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十王族-02

 ハングダム家は、現在の十王族では珍しく、前帝国王・バスクの頃から……つまり入れ替わりで十王族入りした珍しいパターンであるのだという。



「ハングダム家の現当主は、ルト・クオン・ハングダムさま……現在三十八歳の女性で、お綺麗な方です」


「ほう、お綺麗な女性。それは是非お知り合いになりたいところだね」


「ルトさまは対魔師として、暗殺術に長けておりまして……過去には国家転覆を企てたテロ組織構成員三百十二名を、一人ずつ抹殺し」


「いやでも残念な事に私なんて小市民が十王族の方にお会いする機会なんてないよねぇー!」



 危なかった、私が特にどうと言うワケじゃないんだけど暗殺術の使い手とかヤバい位に怖い人じゃん。



「で、あのMは、そのルトさんって人と同じハングダム家なんだよね?」


「メリー・カオン・ハングダムは……ルト・クオン・ハングダムさまの、兄君にあたります……どおりで、認識阻害術の扱いに、長けた人間だと思いました」



 アマンナちゃんがどこからか用意した書類には、ルト・クオン・ハングダムさんと、あのM……メリー・カオン・ハングダムについての情報が記載されていた。


とは言っても、写真などの添付が無いし、そもそも私は奴の素顔を見ていないので、アマンナちゃんが見たという証言しか無い訳だけど……。



「メリー・カオン・ハングダムは……十七年前より行方不明となっていた人物です」


「また、十七年前と行方不明、か」


「既に件数としては、三人目。偶然で片付けるには、難しいサンプリング、かと思われます」



 資料を読み進めていきつつ、足りない所を補うかのように、アマンナちゃんが一つずつ解説をしてくれる。



「年齢は、現在四十一歳……えっと、ドナリア・ファスト・グロリアの、四つ下……アスハ・ラインヘンバーの、十四上、という事になります」


「それなりに歳が行っているね」


「はい。行方不明になる前までは、帝国軍司令部第四諜報部……現在は、ルトさまが部隊長を務めている部隊に、属していました」



 帝国軍司令部諜報部。日本でいう公安警察とかがそれにあたるのかな。



「ハングダム家については、色々と公務があるので、情報がほとんど残っていなくて……十七年間、行方不明であったメリーであれば、なおさら……なので、分かったのはこの位、なんです」


「だから写真も無いんだ」


「えっと……写真が、無いのは、別の理由も関係しているんですが」



 別の理由? と首を傾げると、アマンナちゃんは少し話し辛いと言わんばかりに、僅かに視線を逸らした。



「えっと……簡単に言えば、彼は元々……出産直後に、重い顔面奇形病を、患っておりまして」


「……そうだったんだ」



 顔面奇形病というのはあまり馴染みの無い名前だけれど、その名前だけである程度予測は出来る。多分、顔にあるリンパ線などの腫れとか、そういうので顔面の形が変わってしまっている状態なのだろう。



「今でこそ、差別是正の訴えがあるので、あまり表立ってはいませんが……そうした差別も、昔は多くあったとの事で……周囲に馴染めなかった、という事も、伺っております」



 だから彼は子供の頃から写真や肖像画などを好まなかったといい、加えてハングダム家の公務が国家権力に仇成す存在の調査及び排除が主なものとなる為、元々そうした写真などがないのだという。



「Mの持つ固有能力は……もしかしたら、そういう自分の顔に対する、コンプレックスから来ているのかもしれないね」


「コンプレックス、ですか?」


「私達、ハイ・アシッドの固有能力は、基本的にその人物の起源が要因しているんだ。だから自分の持たないモノへの憧れとか、そういうのが能力となるパターンも、見た事がある」


「昔……クシャナさまが、プロトワンと呼ばれていた時代から、ですね」


「うん。……まぁ、あんまり思い出したくも無いんだけど、敵にも関わる事だから、そうもいかないのが現状だ」



 ハイ・アシッドは意思を持つ。意思を持つから、その根幹には自分の理想だとか願いだとか、在り方だとか、色々な起源がもたらされる。

その起源を能力とするハイ・アシッドの特性には、面倒な能力が多かった。


ドナリアの持つ裂傷能力は、まだ能力が開花しきっていないものだと思うけど、もしアイツが能力を開花させきったら、一体どんな風になるのか。


そしてまだアスハさんの固有能力がハッキリしていない点も、今後の対応が実に難しい要因になる。


更には、M……メリーの持つ能力も、出会う度に姿が異なるという事になれば、私の幻惑能力よりも惑わす事に関しては厄介かもしれない。


私はそこで、ふと「私もまた固有能力を使えた方が良いのだろうか」と思っていたが……そこで首を横に振り、話を逸らす事に。



「ハングダム家と、アマンナちゃんのシュレンツ分家って、役割が似てるよね」


「……はい。わたしの家であるシュレンツ分家は……主にフレンツ宗家の影として、フレンツ宗家に敵対する存在の排除・調査が、主な公務となりますが……ハングダム家は、国に仇成すモノ全般が、その対象となりますので……仕事の幅が、違うっていう感じ、です」



