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アマンナ・シュレンツ・フォルディアスという妹-12

「時と言うのは、星の一自転を二十四時間として定めたもので、一秒や何分というのは、そこから割り出した数字です……それは、言ってしまえば……人間の【目】で視える空間的な情報を基に、人間が定めた数学的な概念でしか、ないんです」



 アマンナの持つ【時間停止の魔眼】は、そうした人間の目で見える空間的な時間から、自分自身を切り離す……目と言う器官によって人間が定めた概念から独立した個に変質させるものなのだという。



「かなり珍しい魔眼……みたいです。正直、昔はこの魔眼が暴発して……結構、困った事もありましたし……あんまり、いい思い出は、無いんですけど」



 そもそも魔眼と言うものが先天的・後天的問わず、珍しいモノであるという。


多くの魔眼は研究途上のものではあるが、魔術回路の一部が特異な変質をしたものであるとされ、先天的なものは特に『本来見える筈の無いもの』さえも見えてしまう事が多いという。


故に先天性の魔眼である右目が『本来人の目によって捉えられる空間的な時間概念』から、アマンナ個人を切り離せるようにしているのだろう、と仮説を語る。



「でも、その二つを使って、どうやってアイツの事を見分けたの?」


「まずは、彼の能力圏内でクシャナさまの猟奇死体に近付いてきた人たちを、一人ひとり識別します。これは不干渉の魔眼を用いる事で、認識阻害術から逃れた捕捉が可能です」



 またこの際に時間停止の魔眼を用いる事で、多くの人間を長く捉える事が可能であり、一人ひとりの顔や特徴をこの状態で覚えるのだという。



「次に、時間停止をした状態で、目測三十メートル以上離れた場所に向かいました」



 三十メートル以上離れた場所……クシャナの身体を落とした建物から跳んで訪れた、反対側の建物の屋上に辿り着き、先ほど目視で確認した人間の顔と異なる顔の者を捕捉。これも不干渉の魔眼によって認識阻害術の適用を除外できる。


その上で今一度、十メートル圏内まで近付く。


これにより、猟奇死体を見る為に近づいてきた最初に目視した者達の顔と、三十メートル以上離れた者達の顔、今一度十メートル圏内まで近づいた時の顔とで、三回顔を見る事ができ、三回ともで異なる顔をしていたMを捕捉できた、というわけだ。



「ただ、魔眼って体力を消耗するのです……特に時間停止は、概念に干渉する魔眼という事も、あって……相当に、今疲れてます」


「そっか……お疲れ様、アマンナちゃん」


「……いえ、何とか無事に切り抜けて……その上で、Mの正体を、突き止める事が出来たのは、朗報でした」


「それより、私が聞きたい事、魔眼についてじゃなかったんだよね」



 首を傾げたアマンナだったが、しかしまさに今、ミラージュが問いたかったことを理解した。



「……私の身体、どうするの?」



 今まさに、帝国警備隊の人間がミラージュの猟奇死体に見せかけた身体を担架に乗せ、どこかへと運んでいく光景が見えた……というより、横を通り過ぎて行ったのだ。


 アマンナはミラージュの身体を回収する方法について、全く考えていなかったのである。



「……えっと、後で根回しして回収しますので……しばらく頭だけで我慢してください」


「……やっぱりそうかぁ……イヤな予感したんだよなぁ……」


「……ごめんなさい」



 自分の至らなさを反省するように、シュンと落ち込むアマンナの表情。


自身を包む布の隙間からそれが見えて……ミラージュは苦笑を浮かべるのである。



**



帝国軍司令本部へと訪れていたフェストラ・フレンツ・フォルディアスは「帝国軍所属の人間を調査している」として、エンドラス・リスタバリオスを含めた帝国軍司令部に在籍する人間をまとめた資料を資料室で参照していた。


近くに誰も配置せず、資料室にはフェストラ以外、誰も居ない。


資料室の扉にはガルファレットを置き、誰も居れるなと命じてある。彼は元々帝国軍指令総務部に属している人間であるので、彼が資料室の前に立たされていても、大きく問題は無いし、フェストラの警護と称して立ち入りを禁じているのにも違和感は無い筈だ。



「エンドラスとレナ・アルスタッドが関わっているような記述は、特に見当たらんな」



 一つひとつ、情報を吟味しているフェストラだが、この調査において何かを見つける事が出来るとは、彼自身思っていない。


そもそもレナ・アルスタッドについて、これまでアマンナもフェストラも多く調査をしているのにも関わらず、エンドラスやラウラ王に関する情報を見つける事が出来ていなかったのだ。


エンドラス曰く、ラウラ王とレナ・アルスタッドには何かしら関わりある筈。なのに、その情報が出ない――これは、何かしらの情報規制や改竄が成されていると考えるしかない。



