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十王族-08

 結局、このプロフェッサー・Kは、好き嫌いで人を計っているだけだ。そして好みには大人子供関係なく手を出し、嫌いには例え子供であろうと何も与えない。それは――とても大人としての在り方には思えなかった。


彼女は話している限りで、聡明に見えていても、その実、精神はまだ成熟しきっていない……子供のように思えたのだ。


子供のように思えたから、色んな事を語り聞かせる。


それが、ガルファレットにとっての仕事だと、そう思えたのだ。



「フェストラの在り方が嫌いだというのなら、その在り方が何故誤っているのか、それを子供に伝わるよう、教えていく事が大人の務めだ」



 同じ大人に、彼女以上の年を経た大人たちにそれを語っても無駄かもしれない。


だがフェストラは、まだ十八歳の子供で、これから先変わっていく事の出来る素養も知識もある。


ならば、その未来を摘み取ってしまうような事だけは、しないで欲しいと願う。



「貴女がもし、フェストラよりも歳上で、自分が大人だと自覚をしているのなら――あの子の未来を考え、あの子にも手を差し伸べてあげて欲しい」



 本来、聞かねばならぬ事、言わねばならぬ事ではない。


今、ガルファレットが聞かねばならなかったのは、これから戦いになりかねない帝国の夜明けについてや、守らねばならないアルスタッド家の事、そしてシックス・ブラッドたちが知らない新たな情報についてだったはずだ。


けれど、そうして問うた事で、彼女の機嫌を損ねて、聞く事が出来ないかもしれないと考えると、失敗したなと、少し後悔する。



「……もぉ、こんな所でガチ説教受けるなんて思わなかったなァ」


「申し訳ない。仕事柄、どうしても気になってしまい」


「いえ、良いんです。個人的にも思う所あったし、私って小さな頃から教える事はあっても教えて貰う事って無かったから、新鮮でした」



 言葉通り、新鮮な面持ちと言いたそうに、口角が持ち上がって笑うプロフェッサー・Kに、ガルファレットはホッと息をついた。少なくとも、気を悪くさせたという事は無いらしい。



「まぁとはいえ、私が元々部外者である事も、ファナちゃんを守りたいだけって事も変わらないので、そう多くは教えられる事は無いんですけど」


「些細な事でも構わない。例えば、そう。我々が今後気を付けるべき相手や、注意しておくべき事など」


「であれば、丁度コレですかね」



 プロフェッサー・Kは、先ほどガルファレットが適当に触れた資料を手に取って、パラパラと捲っていく。


そして開かれたページには……ルト・クオン・ハングダムの事が記述されていた。



「そして、次はコレ」



 次に開かれ、捲られている資料は、既に読み終わっていたらしい現帝国王・ラウラやその周辺についての情報が記載された資料だ。


公的記録に残っていたものしかない故に、その情報はガルファレット達も知っているが、彼女が伝えたいのは、まさしく注意しておくべき人材なのだろう。


 そのページには……約十八年前まで、ラウラ王に仕えていた、ヴァルキュリアの父、エンドラス・リスタバリオスについての情報が記載されていた。



「そして最後に、コレ」



 最後にと付け加えながら、広げた資料には、……フェストラとルトを含めた、現在の十王族が全て羅列されていて、恐らく十王族にも気を配れ、という意味なのだろうとは予想出来る。



「この二人と、フェストラ君も含めた十王族には、気を付けておいた方が良いですよ」


「フェストラも含めた十王族……?  それにこのルト・クオン・ハングダム様も、エンドラスも、もしや帝国の夜明けと何か関係が?」


「いいえ。この二人は今の所、帝国の夜明け側の人間ではありません。十王族の方も今の所は、直接帝国の夜明けと繋がる人はいない」



 プロフェッサー・Kはそもそも【帝国の夜明け】という組織自体に、そこまで大きく危険視していないという。


帝国の夜明けはもう行動原理も分かっている、構成メンバーもほとんど面が割れていて、対処さえ間違えなければ大きな問題にならないとした。



――その対処が面倒であるという事も付け加えていたが。



「けど、この二人と、十王族は違う。貴方達シックス・ブラッドの味方にもなり得……敵にもなり得る。どっちに転ぶかは、今の段階じゃ何とも言えない」



 エンドラス・リスタバリオスと、ルト・クオン・ハングダム。


エンドラスは元々シックス・ブラッドとしても警戒対象にある人物であるが、ルト・クオン・ハングダムについては警戒こそしているが協力関係になった人物でもある。


それも二者は「帝国の夜明けと繋がりがある」可能性を鑑みては居ても、そうじゃない……第三勢力とでも言えば良いのか、敵にも味方にもなり得る存在と言われれば、何が起こっているのかを理解できない。



