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シックス・ブラッド-05

二十七人の聖ファスト学院所属の生徒達を引き連れ、学院裏手にある通用口……裏門と呼ばれる場所へと駆け出していく教師陣は、その手にバスタードソードを握る六学年担当教師を務めるイブリンを中心に、七人。


だが彼女達逃走組を先導しているのは、教師陣ではなく一人の少女――ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスである。


 地を蹴りながら、ゴルタナを装備する敵兵の握る得物と幾振りか斬り、弾きとしつつ、遠くから放たれる銃弾を躱しているヴァルキュリア。


そうしていると、ヴァルキュリアの背中を踏み台に、一人の少女が空を舞い――その手に握る、一本の短剣を投擲。


先ほどヴァルキュリアを遠巻きから狙撃しようとしていた一人の兵士……その人物もまたゴルタナを装備していたが、男の背後に回り込み、左腕の関節部分……その可動部故に装甲が薄く、繋ぎ目のある部分へと短剣を刺し込み、僅かに痛みを与えたアマンナは、両脚をかけ転ばせた後、首筋に向けて拳を叩き込んだ。


魔術強化を受けた単純な暴力、ゴルタナを展開していなければ、喉を潰されて死んでいただろう威力で打ち込んでも、物理的な衝撃や攻撃を単純に弱体化させるゴルタナの特性上、気絶するだけで事が済む。


ゴルタナの展開が解除され、アマンナはその一つを回収し、試しに以前勉強をしたレアルタ皇国の公用語である皇国語で「ゴルタナ起動」と言葉を放ってみたが――アマンナの身体に展開される事は無かった。


 だが敵の正体や、バックを調べる上で必要になる可能性もあると判断し、ポケットにゴルタナを入れた時には……既にヴァルキュリアが、先ほどまで相対していた兵の頭部に、グラスパーの一振りを叩き込んだ光景が見えた。


強い衝撃を受け、身体を揺らしながら倒れて気絶した兵。その者もゴルタナの展開が解除され、黒いキューブが地面に転がった所を、回収。ヴァルキュリアはアマンナへ見せたが、首を横に振る。



「……イニシャライズが、必要です」


「いに、しゃらいず……?」


「簡単に言えば、初期化して、新しい使用者でも、使えるようにする……みたいな」


「ふむん、拙僧もクシャナ殿みたいに『ヘンシン』をしてみたかったのだが」


「あの、ゴルタナは別に、ヘンシンじゃ、ないんです、けど……」



 等と、世間話をしている暇は本来ない。


しかし、残る兵達は僅か、それも距離が離れ、今まさにこちらへと向かおうとしている者達が二人いる、と言った所で、逃走中の教師陣達が裏門を開け、生徒達から優先して、外へと逃がしていく光景が目に入った。



「アマンナ殿!」


「はい、お願いします」



 銃器を構え、こちらへと迫ろうとする二者を引き付けるように、グラスパーを構えて突撃を開始したヴァルキュリアと、彼女に背を向けて脱出していく面々の所へと駆けたアマンナは――そこで、裏門に数人の男たちが群がり、生徒達を確保している光景を目にした。



「貴方達は」


「こちら帝国警備隊特務捜査課一班だ。君も早く!」


「えっと……ごめんなさい」



 手を伸ばし、速くこちらへと誘導する男たちに謝罪の言葉を残したアマンナが、剣を構えながら警戒するイブリン達教師陣達へ「逃げて下さい」とだけ指示をする。



「後は、フェストラさまやヴァルキュリアさま、クシャナさまと……あ、あとわたしに、任せて下さい」


「貴方達生徒をそのままにしておけるわけがないでしょう?」


「いいから」



 イブリン達の胸を圧し、裏門から出したアマンナが、再び門を閉ざそうとする。



「……帝国の夜明け連中を外に出すと……特務捜査課としても、面倒でしょう……?」



 そう言葉を残すと、生徒達を回収していた男達が僅かに反応を示す。アマンナは男に一枚の紙を手渡した後「じゃあ」とお辞儀をして、門を施錠した。


そうしたアマンナの動きに目をくれる事も無く、ヴァルキュリアは放たれる銃弾の一つ一つを、全て視認してグラスパーの刃で切り落とすか、避けるかを判断し、その身を疾く敵兵の下へとやり、その剣を横薙ぎに振るい顎に向けて叩きつけると、一人の姿勢を崩した。



「駄目か!」



 顎からの衝撃は脳を揺らす。故にゴルタナを装備していても気絶する可能性を鑑みたのだが、衝撃が上手く伝わっていないからか、姿勢を崩しただけで事が済んでしまった。


だがそれが分かっただけでも問題はない。ヴァルキュリアは両脚と右手に掴むグラスパーの刃にマナを投じ、一度鞘に納めると、再び抜刀しつつ地を蹴り、その頭部へと刃を叩きつける。


