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ファナ・アルスタッドという妹-03

「えっと……誰? その人。なんでアタシ、その人に狙われてるの……?」


「今日、ヴァルキュリアちゃんの怪我を治した事は覚えているかな?」


「う、うん。覚えてるけど……」


「その後、自分で腕を切り付けてファナに治させていた男がいただろう?」


「うん。ビックリしたけど、あの人がその……フェストラ、さん?」


「ああ。フェストラ・フレンツ・フォルディアス。十王族の一つ、フォルディアス家の嫡子だ」



 そんなに偉い人だったんだぁ、と楽観的でふんわりした認識のファナを見据え、ヴァルキュリアちゃんが私に耳打ちを。



(な、何を言っているのだクシャナ殿!?)


(まぁまぁ、最後まで聞いていてよ)



 ここから先はアイツに対する軽い復讐タイムだ。この事態にまで発展させた事をアイツに後悔させてやる……っ!



「えっと、その偉い人が、アタシを狙ってるの?」


「うん。……ファナにはちょっと、大人なお話しになっちゃうかもしれないけど」


「あ、アタシそこまで子供じゃないよっ! もう大人だもんっ!」



 ちょっと「大人」とかの言葉を付け加えるだけで、ファナは冷静さを失う。


よしよし、この様子のファナは非常にお母さんと似て嘘を信じやすい。たまに本当の親子はファナとお母さんで、私の方こそ血が繋がってないんじゃないかと思う位には似てる。



「あの男、フェストラは女の子の身体を弄ぶような極悪人なんだ。しかも自分の権力を利用して、女の子に拒否させない状況を作り出して、ね」


「そ、そんな人だったんだ……カッコいい人に見えたけど……」


「いやいや、外見に騙されちゃいけないファナ。実は私も今日だけで四モミモミ位されてる」


「四モミモミも!?」



 ちなみに『モミモミ』は十二歳くらいの頃から発育著しかった私の胸に興味があったファナへ「一日二回なら触っていいよ」と許可をした所から、胸を揉む時の単位として定めたものだ。



「そう、四モミモミだ。左右を掴まれ上下左右に一回ずつモミモミされた」


「お姉ちゃんが四モミモミもされてたなんてっ!」


「気にしないでおくれ、ファナ。私はどれだけ汚れても構わないさ……そう、私はね。でも奴は、私だけなくファナにも手を出そうとしている……っ」



 その言葉にビクリと震えて僅かに涙目となったファナを落ち着かせる為、頭を撫でる。



「奴はこの国で最上位に近い権力を有している。つまりファナの事を本気で狙い始めたら、どんな手を使ってファナを手籠めにしようと考えるか分からない」


「そんな、アタシみたいなチンチクリンでぺったんこを……!?」


「だからこそなんだよファナ。奴は最近小っちゃい子に興味津々でね。今日の事も、ファナの気を引く為に腕を切り裂いた、というワケさ」


「そ、そうだったんだ……っ、なんで腕を切るかは全く理解できないけど、偉くてエッチな人はそうやって気を引くんだ……っ」



 適当に今日の出来事にも言い訳を付けていく。これで言い訳になるのはお母さんやファナ位のものだと思うけれど。



「でも安心してほしい。ファナの事は私と、ヴァルキュリアちゃんが守る!」



 困惑を隠せていないヴァルキュリアちゃんをファナの前へ押し出し、大々的にアピール。ファナも僅かに曇っていた表情を、少し希望を帯びたように明るくさせる。



「ヴァルキュリアちゃんはリスタバリオス家の権威があるから、フェストラの権威に怯む事無く抵抗出来る」


「さ、流石ヴァルキュリア様ですっ! 極悪に立ち向かう高貴な立ち振る舞い、アタシ本当に憧れちゃいますっ!」


「え、あの、その……」



 ヴァルキュリアちゃんが余計な事を言う前に押し切る!



「それでもフェストラが、実力行使でファナの身柄を確保しようと企む可能性もある。だからヴァルキュリアちゃんはファナの清き身体を守る為に、付きっ切りでファナを守る騎士の役目を買って出てくれた、というわけさ!」


「あ、アタシの事をヴァルキュリア様が直々に守ってくれるんですかぁ――っ!?」


「それは、そうなのであるが……っ」



 ファナの純粋無垢な輝きに充ちた瞳で問われてしまえば、ヴァルキュリアちゃんもおいそれと「違う」とは言えないだろう。



「そうだよファナ! 今日からヴァルキュリアちゃんはファナの部屋で、何時でもファナの事を守ってくれる騎士となったんだ! あ、ちなみに安全を期してたまに私も一緒のベッドで寝るから毎日身体を綺麗にしてベッドインしていたまえ」


「分かった! お姉ちゃん、アタシの事を守ろうとしてくれたんだね……嬉しい……!」


「当たり前じゃないかファナ! 私はたった一人、ファナのお姉ちゃんだからね! でも、お母さんには内緒だよ。お母さんには少し嘘をついてヴァルキュリアちゃんの同居を認めさせてるから、普段通りを装う事だ」


「うんっ!」



 よし、成功! 私は「ふぅ~っ!」と一仕事終えたように額の汗を拭い、ヴァルキュリアちゃんの肩を叩く。



「じゃあファナは着替えてから下に降りてきなさい。今日はヴァルキュリアちゃんの同居記念だよ」


「はーいっ」



 普段ちゃらんぽらんな姉が自分を犠牲にしても妹を守ろうとしている事と、憧れの先輩が直々に守ってくれる事の喜びも合わさって、随分とご機嫌なファナを残したまま、二人で退室。


