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王-01

 幻想の魔法少女・ミラージュ-ブーステッド・フォームの目の前で、フェストラ・フレンツ・フォルディアスは、死んだ。


ラウラ・ファスト・グロリアがフェストラへと伸ばした左手を、グッと握りしめるようにした瞬間、彼の心臓があった場所であろう、胸の中心が空洞を作り、彼はその瞬間、何があったか理解する事も出来ないと言わんばかりに、口や鼻から血を噴出し……前のめりに倒れて。



「……フェス、トラ……?」



 一瞬、彼が笑っているようにも思えたけれど、瞬きを終わらせた時、彼はぐったりと倒れてピクリとも動かなくなって……彼が死んだという事を、否が応でも理解せざるを得なかった。


けれど、理解は出来ても信じたくなかった、という表現が適切だろう。


彼は常にどんな状況においても、自分に不利な状況も全てを思案し、対処する術を念頭に入れている筈の男だ。


なのにラウラを挑発し、自分の命を殺させて……その上で何が狙いであるかをクシャナに伝える事無く、ただ死んでいく筈も無い。


そう考えても、いくら考えても、納得のいく答えには辿り着かない。



「呆気ないものだな。フェストラが何を目的としていたかは知らんが、こうも簡単に殺せてしまうとは」



 自分の想いを代弁する様に、ラウラがそう語り掛けてくる。


彼は先ほど手放した自分の杖を拾い上げると、死した筈のフェストラから視線を外し、呆然としているミラージュへと向いた。



「さて、邪魔者は殺した。後はクシャナ、君の身柄を確保し、君とファナを除くフェストラの仲間を全員殺す。そうすれば、我が計画に支障は無くなる」



 彼の言葉を受け、ミラージュは急ぎ立ち上がり、その手に握りながらも、ずっと下ろしていた大剣【ブーステッド・パニッシャー】を構え直し、ラウラへと向ける。



「無駄な抵抗はよしてくれ、クシャナ。我は君を傷つけるつもりはないと、何度言えば理解できる?」


「……そっちこそ、私が貴方の思い通りになんてならないと、どれだけ言葉を費やせば理解してくれるんだッ!」


「理解はしている。だからこそ、君の隣に立ち、相棒を気取るフェストラを殺したのだ。――フェストラ亡き今、君が我を殺した所で、この国の崩壊はもう止まらん」


「っ――!」



ミラージュは下唇を噛みながら、背部に展開されたスラスターモジュールから噴射剤を吹かし、ラウラへと急速接近を果たす。


両手でしっかりと握りしめたブーステッド・パニッシャーの、横薙ぎに振り切られた一閃。それを握る杖の先で受け止めると、接触面からバチバチと音が鳴り、またミラージュに衝撃を届ける。



「無駄だと、言っているだろう」



 杖の先端から放出される、衝撃波が彼女の身体を吹き飛ばすが、しかしミラージュは諦めないと言わんばかりにパニッシャーを天井へと向けて放り投げた。



〈Boosted-Tracking.〉



 放り投げられたパニッシャーが、その大剣を構成する四つのパーツへと分離を果たした。分離したパーツ……ブーステッド・トラッキングはそれぞれスラスターを持ち得、その端々から噴出されるスラスターを用いて、空を自由に駆けていく。


地面を強く蹴りつけたミラージュの合図に合わせ、展開される魔法陣。その魔法陣から姿を現した黒剣を引き抜くと、彼女は四本のトラッキングを従えたまま、アシッド・ギアを懐から取り出し、胸元のデバイスに挿入。


 アシッド・ギアに充填されていた因子は最大の十。その分をミラージュの分身に割り当て、一対多を挑んでも良いが、ラウラはミラージュの分身には何ら容赦する事は無い。先ほどのように、分身を作り上げたと同時に消滅させられる事も考えられる。


ならば、彼が殺し得ない自分一人に、全てのアシッド因子を宿し、その力を底上げする事が現状では最も好ましい筈だ。



「ほう、賢い選択だ」



 地面を這うようにラウラから距離を離すようにして駆け出したミラージュと、そんな彼女から離れ、それぞれ独自に稼働を開始するトラッキング四本。


四本が空を駆け、ラウラを囲むようにすると、彼は一本一本の場所を確認すると同時に、自分の身体を支えるように握っていた杖を反対に持ち直した。


まるで自分の杖を剣であるように持ったラウラが、迫るトラッキングの稼働を視線で追いかけつつ、全てを弾いていく。


老体である筈の身体は機敏に動き、トラッキングがどのように駆け、彼の身体を貫こうとしても、その軌道を杖でずらしながら避けていく。


四本のトラッキング、全てを避け終わり、しかし自立駆動するそれぞれの刃は幾ら避けられようと追尾し、再びラウラへと迫る事となる。


その前に、ミラージュが動く。弧を描く様にしてラウラの側面に回り込んでいた彼女は、姿勢を低くしたままラウラの死角より彼の横っ腹に向けて黒剣を振り込もうとするが……しかし彼はそれに気付いていたように、ミラージュへと向き合うと、彼女の刃と杖を合わせ、迫り合った。



