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アマンナ・シュレンツ・フォルディアスという妹-06

 そこでようやく二つ目の本題も話し終えたようで、フェストラが立ち上がり、ガルファレットと共に部屋を出ていこうとするが、ドアノブに手を伸ばしたと同時に、ふと思い出したと言わんばかりに足を止めた。



「それと、もう一つだけ共有しておく。サーニスから調査結果を記した文が届いた」


「サーニスって、レアルタ皇国軍の人?」


「ああ。ゴルタナの密輸経路に関しては分からなかったが、可能な限り封鎖したとの事だ」



 だが、と言葉は続いた。



「どちらにせよ敵は、チキューという異世界における銃器を武装する方法を有している上、魔晶痕の残さない移動方法などを確立している。つまり……既存の輸出入経路など、既に役立てていない可能性もある、という事だ」



 しかし意味がない、というわけでもないという。元々ゴルタナという兵装はレアルタ皇国のリエルティック商会という業者が一括管理を行っていて、そこでの管理徹底があるだけでも、今後ゴルタナの密輸入が行われる頻度を減らせるだろうとの事だ。



「ちなみに、どうしてそれをヴァルキュリアちゃんとかに伝えなかったのさ」


「ファナ・アルスタッドとリスタバリオスには共有しておく情報を区別化しておく必要があると判断した。あの二人は情報を与えすぎれば、情報の錯綜で混乱しかねん」


「なるほどね」



 その会話を最後に、フェストラとガルファレットが退室した。


結果として、フェストラの執務室である筈の場所に、クシャナとアマンナだけが取り残され……クシャナは頭を掻きながら「どうしようかな」と口にした。


このままこの場所にいても、恐らくプロフェッサー・Kは現れない可能性があるだろうし、そもそもクシャナとしては帝国城の中に何時までも居るのは居心地が悪い。



「ひとまず、街まで出ようか。エスコートするよ、お姫様」


「……えっと、お姫様じゃ、無いですけど……はい」



 何時ものように、多く感情を晒さないアマンナと共に帝国城を出るクシャナ。


二人はそのまま無言の状態で、落ち着ける場所を見つけるまでの間、しばらく街を歩く事とした。



**



そこがどこか、盲目の彼女には分かる術もない。


 アスハ・ラインヘンバーは、周囲が雑音から切り離された場所に立ちながら、自分に施された空間認識能力を用いて、男の後ろにただ立つだけだ。



「おいM、どうして動こうとしない?」



 その声はアスハと最も険悪な間柄だと表現できる、ドナリア・ファスト・グロリアの声である。



「どうしてとは何がだい、ドナリア」


「先日の事件で国内は疲弊している状況だ。俺達としても動くには最適な状況じゃないのかと聞いているんだ」



 応対するのは、アスハやドナリアを取りまとめる男だ。二人とも旧知の仲ではあるが、名を述べる事を許されていない。


故に二人も、先日彼がシックス・ブラッドへ適当に名乗った名前である『M』を、便宜上用いている。



「理由は二つある。一つは君の復活さ。君はクシャナ・アルスタッドと同じく、随分と長い間動物性たんぱく質を補給せずに暮らしていたからね」


「肉なら喰ったさ。それなりに栄養価の高い肉をお前から貰ってな」


「動物性たんぱく質の補給から肉体へ栄養が行き渡るまでの時間を考えれば、先日の騒動で動く事は出来なかった、という事だよ」



 一週間前からドナリアを救出した二者はクシャナがドナリアに展開した幻惑能力が解除されるまで時間が経過するのを待っていた。


ドナリアは先日、幻惑能力が解除され、ある程度混乱した頭を休ませるように休息を余儀なくされていのだが、その間に【ビースト】と呼ばれる男の引き起こした事件がグロリア帝国で発生し、国内は大きく疲弊している状況に陥った。


そして今日……ドナリアは完全復活し、国力が大きく疲弊している今がチャンスだと言わんばかりに声を上げ、すぐに動く事を提案していたという事だ。



「二つ目だが、そもそも私達は国を瓦解する事が目的じゃあない。確かにある程度の混乱は革命に必要だが、あの状況で私達が動いていれば、この国は完全なる崩壊に向けて進んでいただろう」


