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アマンナ・シュレンツ・フォルディアスという妹-01

※ここからのお話は12/25 16:10頃からノベルアップ+様限定で連載公開しております


 「魔法少女、集結-マジカリング・クロス-」


 という、当作と過去作とのクロスオーバー作品を経た後の物語となります。


 一部その繋がりを感じる台詞等もありますが基本的に本編との関係はありませんので、上記作品をお読み頂いていなくても特に問題はありません。


 また「魔法少女、集結-マジカリング・クロス-」に関しましては、小説家になろう!様での掲載等について、現時点では予定しておりません。


 予めご了承くださいますようお願い申し上げます。

夢を見る。それは幼い少女の夢、彼女の髪がまだ金色だった頃の記憶。


深層意識に刻まれ、無くそうとしても決して消える事のない思い出を、彼女は眠る度に何時も見ている。



『何故アマンナは第六世代魔術回路ではなく、第五世代魔術回路なのだ?』



 そこがどこか、今のアマンナにも分からない。


真っ白な空間に敷き詰められた数多の機材。


その中にある小さなベッドに横たわらされたアマンナは、まぶたに涙を溜める母の顔を見ながら、傍に立つ男の声を聴く。



『私が第五世代魔術回路を持ち、お前もそうであると検査結果を受け取っている。故に私はお前と交わり、子を産んだ。不妊症のお前に多額の金をかけてまでな』



 母は、アマンナの手をギュッと、握り続けていた。


男の言葉を受けながら、幾度も『はい』と返しながら……その視線は、幼い我が子に向けていた。



『まさか私を謀ったというのか? 検査結果を改竄してまで、私との間に子を作る為に』



 幼いアマンナには、男が何を言っているのかが分からなかった。母が不当に罵られているのだと感じ、けれど何を話しているかが分からないから、言葉を挟む事も出来ず……そして、声を上げてはならないと言わんばかりに、母が自らを握る手とは反対の手で、頬を撫でてきた。



『私は貴様という存在を認めない。アマンナという子も私の娘として扱わない。せいぜい、フェストラの影であるように教育すればいい』



 フェストラと言う名に、アマンナが男の方へと視線を向けると――男の隣に立つ、小さな子供の姿があると、気付いた。


同じ金の髪、アマンナと同じ年の男の子。その子は、ただ俯きながら男の隣で……ただ、アマンナの事を見据えていた。



『……おにい、ちゃん……?』



 アマンナが、そう呟くと……男は幼いアマンナの頬を、強く叩いた。



『フェストラの事を兄などと呼ぶな! 貴様は私の子ではない! 貴様はフェストラの妹ではないのだ!』


『お許しください、お許しくださいウォリア様! この子に、娘に罪はありませんっ!』


『不愉快だ、行くぞフェストラ!』



 怒りを隠す事も無く去っていく、ウォリアと呼ばれた男に手を引かれながら、幼子……フェストラは、最後までアマンナの方を見ていた。



その瞳は優しい者の瞳だと……幼いアマンナにも感じ取れた。



**



「ぷはっ、……はぁ、はぁ……、夢……?」



私……クシャナ・アルスタッドは、慌てるように目を醒ました。


自宅、アルスタッド家の自室にあるベッドで眠っていた私は、痛む頭と脳裏に焼き付く白い検査室にも似た場所で、幼いアマンナちゃんが何か、検査を受けていた様子を夢で見ていた。



「……能力の暴発か、チクショウ」



 私と言うハイ・アシッドが持つ固有能力は、他者の深層意識に眠る深い記憶などを読み取り、その記憶に根付いた光景などを相手の脳に出力し、惑わす幻惑能力だ。


基本的にこの幻惑能力は他者と目を合わせる事によって発動が可能となる。


だがどうにも、幻惑ではなく、私が見たい相手の記憶を読むだけであれば、夢と言う形で相手の深層意識に潜る事が出来るようだ。


勿論、覗き見るだけで相手に幻を見せる能力は発動しないし……ハイ・アシッドとして弱っている今の私には、見せようと思っても出来ない。



「……全く。先日の騒動があったせいで疲れてるのかな……どうにも力が不安定だよ」



 昨日までちょっとした世界の危機に巻き込まれていたせいで、お姉さんの身体は正直メチャクチャ疲れてる。


グロリア帝国全土もある程度被害が及んでしまって、しばし街も復興モードにならざるを得ないし、色々と立て込んでたから、帝国の夜明け連中に対する動きも私は追えていなかった。


