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フェストラ・フレンツ・フォルディアスとの出会い-11

「……アイツ等、どこから?」


「さてな。少なくとも侵入の警報は鳴っていない――しかし【帝国の夜明け】は随分と技術水準の高い組織と見える」



 先ほど彼らが消えていった黒い穴が出現した付近をフェストラが調べていくが、どうにも魔術的な痕跡は見当たらないようで、表情をしかめると共に、舌打ちをした。



「魔晶痕を残さない転移技術を有しているとしか思えんな」


「そんなのあるの?」


「一応な。レアルタ皇国では霊子転移と呼ばれる物流技術が発達していて、一部では政府高官用の移動方法として用いられている」


「ならその技術を密輸したり、とかじゃないの?」


「霊子転移は専用の通信網を移動圏内に張り巡らせる必要がある。通信設備に関しては、開発に携わったカルファス姫とアルハット姫しか技術を持たん。通信用の魔導機を密輸しただけでは使えん」


「よく分かんないけど、ケータイ持っててもこの世界じゃiモード用通信網が無いから使えない、みたいなものかな」


「アイモードとは何だ?」


「気にしなくていいよ。地球の通信技術さ」



 変身を解除し、私はふらつく体をよろめかせ、壁に背を付ける。



「それより、ありがとう」


「何がだ」


「助けてくれたじゃないか。私、もう少しで死にそうだったし、感謝位はしとかないとね」


「当然の事をしたまでだ。オレとしてもお前に死んでもらっては困る」


「ま、そうだね。……『好き嫌いの関係じゃなく、ただの利害関係』、だったっけ?」


「ああ。お前と初めて会い、そしてアシッドと言う脅威を知った日からの、利害関係だ」



 私は、フェストラが嫌いだ。


コイツは人の事を手駒のように扱い、時に人道に反した行いも必要とあれば行う。


アルステラちゃんという少女が若さ故に犯した過ちさえも、ヴァルキュリアちゃんの無知ささえも利用して、私を組織へ呼び込もうとした事もそうだ。


それはいずれ王となる人間として、当然の振舞いだ。コイツ自身も、それを否定しておらず、またそうである事を望んでいる。


でも、コイツの何が一番嫌いかって……そうであろうとしてるくせして、人との関わり方が、非常に不器用な所だ。



フェストラは多分、私を利用する事に、罪悪感を感じている。


私と言う存在がどうした過去を持っているか、それを何となく想像出来ているからこそ、私を利用する事に罪悪感を感じる。


けれど私を頼る他にアシッドと対する事が出来ないから、私を利用しているのだ。


そして利用方法も、あくまで私に自分を嫌わせた上で「ただの利害関係」と割り切らせる……ただそれだけ。


私を懐柔して、扱いやすくすればいいのに……コイツは、それはしない。



利害の一致で共に戦う……そうしていれば、何時か本当に私がイヤになった時、心が壊れそうになった時、辞める口実を与えている。



そうした、人との不器用な関わり方も、不器用な優しさも……全部が、コイツという男を本気で憎む事が出来ない要因にしている。


本気で憎めない事が、本当に嫌いだ。



「所でフェストラ、お前なんでここに?」


「ファナ・アルスタッドが来てる。今はアマンナとリスタバリオスが護衛して休憩室にいるから、先にシャワーを浴びてこいと言おうと思ってな。……こんな事になっているとは思わなんだが」


「シャワー?」


「今のお前、匂うぞ」


「お前ね、流石に私も女だから傷つくんだぞっ!?」


「女として身だしなみに気遣えと言っている」


「あーそれ男女差別ーッ! 訴えてやるーっ!」


「先に女がどうと言い出したのはどっちだ阿呆め」



 ため息をついて、私とドナリアを投獄していた施設から出ていくフェストラに、文句を言いながらついていく。


そうして軽口を叩き合える関係である事に、まぁ感謝しよう。



**



ガルファレット・ミサンガは、雨が降る中でレナ・アルスタッド一人の残るアルスタッド家の見張りを行っていた。


シュメル郊外にある低所得者層居住地区の端、地区の拡張工事中の伐採がまだ終わっていない場所は植生が濃く隠れるには最適で、かつアルスタッド家に急ぎ向かえば三分もかからずに向かえる場所として、先日からアマンナと交代で従事している。


見張る為に必要として用意していた雨避けタープの下、一人ポットに入れていた茶を飲む彼は、遠見の魔導機より直接脳へ送られる情報を頼りに家宅内を、周囲の状況を自分の目で見て、監視を行っている。



