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フェストラ・フレンツ・フォルディアスとの出会い-08

「さて……これでお前は戦う為の力を得た」



 冗談は置いておいて、という口調と共に、私が掴んでいた手を剥がして、伊吹はスーツを整えながら私に背を向けた。



「使い方は、既に脳へ叩き込まれているだろう。その力をどうするか、それはお前が決めればいいさ」


「……本当に」


「うん?」


「本当に、お前が関わっている訳じゃ、ないのか?」


「この世界にはお前たちアシッドより、興味深い連中が沢山いるし、関わる理由などないね。お前たちは勝手に戦っていればいいさ」



 と、そこで伊吹が二歩ほど前へ進んだが、すぐに足を止め、私を見る。



「ああ、そうだ――あの娘には気を付けた方が良いぞ」


「……あの娘?」


「アマンナ、とか言ったな。お前の周囲にいる人間で、俺が個人的に興味を抱いた娘だったよ」



 別に、アマンナちゃんは私の周囲にいる人間じゃないのだが、と言葉を放とうとする寸前、少し風が吹いて瞬きをした一瞬の間に、伊吹は消えていた。


魔法少女としての外装を見据え、少し恥ずかしいけれど……しかし、奴の睨んだ通り、私は戦う為の力を、得てしまった。


私は、アシッドと戦い、勝利する方法が無かったから、素直に喰われようとしていた。


けれど……こうして、自分でも自覚できる力を、手にしてしまった。



――そうなれば、若い命を散らさぬ為に、戦うしかないじゃないか。



「チクショウ……ホントに、余計な事しかしない奴だ、成瀬伊吹……ッ!」



 地面を蹴りつけた瞬間、足元に展開された魔法陣から漆黒の剣が出現し、私はその柄を握った後、地を蹴った。


高く飛ぶ身体を制御しながら、私は住宅の屋根へと着地し、再び空を飛ぶ。


あまり空を飛び続けると見られる可能性も無きにしも非ず、この可愛い格好をあんまり見られたくないから、滞空している間に、地面を見る。



「――見つけた!」



 先ほどまでいた通りから、五本ほど通りを抜けた先に、今アマンナちゃんとフェストラが、アシッドへと攻撃を仕掛け、しかし殺せずに反撃を受け流す様子が見て取れた。


今、アマンナちゃんが腕に払いのけられて、壁に頭をぶつけ、地に身体を伏せてしまう。


フェストラが「アマンナ!」と声を荒げつつ、彼女を守る様に剣を振るった所で――私は空中を蹴る様にして、地へと駆ける。


すると、私の匂いを嗅ぎつけたのか、アシッドが私の方へと視線を向けた。



「う――ォオオオオッ!!」



 空中を駆け、今手に持った剣を振るう。


魔法少女の武器として強化された刃だけれど、アシッドの腕を切り裂くだけで終わってしまい、むしろ振り込まれた腕の影響で、脇腹辺りを抉られてしまう。



「ィ、ぅ……ッ!」


「庶民、貴様は何をしている!?」


「戦いに来たんだよ……ッ」



 背後から襲い掛かろうとして失敗した上に負傷しているじゃないか、と言わんばかりに声を放ったフェストラの言葉に、私は脇腹を抑えつつ、立ち上がる。



「……対処法が、何かあるのか?」


「手に入れた……っていう方が正しいけど」



 今、地に落ちた腕を拾い上げたアシッドが、その切断面を合わせると、その繋ぎ目を埋めるように、グジュグジュと肉が動き出し、今その修繕を終えた。


ハァ、と息を吐き、私を見据えてニヤリと笑うアシッドに――剣を向ける。



「ここは、私に任せて。アマンナちゃんを安全な所に。……それと、近くに誰も来ないようにして欲しいんだ」


「被害を広げない為に、か?」


「……うん、そうだね」



 頷くのに、僅かだけれど時間が必要だったことを、フェストラに悟られていたのかもしれない。


けれど納得したように頷いたフェストラが、僅かに傷ついていた頬を撫でるようにして触れると、気絶している様子のアマンナちゃんを抱き上げ、私に目配せをしてから、その場を遠ざかる。



