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アマンナ・シュレンツ・フォルディアスという妹-03

「フェストラさま、そろそろ」


「来たか」


「はい」



 アマンナが名を呼ぶだけで、フェストラは頷いて彼女に手で示すと、アマンナが一度席を外し、数分の時間を経て、四人の人間が執務室へと訪れた。


クシャナ、ファナ、ヴァルキュリア、ガルファッレットの四人だ。



「適当にかけてくれ。幾つか整理したい事がある」


「私も色々と聞きたい事があるから、こうした整理の時間を設けてくれるのは助かるよ」



 クシャナが率先して、執務室に設けられているソファに腰掛けると、その隣にファナがちょこんと座り、ヴァルキュリアがそのまた隣にかける。


ガルファレットは扉近くに立ち、背中を壁につけるようにした所で、フェストラが彼へアイコンタクトを送り、ガルファレットが頷いた所で、彼も立ち上がった。



「色々と起こったせいで国内は疲弊しているが、基本的に大きな混乱にならず、また帝国の夜明けが学院の占拠以降に動いていない事もあり、市民はテロリストの存在を知る事無く、二週間近くの日数が経過した」


「私、殺されかかってるんだけど……」


「市民の目には入っていないからな。ノーカウントだ」



 サラリとそう流して茶を飲んだフェストラと表情をしかめるクシャナに、ファナがクスクスと笑みを浮かべつつ、小さく手を上げる。



「えっと……あの、先に一ついいですか?」


「ああ。何だ、ファナ・アルスタッド」


「家の警護……というか、お母さんの警護って、ずっと続けなきゃなんですか?」



 ファナの言葉に、一瞬ガルファレットが反応を示したようにフェストラは感じられたが、それを一旦保留とし「ああ」と頷いた。



「お前たち二人がシックス・ブラッドに属している事は、既に敵も知り得ているだろう。であれば家族の安全を買わねばならんのは当然だ。俺が重要視しているのはレナ・アルスタッドの安全と言うより、彼女を餌にしたお前たち二人の安全だがな」



 本心では無いとクシャナも気付ているが、しかしあまり気持ちの良い物言いではないと感じつつ、クシャナが口を挟む。



「例えばお母さんを帝国城に長期間招いて警護するとか、そういう事って出来ないか? 正直、私なんかはお母さんが心配で、あまり家を空けたくないって思っちゃうし」


「難しい。一介の平民であるレナ・アルスタッドの警護をする理由が何もない状況では、却って怪しまれ、狙われる要因となりかねんだろう」


「現状、俺とヴァルキュリア、アマンナによる警護でこなすしかない。……が、確かに俺も普段の仕事があるからな」



 ガルファレットの言葉に、クシャナもううむと唸ったが、その通りだと認めざるを得ない。


現にシックス・ブラッドである六人がここに集められている今は、フェストラとアマンナが用意した人員がアルスタッド家を警戒している。


何か問題があれば信号通信がフェストラに届き、すぐに動けるよう手配されているからこそ、クシャナたちも家を空ける事が出来ている。


だが、相手がもしアシッドの場合、その処理までをする事が出来ない。


クシャナとして可能な限り母を安全に守れる設備が欲しいとする理由も分かってはいるが、どうしようもないというのがフェストラの判断だ。



「勿論オレも、現状で十分だと考えているわけではないからな。ある程度他に打てる手が無いかは検討しておく」


「やったねファナ、やっぱ持つべきは権力者とのコネだよ。ファナも覚えておこうね」


「お姉ちゃんってば世俗的!」


「では、本題であるな」


「ああ――まずは帝国の夜明けについての情報をまとめよう」



 二枚の写真、そして一枚の人物画が描かれた紙を、アマンナがクシャナ達の前にある机へと差し出した。


写真にはドナリア・ファスト・グロリア、アスハ・ラインヘンバーの証明写真が。


そして、人物画には、フェストラの記憶を辿って描かれた人相書きが。


整った顔立ちではあるが、特にこれと言って特徴的な部分が無い男が描かれている。


 まず、アマンナが指をさしたのは、ここにいる面々が知る顔、ドナリアの写真だ。



「ドナリア・ファスト・グロリアについては、説明するまでも無いだろう。現帝国王・ラウラの弟にして、前帝国王・バスクの息子。元帝国軍所属の人間で、エンドラスの提唱した汎用兵士育成計画を推し進めていた、軍拡支持派の星とも呼ばれた男だ」


