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シックス・ブラッド-04

「ガルファレット先生、感謝します!」


「グ、ゥ……ウウ、ウ」



 六学生の担当教員であるイブリンがいち早く反応し、フェストラに向けてアイコンタクトを送る。


すると彼の背後から空間魔術が展開され、内部に収納されていたバスタードソードを投擲。


彼女は空中でそれを二本受け取ると、一本を自分で掴み、もう一本を今立ち上がった三学年担当教員のリントに手渡した。



「皆立ってッ! 逃げるわよ!」



 イブリンの言葉に合わせ、生徒たちが我先にと立ち上がり、彼女についていこうとする。


しかし、約二十五人弱の生徒たちを一斉に連れ出す為には統率が取れていない上に、講堂の出入口は捕らえられている者達の位置とは反対側、妨害がどれだけでも考えられてしまう。


チッ、と舌打ちしたフェストラと、呻きながらも動かないガルファレット。


そんな中、ガルファレットに殴り飛ばされ、投げ飛ばされたゴルタナ装備の兵士たちが立ち上がり、その銃口を生徒たちに向けようとする。


既に警告も必要ない、抵抗する者は殺す、という殺意だけがそこにあったかもしれないが――そんな彼らの視線を集めるが如く、天井のステンドグラスを突き破り、破片をまき散らしながら落ちてくる、二人の少女達がいた。



一人はヴァルキュリア・ファ・リスタバリオス。


もう一人は、彼女に抱かれながら「にょわぁあああーっ!」と奇声を発している、ファナ・アルスタッドだ。


ステンドグラスの割れる音、それと共に放たれるファナの奇声を聞いて一瞬の内にそちらへと視線を向けていた兵達。


しかし彼女が、ヴァルキュリアが講堂の床に足を付けたと認識した瞬間――その手に持っていた、柄しかない剣に向けて、先ほど魔術妨害用魔導機を破壊した刃が、意思を持つように動き出し、その柄に戻された。



「四の型」



 唱えた言葉と共に柄と繋げられたグラスパーの刃に、再びヴァルキュリアのマナが浸透した。



「アイリアン・グロー」



瞬間、刃は計九つに分離、更には疾く空中を駆け出し、ゴルタナを装備する兵達の銃口に全て突き刺さり、使い物にならなくしていく様子は、一瞬の間に行われた。



「アマンナ殿!」


『はい』



 ヴァルキュリアが声を張り上げると、講堂と外を隔てる壁が不意に爆ぜ、大きな穴を開けた。


その頬を煤で汚れさせながら「ごほ、ごほ」と咳き込んだアマンナが、煙の向こう側から姿を現し、慌てる生徒たちに声をかけていく。



「こっち、です」


「皆こっち、急いで!」



 しかしアマンナの声が何かを知る前には、イブリンが率先して声を上げ、ゴルタナを装備した兵達を相手にバスタードソードを振り込み、外へと向かおうとする生徒たちの妨害を行う兵達と渡り合う。


 しかし如何に元々帝国騎士として名を馳せていた教員たちと言えど、ゴルタナを装備した者となると、基礎的な身体能力が異なってくる。


外へと逃げる生徒たち、最後の一人が空洞から身を出した事、ヴァルキュリアとアマンナがその背を追いかけた事を確認し、腹部に強烈なフックを一撃、貰った所で、イブリンは声を張り上げた。



「――ガルファレット先生、頼みます!」


「グ――ウォオオオォ、ッッ!!」



それまで、自分が暴れる事で生徒たちに被害が及ぶ事を考え、沈黙しながら、生徒たちを守る為か立ち塞がっていただけのガルファレットが再び雄叫びを上げて床を強く蹴りつけ、イブリンと相対する一人に向けて、強烈な右脚部の一振りを叩き込んだ。



講堂から避難を開始した生徒たちと、彼らを守る教員たち、そしてヴァルキュリアとアマンナ。


 さらに講堂内では、ゴルタナを装備した兵と、既に正気を失っているのではないかと言わんばかりに暴れまわるガルファレットが競り合い、ガルファレットがその圧倒的な暴力によって猛威を振るっている。