ヴァルキュリアちゃんは複雑そうな表情で「何故ああなったのだ……?」と事態の成り行きを考えているが、考えても無駄だ。何せ仕立て上げた私でさえどうしてこうなったか理解できていない。



「よし、これでファナを守る為の大義名分、何かあってもフェストラに丸投げてアイツに揉み消しが出来るように仕向ける事が出来たね」


「う、うう……拙僧は嘘偽りに塗れているのである……」



 充足感を得る私と異なり、肩を落とすヴァルキュリアちゃんには悪いけれど、この状況を作り上げたのは君とフェストラだ。可能な限り巻き込んでいく方向で行くからよろしく。


私は余っている筈のベッドを用意して、夜にヴァルキュリアちゃんがファナの部屋で寝られるように準備していると、夕食の時間がやってくるのである。



**



フェストラ・フレンツ・フォルディアスは帝都・シュメルの工業地区……その中でも魔動機開発を主に行うメーカーの建物へと入り、その魔導式生体認証機能の設けられた扉に自分の指をかざしてロックを解除し、入室を果たす。


魔動機メーカー・ギアンテの有する遺伝子情報研究センサーと呼ばれる施設は、数年ほど前からフェストラが個人的に資金援助を行っている研究所の一つで、既に入室していたアマンナが、ペコリと頭を下げて彼を迎えた。



「……お待ち、していました」


「調査結果を端的にまとめろ」



 近くにあった椅子へとフェストラが腰かけると、アマンナは彼の前へ立ちながら、既に用意していた調査結果資料を、フェストラへと渡す。



「これまで、クシャナさまが討伐なされ、沈黙したアシッドの、死骸を調査した所……彼女の言う通り、全ての個体で、おおよそ人間の四十八倍に近い遺伝子情報が、通常ある遺伝子情報に合わせて書き加えられている痕跡が発見されました」



 フェストラは口を開かず、資料を読み進める目とアマンナの言葉を聞く耳を同時に稼働させている。



「気になる点としては……クシャナさまとの戦闘時についた傷か否かは分かりませんが、首筋に四ミリほどの小さな穴……というより、空洞にも似た傷があり、その周囲を中心に肉体が変質している形跡が」



 まだ推察の域を出ない情報だが、こちらにはクシャナという協力者がいる。彼女に伺えば何か分かる可能性もあるし、今の所はその程度で問題はない。



「また、これまでのアシッド発見現場は、全てがシュメル内であった事も合わせ、シュメルでの製造が予想されています……現在、研究施設を片っ端から調べている所ではありますが、発見には至っておりません」



 それも想定の範囲内だ。勿論早々に分かるのであれば好ましいが、そもそも簡単に足を捕まれるような者達であれば、これまででも尻尾を掴める機会はあっただろう。



「例の、ファナ・アルスタッドという小娘についてだが」


「……はい、頭髪から魔晶痕の検査を行いましたが……おおよそ7.1世代魔術回路品質……つまりは、六世代魔術回路以上との交配により、産まれたお子さんである……という考えで概ね問題無いでしょう」



 魔晶痕とは、魔術を使役する際に肉体や周囲に残ってしまう魔晶反応と呼ばれる痕跡を鑑定する技術で、魔術回路の質もある程度は調べる事が可能となる。


今回の場合はフェストラの腕を再生した際、彼の体表に付着した魔晶反応、及び彼女の頭髪に付着している魔晶反応を組み合わせて鑑定、先ほど検査結果が出た、というわけだ。



「聖ファスト学院が何故、第七世代魔術回路持ちを隠蔽しているかどうかの調査は?」


「……当該記録の意図的な改竄が見受けられましたが、改竄日時や改竄者の特定にまでは、まだ至っておりません」


「教師陣は何と?」


「担当教員であるワルタ・バレンツさまに伺いましたが……『真面目ではあるが特徴的な実力のある生徒ではない。治癒魔術を専攻しているが、それで良いと思う。彼女に応用魔術の併用が求められる戦闘等は不向き』……との事です」


「ククク……第七世代魔術回路持ちが、治癒魔術のみに用途を絞るか。それもそれで面白いかもしれんが、才能の無駄遣いだ」



 ワルタ・バレンツという教員の情報を読み、第四世代魔術回路持ちである事を確認。


 元々帝国魔術師であった経歴を持つ事から、流石に第二世代魔術回路と第七世代魔術回路を普段の授業内容から分からぬという事は無いのだろうが、何故かこれまで、学院側は隠蔽に成功……というより隠蔽者は学院関係者にも違和感が無いようにしていると感じられる。



「アマンナ、お前の魔術回路は何世代だったか」


「……第五世代、です」


「もしお前が魔術回路の世代について知られたくないと考えた場合、どのように隠蔽する?」


「……まずは、閲覧可能な記録の改ざん……そして、使用魔術の意図的な制限……でしょうか。魔晶痕は残りますが……」


「そうだな、オレもそうする」



 だが、意図的な制限ならばともかく、ファナは自分の実力さえも把握していない。そんな彼女が自分の実力を意図して隠すとは考え辛い。


ならば――意図した魔術の使用制限ではなく、意図しない使用制限の可能性がある。

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