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ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスという女-08

 えー、クシャナ・アルスタッドです。もう一度言います、クシャナ・アルスタッドです。


おっかしいなぁ。何か文章にしたら一万文字くらい、私言葉を発していなかった気がする。


一応窓から二人の戦いは見ていたんだけど、どっちかというと私もあの二人の戦いは「早すぎて何が何だかわからん」って感じになっちゃったから解説役にもなれないという状況。


そもそも私は魔法少女に変身しないと身体強化は何も受けられないから、本当に戦闘力自体は低いんだ。それになるべく魔法少女である事は隠したいから、学校とかにアシッドが現れたらホント私どうしようかなぁ、とか思っちゃう。



「来たな」



 と、そこでガルファレット先生が廊下側に向かい、扉を開けた。


扉の向こうには、ゼェゼェと息を荒げながらガルファレッド先生の投げた、彼の体格程のサイズがある大剣を抱えるフェストラとヴァルキュリアちゃんの姿がある。重い物を持って息を荒げるフェストラとか見てて面白いからもっと痛い目見て欲しい。



「ガルファレット教諭殿は、よほどの力持ちなのであるな……」


「俺の力など大した事は無い。昔はそれなりに自信があったがな。その剣も、俺が尊敬している女性の剣を模したものだ」


「女性?」


「ああ。二ヶ月前に亡くなった、と聞いているが」



 魔術に優れた二人が全身に魔術強化を施してようやく持てる代物の剣を、特に何という事も無くひょいと片手で持ち上げたガルファレット先生が、剣を背負って教卓の前に戻った。



「それで、互いに溝は埋まったか?」


「やはりお前の差し金か、この阿呆は」


「実力は読み取れたのである。実りのある時間であったと思うのだ」



 運び疲れたからか、どす、と音を立てて適当な椅子に腰かけたフェストラと、先ほどまで座っていた私の隣に腰かけるヴァルキュリアちゃん。


 僅かにだが、表情は互いにスッキリとしているように見えて、ガルファレット先生は「何よりだ」と頷き、ヴァルキュリアちゃんを見据えた。


彼女はしばし、沈黙するように目を閉じていたが、しかし言わねばならぬ事があるとして、フェストラへと向き合って、彼へ頭を下げた。



「……フェストラ殿、先ほどは申し訳なかった。拙僧は、貴方の願いや理想を鑑みず、杓子定規で物事を語ってしまった」


「構わん。オレも言っただろう。規則、規範、法律、確かにそれは重要な事だろう、と。そうした社会的規範を蔑ろにする事は愚かな事と言わざるを得ない」


「しかしそれでも、守るモノがあるというのだな?」


「王たる者として、アシッド等と言う存在のせいで民が殺められる現状を放置出来るか」



 謝罪を終えた事で、ヴァルキュリアちゃんの表情も笑顔になる。



「――拙僧も、その考えには同感である。もし拙僧の力が微力にでも役に立てるのならば、拙僧にも手伝わせて欲しいのだ」


「上等だ。お前には多く働いて貰うからな」


「しかし! ――規律・規範を大きく逸脱せぬように、とだけは言っておくのだ。おかしいと思えば、権威など気にせず発言をしていく故な」


「むしろ権威なぞに委縮してしまうような奴は要らん。まぁ、一応気に留めておいてやる」



 そうした会話をする二者を微笑ましく思う反面、少しだけ想定と外れてしまった事に、落胆の息を吐く。



……正直、彼女にはこのまま私やフェストラ達と距離を取ってくれることを願っていたのだ。



生真面目な彼女の事だから、アシッドについては興味があるだろうけれど、フェストラのやり方についていけないと、チーム加入を拒否してくれると思ったのだけれど。



「そうだ。クシャナ殿に伺いたい事がまだあったのだ」


「うん? 何? 私の性癖?」


「それは既に知り得ている故、結構である」


「甘い甘い、私の性癖はまだ君に見せていない一面もあるんだよ?」


「……本当に興味ないのである」



 冗談だからマジで引いた顔やめてくださいお願いします。



「あのマホーショージョ、という魔術外装について伺いたいのだ! 父に聞いても【ゴルタナ】のようなものだろう、としか言われていないのである!」



 そう言えば、この間からちょくちょく言われている【ゴルタナ】って何だろ。少なくともグロリア語ではないと思うんだけど。



「ゴルタナは、レアルタ皇国開発の魔術外装システムだ。最近は国際連合締結に際して諸外国にも輸出され始めている、戦術兵器とでも思えばいい」



 ヴァルキュリアちゃんだけでなく私までも無知では話が進まないと思ったのか、フェストラが軽く解説をしてくれた。まぁ、魔術外装システムって名前だけ聞いても良く分からないのだけれど、パワードスーツみたいな感じかな?



「聞いた事なかった。それはグロリア帝国にも輸入されてるの?」


「いや。ゴルタナは主にレアルタ皇国提唱の国際連合加盟国家にだけ輸出されている。まだ国際連合に加盟をしていないグロリア帝国には入ってきていない代物だ」



 ふむん。レアルタ皇国とグロリア帝国自体は外交そのものが遮断されているわけではないし、別にレアルタ皇国製の魔導機はそれなりに輸入されてきている筈だ。


それなのにゴルタナは別として輸出をしようとしないのであれば、それは厳正に輸出規制を設けているからであろうし、それなりの兵器だと思えばいいのだろう。



「ゴルタナがどんなものか見てみないと判断はつかないけど、私のコレは、ちょっと事情が複雑なんだよね」



 コレ、というのは、スカートで隠れている太もものホルスターから取り出した、マジカリング・デバイス……魔法少女へと変身するために必要な機械だ。


 しかし、コレについての事情を説明するべきか否か悩ましい所だ。フェストラにチラリと視線を向けると、彼は特に何とも言わなかった。


彼としても聞きたい事は聞きたいのだろうが、私が語りたがらない事を察して、特に今聞く必要が無いと判断したのだろう。下手に情報が錯綜する事を恐れての事でもあるだろうが、知った所で何になるかどうかも分からないのだろう。



