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フェストラ・フレンツ・フォルディアスとの出会い-07

「――『結果として多くの人間が死ねば、それはお前の罪』、か。面白い事を言うな、彼は」



 フェストラの言葉を繰り返す、何者が私の前に立った。


気配を感じただけで、私は思わず全身の神経を逆撫でさせられたような感覚になると同時に、立ち上がり、遠ざかる。


目の前にいた男は、銀色の髪の毛を耳元程度の長さで整える、端正な顔立ちをした男だった。


皺ひとつないフォーマルスーツに身を包み、私の事を、まるで汚物を見るような目で見据える、青年。



――否、奴は青年などではない。



既に、幾百の年月を生きているか正確に測る事も出来ない――人と同じ姿、同じ言葉、同じ感情を持ち得ながらも、人ならざる存在。



私を含めた多くのアシッドを生み出し、野に放ち、自らが死ぬ為の方法を探っていた、神如き力を持つ男。


罪を司る神霊【シン】と同化し、永遠の命を得たが故に、死する方法を得ようとしている、狂気に塗れた男。


それが――目の前にいる成瀬伊吹という神を表すのに、最低限必要な言葉だろう。



「成瀬、伊吹……ッ! 何故、何故お前が……ここに……っ!」


「それはこっちの台詞だよ。用があってこの世界に来て、色々と観察をしていたら、お前がいた。……何故お前がこの偽りのゴルサにいる、プロトワン。いや、赤松玲、だったか?」



 成瀬伊吹が一言一言を発する度に、呼吸が乱れていく感覚がする。


それだけコイツの力が強大なのだと……神としての力が優れているのだと、私の中にある、アシッドとしての本能が告げているんだ。



「俺の身体を喰った後に名前を付け、人間社会に紛れ込んでいたそうじゃないか。人どころか肉も喰わず、衰弱を果たして、何時の日か死ぬなんて儚い夢を見て」



 かつて私は、プロトワンは、コイツの肉片一つ残らずに喰い尽くした。


神としての力を有していようが、肉片一つ残らず喰い尽くせば、幾ら何でも死は確実だろうとした私の期待を裏切る様に……そして、コイツ自身も残念そうに、無から再生を果たしたのだ。


それ以降、コイツは私達、アシッドに興味を失くした。


アシッドの中で唯一生き残った私を処理する事もせず、ただ私の前から、姿を消した。



それが……もう二十年以上前の事になる。



「……そうか、お前が、お前があのアシッドを……っ!」


「変な勘違いをされても困るから弁解するけど、俺はもうアシッドに興味などない。お前と言うサンプルが、俺を殺せないと証明したからね。故に新たなアシッドを作り上げる理由などある筈もない」


「……なんだって? じゃあ、あのアシッドは一体」


「知らないよ。それより――お前こそ俺の質問に答えてくれないか? 何故お前が、この偽りのゴルサに存在しているのかと聞いている」



 偽りのゴルサ、というのは、私が輪廻転生を果たした、この世界の名前なのだろうか。


それさえも分かっていない私が、警戒するように口を閉じ、何も答えないでいると、伊吹はため息をつく。



「なるほど。お前にも分からんと言う事か。相変わらず使えない奴だ。俺は何度、お前に幻滅すればいいんだろうな」


「……自分勝手に私達を生み出して、勝手にお前を食わせて、死ぬ事が出来ないからと勝手に捨てやがったクソ野郎に、そこまで言われる筋合いなどない……ッ!」


「おお、元気じゃないか。あの若者に胸倉を掴まれていた時とは大違いだ」



伊吹はククと笑いながら指をパチンと鳴らした。


瞬間、彼の頭上に一つ、映像のようなモノが浮かんだ。


昔、SF映画で見た事があるような、ホログラム映像とでも言えばいいか。


その映像には、血を多く浴びたアシッドの前に立ち塞がる、フェストラとアマンナちゃんの姿があった。



「あのアシッドについては俺も分からんし、調べる気も無い。だがこのままでは、あの二人は死に、動物性たんぱく質を長らく補給していないお前も敵う事は出来ず、喰われる事だろうよ」



 そんな、周知の事実を今更、コイツに告げられたくない。


そう目線で訴えた私に、伊吹は「だが」と否定形を口にした。



「俺は少しだけ、この世界の住人に借りがあってね。お前を手助けする理由などないが、その借りを返す為にも……コレをお前に授けるのも悪くはない」



 いつの間にか、伊吹の右手に握られていた、長方形型の板にも似た機械があった。


それを放り投げた伊吹と、思わず手を伸ばすけれど、落としてしまった私。



「とある女性にプレゼントしようとしていたんだが、拒絶されてしまってな。もう俺には必要のない物だから、お前にやろう」


「……なんだ? この機械」


「スマートフォン型デバイスだよ。……ああ、お前はスマートフォンが分からないか。携帯電話とコンピュータの機能を兼ね備えたパーソナル端末だと考えれば良い。地球では二千十年頃から、そうした端末を誰もが持っている」



