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王-11

「……お前は、どうするつもりだ?」


「決して表舞台に出る事無く、権力者達を永遠に統治する。そうする事で、平和的にラウラが目指した未来と同じ結論に導く事が出来る」



 フェストラが成ろうとしている存在は【権力者】を統治する役割。つまり、権力者達もクシャナと同様、表舞台に顔を出して国を牽引する政治家を演じるが、実はフェストラによって裏から動かされる傀儡となる、というわけだ。



「だがそんなの、どうやって……まず私みたいな平々凡々の庶民が、どうやって帝国王なんざになれるっていうんだよ!?」


「アスハの演説、そしてお前がここへ来る前にした事を思い出せ」



 アスハの演説――クシャナは既に時間が経過し、その後に死闘を繰り広げた関係上、上手く遡る事が出来なかったが、思い出す。


この帝国城へと突入する前、アスハが演説の中で、クシャナという女の事を民衆の前で語った。


クシャナがラウラの子供であり、ラウラの手によって生み出された存在である事を打ち明けていた。


そして――クシャナは誰の記憶に最も残る形で、民衆の前に姿を現した。


その身を高所から投げ、身体を拉げさせ――しかしアシッドとしての力を以て、皆の前で蘇りを果たしたのだ。



「そうだ。アスハは民衆へお前の存在を伝わりやすい形で伝えたからこそ、ああした言葉になったのだろう。しかし、本当の所などどうでも良い。お前が、ラウラ王という存在の娘で、アシッドとして生み出された存在――悪王であるラウラを討つ為に立ち上がった、戦乙女であるという結論は変わらない」



 民衆にとって、あの時あの場所でアスハの言葉を背に、立ち上がった姿を見ている。


もしクシャナの事を見ていない者がいても、見ていた者の見分から、その背格好や印象は伝わる事だろう。



――そして、クシャナという存在が、ラウラに生み出され、人間とは異なる生命として生み出された事も、アスハから印象強く残る形で語られた。



「そうだな、今後の好ましいシナリオは、こんな感じか?


『アシッド因子を研究する為、ラウラに生み出されたクシャナ・アルスタッド。


 成長し十七の齢となったクシャナはラウラの悪行を知り、娘である自分が父を止める為に、戦乙女として立ち上がって、ラウラを討った。


 そこで次期帝国王候補であったフェストラ・フレンツ・フォルディアスは、クシャナを帝国王へと推薦し、戦女神として信仰を注ごうと民へ叫ぶ。


民はフェストラの言葉を認め、そしてクシャナは永遠なる王として、人々に崇拝される王に、神に至ったのである』――


 ほうら、頭の悪い民衆が喜びそうな英雄譚だ。主人公が人間じゃないって所が実にそれらしい。民衆は大手を挙げて、お前を王として迎え入れる事だろうよ」



 ククク、と笑うフェストラの言葉に、しかしクシャナは唇を噛み、その唇からダクダクと血を流す。


 そんな彼女の表情を見て見ぬフリでもしているのか、フェストラは彼女と目を合わせる事無く、目を閉じながら語り続ける。



「まぁ実際にはそう簡単に帝国王となれるわけでもない。オレもしばらくは表舞台でお前の補佐として動かねばならんな。加えてアスハに救助を任せている十王族の面々、及び十王族の関係者に協力を仰ぐ。クシャナ・アルスタッドという存在をラウラ王の後継者と認めさせ、次期帝国王として迎え入れる事に注力しなければ」


「……十王族の連中が、ラウラ王と血の繋がっていない私を、新たな王として迎え入れるもんか」


「認めさせるんだよ。さもなければこの国における権力を失う事に他ならない。何せオレとルト以外の十王族連中は、オレ達のようにラウラの計画に気付かなかったどころか、奴に協力していたウォング・レイト・オーガムなんて奴もいるしな。認めなければ、オレも奴らを救わんだけだ」



 今回の一件において、ラウラの企てを見極める事が出来ずにいた、フェストラとルトを除く十王族の面々は、民衆から大きく非難される事は間違いない。甚大な被害を被った民衆達は、ラウラを討ったクシャナとその仲間である一同を英雄視する反面、何の役にも立たない、むしろラウラ側の人間であったかもしれない十王族に対して不満を募らせる事だろう。


だからこそラウラの手先では無かった事を、フェストラ達に証明してもらう必要がある。



――もし協力に応じなかった場合、フェストラが彼らをどう扱うか、それは考える必要も無いだろう。



「自分たちの立場が怪しいと考えられる奴を、オレの下に就かせる。損得勘定も出来ん愚か者は……まぁ、アシッドに殺されてただろう命を、そのまま路頭に迷わせるのも悪くない。どうせ奴らのこなしていた仕事の殆どは、奴らの下に就いていた人間で回っていたのだからな」



 そうだろう、と視線をラウラに向けると、彼もクシャナと同様に、フェストラの言葉に何をいう事も出来ずにいた。


フェストラの言う通り、十王族というのは能力で選ばれた存在ではない。あくまで帝国王へと着任した人間と血の繋がりが強い十家系を順番に任命されるシステムである。


明確な能力も無く、ただ血の繋がりが強ければ強い程、権力が増すシステムによる恩恵をこれまで受けてきた彼らが、クシャナという小娘を王と認めるだけで今の地位を守る事が出来るのならば、そうするだろうと予想出来る。



「そしてお前を帝国王として祀り上げる事に成功したら、今度はお前から権力を取り上げ、十王族と関係省庁による議会制民主主義制度の旗揚げを行う。ラウラという存在を経た後だ、王政の恐ろしさを知った民衆は、民主主義国の誕生を大手を振って迎え入れる事だろう」