 まぁ、私が追っていなくても、多分フェストラとかアマンナちゃんが追ってるだろうし、そこは任せて良いのだろうけど……。



「ファナ達は、まだ寝てるかな……?」



 私と同じ騒動に巻き込まれたファナとヴァルキュリアちゃんは、仲睦まじく同じ部屋で寝んねしている筈だ。


ただいま朝五時、幾らヴァルキュリアちゃんでもこんな朝早くから素振りだったりしている筈は……。


 なんて思っていたら、今窓の外からカコンッ、と若干心地よささえ感じる程、綺麗な薪割りの音がした……ていう事は。


窓から外を見ると、家の庭に一人、薄手の肌着を一枚だけ着て斧を振り上げて下ろし、薪を割るヴァルキュリアちゃんの姿が見えた。



「ヴァルキュリアちゃーんっ」


「む、クシャナ殿! 早いお目覚めであるな!」


「なんか変な夢見ちゃってね――て、そうじゃないよ。ヴァルキュリアちゃんも疲れてるでしょ? 今日は休んだ方が良いんじゃ」


「否、問題無いのである! そも薪割りは朝の風呂を頂きたいという我儘の罪滅ぼしである故!」



 ヴァルキュリアちゃんはどうやら朝のお風呂を日課としているらしく、自分のお家でもアルスタッド家でも同様にしたいそうなのだ。


お母さんもその気持ちは分かるらしく、今は嬉々として朝風呂を用意しているのだが、ヴァルキュリアちゃんは自分が来てから朝風呂が始まったと聞き、自分の我儘がアルスタッド家の家計を圧迫している可能性があると邪推、罪滅ぼしとして毎朝の薪割り等の雑務を率先して行うと買って出たのだ。


 と、そんな事を話していたら、最後の薪を割り終えたようで、薪置き場に割った薪と斧を戻しながら、汗だくになった状態で家へと戻ってくるヴァルキュリアちゃんを出迎える為、私も着替えてから下に降りる。



「む、クシャナ殿。随分と顔色が悪いようだが」


「さっきも言ったけど、ちょっと変な夢見ちゃってね」



 私自身、あまり他人の深層意識を読み取るというのは好みじゃないから、なるべく見ないように心掛けているんだけど、夢で見るのはもう無意識的なものなので許して欲しい。


まぁ、多分夢見たのはアマンナちゃんので、ヴァルキュリアちゃんの夢は見てないのだけれど。



「悪夢を見たのではないか? かなり汗で濡れているのだ。風呂で流した方が良いと思うが」


「いや、ヴァルキュリアちゃんも汗かいてるじゃんか。入ってきたら?」


「居候の身分で先に頂くという事は出来ん。クシャナ殿から先に入るのである!」


「んー、じゃあお姉さんと一緒に入るかい? なんちゃって」



 きっとヴァルキュリアちゃんみたいな真面目な子なら「不純である駄目なのであるイヤらしいのである!」等と言いながら顔を真っ赤にして怒ってくる……そう思ってした提案だったけど。



「うむ、いい判断だ! では行くのである!」


「え、マジで? え、え!?」



 私の提案に笑顔で頷きながら、脱衣所まで手を引いて向かっていく彼女に、私は幾度も「マジで?」と問いかけるが、彼女は「うむ真面目である!」と返していた。


狭い脱衣所で率先して服を脱ぎ出すヴァルキュリアちゃんと、少しドキドキしながら服を脱ぐ私の二人。


正直この状況、とっても美味しい状況ではあるのだけれど……何かとんとん拍子で進み過ぎて、なんだかイヤな予感がする。



(……えっちな事はしちゃ駄目だよなぁ)


「聞こえているのである! 勿論淫猥な事をすれば即刻叩き切るのでそのつもりでいるのだっ!」


「私今相当小声で喋ったよッ!? 僅かに口動かしたか程度の声量が何で聞こえるのさ!?」


「拙僧は幼い頃から諜報任務の為に低音量も聞き取れるよう教育されている故! 雑音の激しい街中や教室ならともかく、静かな家中での音は全て聞こえていると思うのだっ」



 その鍛えられて引き締まった綺麗な体を丸めるようにして、私へ良く見せないヴァルキュリアちゃん。大事な所が見えないなら見えないで相当エロイんだけど、それはまぁ置いて、私も服を脱ぐ事に。


互いに脱ぎ終わり、共に浴室へ。


桶で湯船に張られたお湯をすくって、打ち湯をして身体を軽く清めてから入ると、ヴァルキュリアちゃんが熱い湯に安堵の声を上げた。



「ファナから聞いてたけど、ヴァルキュリアちゃんは本当にお風呂が大好きなんだね」


「拙僧にとって、生きる楽しみでもある。どんな争いが在ろうとも、風呂さえあれば拙僧は生きていけるものだ」


「そんなものかな……」



 私なんかは赤松玲の時代から、お風呂に入るというのは少なかった。ずっとシャワーで済ませていたから、こうして輪廻転生後にお風呂という文化がある事にも驚いたものだ。まぁ、グロリア帝国じゃ珍しいけど。



「……ねぇ、ヴァルキュリアちゃん」


「何であろうか」


「ヴァルキュリアちゃんってさ、アマンナちゃんと一緒に行動する事、多かったよね。アマンナちゃんの事、ヴァルキュリアちゃんはどう思ってる?」


「どうしたのだ、藪から棒に」


「いや、何となく、その……ちょっと気になって」



 能力であの子の深層意識覗いちゃいましたー、なんて言える筈もなく、口元までお湯に浸かりながら言葉を濁してそう問うと、ヴァルキュリアちゃんは少し困った表情を浮かべ、頬をかいた。



「その……実は拙僧、アマンナ殿の事は、少し苦手なのだ」


「え、そうなの?」


「恐らく、向こうもそう思っている筈である」

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