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ファナ・アルスタッドという妹-06

「ヴァ、ヴァルキュリア様……ッ!?」


「うむ。しかしそうか、共に浴室で過ごせばファナ殿を守る事が出来ると思ったのだが。その……フェ、フェストラ殿から」



 ヴァルキュリア様はフェストラさんという、アタシを狙っているらしい変態さんから守ってくれるために、こうしてお風呂場にまで来てくれたのです!


まぁ、何かそれにしてはフェストラさんの名前を言う時に苦々しい表情を浮かべていましたが、きっとヴァルキュリア様はフェストラさんという人の極悪非道さに正義感から思わず嫌悪感を露わにしてしまったのでしょう!



「ち、違うんですヴァルキュリア様っ! ヴァルキュリア様ならお風呂大丈夫ですっ! イヤじゃないですっ!」


「そうであるか、助かった。でなければファナ殿に何かあってもお守り出来ぬからな」



 では失礼して、と口にしながら、身体に打ち湯をしてから湯船に入るヴァルキュリア様。アタシは少し悩みつつも、しかしそこで席を外すのも悪いかと思ってそっと身体を浴槽に戻します。


向かい合って浸かる彼女の表情は少し色っぽくて、アタシは思わず視線を逸らしてしまいました。



「ファナ殿は拙僧の事が苦手なのだろうか……?」


「ふぇっ!?」


「どうにも、目を合わせて貰えず……何か拙僧が粗相をしたという事ならば、遠慮なく言ってほしいのだ」


「い、いえ違います! ヴァルキュリア様には悪い所なんか一つも無いです! そう、一つも……え、えへへ、えへへへ」



 思わず視線が透明なお湯の向こう側にある、裸体のヴァルキュリア様に向けられてしまいます。お姉ちゃんみたいにたゆんたゆんのオッパイとかも良いけど、ヴァルキュリア様みたいに洗練された美しいお体というのも非常に……!



「そ、その、ファナ殿……? どうしたのだ、何か邪気を感じるが……」


「じゃ、邪気なんてそんなっ! アタシはお姉ちゃんみたいにヘンタイさんじゃないからええええ、エッチな事なんか考えてませんっ!」


「そこまでは言ってないのであるが……うむ、まぁその言葉を信じるとしよう」



 ホッと息をつきながら、浴槽内で落ち着くヴァルキュリア様に、アタシが問いかけます。



「あの、ヴァルキュリア様は、普段お風呂ってシャワー、とかですか?」


「否、拙僧の家にも風呂があってな。ファナ殿の護衛をする際に少しだけ懸念していたのは、湯浴びをどうするかであったのだが」


「そうですね。ウチもお母さんがお風呂好きだからあるだけで、普通の家ってシャワーだけのお家が多いみたいだし」



 お母さん曰く、お風呂と言うのは東洋の文化であるらしく、グロリア帝国や他の諸外国ではあまり見られない文化なのだそうですね。


アタシはお湯に浸かるの大好きですけど、お湯に使って汚れが残る事を気にする人もいるみたいで、この辺りは考え方次第なのかなぁ、なんて思ったりもします。



「これはいい。湯加減も実に拙僧好みで、御宅に招かれている立場である事を忘れそうになるのである」


「良かったです……ウチって小っちゃい家だし、ヴァルキュリア様にご不便な所があったらどうしよう、ってちょっと不安だったので」


「むしろ拙僧は、小さくとも家庭的なこの家が羨ましいのである。……食事を介して、そう感じた」



 湯気で少し見えづらかったけれど……ヴァルキュリア様は、そう言って少しだけ、寂しそうな表情を浮かべていた気がする。



「拙僧は、六年前に母を亡くしているが……正直に言うと、それまでも母とは親子らしい関わりがあったとは言い辛い」


「ヴァルキュリア様は、お父さんとかお母さんと、仲が良くなかったんですか……?」


「それ以前の問題である。父も母も、拙僧に対して興味を持たなかったし、拙僧も父と母を、騎士や魔術師として尊敬こそしているが、親子としての情を抱いているかと聞かれると……少し困る。それだけ関わりが無かったのだ」



 ご飯の時にも思ったけれど……ヴァルキュリア様の言うご家庭は、アタシには、分からない世界にあるのだと感じました。


アタシはお父さんの事を知りません。写真機なんて高級なものもないから、その姿を見る事も出来ません。


でもお母さんは、お父さんのいないアタシを悲しませない為か、何時もアタシの事を可愛がってくれるし、お姉ちゃんはちょっと愛情が重過ぎる時もあるけど、今日みたいにアタシの事を何時でも考えてくれています。


そうして家族は家族同士で愛し合って、想い合っている事で成り立っていくものだと思っていたから……ヴァルキュリア様の言うお父さんやお母さんが、どうして娘であるヴァルキュリア様の事を考えてあげないのか、それが分からないんです。


お姉ちゃんならきっと「そういう世界もあるよね」とでも分かったような事を言うんでしょうけど……アタシは、正直全然わかんなくて、何か信じられないんです。



「申し訳ない。気分を害されたかもしれんな、こんな話をして」


「い、いえ! ヴァルキュリア様のお家について知る事が出来るなんて光栄ですっ!」



 その気持ちに嘘はありません。それに、そうして色々と悩んでいるヴァルキュリア様の一面を知れて、嬉しいと感じている事も確かです。



「しかしだからこそ、拙僧はファナ殿の家族を羨ましく思い、またこの家を知れた事を嬉しく思っているのだ。……急に押し掛ける事となって申し訳ないが、今後も是非、色々とご教授頂ければ幸いである」