「まぁ簡単に言えば、コレも前世の世界で作られたモノなんだよ。……多分」


「そ、そうなのであるか! チキューというのは実に高度な技術を持ち得るのであるな!」



 何か、小さな子供が初めて変身ヒーローを見たかのように輝かしい瞳をしているヴァルキュリアちゃんは可愛いけど、本当に私も、コレについてはよくわかってないんだよねぇ……。



「その、不躾なお願いだとは百も承知であるが、また先日のように外装を展開してほしいのだ! あの時のクシャナ殿は実に綺麗であった! 拙僧はあれからずーっとその事を考えており、実は夜もそんなに眠れなかったのだ!」


「う、うーん。それはちょっと困るなぁ。あの姿、出来るだけ他の人に見られたくないんだ」


「何故であるか!? あまり着衣に興味の無い拙僧ですら綺麗に見えたのだ! であれば他の者たちから見てもさぞ美しいと称されるに違いないのである!」



 興奮冷めやらぬ、という感じだし、可愛い女の子からの可愛いお願いだから、聞いてあげたいのはやまやまなのだけれど……私としてもおいそれと、用も無いのに変身するわけにもいかない。



「えっとね、理由は三つあって」


「ほう」



 ちなみに今の相槌は、ヴァルキュリアちゃんじゃなくてフェストラだった。コイツも私が変身したくない理由が三つもあるとは想定していなかったのだろう。多分二つまでは想定しているだろうが。



「一つ目はフェストラも言ってただろう? もしアシッドを製造している組織が色んな所に根を張っていた場合、どこから情報が洩れるか分からないから、なるべくこっちの手札を見せたくないのさ」



 まぁ、学院内は流石にフェストラが目を光らせている限り、魔術的な要因で盗聴だったり盗撮だったりは無いと思われるが、人の目、そして人伝の情報と言うのは実に面倒で、どこで誰に、どんな繋がりがあるか分からない状況では、あまり人目に晒すべきじゃない。


それはこの密室と言っても良い教室内でも同じことだ。何時誰が、どんな用事でここに入ってくるかも分かったものじゃないしね。



「それは……そうであるな」



 うむうむ、素直な事は良い事だ。その素直さに免じて、二つ目と三つ目も簡単に説明しようじゃないか。



「二つ目は単純に体力的な問題かな。実は変身するとそれなりに疲労してね。外傷であればどれだけでも再生できる私だけど、疲労だけはどうしようもない。だからなるべく有事以外に使いたくない、という事だよ」


「クシャナ殿は体力をつけるべきではなかろうか……」


「それは現在善処しようと検討中」


「検討ではなく努力をすべきである!」



 昨日の訓練でアマンナちゃんに肩を貸して貰った時、鍛えようかなぁと考えていた事までは言わないけど、本当に私は体力が無いから困ったものだ。



「三つ目は……」



 と、そこで思わず一度口を閉じてしまう。正直コレを伝えるのは、私的にも避けたい。


けれど事前に三つ、と伝えていた事もあったし、フェストラも三つ目、自分の想定していなかった事は聞きたいらしく……。



「おい、三つ目は何だ?」



 圧と共に催促があったので、私は……赤くなる顔を両手で隠しながら、打ち明ける。



「……魔法少女って、地球だと普通は発育途上の、それこそ十歳くらいの女の子がなるべきものなんだ……」


「えっと、それの何か問題なのであるか……?」


「私みたいな第二次性徴を終えてそうな女が着る衣装じゃなくて……正直アレ、メチャクチャ恥ずかしいんだよ……ッ!」



 とある美少女戦士のセーラー服みたいな奴なら良かったのかもしれないけど、アレもよく考えたら中学二年生とかだったよな確か……。


失意の私に何と声をかければよいのか分かっておらず、ワタワタと慌てるヴァルキュリアちゃん。


 反して、聞いて損したと言わんばかりに「聞いて損したぞ庶民め」実際に言い切りやがったのがフェストラだ。



「き、気にする事ないのである! クシャナ殿に似合っていた。実に眩い程綺麗で、可愛らしい格好であったのだ!」


「アレも小さい女の子が着る用の服を無理矢理私サイズに拡大しているだけだよ絶対! だって気を付けないとオッパイがぽろっと出ちゃうデザインとか普通戦闘衣装で採用する!? オマケにフリルとリボンが目立ってて私に似合ってるとは到底思えないもんっ!」



 絶対にあの衣装を採用したのは開発者の嫌がらせだと思う。


 なのでなるべく変身する時もカッコいい感じを意識したのだ。女児向けアニメみたいな「きゃぴぴぴぃ~ん」みたいな可愛い感じで変身してたら、私の精神が幾つあっても足りない。正直アシッドだけど恥ずかしさで死ぬんじゃないかと思った。



「……だからよっぽど誰かのピンチじゃないと変身したくないもん……実はあの格好する位なら人類滅ぶのもやむ無しかな……とか思っちゃった自分も居たりして……」


「わ、分かったのである! 必要以上にそのヘンシンとやらを要求しないので、正気に戻って欲しいのである!」



 分かってくれればいいんだ。例えアシッドでも心は硝子細工。簡単にヒビ入るし、何なら落とせば割れちゃうのさ。

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