そしてフェストラとルト以外の十王族――否、プロフェッサー・Kは、フェストラも恐らくその中に含めているのだろう。



でなければ、十王族全員の名前が記載された資料より、彼を除いた一人ひとりの資料を見せた方が分かりやすい筈だ。



「意味わかんないって顔してますね。ただ私も今分かっている事はそれだけなんですよ。正直、ここを調べても分かるかどうかっていう確信はないし、多分、そんな足のつくようなヘマはしないでしょうね」


「では何故この二人と、フェストラを含めた十王族を、貴女は警戒しているんだ?」


「アマンナちゃんには以前言いましたけど、貴方達の敵は二つある。一つはもう既に敵対している【帝国の夜明け】。そしてもう一つは、まだ動いていない。動き出した時……この二人がどう動くか、それが分からないから、警戒だけはしておいて下さい」


「十王族が……グロリア帝国という国そのものが……俺達の敵となり得ると?」


「さぁ、でも覚悟はしておいた方が良いかも――既にアシッドなんてとんでもない兵器が、この世界に与えられちゃったんだ。火蓋は切って落とされた、って奴ですよ」



 ガルファレットの胸に指を当て、クスリと笑うプロフェッサー・K。



「貴方は自分の力を……人を殺す為に与えられた力を忌み嫌っている。でも、その力を封じたまま、子供たちが守る事は出来ないかもしれないです」


「……それでも俺は、誰も殺さない」


「シガレット・ミュ・タースさんとの約束だから?」


「ああ。必ず守ると誓ったんだ」


「そう。良かった、それが気になってたんです。……ホントにあのお婆さんは、良い騎士を育てるんだから」


「貴方はシガレット様の事を?」


「数少ない、私が敵わないなと思う内の一人ですよ。あの婆、勝ち逃げしたままポックリ逝っちゃって、凄く悲しかったんです」



 話が逸れたな、と言わんばかりに資料を閉じたプロフェッサー・Kが「次は何を言えば良いかな」と顎に手を当てた、その時。


彼女は左手首に装着したリング型デバイスに軽く触れた瞬間――目を見開き、冷や汗を流し始めた。



「マズい」


「何かあったのか?」


「帝国の夜明けが、レナさんの身柄を確保した」



 プロフェッサー・Kの言葉を脳で理解するよりも前に、今工房室の扉を強く開いたフェストラが、表情を引き締めた上で現れた。



「気付いているか、プロフェッサー・ケー」


「うん、そっちも気付いたみたいだね」



 そこでようやく、彼女の言葉を飲み込めたガルファレットが言葉を挟む。



「状況は?」


「レナ・アルスタッドが攫われた。工業区画の【集い場】に、リスタバリオスとファナ・アルスタッドの二人だけで三十分……正確に言えば今から残り十五分で来いという指名があったそうだ」


「レナ・アルスタッドには護衛がついている筈だ」



 レナは自らやファナが何者かに狙われる可能性があるという事は知らず、仕事などに出向く事がある。そうした場合に彼女の身柄を守る事が出来る護衛を用意していた筈だ。



「三人の護衛が全員殺されていたよ。シュメルの街中、その往来でな」


「ヴァルキュリアちゃんとファナちゃんは?」


「家を見張っていた護衛に声をかけたあと、二人で集い場に向かって行ったそうだ。止めても聞かなかったらしい。その報告を今受け取った、という事だよ」



 フェストラの表情にも焦りが見えている。


帝国の夜明けがレナ・アルスタッドの身柄を拘束しているという事は、少なからず彼女を現段階で殺すつもりはないという事だ。


しかしその取引材料が、ファナ・アルスタッドというのも面倒な事になる。



「私、行くね」


「待て、プロフェッサー・ケー。一つ聞くぞ」


「何さ」


「敵がもしハイ・アシッドであった場合、それを処理する術を持つのか? 敵を殺す事なく、ファナ・アルスタッドとレナ・アルスタッドの二名を無事に救い出す事が出来ると?」



 ぐ、と言葉を詰まらせ、今ポケットから取り出した一つの端末に触れる指を止めたプロフェッサー・K。



「やはり、貴女でもハイ・アシッドを殺す術は持たないようだな」


「……何が言いたいのさ」


「今回ばかりは協力してもらう。――こちらとしても、あの二人を救い出したいという気持ちは同じだ」



 今、工房室の扉をノックする音が響き――その扉をフェストラが開けると、そこには焦りを露わにした、クシャナとアマンナの姿が。



「――こちらには、状況を打破出来得る力が幾多にもある。後は、貴女の協力次第だ」

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