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帝国の夜明け-11

粒子がかき消されるように散り、見えなくなった所で――アマンナちゃんが、耐えきれぬと言うように、膝を折って床に手を付ける。



「アマンナちゃん、大丈夫!?」


「……大、丈夫……です。それより……悔しい事に、あの女の、言う通り、です」



 すぐに立ち上がる事が出来ないと判断したか、アマンナちゃんは「ごめんなさい」と一言謝りながらも、背中を床につけ、寝転がりながら、私へと問いかける。



「何があったか、状況を、判断させてください……あの女が敵と内通していれば、その話をしている間に、敵が突入してくるでしょうし……そうなれば万事休す……もう考えないように、しましょう」



 既に万全の状態で行動できる人間が私しかいない事を悟ったアマンナちゃんが「これは一種の賭けです」と言い、息を吐く。



「正直、この状況であの女は、確かに怪しさ満点です、けど……もう、あの女の言葉を信じる事位しか……出来る事無いので……」


「……そう、だね。どうせあの女が敵じゃなくても、私たちが追い詰められている事に変わりはないもんね」



 そう割り切ってしまえば、少し気が楽になる。


少なくともあの女性が敵じゃなくて、ただファナを守っただけだと仮定すれば、確かに思考する事は少なくなる。


私はアマンナちゃんに、フェストラと私がこの部屋にいた時、二人組の存在に突然襲撃された事や、私はその直前にフェストラによって庇われ空間魔術内に、フェストラは何故か空間魔術に逃げる事無く敵に見つかり、連れていかれた事を話した。



「……フェストラ、さまは……その敵が、三世代型ゴルタナを、展開していたと、言っていたのですね……?」


「うん。ゴルタナって、前に言ってた魔術外装がどうとか、って奴だよね?」


「……はい。レアルタ皇国における魔術外装システム……展開するだけで、身体機能の向上と……物理的・魔術的な干渉を、打ち消す効果も……存在します」



 それこそ私の展開する、魔法少女としての姿と似たようなもの、というわけか。



「そして……敵の所有していた、武器……銃器は、この世界における、武器じゃなくて……エーケーヨンナナと呼ばれる、クシャナさまの前世で、用いられていた、武器……と」


「うん。魔術とかで撃つ奴じゃなくて、火薬が詰められてるだけの銃弾を撃つって感じ」



 ふんわりとした説明になってしまって申し訳ないと思っている。けど許して欲しい、私は銃の構造とか全然知らないんだ。AK-47だって、昔テレビで特集してて見た事があり、それを覚えていただけ。



「単発銃ではなく、連射が可能な、装填できる弾数の多い銃、という事です、よね……」


「そうだね。私が知る限り、地球の銃はそういうのが多かった。この世界の銃は、基本単発銃になるのかな?」


「えっと……魔術的な補助を施して、射出する銃弾とかは、ありますけど……そもそも、銃器技術に関しては、あんまり普及がされてなくて……」


「それまた、なんで?」


「……そもそも、魔術が普及しちゃってるから、です」



 一瞬、意味を理解する事が出来なかったけど……よく考えて分かった。



「魔術強化の存在だね」


「……はい。確かに、銃は凄く、便利な武器だと、思いますけど……例えば、眼球と脳を伝う神経に、魔術強化を行うだけで……そのトリガーを引く一瞬も、放たれる銃弾も、その軌道も全部瞬時に理解できて、簡単に避けれちゃうんです」



 例えば地球において、戦場で銃器が主に使われる理由は「単純に強力な火器かつ防ぐ手段が多くないから」だろう。


銃弾が放たれ、身体のどこかに着弾すれば、基本的に人間は動けなくなり、戦力を減らせる事が出来る、優位性が何よりも勝っている武器からだ。


 だが、魔術や魔導機が一般にも浸透していて、魔術師が兵士として戦うこの世界では、銃器の優位性はそれほど高くない。


先ほど言った魔術強化を身体に施して銃弾を避ける事が容易な点や、ゴルタナのように強力な魔術外装があって簡単に防げる点等々、銃弾を無力化する術が幾つもあるからこそ、銃器が発達するより前に「戦術的に有効じゃない銃器開発するよりも魔術や剣術の技術高めていった方が良いじゃん」理論を組み立ててしまった、というわけだ。


第二次世界大戦以降、戦争における主役が白兵戦じゃなくて戦闘機によるドックファイトや戦略ミサイルにおける攻撃や威嚇が主となったように、そもそも有効な戦術に関する技術以外、普及・進展させる理由が無いのだろう。