「……そこでお前は、自分が戦闘によって受けた怪我か何かで死亡でもした事にでもして、表舞台から姿を消す。けれどそれで……お前が自由になるわけじゃない」


「そうだ。国民投票でも他薦でも方法は問わんが、どんな人間が議員への就任を果たしたとしても、そのバックに立って全てを律するのは、オレという存在だ。ラウラという永遠の命を有する指導者が全てを決める事と、何ら変わりはない。……オレならば常に正しく、平等に民を守る事が出来る。オレはそれだけの器であると、何度も語っただろう」



 この方法による利点は何よりも、クシャナという戦女神に対して民衆は「救世主」や「救いの女神」といった印象を有する事に合わせ、彼女が神としての【権威】を有していたとしても国を動かす【権力】を持たせない事により、彼女の一存で自分たちの生活を脅かされないという安心感を与えている事だ。


その上で……フェストラという不死となった男が、民衆の見る事が出来ない裏から全てを操り、この国を永遠に統治し続ける。


 ラウラのように民や他国へ恐怖心を植え付ける事無く、グロリア帝国という国を永遠に一人の指導者の手で統治する方法。


彼の語った言葉を聞き、カルファスはレナの後ろで、悔しそうに歯軋りをしながら、先ほどまで構えてていた左手首の腕輪に伸ばしていた手を……下ろした。



(……手を、出せない。私にはもう、フェストラ君に……手を出す理由が、見つからない……っ)



 カルファス・ヴ・リ・レアルタがこれまでの中で、ラウラ・ファスト・グロリアの計画に対して警戒と対処を行ってきた理由は、あくまで彼の推し進める計画により、世界が混乱に陥る可能性が非常に高い事が原因だった。


だからこそ、シックス・ブラッドも帝国の夜明けも動かし、それ以外に自分が出来る範疇……それこそカルファスという異国の姫が内政干渉に抵触しない範囲で可能な限り動いてきた。


けれど、今のフェストラが推し進めようとする計画は違う。


王の座に掛けるクシャナは権力を奪われ、権威しか与えられない。象徴としての存在、権威を示す存在ではあるが、しかし象徴であるからこそ、他者や他国、それどころか自国さえも脅かす行為は決して許されない。


そしてもし、フェストラがグロリア帝国という国を永遠に影で操る支配者となった所で……表立った動きが成されない限りは手を出す大義名分は得られない。


むしろ彼の計画が推し進められる事により、王政国家の民政化が進む事は国際社会としても望ましい事であり、むしろ今のカルファスがフェストラに手を出す行為は、独裁的な王政国家からの脱却を図ろうとする、国家の進展を阻む行為である。



「カルファス姫、貴女は随分と、オレを警戒してくれていたようだな」



 フェストラの言葉通り、カルファスは今回の一件に首を出し始めた時から、彼の事を警戒していた。


勿論、アマンナという彼の妹を好ましく考えて彼女の力になろうとした事や、彼という人間そのものを嫌いだったから、という面もあるのだが、そうでなくとも彼が守るべきグロリア帝国という国……ラウラという男がアシッドという存在を生み出している可能性を見出していたからこそ、十王族の一人である彼を信用しきり、手の内を明かすわけにはいかなかったのだ。


 しかし、彼はカルファスが今回の一件に関わっている事を見抜き、早々に彼女との利害関係を作り出し……互いに警戒し、信用しきる事なく、それでも協力してきた。



 ――そんな中でカルファスは、フェストラの真意を見抜く事が出来なかった。



「警戒されている事が分かっていれば、むしろ動きやすい。共に動く中で貴女が手を出せない範囲を見極め、それに抵触しない範囲でオレは事を進めたつもりだが……どうだ? レアルタ皇国第二皇女様は、オレの計画に何か不満でもあるというのか?」



 カルファスの心情を理解しているとしか思えぬ物言いに、思わずカルファスは口を大きく開きそうになるが……しかし、その口は途中で固く閉じられる。


 自分一人の感情に身を任せ動き、自らが守るべき国を危険に晒す事。それがどれだけ愚かな事か……今まで自分勝手に生きてきたつもりのカルファスでも、その程度は理解できる。



「残念な事に、貴女は賢明だよ。子供じみた激昂をしてくれた方が、よぽど容易いのだが」



 さて――と、そう言いながら、フェストラは再びクシャナへと向き合った。


彼女は未だに唇を噛みしめ、血を流しているが……しかしフェストラがそんな彼女に手を伸ばした瞬間、クシャナが驚き口を開けた。




彼の伸ばされた手は『オレの手を取れ』とでも言いたげな様子で、優しく伸ばされたのだ。


そして、彼の表情も……『手を取ってほしい』と、願望を込めているような表情だった。



「クシャナ。オレはお前に対して『神になれ』なんて、酷く残酷な事を言っていると、理解している。自由も、人としての生き方も閉ざされた未来が、この先にあるのだからな。……けれど、この方法が、この方法だけが、お前の幸せを守り続ける、唯一の手段なんだ」



 クシャナは既に、幸せを掴んでいる。


大切な家族、仲間と居られる時間。


赤松玲として掴む事が出来なかった、クシャナ・アルスタッドとして掴む事が出来た、大切な世界が、今まさに彼女が立つこの場所だと、それを守り続ける方法がこれなのだと……フェストラは静かに、けれど熱意を込めて説くのだ。



「だが、オレはお前を一人にはしない。オレもずっと、お前と共に生き続ける。


 お前がこれから背負う苦しみと、同じ苦しみを背負い続けてやる。それがお前の新しい幸せになると信じている。



 お前と肩を並べて、未来でどんな困難が待っていようと……分かち合い、助け合っていきたいと、願っている」

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