「レナ・アルスタッドに、ファナ・アルスタッド……親子双方の記録が、どういう訳か改竄されている。コレを偶然と見るべきなのか、否か」


「それを知りたいって言うんでしょ? ――全く、遠回しに色々と手をこまねく所、変わらないよねフェストラ君ってば。前に会ったの、何年前だっけ?」



 フェストラ以外誰も居ない筈の、帝国軍司令本部資料室に、彼以外の声が……女性の声が聞こえた。


ぱたんと資料を閉じながら、声のした方を見据えると……銀のマスクで目元を覆い、薄手のシャツと紺色のハーフパンツを着た女性が、フェストラの下へ近付いていた。



――プロフェッサー・K。



フェストラが探し求めている人物であるが、彼女の事を見据え、フェストラは冷や汗を一筋、流した。



「二つの意味で驚きましたよ」


「ふーん。一つ目は?」


「本当に貴女が現れた事だ」


「そっちが誘導したんじゃん。あの二人を使って探させる、なんて事したら、私がどう動くか分かってたんでしょ?」


「ああ、そうだ。アマンナと庶民に貴女を探させる事で、貴女がどうするかは二通り考えられた」



 フェストラは以前から、プロフェッサー・Kという女性が何者か、予想を立てていた。


彼女を象徴する一番の特徴……「第七世代魔術回路を持ち得、左手首に魔術使役を短縮させるリングを装着している女性」という点が、フェストラには覚えがあったのだ。


 もしプロフェッサー・Kがフェストラの想像する女性であった場合……クシャナとアマンナにプロフェッサー・Kを探させたら、そのまま二人に接触する可能性も、フェストラ本人に接触する可能性もあるのではないか、と考えていたのだ。


そして、それは見事に的中し、事実彼女はここにいる。



「二つ目はプロフェッサー・ケーの正体が、本当に貴女であった事だ。外れていて欲しかったのですがね」


「なるほどねぇ――じゃあ私は見事にフェストラ君の予想通り、しかもフェストラ君がイヤだって思う登場をしたってワケか」


「登場は歓迎しますが、貴女であって欲しくなかった、と言っているんです」



 ため息をつきながら手に持っていた資料を棚に戻し、フェストラはプロフェッサー・Kと向き合う。


彼女の醸し出す雰囲気と、彼女の正体に圧され……流れ出る冷や汗は、彼の体温を徐々に下げていく。



「色々と聞きたい事があるのですが、お答えいただけるのでしょうか?」


「ううん。私、フェストラ君の事あんまり好きじゃないから答えたくないって考えてるよ。こうやって私を誘き出すみたいなやり方も好きじゃないし……正直、ちょっとイラついてる」



 マスクのせいで表情はよく分からないが、その覆われていない口元が、どういう形をしているかは分かる。


彼女は頬を僅かにヒクヒクと動かし、本当に苛立っている事がフェストラにも理解できた。


吹き出る汗は、より多くなる。



「貴女はファナ・アルスタッドの事を守りたいとしていた。オレが多く情報を得れば、彼女を守りやすくなるとしても、ですか?」


「うん。……私がさ、どうしてアマンナちゃんに多く接触してたか、分かる?」


「さて。貴女のような狂人の思考は、オレには理解できんのですよ」


「フェストラ君みたいな狂人をいつまでも妄信していないで、早くアマンナちゃんなりの在り方を見つけて欲しいと思ってるからだよ」



 目元のマスクを外し、乱雑に放棄したプロフェッサー・K。


そのマスクで隠れていた、美しい整った顔立ちは、フェストラの想定通りの人物であり――彼女の正体が確定した事で、彼は深く深く、ため息をついた。



「アマンナなりの在り方。それを貴女がアイツに示そうと言うのか?」


「ううん。あの子には気付いて欲しいだけだよ。私が在り方を自分勝手に押し付けるなんて事はしない」


「なら、アイツの事は放っておいて下さい。――アイツなら、その内自分自身で、自分なりの在り方に気付くでしょう」



 フェストラの言葉に、プロフェッサー・Kは少し驚いたと言わんばかりの表情を浮かべている。


彼女はフェストラがそうした答えを言葉にすると、思っていなかったのだろう。



「フェストラ君、もしかして君……アマンナちゃんの事を」


「それ以上言わないでください。こっちは今、貴女を内政干渉として起訴する事も出来る立場だ。そもそも――ここに貴女がいる事自体、国際問題になり兼ねないのだと自覚してください」



 冷や汗を拭いながら、フェストラは重たい唇を少しずつ動かして――その女性の地位を、告げる。




「……貴女は、レアルタ皇国・第二皇女でありましょう?」




世界で四人確認されている第七世代魔術回路を有する魔術師として、魔術師であればその名を知らぬ者はいない人物。



――最強にして、最優にして、最高位の魔術師として、その名を世に轟かせる女性。



それが彼女……異国の第二皇女、カルファス・ヴ・リ・レアルタである。

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