「確かに、アシッド因子の有するエネルギーを破壊力として還元されれば、我の展開する防御障壁も破られる可能性はゼロではない。そして、我は君と同様に、戦闘能力としては歴戦のそれとは劣る」


「一言、余計だ――ッ!!」



 背部スラスターを全力で噴射し、その速度を利用した圧力をかけるようにするミラージュ。しかしラウラは自分の両足にマナでも投じたのか、彼女の勢いを全て受け止めた上で彼女の振り切った刃の軌道を変え、彼女の攻撃を躱した後、握っていた杖を勢いよく地面に叩き付ける。


カァン、と綺麗な音が鳴り響いた瞬間、再びラウラへと迫るトラッキング。今度は四本同時に迫るが故に、それを回避する術は無い筈だったが……しかし、先ほどまでのようにラウラの直前ではなく、ラウラより数十センチほど手前で何か見えない壁のようなものに阻まれたトラッキング達。


だが、トラッキングは内包されたエネルギーを放出するように勢いを増し、ラウラの言う防御障壁を破った……ように見えた。


しかし、防御障壁一枚がガキンと音を鳴らして砕けた瞬間、その奥にもう一枚の防御障壁が展開されていたようで、トラッキングはそれを破る程のエネルギーは残しておらず、無慈悲にも障壁に弾かれた瞬間、地面に転がった。



「しかし結局は同じ事だ。君と我の戦闘能力が同等ならば、他に勝る方法で君を止めればいい」



 エネルギーを失ったトラッキングが、力を振り絞るように一本の剣としてパニッシャーへと形を戻していく。


ミラージュがそれを右手で掴み、左手で黒剣を構えた所で、ラウラは深いため息を溢す。



「聞きなさい。確かに我は、君達の理想・思想とは異なる考えを以て、この国を統治しようとしている。……しかし、フェストラが亡き今、我以外にこの国を統治するに相応しい人間がいない事も事実だろう?」


「殺した張本人が、何を!」


「奴とて我を殺そうとしていた。つまり我とフェストラは、討つか討たれるかの戦いに挑み、我が勝利した。そこにフェストラだって恨みはしておらぬだろう。ただ、自分の非力を呪うだけの事――まぁ、死んでは何を感じる事も無いのだが」



 カツン、と再び床を叩く杖の音が響く。杖の先端から放出されたエネルギー弾がミラージュの両手に握られる柄へと目指し駆け抜けたが、しかしそれが着弾するよりも前に、ミラージュは勢いよく振り込んだパニッシャーの面でエネルギー弾を受け止めると、そのまま逆手持ちで握った黒剣をラウラへと投げ放つ。



「ほう」



 少しばかり驚いたと、目を僅かに開きつつ、投擲された黒剣が防御障壁によって弾かれ、空を舞う。


そんなラウラに目もくれず、ミラージュは両手でパニッシャーを握りながら、剣を前面に展開し、駆けた。


その高スピードと破壊力を内包した一撃を想定したラウラは急ぎ地面を強く蹴りつけて高く舞い上がる事でそれを避けたが、しかしそこでパニッシャーを手から離したミラージュは自分の身体を急停止させ、先ほど障壁に阻まれて空を舞った黒剣を手に取った上で、空中へと跳んだラウラに向けて、黒剣を叩き付ける。



「ぬぅ、!」



 展開されていた障壁が黒剣を受け止める。ミラージュ本体に存在する因子がもたらすエネルギーが黒剣の威力を更に引き出すよう力が注ぎ込まれたが、しかしラウラは障壁だけでなく、自らのマナを僅かに放出する事で、黒剣の込められた力が反発する様に調整。


ギィン、と音を鳴らしながら、ミラージュは刃が弾かれた影響で背中から地面に落ちた。



「……なるほど、確かにフェストラの言葉にも一理あるかもしれない。思いの外、君の戦闘技術は向上している。これまで帝国の夜明けと、食うか食われるかの実践を多く果たしたが故、か」


「それだけじゃない……ッ」



 強打した背中から僅かに痛みが彼女を襲うが、しかし数秒後には痛みさえも引いた。



「私自身も驚く位に、腹が立ってる。フェストラが死んだ事に対してね……!」



 黒剣を拾い上げながら、左手を僅かに広げると、その合図に合わせてブーステッド・パニッシャーが稼働し始め、彼女の手に収まった。


受け止め、構えた所で、ラウラも杖を構え直す。



「こんな戦いだ、誰かが死ぬ事も考えておかなきゃならないって、分かってる。アイツも、それを覚悟していた事だろうと思うよ。それに私、アイツの事キライだったし、そんな年頃女子らしい、おセンチな感情は湧き出て来ないよ」


「ほう。君とフェストラは随分、仲睦まじい様子に見えていたが」


「気色悪い事言わないで!」


「だが解せん。ならば何故、我に腹を立てる? フェストラを殺されても、奴にそうした感情が湧かぬのならば、怒りなど沸き立たぬと思うのだが」


「……簡単だよ、私が腹立ってるのは殺した貴方に対してじゃない、ここまで何も説明せず勝手に死にやがったフェストラに対してだからね……っ!」

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