抜刀術による高威力、そしてマナの投じられたグラスパーの刃が持つ強靭性が、ゴルタナの防御性能さえも通り越し、敵を気絶にまで追い込む。



残り一人――と視線を向けた瞬間。


その背後に、一人の女性が近付き、彼の背中を強く蹴りつけ、ヴァルキュリアへと突進させた。



何が起こっているか理解できていない敵兵、その挙動を見切っていたヴァルキュリアは彼を避けると、すれ違い様に後頭部へ、グラスパーの柄を叩き込み、気絶に追い込む。



「……再び相対したであるな」


「全く。ドナリアが勝手に動くから、私までがこっちの面倒ごとに駆り出される事となってしまった」



 銀髪のセミロング、その顔にかける眼鏡が印象強い女性は、グテントの研究所において、ヴァルキュリアとアマンナの二者を襲撃した、ハイ・アシッド。


 ヴァルキュリアが切り落とした筈の右腕は既に再生を果たしていて、ヴァルキュリアも思わず息を呑みながら、刃を鞘へ納めた。


 剣を収めるのは、ヴァルキュリアが戦わぬと決めたからではない。


むしろ逆で、リスタバリオスの人間が会得している【リスタバリオスの型】は抜刀術が基礎となっている。故に刃を収めるのは、彼女にとって本気である事の証左。



――女性もそれを理解しているから、眉をひそめるのだろう。



「まずは名を聞こう。リスタバリオス様の娘」


「拙僧は、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスだ」


「ヴァルキュリア……『戦いを見据える者』か。リスタバリオス様もお前に、大層期待をしていたと思われる」



 アマンナが裏門からヴァルキュリアへと近付き、二者で女性へと視線を向ける。


すると女性はアマンナへと向き直り、彼女へ「アマンナ・シュレンツ・フォルディアスだな」と、アマンナの名は知り得ていた事を示した。



「名を名乗らせておきながら、貴様は名乗らぬと?」


「そうだな。それは騎士として恥ずべき行為だ。故に名乗ろう――私はアスハと言う。覚えなくともいい。お前たちはここで死ぬからな」



 腰のベルトに右手をかざすと、一本の剣をどこからか抜き放ち、構えた女性。


しかし女性……アスハはまだ攻撃に移ることなく、ヴァルキュリアとアマンナの両方と向き合い、問いかける。



「貴様らにはそれなりに、ダメージを与えておいた筈だ。だが今の貴様らは、あの時よりも動きが機敏に見える――貴様らに何があった?」


「……やはり貴様らは、彼女について知らなかったようであるな」


「彼女?」


「なんでも、ありません。貴女に教える事など、何もないです」



 全員に、話す事が無くなった。故に沈黙が二秒ほどあった後――三人がそれぞれ、動いた。


ヴァルキュリアが地面を蹴り、刃を抜き放つと、アスハは自分の剣で疾く振り込まれた刃を弾き、躱し、その衝撃を利用して刃を戻し、反撃として一振りをヴァルキュリアの首筋に振るった。


確かに早く、素早い反撃。しかし、万全のヴァルキュリアは視線に捉えていた一閃を避ける事、そして避けた後の体制を整えておく事は容易い。


故にヴァルキュリアは身を屈めて刃を避けつつ、右腕と左腕にマナを投じ、左腕を地面へと叩き込んで揺らし、僅かに姿勢を崩したアスハの喉に、参の型・グレイリングローにて刃を突き刺したまま刃を射出、その頭部を吹き飛ばした。



「どうであるか……!?」



頭部の肉片が飛び散り、一瞬だけアスハの身体が動かなくなる。


ヴァルキュリアは以前から、アシッドと言う存在が首を失くしても動く事を疑問に感じていたが、それは脳がまだ稼働状態であるからではないかと推察。


その為、今回は脳を完全に破壊したのだが――しかし、首を失くした女性はそれでも身体を動かし、ヴァルキュリアへと剣を振るう。


流石に視界が無い故か、その剣捌きを見抜く事は容易かったが、数歩分後退し、遠くへと放たれたグラスパーの刃を柄へ戻した所で、動きを止めた。



「……驚いた。頭を粉々にしても、動くとはな」



 頭を失くして身体だけとなったアスハは、地面に落ちた自分の頭だった肉片に近づき、その一つを掴んだ。


するとグチュグチュと音を鳴らしながら、肉片は再生を開始。


その頭を構成するパーツが一つ一つ再生していく様は、実にグロテスクだったが――最後に彼女の整った顔が手に乗ると、切断面を合わせるように首へ頭を乗せ、今その切断面が繋がり、目を開いた。

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