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フェストラ・フレンツ・フォルディアスとの出会い-02

「それより、何の用さフェストラ」


「お前の気分転換に付き合ってやろうと思ってな」



 部屋の壁にもたれ掛かりながら、クククと笑った彼に、クシャナがチッと舌打ちを溢す。



「どうせならヴァルキュリアちゃんでも連れてきてくれればいいのに……どうして久しぶりに会う人間がお前だけなんだ」


「喜べ、呼んでおいた。アマンナに連れてくるように命じておいたからな」


「ああ、それはありがとう……で、気分転換にどれだけ気が滅入りそうな事を教えてくれるのさ」



 フェストラが本当に何の用事もなく、ただ世間話をする為だけに来たとは考え辛い。


恐らく、情報をある程度クシャナへと流しておきたいと考えたが故に、こうして訪れているという事で構わないだろうとしたクシャナは、身体を起こしつつベッドに座り、彼へ視線を向ける。



「幾つかあるが、どこから聴きたい?」


「……学院って、どうなったの?」


「魔術学部の授業準備における事故よって、学院設備が多く破損してしまった為、一月ほどの修繕休校期間に入った」


「ああ、そういうシナリオにしたってワケ」



 四日前に発生したテロ組織【帝国の夜明け】による襲撃事件は、世間に公表される事は無かった。


元々帝国の夜明けという組織が「世間へ帝国の夜明けという組織を認知させる事」を目的としていた事に合わせ、彼らが望む国内情勢の悪化を防ぐ為に、帝国政府及びフェストラも含んだ十王族が取り決めた。


事件発生時、帝国の夜明けに捕えられていた生徒と教師、合わせて三十人前後の者達には緘口令が敷かれ、口止め料を支払う代わり、親兄弟にすら事実を口外する事は許されておらず、口外が確認された場合は多額の賠償金を請求するという契約となっている。



「じゃあ後……私の家って、どうなってる……?」


「リスタバリオスがファナ・アルスタッド及びアルスタッド家の警護を担当している。リスタバリオスが家から出なければならない場合、ガルファレットかアマンナによる監視体制を敷いているから、レナ・アルスタッドにも手が伸びるとは考え辛いと思っていいだろうよ」



 そこでフェストラは口に出さなかったが、ヴァルキュリア、ガルファレット、アマンナの三人以外にも二十四時間体制でアルスタッド家及びレナ・アルスタッドの監視を行う人員配置を行っており、何か異常があればすぐに対処出来るようにしている。



「今後はお母さんも守らなきゃダメって事……?」


「連中はお前がハイ・アシッドである事を知り得ていた。その情報を持っていたのがドナリアだけであれば骨折り損で済むが、そうでなければハイ・アシッドであるお前を誘き出し、食い殺す為にレナ・アルスタッドの身柄が狙われかねん」


「……そうだね。流石の私も、家族を狙われたらお前を見捨てて喰われてやるから、本気でウチの家族を守るんだぞ、フェストラ」


「ああ、お前は簡単に自分の命を投げ出そうとするからな。そう出来ないように色々と手をこまねいてやるさ」



 僅かな沈黙。


フェストラもクシャナも、自分たちがどうした性格をしているか、互いに知り得ている。



死にたがりのクシャナと。


未来を見据えて動くフェストラ。


互いに嫌いな性格同士の者。しかし、だからこそそうした沈黙は、あまり苦じゃなかった。



「ドナリアは目を醒ましてないよね?」


「ああ。お前の幻惑能力が効いている為と推察しているが」


「幻惑能力ね……アレ、あとどれだけ作用するか分かんないな」


「以前までのお前と同じ位に弱まれば、もう固有能力を維持出来なくなるという事だな」


「うん。今はまだハイ・アシッドとして三割位の力を残しているから、何とか能力を継続できてるけど、もう少し弱まっちゃうと、もうダメかも」



 と、そこでフェストラが一度部屋を出て、現在ドナリアに装着している拘束衣を持ってくると、それをクシャナに手渡した。


クシャナは、受け取った拘束衣を二本の腕で握り締めながら力を込めると――易々と引き裂き、二つに別れたそれを、フェストラに投げ返す。



「今の私でこれだけ破れるんだから、もう少し強固な物にした方が良いかもね」


「それ以上の物となれば、特注で作る他ない」


「もう、分かったよ。あと一週間は頑張って能力維持しといてやるから、その間に作っといて」


「ではここで一旦失礼するぞ」


「次来る時は愛い女子を供物として捧げよ」


「お前はどこぞの山々で恐れられる怪異か?」


「似たようなモノだよ」


「ククク。確かにな」



 相当、能力の維持に体力とエネルギーを消費するのか、クシャナは随分と表情を歪ませ、再び寝に入っていく光景を目にしたフェストラは、引き裂かれた拘束衣を持って部屋を出ると、監視員にそれを手渡した。