 一緒に用意されていた、ルト・クオン・ハングダムさんの資料に手を付ける事とする。


ム! こっちは一応顔写真が添付されているけれど、実に美人だ。


金色の髪の毛を背中程まで伸ばし、そのほんの僅かに入った目元の皺などが整ったお顔に程よくマッチしている。


私のお母さんは歳の割に若々しい理想的な美人だけど、こうしてちょっと皺が多くなってる美人の女性というのもいい具合に熟女感が出て良いものだ……!



「ヤバいなぁ、職業はお近づきになりたくない感じだけど、ルトさん好みだなぁ……いや、この世の女性で好みじゃない人とかいないんだけどさ、だとしてもこの熟女感ヤバいよ。結婚歴は? 一応、人妻には手を出さない主義なんだよね。家庭壊すのはちょっと」


「その……クシャナさま、随分と下世話なお話になっています……」


「ああ、ゴメンね。で結婚歴は?」


「……未婚です……というより、彼女はその……実は、子宮頸がんを若い頃に患ってしまい……進行が進んでいた事もあり、子宮の摘出手術を行っておりますので……ご結婚が難しい、お立場にあります」



 また、ちょっとした病気の話だ。お兄さんもルトさんも、何かしら病気があったという事なのか。



「勿論、お話しも無い訳じゃ、ないみたいなんですけど……それでも相手の方が、やはり出産のご希望が多い場合もありますので……」


「王族って言うのは面倒なんだね」


「王族、というのもそうですが……魔術師の家系として、子供を遺せないというのは、非常に問題なのです」



 あ、そうか。魔術師は基本的に子供へ魔術回路を遺し、魔術回路の品質を代々向上させていく責務があるという話を聞いたことがある。


所謂血族を遺し、その血族がいずれ大魔術やそれに近しい偉業への到達をする事が役割なのだとか。


となると、ハングダム家はルトさんの代で末代になるのかな? 他の兄妹は記録上いないみたいだけど。



「ルトさまとメリーの父君である、ガナーさまと側室の方との間に産まれたお子さまが、居ますので……血族は残せるのですけど……その子がまだ、十四歳という子供ですので……その子が大きくなるまでは、ルトさまが当主という事に、今はなっています」


「色々と、問題があるんだね。ハングダム家は」


「……まだ、マシです。正直、十王族の家系はどこも、こんな風に問題があったりします……家の中でも派閥争いがあったり、後継者問題も多く……正直、わたしも億劫だったり、します」



 私も、アマンナちゃんについて、まだ多く分かっていない事がある。


先日見た夢の事もそうだけど、彼女やフェストラとの関係も、彼女とお父さんの間の関係も気になる事が多いし……でも、聞いていい問題かどうか、悩ましい所だ。



「あ、そう言えばフェストラは? まだお母さんの事とか、エンドラスさんの事調べてるの?」


「……いえ、今お兄さまは……ルトさまと会談を」


「え」


「彼女のお兄さまが、今回の事件に関わっている以上……彼女を疑う必要も、ございますので」



 **



フェストラ・フレンツ・フォルディアスは、ガルファレット・ミサンガを引き連れた上で、帝国軍司令部諜報部隊に訪れ、面談室でルト・クオン・ハングダムと顔を合わせていた。


 ガルファレットは面談室の扉に立ち、誰も立ち入りが出来ぬようにしているし、もし彼がいない所で、部隊長と十王族のフェストラが話している所に入る者などいないであろう。



「突然の来訪を許して欲しい」


「いいえ。フェストラ君には昔からお世話になっているもの。家の事もそうだけど……アマンナの事も」



 差し出された茶を、普段のフェストラならば飲む事は無い。


普段から彼は暗殺などに関する注意をしており、差し出された茶などは以ての外だが――しかし、ルトの淹れた茶に関しては飲み、口を潤わせた。



「失礼だが、体調の方は如何だろうか」


「ふふ、大丈夫。たまに痛むけど、その程度よ」



 下腹部を擦りながら、少しだけ視線を下に向けたルトと、それに目を瞑りながら頷いたフェストラの間に、僅かだが沈黙が訪れる。


しかし、数秒程の時間を経て、フェストラが指を絡めながら、本題に。



「帝国の夜明けに、貴女の兄君……メリー・カオン・ハングダムが関わっているという情報を……アマンナが入手した」


「……そう。兄さん、生きていたのね。嬉しいような、悲しいような」

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