 正直その辺りの話題は凄く気になったが、それ所じゃない。


何故伊吹は、そのスマートフォンとやらを私に、と問おうとしつつ、地面に落ちたそれに、手で触れた。


瞬間、私の脳を駆け巡る、情報の濁流。


この端末が持ち得る情報を全て一冊の本にまとめ、その本で直接頭を殴りつけられたかのような衝撃が脳を走り、思わずよろめいてしまう。



「はぁ……っ、はぁ……ッ!」


「そのマジカリング・デバイスを使えば、今のお前でもある程度、アシッドと相対する事が出来るようになるだろう」


「……私に、また戦えって言うのか?」


「どうするかを決めるのはお前だ。俺はお前がその力をどうするか等知った事か。あの若者たちが死のうが、この世界がアシッドによって滅ぼされる事になろうが、知った事じゃない」


「なら何故この力を……ッ!」


「そうだね――強いて言えば俺は、お前が同胞を喰っている時の姿が好きだったから、かな」



 笑いながら、よろめく私の事を見下し、彼は次々に言葉を放っていく。



「さぁ、どうする? その力を使えば、お前は再びアシッドと戦う意味を得てしまう。これから、アシッドと同様の存在が現れた時、お前はまた奴らを喰わねばならない」


「……うるさい」


「何せ喰わなければ、お前の大切な友達や家族が、皆アシッドに喰われるのだから。お前がどれだけ泣き叫び、もう喰いたくない、仲間を殺したくないと慟哭を放とうが、お前にはそれが出来るんだからね」


「黙れ……ッ!」


「あの若者の言葉を借りよう。お前がそのデバイスを使う事で、お前は戦って皆を守れる力を得る。そうなれば、お前は戦わなければならない。何故なら『結果として多くの人間が死ねば、それはお前の罪』なのだからな」


「黙れと言っている――ッ!!」



 私は、その手に握る機械――マジカリング・デバイスの側面部にある指紋センサーに指をつけた後にを口元へかざし、デバイス下部に存在するマイクに、力強く声を拭き込んだ。



「変身――ッ!!」


〈HENSHIN〉



 デバイスの画面に殴りつけると同時に放たれる光、しかし私はそんな光を気にしている余裕もない。


目の前にいる成瀬伊吹の顔面を、強く強く、右拳を突き出して、殴りつける。


普段の私ならば、大した威力など出なかっただろう。せいぜい伊吹の顔面に手が少しめり込み、私の拳が痛くなる程度だろう。



――しかし、今の私は。



幻想の魔法少女・ミラージュへと変身を果たした私は、成瀬伊吹を殴り飛ばし、集合住宅の外壁へと叩きつけた。



コンクリート造りの外壁がへこむほどの威力で叩きつけられた伊吹だが、しかし衝撃とは裏腹に、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


私の姿を見て。


そして私も……自分の姿を鑑みて、叫ぶ。




「っ!? 、ッ!!!??? ちょ、ちょちょちょっ!? な、何さこのカッコォッ!?」


「ア、ハハハハハッ、はは、ひっ、ひぃーっ、ひぃーっ! さ、最高だ! 実年齢三十八歳の可愛らしい魔法少女体、実に滑稽な程に可愛らしいよっ」


「今の実年齢は十七歳だよォ――ッ!!」




 瞳に涙を浮かべ、私に指を向けようとしながらも腹を抱えて笑う成瀬伊吹。


悔しい事に奴が腹を抱えて笑う所なんて初めて見たから、それはそれで面白かったけど、私はそれ所じゃない。


何せフリルとリボン満載、可愛らしいスカート肩出しファッション、おっぱいなんか少し動いただけでポロリしちゃいそうになるデザイン。


明らかに子供が着る事を想定したデザインそのまま私に着させている感じだ。こんな恥ずかしいのを何で着なきゃいかんのだ!?


伊吹の胸倉を掴んで、可能な限り腹に力を込めつつ、恫喝するように締め上げる。



「伊吹、お前なんで外装に魔法少女なんて題材選びやがったッ!? せめて魔女だろォ!? 十七歳の魔法少女とか聞いた事ないぞマジでッ!! おジャ魔女とかセーラー戦士とか小中学生だったろアレッ!?」


「古いな。二千十九年のアニメとかゲームだと高校生が魔法少女は当たり前、成人女性とか男性が魔法少女になるのも珍しくないからさ」


「んな訳ないだろ!? もしそれが本当なら日本のアニメ・ゲームはもう末期だよ末期!!」



 ……未だに思っている事なんだけど、この伊吹が言ってたのってマジじゃないよね? 私を騙す嘘だよね?

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