「確か、十七年前から行方不明とされていたんだよね?」


「ああ。こっちもな」



 続けてアマンナの指さした女性――それは、アマンナとヴァルキュリアの二名が、多く交戦経験を有している。



「アスハ・ラインヘンバー。帝国軍ではそれなりに名の通っていた、ラインヘンバー家の一人娘だった」


「だった、というのは何であろうか?」



 ヴァルキュリアが気になり口を挟むが、その事を予見していたように、フェストラが間を開ける事無く答えていく。



「アスハ・ラインヘンバーが十七年前に行方不明となった翌年、養子を迎え入れてその子供が現ラインヘンバー家の当主となっている」



 ドナリアは現在四十五歳、アスハ・ラインヘンバーは現在二十七歳である旨が、一緒に投げられた書類には記載されている。



「つまりラインヘンバー家は、十歳のアスハ殿が行方不明となった翌年、早々に養子を迎え入れている、という事であるか……?」


「珍しい話じゃない。一年も行方不明であれば死亡している可能性が高いしな。特に母親であるキョウカ・ラインヘンバーは、当時の時点で四十を超えていたし、二子を設けるにしても流産の可能性が高い。であれば血筋が残せずとも技術や家名だけでも遺したいという考えは、どんな家にもある事だ」



 クシャナやファナには分からない世界であったが、ヴァルキュリアやフェストラ、アマンナには分かるのだろう。ガルファレットだけは、何ともいえない表情で、ただ目を瞑っているだけだ。



「アスハ・ラインヘンバーは、生まれた時から失明かつ触覚失認の状態だった。加えて魔術回路も第三世代を有していたが、触覚を含めた各種感覚の不調によってか魔術使役も難しい……筈だった」


「アスハさんは優秀だったんだね」


「ああ。アスハ・ラインヘンバーは聴覚及び平衡感覚が常人よりも優れていた。加えて子を産む機能にも問題はない。ラインヘンバーとしても血族を遺していけるのであれば、彼女を後継者とする事に不満はなかった、というわけだ」


「おいフェストラ、お前は女性を『子を産む機械』みたいに言うなよ」



 クシャナが赤松玲として地球にいた時からそれなりにあった事だが、彼女は女性として生まれたからなのか、あまり女性の「出産」を重視した論調を好んでいない。


だからそうして不快感を表したクシャナの言葉に……フェストラは癪に障ったと言わんばかりに、舌打ちをした。



「庶民、お前が軍人や上流階級のそうした在り方を否定するな。……ここにいる、お前以外の人間は、将来的に子を遺す義務が課せられている事を忘れるなよ」



 そう言われると、クシャナとしても何も言えない。


ガルファレットがどうかは分からないが、確かにここに集まった面々は皆、何かしら家系による事情によって、子を遺して行く事を義務付けられていると言ってもいい。



フェストラは次期帝国王候補の一人、そうでなくても十王族の一人として、子を遺す事を強制される。


ヴァルキュリアも汎用兵士育成計画を体現する家系の一人娘となれば、子を遺す事を義務付けられる。そもそも汎用兵士育成計画は、そうした才能を子に遺して行く事を国単位で行う政策の事であるからこそ、その重要度は計り知れない。


アマンナについては、クシャナは知り得ない。クシャナはシュレンツ分家の人間がどうあらねばならない等、そうした詳細を知らぬから何という事も出来ないが、しかしフレンツ宗家の影である事を求められる家系となれば、子孫を遺す事に関しては変わらぬのだろう。



クシャナが口を結んだ結果、フェストラは「話しが逸れたな」と流れを戻し、最後にアマンナが指さした……【M】という男の人相書きに話題を向けた。



「問題はコイツだ。――庶民、一つ聞くぞ」



フェストラは今まで腰かけていた椅子から立ち上がり、アマンナの指さす人相書きを今一度良く見た上で……顎に手をやり、表情をしかめさせる。



「……変な事を聞くようだが、この【M】とかいう男、こんな風貌だったか?」



 人相書きはアマンナがフェストラからどういった風貌だったか、その証言を基にして描かれたものだ。



「この人相書きも、似ているかと聞かれれば似てると感じるんだが、もう少し細かった気がするんだよ。だが、何度直させても、その度に異なってきて、結局この形に落ち着いたんだ」



フェストラは人相書きに、少し疑問があるようで……それは、クシャナも同様だった。



「えっと……あの男って、もうちょっと太ってなかった? こんなに細い気がしないんだけど」


「……オレは随分と痩せている印象を受けていたが」


「私は中肉中背、ってイメージ。笑顔は似てる気がするけど、頬とかがちょっとふっくらしてるような感じで……あれ?」

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