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願い-13

長き夢を、見ているようだった。


果し合いをしていた筈のエンドラスが見た幻想。


 それは世界を彩る煌き、と表現する事が好ましい輝きによって取り払われ、エンドラスは顎を引きながら距離を開ける。


彼女、煌煌の魔法少女・シャインへと変身を遂げているヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスの振るうグラスパーの刃は、その剣を振るう度に炎を纏い、その刃によって叩き切られたアシッドは断面を火傷によって埋め、再生を果たす事も出来ずにいる。


だが彼女がそうして刃を振るっても、大袈裟と言える程に回避運動を行う男……ヴァルキュリアの父であるエンドラスは斬れない。



「伍の型」



彼はグラスパーの刃にマナを籠め、柄を逆手持ちに握ると、剣を地面に突き刺すようにした。



「ラーディアス・グロー」



 突き刺された刃が砕けるように消えたその直後、アシッドの頭を殴りつけ、その腕部に込めていた熱量で溶かし、消滅させたシャインの足元から生える様にして飛び出した八本の刃。


その刃に両足を貫かれながらも、しかしシャインは全身から橙色の煌きを放出。



「ハァ――ッ!!」



 彼女が放出した煌きは細かい粒のように周囲へ展開され、中心である彼女を囲むように広がると、一気に点火。


地面を揺らす程の大爆発、エンドラスは急ぎラーディアス・グローの展開を解除しながら上空へと跳び上がると、その身体を空中で制御しながら、ラーディアス・グローの展開が解除され一本の剣へと戻ったグラスパーを構え直すが、それよりも前にシャインが動く。



「弐の型ッ!!」



 一本の刃であった筈のグラスパーが次々に分離を始め、一本のワイヤー状に形成したマナの線によって繋がれる。その線が動きだし、連動して刃も稼働。


上空へと舞い上がったエンドラスの全身を捉えようとするが、しかし彼の振るった刃が幾刃を弾き飛ばすと、そこで左腕に刃とワイヤーが巻き付き、囚われる。



「グゥ、!」


「セッバリオス――ッ!」



 シャインが柄を真っ直ぐ地面へと向けて振り抜くと、その動きに合わせて左腕を囚われたエンドラスも地面に向けて叩き付けられる。


その叩き付けられた先には先ほどの爆風があり、爆風の熱に身体を焼かれた。


それと同時にセッバリオスの有する切れ味と、内包する熱量によって左腕を斬り裂かれると、彼は爆風によって身体を吹き飛ばされ、痛みを堪えながら地面に転がり……その上で想いを馳せる。



(本当に、強くなったな。ヴァルキュリア)



 だが、まだだ。まだ、エンドラスは動ける。


そう言わんばかりにシャインを睨んだ彼は、火傷によって傷口を塞がれた左腕の断面をより深く傷つけるかの如く、左肩の関節部に刃を入れ、そのまま自分の左腕を斬り落とした。



「ィ、――四の型、っ!」



 痛みに耐えながら、エンドラスが唱えた言葉と、グラスパーに内包されたマナの量。それにシャインは顎を引きながら地面を蹴り、僅かにエンドラスと距離を取る。だが、エンドラスはその程度ならば問題は無いといわんばかりに、続く術名を唱える。



「アイリアン・グロー……ッ!」



 幾多もの刃に分離し、しかし先ほどシャインの展開したセッバリオスとは異なりマナ形成のワイヤーで繋がれていない一つ一つの刃が、独自に空を駆け抜け、行動を開始。


無軌道に動き彼女の視線を泳がすようにした後、その狙いを定めるように、一本一本が彼女の首筋、右腕、左足、右足、左腕、腹部、股関節へと駆け出した。


シャインはまず自分の首筋と右腕を狙った二本の刃に向けてグラスパーを振るい、対処を行うが、結果として両足を先んじて斬り裂かれ、その痛みに動きを抑制された瞬間、左腕の肘関節に刃が刺し込まれ、そのまま斬り落とされる。


吹き飛ぶ腕に視線を寄越す事なく、続いて飛来する股関節を狙った刃を落とすが、それと同タイミングで飛来した腹部への一刃が背中へと貫通し、穴を開けた。



「ご、ふっ」


 シャインが口から血を吐き出した瞬間、エンドラスは再生を始めている左腕の状態を確認した上で、グラスパーを鞘に一度納め、フゥ――と息を吐き出した。



「壱の型」



一点集中。意識を整えた上で地面を強く蹴り、駆け出した後、彼は一度鞘へと納めた刃の柄を強く握り、引き抜いた。



「ファレステッド――ッ!」



 ファレステッドによる一閃を、避ける手段は現状存在しない。防御もほとんど意味をなさず、その身体を両断される。


ファレステッドという術は、それだけ両断する事に対して特化した抜刀術。一撃必殺、何人にも侵される事のない神聖なる術。


もし、この術を回避するとしたならば……それは、ファレステッドの事を良く知り、かつその優位性を知るが故に、敵からどう対処されるかを研究し切る者しかあり得ない。



つまり、リスタバリオス型剣術の使い手。


それ即ち……ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスだ。



「ま、だ――ァ!!」



 シャインの絶叫、それと共に彼女は左足を強く振り上げ、そのグラスパーを握るエンドラスの右腕を蹴り上げた。


だが、ファレステッドの切れ味は失われない。その瞬間移動さながらの攻撃に対し左足を振るい、彼の腕を軽く弾いたとしても、その剣筋が僅かに逸れる事しか無く、グラスパーの刃はシャインの左足を両断し、彼女の身体から一瞬遅れて血が大量に噴出した。