「全部ぶっ壊してしまえば良かっただろうに。俺はお前と同じ目的を持つと思っていたが」


「目的と野望を共にしていても、方法が異なると言っているのさ。前回の聖ファスト学院襲撃もそうだけれど、君は随分と過激すぎるよ。エンドラス様の仰っていた、『理想と現実との差異を埋めるには、どうしても過激な方法を取る他ない』という言葉も確かにそうだ」


「エンドラスめ、俺達との協力を拒む癖に、一丁前の事を」


「いいや――あの方は拒んでなどいないよ。今はね」



 ところで、と言葉を挟みながら、Mが顔を動かしたように、僅かだが風向きが変わった。アスハはMがこちらを見たと認識し「はい」と応じる。



「アスハの方はどうだい?」


「ドナリアと意見を共にするわけではありませんが、私としても動く事に異論はありません」


「先日、君はフェストラ様に展開していた強化魔術を相殺されていたからね。新たに強化を施してあげたが、細やかな調整は必要かい?」


「問題ありません。お手数をお掛け致しまして、面目次第もございません」


「そっか。ふふ、二人とも動けるのならば、私としても心強い。私はどうにも、君達二人とは違って、直接戦う事に向いていないからね」



 立ち上がる時の、布が擦れるような音が聞こえた。恐らくMが動くのだと察したアスハは、彼についていこうとするが――



「ああ、大丈夫だよアスハ。今日の所は私一人で出向くから」


「ですが、事を起こすのであれば」


「いや、まだ事は起こさない。……どうにもフェストラ様には、私が知り得ている以外の手があるようだし、二つほど調べに出るだけさ」



 遠ざかっていく足音、その足音は、数歩分程度聞こえた所で聞こえなくなった。


 するとドナリアの深いため息が聞こえて――アスハは彼へと顔を向ける。



「アイツはどうしてこう、自分勝手に動くんだろうな」


「黙れドナリア。貴様があれだけ大事を起こした結果、仕方なく我々も動く事になったと忘れるなよ」


「お前がグテントで、アマンナ・シュレンツ・フォルディアスとリスタバリオスの娘を処理していれば、俺のやり方で上手くいっていたさ。確かに準備・練度不足であったことは否定しないがな。――何故あの二人を生かして帰した?」


「M様の命令だった。アマンナ・シュレンツ・フォルディアスと、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスは生かしておくとな。加えて治癒魔術では完治も難しい手傷は与えたつもりだ」


「目が見えないせいでミスったんじゃないのか? 盲目女」


「それ以上口を開くなよ。帝国の夜明けに汚点を残した小便小僧が」



 そうした言葉のやり取りの後、一秒も必要は無かっただろう。


いつの間にか、ドナリアは自分の右手人差し指の爪を長く伸ばしていたし。


アスハもどこからか顕現させた一本の剣を抜き放ち、自分の喉元に向けられて伸ばされた爪を弾くと同時に、持ち方を変えながら投げ放つ。



ドナリアの爪はアスハの左肩を貫き。


アスハの剣はドナリアの脇腹に突き刺さった。



 互いは既に臨戦態勢をとっていて、何か一つキッカケがあれば、互いを喰らうハイ・アシッド同士の戦いに入っていてもおかしくはない。



……だが、その二者を止めたのは、アスハのポケットに存在する、一つの端末が震えた音である。



 二つ折りの端末を開きながら、アスハが「はい」と応じると、Mの声が今いる空間に響き渡る。



『喧嘩は駄目だよ。私が帰ってくるまでの間に、どっちかが死んでいたら私も悲しいからね』



 その声は、ドナリアにも聞こえていたのだろう。彼の舌打ちが聞こえた事で、それがドナリアなりの同意であると判断したアスハも「大変申し訳ございません」と謝罪を述べた。



するとMの声はそこで途絶え、通信も途絶えた。


 二つ折りの端末を折りたたみながらポケットに戻すと、ドナリアは「白けちまったな」と立ち上がり、先ほど突き刺さったアスハの剣を抜いて、どこかへと去っていく。



 アスハは一人――今どこにいるかも定かではない場所で、取り残される。


それでも、彼女に不安はなかった。



「……私は元より孤独。私には地面さえ……居場所さえあれば、それで良い」



 彼女は膝を折り、地面を感じながら、正座をして目を閉じる。


不思議なものだと、何時も感じる。


盲目でも、まぶたを閉じなければ寝られないのだから。

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