表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/329

王族会議

フェストラ・フレンツ・フォルディアスはその日、普段から身につけている聖ファスト学院の制服ではなく、十王族にて制式に定められた王服をまとった上で一人、帝国城の第四会議室へと向かっていた。


扉の前に立つ二人の帝国軍人がフェストラを見ると率先して重い扉を開き、中の様子を一望できる状況に。


巨大な円卓を囲むように、十の席が用意されており、フェストラ以外の九人は既に腰掛け、彼の着席を待っている状態だ。



「来たか、若造」



 内の一人が声を開くと、残る八人中七人が、同様に「遅い」だとか「我々を待たせるとは何を考えている」と言ったように、声を上げていたが、フェストラは応じる事も無く開いている席に着き――対面にはフェストラよりも年齢は上だが、平均的に見れば若い女性が、肩身を狭そうに大人しく座り、フェストラを見ると、苦いものではあったが、笑いかけた。



「さっさと始めろ」



 明らかにフェストラ以外の面々はそれなりの年齢をしている年配であるというのに、彼は物怖じする事なく肘を机に付き、手の甲で顎を支えた。



「貴様! それが年上に対する態度か!?」


「おいおい、エスタンブール当主。それは歳しか誇れない者の言い分だぞ? いくらオレのような若造がお前たちと立場が対等であるのが気に食わんからと言って、歳を誇るようではエスタンブール家も凋落かな」



 声を荒げていた、トリース・ガリュ・エスタンブールへとそう返しながらクククと笑みを浮かべて見せると、白髪が若干目立つ初老の男性は顔を赤くしながら口を開こうとする。



「無駄話は嫌いだ。故にオレから始めてやろうじゃないか」



 パチン、とフェストラが指を鳴らすと、いつの間にか彼の背後にいたアマンナ・シュレンツ・フォルディアスが、席に掛けるフェストラ以外の九人に、予め用意していた資料となる分厚い書類を目の前に置いていく。



「まず事のまとめから入ろう。先日の六月二十一日、夕方三時頃の事だ。聖ファスト学院に【帝国の夜明け】を名乗る武装集団の襲撃を確認。後に帝国の夜明けは正門、裏門、その他教師用の通用門等を全て閉鎖し、学院に立てこもった」


「何を勝手に進めている!」


「お前らで詳細の情報を即座に羅列する事が出来るというのならしろ。出来んなら黙れ、時間の無駄だ」



 苛立ちを隠すことなく、指で円卓を小突きながらそう口にした瞬間、王族の者達は彼から溢れる殺気を感じ取ったのか、すごすごと押し黙り、彼の言葉に耳を傾ける。



「オレも含め、八人の教師陣と、二十八人に及ぶ生徒が取り押さえられた。後にリスタバリオス家の息女、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスや、このアマンナ・シュレンツ・フォルディアス、及び庶民二人の協力もあり、占拠・籠城の決行を企てていた帝国の夜明け連中を襲撃。生徒と教師は問題無く帝国警備隊特務捜査課一班の人間に保護された」



 以上、と言葉にしたフェストラがそこでアマンナに目配せをすると、冷水の入ったコップを用意し、フェストラへと寄越す。



「それだけか? その程度の情報ならば、我々とて知り得ている。問題なのは、その帝国の夜明けなる連中の目的と、組織の詳細だ。何も情報が入って来ない」



 十王族の一つ、カレストラーノ家の当主であるリングームが声を挙げると、フェストラは頷きながら「だろうな」と同意した。



「オレが情報統制をかけている。事態の隠蔽や収拾はオレの息がかかった部下にさせているし、特務捜査課にも捜査情報の差し止めを命じている」


「帝国警備隊や軍のみならず、帝国政府や我々十王族、ひいては国王陛下にさえ情報統制を行うとはふざけているのか!?」



 それぞれが声を荒げる中、フェストラの対面に座る女性……ルト・クオン・ハングダムだけが一枚一枚、書類の中身を確認していく。



「……これは」



そうすると、女性は七ページ目で手を止める。


フェストラの方を見て、彼も笑いながら頷いた。



「お前たちは少し、ハングダムの当主を見習うといい」


「ハングダムを?」


「渡した資料の六ページ目までは、学院内の被害状況をまとめたものだが、七ページ目からは少し異なる」



 その言葉に、各面々が顔を合わせて首を傾げながら、資料を手に取ってページをめくっていく。


彼の言葉通り、六ページ目までは聖ファスト学院の被害状況が記載されていたが――七ページ目には、帝国の夜明けが使用していた魔術外装システム【ゴルタナ】についてが記載されていた。