「それより数倍は強固な拘束衣の発注をし、ドナリアへ着させておけ。四日以内だ」


「ハッ」



 部下の返答を聞き入れて、フェストラはギアンテの休憩所に訪れる。


誰もいない休憩所。備え付けられている給水機より除菌済みの水を一口飲みながら、ボソリと呟く。



「ゴルタナの搬入経路封鎖などは、恐らくレアルタ皇国のサーニスさんに相談すれば、ある程度便宜は図れるだろう」



 一週間後に迫る、国連協定締結に向けたレアルタ皇国外務省長官を務めるアメリア姫の来訪、及び非公式会談。


その際、皇国軍人である人間とフェストラが会談し、ゴルタナを渡す手筈は整っている。


レアルタ皇国としても、ゴルタナと言う装備は諸外国への貿易で最重要品として定めている代物だ。仮想敵国として定めているグロリア帝国に渡っている事は面白いと感じる筈も無い


となれば、国を挙げてゴルタナの横流しルートなどを見つけ出し、貿易ルートの制限や封鎖など、取れる手は確実に取ってくると推察できる。


流石に全てを封鎖する事、全てを差し止める事は出来ないかもしれないが、それでも今後の搬入数を制限する事は出来る事に他ならない。



「現段階での懸案事項は、帝国の夜明けが保持しているゴルタナの数と、ハイ・アシッドの数……そして、アシッド・ギアと呼ばれる機材についてだ」



 ゴルタナは、装着者が一人増えるだけでも対処方法が非常に狭まる厄介な兵装だと言っても良い。


フェストラが組織し、クシャナが名付けた対アシッドチーム……【シックス・ブラッド】でさえ、対処出来るのはヴァルキュリアとアマンナ、力を解放したガルファレットと、半数しか対処出来ない。フェストラは自分の戦闘方式故にゴルタナへの対処が難しい事は自覚しているし、クシャナは「人間と戦うつもりはない」との事だ。



続く問題は敵が保有するハイ・アシッドの数。これも非常に厄介な問題で、単純にこちらはクシャナ一人しかハイ・アシッドがいない状況、かつ彼女は常時、全力で戦う事は出来ない。


今、こうして力を弱体化させる事に努めているように、彼女の持つ力は一般市民として生きるにはあまりに強大過ぎるが故、フェストラとしてもリスクを冒して彼女に力を維持しておけと命じる事は難しい。



そして次なる問題は、アシッド・ギア――面倒かつ、対処法が分からぬ問題だ。


ゴルタナは、まだ装着者の力量に関わらず対処法がある程度存在する。


敵にハイ・アシッドがいる問題も、こちらがクシャナ・アルスタッドとファナ・アルスタッドを有している関係上、対処を行おうとすればどれだけでも対処は可能だ。


しかし、アシッド・ギアと呼ばれるシステムを用いて、誰も彼をもアシッドへと変質させる事が出来る敵の優位性は非常に大きい。


極端な事を言えば、そこら辺を歩いている適当な民間人を数人捕まえ、その者達にアシッド・ギアを挿入、アシッドに変質させるだけで、こちらはクシャナ・アルスタッドを動員して対処しなければならない。


一本のアシッド・ギアでどれだけアシッドを生み出せるかは不明だが、もし一本で数体のアシッドを生み出す事が可能であれば、シュメルという広い土地に分かれて複数体のアシッドが出現する、等の状況も鑑みなければならない。


例えヴァルキュリアやアマンナ、フェストラが動いて、アシッドの動きを止める事は出来ても、処理をするにはクシャナという存在が必要だ。



 考える事は多い。それも全てが頭を抱えなければならない程、大きな問題であり、一つとして無視できるものではない。


前回、聖ファスト学院へと襲撃を仕掛けられた時に上手く対処が出来た要因は、敵が情報・準備・練度の三つ全てが未成熟な状態だったからだ。



もし、敵がファナ・アルスタッドの確保を最優先していて、ヴァルキュリアとアマンナ、クシャナの治療が出来ない状況だったら。


もし、敵がガルファレットの持つ特異な暴走能力を知り得、真っ先に彼を殺していたら。


もし、敵全員がハイ・アシッドへと至って……否、ハイ・アシッドで無くとも、全員がアシッド・ギアを用いてアシッドへと変質する事が出来ていたら。



今、フェストラはこの場で、呑気に水を飲む事さえ出来なかったのだ。



 ――しかし、思えばそれなりに遠くまで来たものだと感じもする。



「ほんの一ヶ月前まで、オレ達は情報さえ持ち得ていなかった。……それに比べれば、考える事が出来るだけマシか」



 クシャナ・アルスタッドと、フェストラ・フレンツ・フォルディアス、そしてアマンナ・シュレンツ・フォルディアスの出会い。


それまで交わる事の無かった三人が、運命に導かれるように出会った時から――フェストラは、常に暗闇をかき分けるように、前へと歩みを進めていた。



休憩室に、三人の姿が。


アマンナと、ヴァルキュリア、そしてファナの三人だ。



水の入っていた紙コップを握り潰し、ゴミ箱へと放り投げたフェストラが、思い出しながら微笑んだ事を、三人は気付いていなかった。

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