――だが、それでもシャインは死なない。



大量の血液を失い、身体の半身、その殆どを失おうとも……彼女はまだ頭部が繋がっていて、頭部が繋っているという事は、身体にも思考も回る。



「な、ッ!?」



 首を落とすつもりで振るった刃が軌道を変えられ、確かなダメージとして左半身を失わせたにも関わらず、エンドラスは驚愕の声を挙げた。



「父……上……ッ! 貴方にご教授、頂いた全てを……今ここで、示すッ!!」



 左半身を失いながらも、それでも高らかに声を挙げたシャイン。


彼女の叫びと共に放出された熱量が起爆剤となるかのように爆ぜ、エンドラスはつんのめりながら倒れ、その隙を待っていたといわんばかりに、彼女は右手に全身のマナを投じる。


強く握られたグラスパーの刃、その刃が今……彼女のマナに反応するかの如くカタカタと音を鳴らしながら震え、その刃を砕けさせた。


粉々になる刃、それは度重なる戦いによって折れて砕けたようにも見えたが、しかしそうではない。



「六の型ッ!!」



 刃が砕け、細かな粒のようになった欠片。


その欠片が全て操作されるかのように天高く舞い上がって、一本の刃として再形成される。



「ライヤーズ・グローッ!!」



鋭い先端から体積が広がった、円錐のような容を形成したグラスパーの刃が、敵であるエンドラスを見据えるように先端を向けると、スラスターでも取り付けられているのかと言わんばかりに、目にも留まらぬスピードで駆け出した。



「ぐ、ぅう――ッ!!」



 吹き飛ばされた身体を何とか起き上らせつつ、円錐形に形成されたグラスパー、ライヤーズ・グローを躱す為に疾く背後へと跳ぶが、しかし彼の移動速度を遥かに越えて、俊敏に彼を追いかけるライヤーズ・グローの先端が……エンドラスの腹部へと突き刺さり、今その傷口を広げるように深々と挿し込まれていく。


ライヤーズ・グローという技は、極端な事をいえばたったそれだけの技だ。一度砕かれた刃が円錐状に形成され、その先端から相手に突き刺さるまで、自動追尾を行う。


その破壊力が高い訳でも、殺傷能力が他の型と比べても高い訳でも無く、また参の型【グレイリン・グロー】のように銃弾めいた動きで一瞬の内に敵を捉えるほどにも早くない。


今、エンドラスがその先端に貫かれたのも、シャインの放った爆風によって姿勢を崩された状態で、退避運動こそ入れたが、あくまでその場から退避を行うだけしか出来なかったからだ。


もし、彼が実力を十全に引き出せる状態であったならば、その迫る円錐を躱し、身体を貫かれる事は無かっただろう。


けれど今、こうして彼はライヤーズ・グローによって貫かれ、表情を青くして、その技を放った娘を――シャインを見据える。


 シャインはその手に握るグラスパーの柄を放り投げると、その右手の拳を強く握りしめ、背部のスラスターを吹かすようにして高速移動を開始。


その円錐型に形成されたライヤーズ・グローに向けて、右手の拳を振り抜くと……彼女は、小さく、本当に小さく、最後の型の名を、告げる。



「七の型……フェイリアス・グロー」



 ライヤーズ・グローの円錐、その底面に彼女の拳が叩き付けられた瞬間、円錐型に形成された刃が容を変え、突き刺さったエンドラスの腹部から彼の肉体内に侵入し――その内側から刃を幾十本と飛び出させた。


エンドラスの全身から幾十本と飛び出す刃。エンドラスは「ガハッ」と血を吐きながら、何とか身体を動かす事が出来ないかと試すように膝をあげようとしたが……しかし自分の両足から飛び出し、伸びた刃が地面へ突き刺さって、彼の身体を離さない。


リスタバリオス剣術・六の型【ライヤーズ・グロー】と、七の型【フェイリアス・グロー】という二つの型は、ここぞというタイミングで、連続使用される事を想定した型であり、その威力は一撃確殺と言われている。


ライヤーズ・グローによる敵への刺突が叶った場合、刺突を受けた敵の内部へグラスパーの刃が侵入、内部より幾多もの刃を顕現させる。


如何にその身が堅牢であろうと、肉体の内部から生み出される刃に対して防ぐ手立てなどあるまい。加えて肉体内部から刃が生み出されているという事は、アシッド特有の再生能力も発揮される事は無い。


しかし、その強力な型であるが故に、六の型と七の型を展開した場合、グラスパーの刃が完全に砕け散り、元の形状へと戻る事も無いのだ。

以後、グラスパーを用いる事が出来ないデメリットを抱えているが故に、一対一の果し合いを想定して生み出された剣術。


その敵だけは、必ず殺さねばならないという覚悟を持たねば、用いる事の許されない最終奥義とも言える型が、リスタバリオス最後の型なのだ。

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