脱出を果たす為に開けられた穴は、学院の教員用門に近く、アマンナは通りに兵が多く居ない事を理解し、穴を開けたものと推察できる。



ドナリアは、未だに脳が揺れる感覚と戦いつつ、額に青筋を立て、怒りと欲望のままに大暴れしたいという感情を何とか抑えていた。


眼前でフェストラが警戒していたが故に動けなかった事も理由の一つではあるが――恐らくこの場に、彼女が来ると理解していた事が理由だろう。



「庶民、隠れてないで出てきたらどうだ?」



 フェストラの言葉と共に、講堂の出入口――その重く大きな扉を開け、入ってきた一人の少女。


クシャナ・アルスタッドに、ドナリア・ファスト・グロリアは視線を向けた。



「初めまして、ドナリア・ファスト・グロリアさん」


「こちらこそだ、クシャナ・アルスタッド」


「貴方には聞きたい事が幾つもある――そして、ハイ・アシッド同士だからこそ、しなければならない事もね」


「お前の排除等、俺達にとっては通過点でしかない。俺達の理想とする、真に強靭な国家を作り上げる為の、通過点だ」



 クシャナは右足の太もも、そのスカートに隠していたホルスターから、マジカリング・デバイスを取り出して、側面に備えられた指紋センサーに指を乗せた。



〈Stand-Up〉



 放たれる機械音声。しかしクシャナは、視線をドナリアから話す事なく、続けて言葉を放つ。



「貴方の理想なんか知らないよ。私はただ、貴方から救える命を守る。その為に戦い……貴方を喰おうじゃないか」


「面白い――やってみるがいい小娘ッ!!」


「残念な事に、私は累計年齢で言えば、三十八歳だから小娘ではないかな」



 ドナリアはその右手に構えていた自動拳銃の銃口をクシャナへと向け、トリガーを引く。


破裂音と共に放たれた三発の銃弾、それはクシャナの胸部や腹部を貫き、彼女の口から僅かに血が溢れたが――しかし、彼女は痛みを堪えながら、口元にマジカリング・デバイスを近付けた。



「、……変身ッ!」


〈HENSHIN〉



 宙へ放り投げたマジカリング・デバイス、その画面に向けて右足で蹴り付けたクシャナに合わせ、画面から眩い光が放たれる。


瞬間、彼女の肉体を覆う魔法少女としての外装、その煌びやかな姿が光の中から現れる。


彼女――幻想の魔法少女・ミラージュは床を蹴りつけ、その足元を中心として展開された魔法陣のような紋様から、一本の黒い剣が姿を現し、彼女は柄を握り締めた。


今、二者の間を飛んで行った、ゴルタナ装備の兵士。それはガルファレットが暴れ、殴り飛ばした一体だったろうが、二者も、フェストラも、その行方も、結果も気にしない。


ドナリアは右手に掴んでいた自動拳銃を放棄し、ポケットから人差し指程度の大きさの機材……アシッド・ギアと呼ばれる機械を取り出すと、その銀色に光る先端を、自分の首筋に突き刺した。


 彼の肉体が一瞬だけボコボコと肥大化したかと思いきや、すぐに肉体の隆起は収まり、彼はフッと息をついた。


そこから、彼の動きは早かった。


講堂の床を一蹴りしただけで、数メートルは離れていたミラージュの顔面を殴りつけていたスピードもそうだが、間髪入れずに彼女の右腕を掴み、空中へ浮かぶと縦に一回転しながら、地面へと彼女の後頭部を叩きつけた動きが早かったのだ。



「が、ぐ……ぅゥウウッ!」



 後頭部から、血なのか髄液なのかが分からぬ液体が溢れ出すが、それでも意識を保っているミラージュは、自分の右腕を掴むドナリアの手を左手で握り返すと、その腹部を強く蹴った。


ハイ・アシッドとしては弱体化しているが、魔法少女として肉体強化を受けている彼女に蹴り飛ばされたドナリアだが、一瞬痛みを耐えるように歯を食いしばると、そのまま右手を振るい、その明らかに十数センチはありそうな、急速に伸びた爪を、ミラージュの腹部へと向けて突きつけようとする。


しかし、突き付けた爪が切り裂いたミラージュは、まるで露と消えるように拡散していき、ドナリアは舌打ちをしながら周囲を見渡す。


その時既に、背後から黒剣を横薙ぎで振るいつつ、接近していたミラージュの攻撃に、反射神経だけで気付いたドナリアは、身体を逸らす事で首を斬られる事だけは回避したが、その左腕は肩から切り裂かれ、宙を舞う。



そうした戦いを、フェストラはただ目で追いかけていた。



「あ、あの! フェストラ、さん……ですよね?」



 ガルファレットとゴルタナを装備した兵による戦いの脇を通り抜け、フェストラにそう声をかける一人の少女がいた。



「ファナ・アルスタッドか。お前が何故ここにいる?」


「えっと、お姉ちゃんが『突入したらフェストラの近くに居なさい』って言ってたので……」


「……なるほど。ならオレから離れるなよ」


「は、はいっ!」



 何故共に突入しているのか、という事を問うつもりだったフェストラだが、その理由は幾つか理由が考えられる上、確かに乱戦状態となっているガルファレットや、多くの生徒達を守る為に行動しているヴァルキュリアやアマンナ達に守られるより、フェストラが守った方が安全であると短く結論付けた彼は、剣を構えて何時でも魔術行使が可能な状況を作り出しながら――しかし、目はミラージュとドナリアの戦いを見据えている。



(倒すべき敵は、ドナリアだけじゃない。いずれ奴以外のハイ・アシッドとも、戦う事になる)



 この空間にいる誰もが、今この戦いを乗り切って生き残る事や、自分たちの願いを叶える為に戦う中で、彼だけが未来を見据えていた。



(その時に少しでも、庶民だけでなく、オレ達も対抗が出来るよう、情報を集めなければならない)



 しかし、彼がそうして未来を見据える事が出来るのは、信じているからだろう。


今、聖ファスト学院にいる者達が、彼ら【帝国の夜明け】が目論む野望を、打ち砕く事が出来ると。

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