「……冷えるな」



 茶で身体を温めても、外気が彼の体温を少しずつ奪っていく。


普段身にまとう鎧だけでなく、何か一枚羽織った方が良いかと考えていた頃――声が聞こえた。



「そんな冷える雨の中、一人婦女の家を監視するとはどういう事なんだい、ガルファレット君」



 男の声だ。しかし、声が聞こえるよりも前に、ガルファレットはその存在に気付いていた。



「少し諸事情がありましてな」


「あそこが、例の第七世代魔術回路を持つ少女の……娘が護衛をする子の家、という事か」



 雨傘を差しながら、ガルファレットの隣に立ち、タープの下に入る事で傘を降ろす男は、まぶたに触れて視覚強化を行い、彼の見据える離れた家宅を見る。



「とても、第七世代魔術回路持ちの住まう家には思えんな」


「何故、こちらにいらっしゃるので?」


「父として、娘が世話になっている家を知る事が意外かな」


「意外ですよ。……エンドラス殿はヴァルキュリアの事について、無関心かと思っておりましたが」


「否定は出来んな」



 男……エンドラスは苦笑しながら、こちらを向いて背部に背負う剣の柄を握るガルファレットと向き合った。



「私は随分と警戒されているね」


「申し訳ありませんが、護衛対象が護衛対象ですので、どんな立場の方であっても、警戒対象となり得ます」


「剣を握るからには、それ相応の覚悟がある――そう考えて良いのだな。ガルファレット・ミサンガ君」



 名を呼びながら、エンドラスが笑みを無くし、自らの剣――ヴァルキュリアと同じくグラッファレント合金製の剣・グラスパーに触れた瞬間。


重たい殺気が、ガルファレットを襲い、思わず剣を振るいそうになったが……しかし、堪える。


まだ、互いに柄を握っただけだ。


抜く事も、互いに名乗る事も無く剣を振るい、敵を斬る事――それは、騎士である二人にとっても本意ではない。


しばし、そうして警戒し合うと、エンドラスの方が柄から手を外し、手を上げる。



「冗談だ。警戒を解いてくれ、とは言わないが、せめて殺気を抑えてくれないか? 君と言う優秀な騎士と、この老体がまともに渡り合える筈も無いし、君の殺気は心臓に悪いよ」


「謙遜は時として相手を深く傷つける事を、エンドラス殿は知っておいた方が良いでしょう」


「謙遜ではない。……確かに私は昔、それなりに名を挙げたが、今は随分と魔術回路に劣化が訪れていてね。きっと、君の方が強い」


「ヴァルキュリアが聞けば、随分とショックを受けそうでありますが」


「あの子はもう、とっくの昔に私を越えているんだがな。……妻が死んだ日、手合わせをして、その時に私は負けたんだ」



 遠い目をしてアルスタッド家の方を見据え直したエンドラスを警戒しながら、しかし言葉に嘘があるようには思えず、ガルファレットも柄から手を離し、彼を警戒しつつも、周囲の監視に戻る。



「……そうか。レナ君の子が、第七世代魔術回路を持つ少女、という事なのか」



 アルスタッド家の方を見ながら、エンドラスが呟いた言葉。その言葉に思わず、ガルファレットは目線を向け、問いかける。



「レナ・アルスタッドの事をご存じで?」


「向こうは私の事を、名前位しか知らないだろうけれど」


「どういう関係なのです?」


「かつて私が仕えていた主と、少しね。個人の情報を話す事は好かんし、これ以上は言わんよ」



 再び傘を開き、雨を避けるタープの下から離れていくエンドラスに、ガルファレットは言葉を投げ続ける。



「貴方は何を知っているのです?」



 エンドラスは答えない。


雨音が声をかき消しているわけではない。元より、それほど雨音は大きくない故に、聞こえている筈だ。



「貴方は何を知っていて、何とどう関わっているのか――それを、ヴァルキュリアの目を見て、語れますか?」



 エンドラスは答えない。


ただ木々の中を抜けていく彼の背中が小さくなり、やがて高低差故に見えなくなる場所にまで消えて行って――ガルファレットは、それでも、声を上げた。



「貴方の娘は、前を向いています。貴方は、しっかりと前を向けているのですか?」



 エンドラスは答えない。


ただ、ガルファレットの声が、木々の中で響くだけだった。

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