「ゴルタナ……だと? レアルタ皇国の提唱する国連協定加盟国にしか輸出がされていないシステム、それも最新鋭装備を、何故一介のテロリストが」


「密輸ルート等はまだ調査中だ。後日レアルタ皇国軍の人間と会談の予定があるんでな、そこで調査を願い出る。……が、予測は立てられる。なぁ、外務省長官」



 フェストラが、名前ではなく役職で呼んだ瞬間、十王族の一つであるウォング・レイト・オーガムが青白い表情を浮かべながら、ピクリと身体を震わせる。


ウォングはグロリア帝国外務省長官を務める男で、三十年以上に亘り各国とのパイプラインを整えてきた人間と言っても相違ない。



「な、何だ……?」


「二ヶ月前より、バルトー民主主義国で活動しているカルト宗教団体の人間と、随分仲睦まじく会食をしているようじゃないか」



 アマンナが彼の席へと近付き、四枚の写真をそっと机に置いた。


一枚目はシュメルの商業施設に存在する料理店で、ウォングと恰幅の良い男性の二人が会食している様子の写真。


二枚目は男に何か書類の入ったファイルを手渡している場面の写真がアップで映り。


三枚目には、男がウォングへと小さな紙を渡している様子の写真。


四枚目は、その小さな紙を外務省の事務会計に手渡しながら、耳打ちをしている様子の写真。



「男はグレイ・ドール。レアルタ皇国シドニア領で商いをしているリエルティック商会の元社員。現在は銀の根源主と呼ばれるカルト宗教団体の経理担当を務めてるらしい。男がウォングに手渡していたのは、海外銀行の小切手だな」



 群がる様に、皆がウォングの前に置かれた写真を一目見ようと集まる中、彼は慌てて四枚の写真を集め、破り捨てる。



「こ、これが何だと言うんだ!? た、確かに私はコイツと食事をし、食事代を貰ったが、それが罪になるというのか!?」


「この男に渡していたファイルは、こっちで押収してある」



 その言葉を聞いた瞬間、声を荒げていた彼の口が閉じられた。


しかしフェストラは、そのファイルをアマンナに用意させる事等はなく、クククと笑うだけだ。



「このグレイ・ドールという男も同様に取り押さえている。先日議会に上げられた、違法薬物流通にも関与していた。……そして、その密輸ルートについて、四ルートほどまとめてあったのが、このファイルだ」


「あ……、あ……っ!」


「まだ調査中故に仮説でしかないが、この薬物流通に用いているルートを通してゴルタナの搬入があった可能性も捨てきれない。つまり――オレ達の中に、帝国の夜明けとかいう組織と、内通している者がいる可能性を鑑みてるって事だ」



 頭を抱えるウォングと、彼の事を白い目で見据える者達。


ルトだけは何と言っていいか分からぬという様子で、フェストラの方をチラリと見た。



「安心しろ、現段階での公表はしない」


「な、何故だフォルディアス! コイツは違法薬物流通に関与している可能性があるのだろう?」


「情報を一つサービスしてやろう。帝国の夜明けという連中の目的、その一つは国内情勢の悪化だった。だから今の段階で十王族の一人、それも外務省長官を務めている奴が違法薬物の密輸に関与している可能性を現段階で差し止めておこうという判断だ」



 永劫揉み消すというものではなく、あくまで国内情勢の悪化を狙う組織に抵抗する為のものだとしたフェストラに、誰もが口を閉ざすしかない。



「学院で起こった事件も同様だ。世間への公表も控えるべきとオレが判断し、加えてお前たちに共有する事も、捜査情報や調査結果が外部へと漏れる可能性を鑑みなければならん。情報セキュリティ意識の低いお前らに任せられる事じゃない」


「お前だけが情報を独占するつもりかっ」


「その情報はオレが、オレの動かせる人材を用いて調べたものだ。その情報をどうしようが、オレの勝手だろう? お前らも気に食わなければやればいい。――だが気を付けろよ。下手に動いた奴から、オレに情報を抜かれる事になるんだからな」



 不敵に笑いながら断言したフェストラと、彼の背後に立ちギロリと、前髪で隠れる瞳を僅かに覗かせながら睨みつけるアマンナに、各面々がゾクリと身体を震わせる。



――そうした中、会議室の扉が不意に開かれた。



振り返ると、その先にいた人物は――長い白髪を全て逆上げ後ろでまとめ、髪と同じ色の髭を首元まで伸ばした男性が。



「フェストラよ。一つ問うぞ」



 入室して早々に口を開いた男の言葉に、フェストラも一筋の汗を浮かべつつ、席を立ち、左足を床へ折った上で、頭を下げる。



「はい」



アマンナも、他の十王族も、彼らを護衛する為に用意された帝国軍人も。


皆一様に、男を崇めるように、頭を下げた。



「貴公の策謀は、国を混乱に陥らせんが為の、安寧を目的とするが故か?」


「……安寧、ではないやもしれません。しかし、最善を目的としたものであると、お約束致します」


「宜しい。ならば好きにするが良い。――我が選んだ十王族、その嫡子である貴公を、信じるとしよう」



 男は、ラウラ・ファスト・グロリア。



このグロリア帝国を統べる絶対的な権力者であり……いずれフェストラが至るべき場所に立つ、王である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