「後は、銃弾に魔力を、込めるとか……それが難しい、っていうのも、一つ理由がありますけど……それ位ですね」


「何にせよ魔術が浸透してるこの世界だからこその理由ってわけだ」



 だがそうした魔術が普及している世界というバックボーンがある中で、敵はわざわざ地球における銃器を装備して、聖ファスト学院へと突入してきた。


それだけ、地球における銃器は汎用性が高く進化していて、故に敵は武装として最適と判断した、と考えられる。



「……外、ここからじゃ見れませんけど……ゴルタナで武装した連中が、学院に入る為の門を、全部封鎖しちゃって、ました……」


「アマンナちゃん達はどうやって入ってきたのさ?」


「封鎖される、ギリギリ直前に、入り込んで……そこからは、気配を遮断して、隠れながらここまで……」



 アマンナちゃんの気配遮断能力は自他共に辛口な事が多いフェストラさえも評価している点だ。そうして潜り込み、ここまでやってきてくれた事は、私としてもありがたい。



――精神的に、私も強く支えられた。



「……敵、来ません、ね」



 既に、あのプロフェッサー・Kと名乗った女性が消えて五分経過。あの女性が敵だった場合、こちらに人員が来ていてもおかしくない状況だが……それが無いという事は、少なくとも現時点で彼女の脅威性に怯える必要は無いだろう、と考えられる。



「……クシャナ、さま」


「なんだい、アマンナちゃん」


「ファナさまを、起こせませんか……?」


「……なんで?」


「ファナ、さまに……わたしと、ヴァルキュリアさまの、治療をお願い、したいのです……敵が何者か、何を目的に、行動しているか……それを調べる為に、わたしが動かないと……っ」



 休めていた身体を起こそうとして、それでも上手く腕が動かない彼女は、ファナの下へと這いずりながら近づき、その手を伸ばそうとする。


しかし、私はそこでアマンナちゃんの手を掴み……首を横に振る。



「私が行く。私なら、どれだけ撃たれても死ぬ事は無いし、自分の身体を盾にして、フェストラもガルファレット先生も、守る事が出来る」


「クシャナさま、敵には、アシッドが……それも、ハイ・アシッドが、いる可能性も、あります」


「……分かってるよ! でもだからこそ、ファナを危険な事に巻き込みたくない! そして、今を生きる君達を、これ以上危険に陥らせる事もしたくないんだっ!」



 自分勝手だって事は分かってる。


けれど、私は……赤松玲という女は、同胞を食い殺す事で生を、自我を得て、二十一年と言う長い年月を生きる事が出来た。


そして、何の因果かクシャナ・アルスタッドという女として、十七年も加味して生きる事が出来たんだ。


生きて、大切な物を手にして……私は今、これ以上ない程に幸せの只中にある。


その幸せを作ってくれた人たちを守る為に、死ぬ。


かつて私がしたように、同じアシッドに食われて死ねるのなら……その結果として皆をこの状況から守る事が出来るなら、それは私にとっても本望だ。



「アマンナちゃんは、ヴァルキュリアちゃんとファナを、安全な所へ運んで欲しい。後は、私に任せてくれ」


「駄目、です……それでは、クシャナさまが、死んでしまいます」


「このままだと、君たちの命にも危険が及ぶ」


「それなら、リスクは……分散出来ます……っ」


「良いかい、アマンナちゃん。……死ぬ事は罪だよ。私は死にたいけど」



 どんな生命にだって、命は一つしか無くて、私はその一つしかない命を終わらせる術を持たないだけなんだ。


終わらせる術が幾多にもある命は、決して無意味に絶やしてはならないけれど、私の命は決められた条件でしか絶やす事の出来ないものだ。


だから無茶も出来るけど……その分、死するとすれば、私の意志が介在する他無い。


故に私は、今まで自分の死に場所、死に方を探ってきた。


これまでは、私も無為に死ぬ事が出来なかった。


私が戦う事で守れる命があって、私が死んでしまったら、今後守る事が出来なくなるから、生きていただけ。


でも今は、私が命を賭す事で助けられる命があって、その死は絶対に無駄じゃなくなる。



ならば――私はここで死んでいいのだ。



「君達の命を守り、死ぬ。それはとても幸せな事だ。生前……赤松玲としても、辿る事の出来なかった、有意義な死。私がその道を往けるなら、それは本望なんだよ」



 私の言葉を受けて、アマンナちゃんはそれでも何か、言葉を返そうとしていたのだろう。


けれど、彼女には何の言葉も出なかった。


アマンナちゃんは――もしフェストラの命を守る為に自分の死が必要となれば、何も考える事なくそうするだろう。それと一緒だ。



故に私を否定できない。


もし――私を否定できるとするならば。



守る為に、自分が生き、強くなる事を目指した者だけだ。



「……何故、クシャナ殿はそうなのだ……っ」



 そんな時だった。


それまで気絶していたヴァルキュリアちゃんが目を醒まし、荒い息を整える事も、抑えようとする事も無く、痛む体を無理矢理動かして立ち上がり、私の下へと寄ってくる。



「何故、クシャナ殿は、そう諦めが良いのだ……っ!」



私の胸倉を掴み、顔を近付け、大きく口を開けて叫ぶ彼女に……思わず私も絶句する他無い。



「手前勝手な理屈をこねくり回すのも良いが、少しは自分の命が、他者を動かしている事も考えるが良い……っ!」


「ヴァ、ヴァルキュリア、ちゃん……?」


「自らの在り方や命が『そうで在る』と、中途半端な気持ちで定めるな! 本当に自分の願いや理想が、在り方が正しいか、命尽きる最後の時まで考えて生きる事こそ、人の正しい生き方だ――ッ!」

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