来人間が持ち得るスピードを遥かに超えている筈なのに、私はそのスピードがゆったりと感じる。


故に、背負い投げで身体が地面へと叩きつけられる前に、両足で着地をした後、強く地面を蹴りつける事で宙を舞い、身体を強引に動かして奴を引きはがす。


私には格闘技や戦闘術の心得などはない。だがハイ・アシッドとしての身体能力が戻っているから、ある程度力技で何とかする事が出来ている。


 私が姿勢を整えるタイミングと、メリーが引きはがされた自分の身体を着地させ、戦闘態勢へと戻るタイミングはほぼ同時。


そこから互いの得物である、黒い剣とベレッタを拾い上げ、構えると、もちろん銃器であるベレッタの方が攻撃は早いが――しかし、私は銃口から着弾位置をある程度予測し、大きく回避運動を取る事で避ける事に成功し、剣の柄を逆手に持ちながら、メリーの喉元に向けて投擲。



素早く空を駆ける黒い剣、それを避けながら左手で柄を握ったメリーが、私へ向けて足を踏み込み、横薙ぎに振るう事で私を両断したが――しかし、それは幻想の一体。


本物の私は、彼の上空を取り、その後頭部を蹴り付け、地面へ転がす事に成功した。



「っ、はぁ……っ、はぁ……っ」


「、驚いたな……ミラージュ君。君は、意外と格闘戦にも心得があるのかい……?」


「身体能力と、視力が、あれば……っ、この位はなんて事ないさ」



 とはいえ、この辺りは今までハイ・アシッドとしての身体能力を封じられた状態で、魔法少女の力だけで戦っていた事による経験も大きいと思う。


私の幻惑能力も、ハイ・アシッドとしての身体能力も、強力であるが故に生半可な敵は攻防などなく仕留める事が出来てしまう事が多いので、そうした戦い方に慣れなかった事こそが、他のハイ・アシッドよりも優れている点かもしれない。



(でも……そろそろ、私も限界に近いんだけどな)



 メリーの足を喰えた事、そして何よりアシッド・ギアを挿入する事による因子ドーピングがあった事で、私の身体は全盛期よりも少し弱い程度……つまり以前のドナリア戦より少し弱い程度位にまで回復は出来たが、私はこのタイミングで、一気に機能の衰えを感じていた。


恐らく、私に元々備わっていた因子とアシッド・ギアで追加した因子、二重で因子が存在する事から、身体機能自体は大きく向上するけれど、得た動物性たんぱく質の消費もその分多くなるのだろう。


となれば、彼の足を喰った程度じゃ賄える筈も無く……そろそろ限界が訪れる。


そんな時だった。


上空に、花火のような輝きをした火花が散り、私とメリーが同時に空を見据えた。


私達の真上、僅かに形が歪な花火に、しかし私は微笑んだ。



「来たか……っ」


「何?」



 私の言葉に訝しみながら、しかし何を言っているか分からない様子のメリーに向けて、最後の悪足掻きと言っても良いが四体の分身を顕現させ、一斉に彼へと襲い掛からせる。


黒い剣を持ち得る彼は、一閃振るって私の幻想を全て切り裂いたが――そこで私は地面を強く蹴りつけて、近くの建物屋上にまで跳び、帝国城の場所、距離を観測、その上で屋上の地面を強く蹴りつけ、跳んだ。


強く、高く跳び上がった私の身体が、帝国城のフェストラが有する執務室のベランダへと向けて跳んでいく光景を、もしかしたらメリーは見ていたかもしれないが、遠ざかってしまった今、誰がメリーかを認識できる術もない。


だが、問題無い。第一フェーズにおける私の役割は『ドナリアかメリー、どちらかの足を止める事』であり、その役割を果たした事は一目瞭然だ。


シュメルの空からフェストラの執務室まで、一直線で跳んだ私だったが、既にほぼ体力を失っている私が着地に気を回せるわけもなく、窓を割りながらダイナミックな入室を果たす。



「いっ、……つぅ……!」



 ガラスで全身を切り付けながら、その破片を乱雑に払う。


 ゆっくりしている暇もなく、傷の再生を待つ暇もなく痛みに耐えながら立ち上がると――そこには、突然かつダイナミックな来客の私を見て、ポカンとした様子のメイドさんたち給仕人が三人ほどで、机に食事を用意している光景が。



「え、えっと……」


「お綺麗なメイドさん方、申し訳ない。フェストラ様からお話は聞いてますか?」


「その、来客の方がお越し下さるのでお食事を、と伺っておりますが……」


「ありがとうございます――失礼」



 シルバーのトレイに乗せられていた、数々の料理。美味しそうな洋食ディナー料理、なんて貧乏な私にはその程度の表現しか出来ない品々が並ぶものの――私は、その中でも美しく彩られた綺麗な色味のステーキを乱雑に掴んで顔の上へ。


口を大きく開けてステーキを口の中へと落とすように入れ込み、モニュモニュと咀嚼していく。


唖然という表情が似合う給仕さん達の視線が痛い中で、私は数秒で肉を食し終わると、あまりメイドさん達を見ぬようにしつつ、部屋から出ようとする。



「あ、あの、残ったお食事は……?」


「あー……後で誰かが頂くかもしれないので、そこに置いといてください」



 この辺が貧乏性、残った料理も後でお肉を除いて頂きたい気持ちもあるのでそうお願いしつつ、私は部屋を出る。



さて――少し予定とは異なったが、少しは動物性たんぱく質の補給も出来た。ここまでが私の聞いている第一フェーズだ。


そしてここからは第二フェーズが始まるが……予定ではここでアマンナちゃん達と合流する予定だったのに、合流が出来てない。



「まさか……まだ戻ってないのか? 皆」



 疑問に感じながら私が向かうのは、フェストラの執務室から出た廊下を少し歩いた先にある、中庭園とも言うべき場所。


中央がエントランスとなっている構造の帝国城の中央に建てられた巨大なフレアラス像、その中心に立つ、二人の人物が。


フェストラと、ガルファレット先生だ。


三階の廊下に立つ私がフェストラへ視線を向けると、彼も気付いてくれたように声を張り上げる。



「そっちは上手く行ったようだな!」


「そういうそっちは何してんのさ!?」


「先ほどまで避難を指示していた! 今は概ね避難を終え、残るは一部給仕だけだ!」


「さっきの給仕さん達は!?」


「食事の準備を終え次第、すぐに避難しろと指示している! 所で、まだお前以外が第二フェーズを終わらせてないようだ!」



 やはりだ。フェストラ達もアマンナちゃん達の帰還を確認していないとなれば、第二フェーズに移行する合図を見ても尚、アマンナちゃん達が戻れない程に負傷している可能性もある。

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