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アマンナ・シュレンツ・フォルディアスという妹-07

 帝国城を出た私とアマンナちゃんが長らく街を歩いていたのには二つの理由がある。


 一つ目は地球の事を教えるにしたって、プロフェッサー・Kなる女性が私達の前に姿を現すのを待つにしたって、ある程度人目の付かない所が好ましいだろうと考えた結果、落ち着いた雰囲気のお店でも探そうとした為。


二つ目は……そうしたデートとかに使えそうなシュメルのお店にはいくつか心当たりがあったのだけれど、軒並み先日の騒動で臨時休業となっている事が多かった為だ。



「ゴメンねアマンナちゃん。それなりに歩かせちゃって」


「いえ、歩くのは、全然かまいません」



 体力のない私はともかく、アマンナちゃんは全然疲れていないように思える。だがあまり長時間レディを歩かせるのは個人的に好ましい行為じゃない。



「じゃあもう、どこかご飯が食べられる場所に入ろうか」


「……はい。あの、わたしが認識操作術を用いれば、ある程度人目を引かない事は、可能……なので」



 そう言われた瞬間、私の中で「そうだったわ」って響き渡る。つまり今まで歩いていたのはほぼ意味なかったという事となる。



「……アマンナちゃん、それ先に言って欲しかったなぁ」


「えっと、ごめんなさい……その、クシャナさまが『エスコートするよ』と仰ってたので……わたし、あまりエスコートって、された事、ないので……ちょっと、楽しみで」



 楽しみ。アマンナちゃんからそうした言葉が出るのは、ちょっと意外だった。もちろん、彼女が無感情であると思っていたわけじゃないけども。



「アマンナちゃん何時もフェストラと一緒にいるし、てっきりこうやってエスコートされるのは慣れてるものだと思ってたけど。アイツもいい所の子なんだし、レディーファーストは心得ているでしょう?」


「……えっと、フェストラさまとも、普段はあまり一緒にいる事は、そう多くは、ないです」


「一緒にいる印象があったけど。あ、でも……」



 そう、フェストラとアマンナちゃんが一緒にいるのは、フェストラが暗躍している時か、仕事をしている時だけだ。


例えば聖ファスト学院での休み時間など、フェストラは多くの生徒達を囲っているが、あの中にアマンナちゃんがいた覚えはない。


加えてフェストラがアマンナちゃんに頼む仕事は、基本的に諜報系の仕事だ。結果としてフェストラの近くにいる事は多く無いだろう。



「でも兄妹なんだし、小さい頃にフェストラと遊びに行ったりとか」


「……ない、です。フェストラさまは昔から、忙しくされていた方なので……」


「なんて勿体ない。私がフェストラならアマンナちゃんを物凄く可愛がっちゃうのになぁ」


「……わたしとフェストラさまは、クシャナさま達のような関係では、いられませんでしたので……」



 少しだけだけど、アマンナちゃんが悲し気な表情を浮かべた気がした。


その表情を見た瞬間――私は今朝見た夢の事を想い出してしまい、思わず顔をアマンナちゃんから逸らしてしまう。



「クシャナさま?」


「え、あー。あのお店とか良いんじゃないかな? 落ち着いた雰囲気だし、あそこのコーヒーは良く飲むんだ」


「……はい」



 幾度か行った事のある喫茶店に入った私とアマンナちゃん。落ち着いた照明によって僅かに薄暗い、そして疎らに人の出入りがあるからそれなりに喧騒があるお店。


適当に四人掛け席に腰掛けた私とアマンナちゃんは、コーヒーを注文して、数分程待つ。


運ばれてきたコーヒーの黒さに、私は何も入れる事無くブラックで頂くが……アマンナちゃんは置かれたシュガースティックを四本、そしてフレッシュを三個入れて、少しどころか結構かさが増したコーヒーを、スプーンで掻き混ぜていく。



「アマンナちゃんって、甘党?」


「……えっと、その……甘党というか……苦いのは、あんまり得意じゃ、無いです……コーヒーは、嫌いじゃないんです、けど」



 僅かに表情を赤くしたアマンナちゃんも珍しいけどかわいい。私は「今すぐベッドに行こう」と思わず言いたくなる気持ちを抑えつつ、アマンナちゃんがポケットから取り出した、一枚のカードを受け取った。