「……やぁ、アシッド。さっきぶりだね」



 再び相対したアシッドは、私の向ける剣を警戒するように、唸り、その場で腰を低くした。



「君は、まだそんなに人を喰ってはいないみたいだね。……食べていて、数人程度か。自我も芽生えてなければ、効率よく人を食する方法なんかも、分かっていないんだろうよ」



 目の前にいるアシッドが、何故生まれたか、どうしてこの世界に存在するか、そんな事は分からない。


けれど……分かっている事が一つだけある。



私は、彼を殺さなければならない。


殺せるだけの力を手に入れた。


殺す為の方法を知ってしまっている。



なら――それは今の私が。


幻想の魔法少女・ミラージュである私が……しなければならない事なんだ。



「どうして……どうしてこんな事に、なっちゃったんだろうね……本当に……っ!」



 私が駆け出すと、アシッドもそれに合わせて前進した。


私の首筋に向けて歯を突き立てるアシッド、しかし首を引き千切られるよりも前に、私は露となり、消えた。


食した感触も無く消えた私に、アシッドは慌てるように周囲を見据えるが、見据えるのは左右と後ろだけ。



しかし、私は既に空へ飛んでいた。


空中から刃を振り降ろし、その右腕を切り裂いて、振り込まれる左腕を払いのけながら、私は男の両脚を、切り裂いた。



 ギャ、と言葉が発せられたが、その程度は呻き声と一緒だ。


それでも、あまり声を聴きたくなかったから……私は耳を塞ぎたい気持ちに見舞われる。



「オ――ォオオオオッ!!」



 でも、戦いの最中に耳を塞げるわけがない。故に声を張り上げた。


少しでも声を聞こえぬようにしたいと思ったから。


私はこれから、彼を幾度も切り付ける。


その両脚を失い、背中から地面に倒れた彼の、胸元を剣で貫き、地面に刺すと、魔法陣が彼を中心に展開された。


左足を軸にして、右足に力を籠める。


すると、熱量が右足に集中して――私はその熱を放出するが如く、アシッドの首元を、思い切り蹴り付けた。


グシャリと、喉元が潰れ、今首が地面を転がった。


けれど、そうして頭が残されていれば、やがて彼は頭から身体を生やし、再生を果たしてしまう。



――だから私は、その頭を急ぎ回収するように走り、髪の毛を掴んだ。



「ッ……!」



 ビクビクと、僅かに動く頭。しかし喉を失って言葉を放つ事も出来ないそれが――視線だけを、私に向け、僅かに顎を開く。


 生きている。


このアシッドは――今も尚、首を刎ねても尚、生きている。



「ああ、……っ、あああ、ああああ――ッ!!」



 懐かしい感覚が胸の中を渦巻いていた。


それと同時に、私は口を大きく開いて、今手に持つアシッドの頭に、かぶりついた。


通常、頭ほどの大きさを簡単にかぶりつける筈もない。


だから私は、耳と頬のあたりから食していく。


皮と筋線維を歯ですり潰しながら、顎骨までを食べ進めていく。


グチュグチュ、ゴリゴリとした感覚が歯と喉元を通っていく感覚。


血なんか飲めたものじゃない。ドロドロとした液体が喉を通ると、むせ返って吐きそうになる。



……それでも、何故か、口は止まらない。



昔は、頭を食べるのに五分も掛からなかったのに、この時は十五分も掛かった。


脳と髄液、そして髪の毛が歯に絡みついて、というのも理由の一つだったけど……やはり、長らく食べていなかったからだ。



……それでも、私は感じていた。



美味しいと、もっと肉を喰いたいと、より血をすすり飲みたいと。



「……庶民」



 その声に、ハッ、と意識を戻された。


後ろを振り向くと――そこにはフェストラが訪れていた。


恐らく、周辺の閉鎖とアマンナちゃんの治療を終えたから、私の手助けでもしようとしていたのだろう。


けれど――私は、フェストラにアシッドの頭を食べていた。


 食べている所を、見られてしまった。



……この時の私は気付いていなかったけど、そうして苦しそうに、咽び泣きながら、それでも食べ進める私の姿を。



「喰って、いる……のか……?」



 手に残る髄液、血液、むしり取られた髪の毛一本に至るまで、口の中に放り込んで、歯ですり潰す私の姿を見て、フェストラは何かを察したように、頷いた。



「……そうか。それが、処理方法か」



 彼、フェストラは私に背を向け、顔を逸らしてくれた。



「あと五分で喰い終わり、今日は帰れ。その残った身体は、こちらで回収しておく」


「……ごめん」


「謝る必要などない」



 戻ってきた道を帰っていくフェストラに、感謝の気持ちを込めた謝罪を述べると共に、私は残った肉片を腹に収め……そして、項垂れながら立ち上がり、口元を拭った。



「……また、死ねなくなっちゃったな」



 変身を解除し、宙へ出現したマジカリング・デバイスをポケットに入れ込んで……私はフェストラとは別の方向に、歩いていった。

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