「そんな、アタシの方こそ、ヘンタイさんから守ってもらうのに、ご不便かけちゃわないか心配でしたし……ヴァルキュリア様が良ければずーっとウチに居ても大丈夫ですっ! ずっと一緒に暮らしちゃいましょう!」



 思わず立ち上がり、ヴァルキュリア様に叫んでしまった言葉。


自分で自分が何を言っているのか、勢いに任せてしまった言葉だったから、気付いた時には顔を真っ赤にしちゃいましたけど……でも、ヴァルキュリア様はその言葉を聞いて、普段通り凛々しいけど、でもどこか明るい笑みを浮かべて下さいました。


立ち上がったアタシと同様に、スラリとした身体を起き上がらせ、アタシの手を取ってくれます。



「ありがとう、ファナ殿。……それより」


「ふぇ、ふぇいっ」


「顔が赤い。随分とのぼせられたのではないかな?」



 上がられるのならば同行するが、とアタシの身体を抱き寄せてくれたヴァルキュリア様でしたけど……アタシはそれで限界に達しました。


ヴァルキュリア様の細くとも柔らかい身体がアタシの小っちゃい体を抱き寄せてくれると、どうしてもアタシはその小ぶりなおっぱいに、アタシの身体がくっ付いて……っ!!



「……ぷしゅぅう」


「ファッ!? ファナ殿、ファナ殿ッ!? やはりのぼせておられたのだな!? 鼻血も出て何だかぼんやり幸せそうなのであるっ! ファナ殿、しっかりするのだファナ殿ォ――ッ!!」



 薄れゆく意識の中で、アタシは絶対にこの感覚だけは忘れてたまるかよ、という強い信念だけは抱き続ける。


ヴァルキュリア様のおっぱいは、お姉ちゃんのおっぱいと違って、小っちゃいけどほんのり柔らかかった。



**



「あああああああああ、今頃ファナとヴァルキュリアちゃんはお風呂でイチャイチャしてるんだろうなぁああああ……っ!! あんな所やそんな所までそれぞれじっくり視姦し合って、耐えられずにそのままお風呂で……チクショウ、チクショウ羨ましいぞ二人とも……間に挟まりたい……っ!!」


「そんな事どうでもいい」



 既に日も落ち切った夜の時間、シュメルの大通りには既に人の姿はまばらとなって、反面昼には多く人の通りが無い裏通りが活気を取り戻す。


そんな光景を、帝都・シュメルで一番高い場所……帝国城の一角へ招待され、上層階のバルコニーから見据える私が述べた言葉を「そんな事どうでもいい」と断言しやがったのは、私をここまで招待したフェストラだ。



「大丈夫なんですかぁフェストラ様。私みたいな小市民をこんな大それた場所にまでご招待あそばせやがって」


「口が悪いぞ庶民」


「どうせお前の事だ。この部屋や周囲に対する警戒は既に済んでいるんだろう?」


「まぁな。だがだからと言って人目が無いと油断する事は勧めん。常に自分が狙われていると心して行動しなければ、寝首を掻かれても知らんぞ」


「はいはい」



 夜遅い時間にも関わらず、私がフェストラに招待されて帝国城にまで出向いた理由は――コイツが知りたいらしい、けれどヴァルキュリアちゃんやファナに聞かせたくない事があるからだ。そうじゃなければどんなロマンチックな場所だろうと、コイツの呼び出しに応じる理由もない。



「一つ聞くが、お前はここから周囲の状況が見えるのか?」


「見えるわけないだろう? 私、変身してないとただの小娘だからね」


「つまりお前は、それだけアシッドとしての能力を失っているという事だな。……自分がベジタリアンであると虚偽し、意図的に肉を喰わぬようにしてまで、な」



 フェストラがパチン、と指を鳴らした瞬間――部屋に入室する、数人の使用人。


彼女達はカートに乗せられたトレーを幾つも机に並べていき、最後まで何も言う事無く、仕事を終えるとフェストラへと頭を下げ、去っていく。


 そうして残された料理――その全てがクローシュというドーム型の蓋によって何かを分からぬようにされていたが、一つをフェストラが開き、中身を晒す。


中には知識の乏しい私でも、一目見れば最高級ランクの牛肉を用いられていると分かるほどに美しく焼かれたステーキもあったし、最高級ランクで無くとも部位や品種ごとに分けられて、それぞれに適した調理方法で彩られた各種肉料理の山に、その一つずつ明かされる中身に、思わず私も唾を呑む。



 ――正直、メチャクチャ美味しそうだ。



「お前は自分が食人衝動が薄い個体だ、と述べたな」


「……ああ、それは間違いないよ」


「しかし薄いだけで、食人衝動……いや、言葉を変えよう。動物性たんぱく質を補給したいという欲求を完全に排する事が出来ていない。これも正しいのだろう?」


「……そうだね」


「ならば何故肉を拒む? 食人衝動が完全に抑えられていないのならば、少なからず肉を喰らい、動物性たんぱく質を適時補給し、薄い食人衝動を更に最小化するべきだろう」



 腕を広げ、料理の数々を私に見せびらかして――その上でコイツは「喰えばいい」と宣った。



「高い肉だと遠慮する事は無い。好きなだけ喰え。――そうして動物性たんぱく質を補給すれば、お前も他のアシッドと同様に、人間よりも四十八倍優れた身体能力を得る事が出来るのだろう?」

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