「え、今なんにも考えず受け取っちゃったけど、何コレ」


「認識阻害の魔導機、です。お持ち下さるだけで、周りの人間は、クシャナさまの姿やお言葉が、違和感のないものだと、認識付けされるので……」


「例えば私がここでおっぱい丸出しにしてもそれが違和感ない物として扱うの?」


「……えっと、その……それは……社会倫理的に、お控え頂いた方が……」


「例えばの話だからね!? 私がやりたいって事じゃないからね!?」



 顔を赤くして「そういう性癖は容認しますが」みたいな感じで言われると。ギャグにマジで返されるのって本当に恥ずかしい



「……ごめんなさい。わたしも、普段のヴァルキュリアさまや、ファナさまみたいに……お話しできれば、クシャナさまも苦労なされないと、思うんですけど……」


「い、いや大丈夫! アマンナちゃんのそうした真面目な所はヴァルキュリアちゃんに似てるよ。あの子にも私の高尚なギャグが時々通じないしね!」


「そうなのですか……クシャナさまのご冗談は、高尚なギャグ、というのですね……」



 うーん、今のも出来れば「イヤお前のは高尚なギャグじゃなくてただの下ネタじゃい」みたいなツッコみいれて欲しかったのだけれど、正直このままだと話しが進まないので、本題に入る事とする。



「とにかく、コレを持ってれば周りから違和感が無いように見えるし、声もそういう風に聞こえるんだよね? でもそれって、あのプロフェッサー・Kって人に見つけて貰えるのかな?」


「……恐らくは。正直、あの人の技量なら……多分この程度の魔導機が放つ作用は、分かっちゃうと思います」


「そう言えば前から聞きたかったんだけど、アマンナちゃんはどうしてあの人に目を付けられてるのか、心当たりはあるの?」



 目を付けられている、という表現は適切じゃないかもしれない。だが、話を聞いている限りでは、あのプロフェッサー・Kという人物が接触したのは、アマンナちゃんに二回、私に一回。加えて私にファナを返却する為に接触してきた時にも、アマンナちゃんと会っている。


つまり計三回と、アマンナちゃんは多く彼女と接触しているのだ。そこには何か意味があるのじゃないか、なんて私なりには踏んでるんだけど……。



「無い、です。もし、ファナさまを守りたいのであれば……わたしに話しかけるより、お兄さまとかに直接、話しかけた方が、手っ取り早いのに……」


「アマンナちゃんの事を好みだと思ってるのかな?」


「それは……無いんじゃないかな、と、思うんですけど」


「どうして?」


「わたしは、ファナさまみたいに可愛く、ないし……クシャナさまや、ヴァルキュリアさまみたいに、綺麗でもない、です……人に、好かれる要素が、ないし」


「そんな事ないよ。アマンナちゃんはとっても可愛い女の子だ。周りの男たちがどうして放っておくのか、私には疑問だね」



 確かにアマンナちゃんは普段から目を髪の毛を覆っちゃうから、可愛いと判断はしにくいかもしれない。


けど少しだって彼女と話せば、彼女のあまり多くを言い慣れていない口調とか、そのメカクレな感じがとてもキュートに感じるだろうに。


あー、でも私としてはアマンナちゃんに言い寄る男が増えると困る。私ってば女の子同士が好きだから、出来るだけ男は寄ってきてほしくない。女の子は女の子同士でイチャイチャしてほしい。男は男同士で相撲でもしてればいいんだよ。



「そう言えばアマンナちゃんって、フェストラと同じ六学生だよね? つまり、フェストラとは同い年なんだ」


「……えっと、はい。お兄さまの方が、二週間早く、産まれてます」


「じゃあクラスメイト達はフェストラのご機嫌取りに行ってるからアマンナちゃんの可愛さが広まらないわけだ」


「……そもそも、わたしは普段、教室に居ても、居なくても……気付かれて、無いので。普段から、認識阻害が、効いているので」


「授業中も?」


「はい。その、そうやって普段から周囲の環境に、馴染んでいる事で、いざという時、フェストラさまを、お守りできるように」



 フェストラの影である事。


それがアマンナちゃんに課せられた、責務というものなのだろうか。


そんな事を考えていたら、また今朝見た夢を思い出してしまった。



フェストラの父親だと思わしき男が、アマンナちゃんの持つ魔術回路が第五世代な理由を問い詰め、アマンナちゃんがフェストラを「お兄ちゃん」と呼んだ瞬間、強く叩いた時の光景を。



「ねぇアマンナちゃん」


「はい」


「アマンナちゃんはさ、たまにフェストラの事、お兄さまって呼ぶじゃない?」


「……はい」



 僅かに、返答が開いた。いつもの事ではあるのだけど、でもこの時の開き方は、少しだけ違和感があった。


彼女なりに、考えて頷いたという事だろう。



「何で、普段からお兄さまって呼ばないの? 本当の兄妹なんでしょう?」


「……そう、ですね。腹違いでは、ありますけど……フェストラさまは、お兄さまです」


「なら」


「お兄さまは、わたしにそう呼ばれるのが、好きじゃないみたいなのです。……たまに、わたしも間違えちゃうんですけど、その度に怒られちゃいます」

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