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決別-13

帝国の夜明けが有しているアジトは既に崩壊寸前と言った様相で、壁には複数の穴が開き、建物を支える支柱も衝撃を受けるとギシギシとした音を奏で始めるほどである。


それもそのはずだ。幻想の魔法少女・ミラージュ-ブーステッドフォーム二体に加え、現在はガルファレットも含めた者達がアシッド達と戦い、ミラージュが喰らう事で少しずつ数を減らしていったものの、まだ十数体の個体は確認できる。



「庶民、リスタバリオスは!?」


「そろそろ来る――外!」



 戦線の後方で待機していたフェストラは、窓の外から景色を見据え、煌煌と輝きを撒き散らす、一人の少女が剣を握りながら駆け出してくる光景を目にした。



「ガルファレット、庶民!」



 フェストラの指示に合わせ、ガルファレットと一体のミラージュが、動いた。


ガルファレットはアシッドの頭を二つガシリと掴み、ミラージュはブーステッド・パニッシャーの先端部をアシッドの腹部に突き刺した状態で、それぞれ確保したアシッドの身体を、強く床に叩きつける。


その衝撃によって、既に限界へ近付いていたアジトがさらにダメージを負い、建物全体を揺らし……今、支柱の一つにビキビキとヒビが入った事を確認し、フェストラは一体のミラージュに身体を預けた。



「庶民、任せる!」


「はいはいっ!」



 ミラージュがフェストラの身体を抱き寄せながら、破壊されていた壁から身を乗り出し、外へと飛び出した。


二階相当の建物から飛び降りつつ、周囲の木々は事前にブーステッド・トラッキングによる自律型駆動刃が斬り裂き、確保していた。


彼女達がアジトを飛び降りた瞬間――背後から青白い光が夜の暗闇を晴らすように発せられ、その光を直に見ていたフェストラは思わず目を塞ぐ。


ガルファレットが狂化を解放した際に発せられる魔術回路の輝きであり――そして今、アジトの中から三体ほどのアシッドが、外へと殴り飛ばされてきた。


その衝撃によって、アジトは限界に達した。メキメキ、バキバキ、と音を立てながら崩壊を始め、地上と家を繋ぐ固い支柱でさえ、その崩壊する家宅の自重を支える事が出来ず、折れて崩れ去っていく。


轟音と共に崩れたアジト――しかしその家宅跡の建材を押し退けながら、ガルファレットが身体を出した。


アジト内に残っていたアシッド達は建材によって潰されたまま。この状態ならば、何時でもトドメをさせる。


問題は外にいる、いたアシッドの軍勢。


その数は内部に侵入していた分を除いた十二体前後だが……そこでミラージュはフェストラの身体を乱雑に放棄し、滑る様に駆け出してきた一人の少女に隣接する。



「待ってたよ、ヴァルキュリアちゃん!」


「うむ、待たせた! ――煌煌の魔法少女・シャイン、いざ参るッ!」



 少女……煌煌の魔法少女・シャインと横並ぶミラージュ。二人は視線を合わせた上で、まずはミラージュが突撃した。


上空を駆け抜けるように展開される、八本のトラッキング。その刃が一体一体のアシッドへと突き刺さっていくと同時に動きを止め、ミラージュは動きを止めたアシッド達に向け黒剣を抜き放ち、彼らの脇を抜けながら、腕部や脚部を斬り裂いていく。


そして動きを止めるアシッド達の奥には、まだ残るアシッド達が。


それを同時に相手取るには、ミラージュにも難しい。何せ現在彼女が有しているアシッド・ギアが持つ因子を使い切り、通常のミラージュよりも戦闘能力が向上している程度の性能しか有していない。


だが、そんな彼女を補助する役割を果たす者こそシャインである。



「四の型」



 シャインの言葉と共に、その手に握られていたグラスパーの刃が柄から分離し、その刃を宙に浮かせる。


しかしそれだけでも無い。宙に浮いた刃が九つに分離を始め、分離した刃がそれぞれ意思を持つかのように、疾く駆動を開始した。



「アイリアン・グロー」



駆動した刃が宙を駆け抜け、ミラージュへと口を大きく開けて迫るアシッド達の首筋に突き立てられていく。


そして動きを止めたアシッド達の首を、ミラージュは黒剣で斬り落としながら、シャインへと声をかける。



「ヴァルキュリアちゃん、今!」


「了解した!」



シャインはグラスパーを放棄すると同時に、その両手に展開されたグローブに力を籠めると、グローブの装甲が駆動し、その内部を曝け出す。



〈いよぉおお! 太陽の煌きィ!〉



 瞬間、周囲に轟くシャイニングの機械音声。その声と共にグローブの内部より青白い炎が迸り、離れた場所に居たミラージュ、フェストラ、ガルファレットの肌さえもヒリヒリと焼く程の熱量が届き、シャインの手も燃やし尽くす筈であるが――しかし、それと同時に再生を果たす手を見て、フェストラが目を見開く。



「アレは――」



 しかし、シャインは彼の声に反応する事は無く、顎を引きながら両足で強く地面を蹴り付け、ミラージュによるトラッキング、そして自身のアイリアン・グローによって動きを止めるアシッド達の頭に、その燃え盛る手を叩きつけていく。


叩きつけるだけで、首をもぐ事はない。しかし彼女の手によって触れられたアシッドの頭部は、その周囲に熱の膜のようなものを形成し、その膜内部を熱する強力なエネルギーに、ボゴボゴと頭を変形させていく。



「これで――終わりであるッ!!」



目につく最後のアシッドに彼女の手が触れた時――熱の膜に包まれた彼らアシッドの頭部は、最大摂氏三千度にも及ぶ超高熱兵器【溶解炉マニピュレータ】による、肉質の変化と脳の熱暴走、加えて体内の血液が沸騰を繰り返し、蒸発を果たす。


最後には彼らの頭を包んでいた熱の膜が次第に収縮するように縮まっていき、その頭を完全に消滅させる事で、アシッドは倒れていく。


その膜が完全に消滅する寸前、破裂と同時に周囲へまき散らされた熱が皆の肌を焼く様に感じられたが、実際に熱を感じたのは皮膚の表面だけ、その表面も長く熱に浸されたわけではない故に、若干表面が赤くなる程度に収まっていく。



そうして……消滅を果たしていくアシッド達。


数体がアジトの残骸から顔を出したが、それらは既に身体がグチャグチャになった状態で何とか建材から這い出ようとした所を、ミラージュの握る黒剣により首を斬られ、その頭部を捕食されていく。



「……終わったな」



 建材から身体を出し、ガルファレットが全身から血を噴出しながらも、ため息をついてその場に座り込んだ。彼はミラージュとシャインの登場まで、殆ど一人でアシッドの軍勢と大立ち回りを行っていた。疲労は恐らくこの中で最も蓄積しているだろうが、しかし体内のマナが循環するスピードも速く、自然治癒能力も常人より早い。


 そして彼と同様に、終わった事を実感すると同時に足をもつれさせながら、地面に身体を横たわらせるフェストラ。



「たく……ラウラの奴、いくら庶民がいない隙を見計らったからと言って、十分な戦力をここに投入しやがって。おかげで死にかけたぞ」



彼も多く戦ってきたが、しかし彼の場合は自分の命を分の悪い賭けに出していた。肉体的な疲労も、精神的な疲労も多く会った事と思われる。



「庶民、アスハとファナ・アルスタッドの方は、無事か?」


「無事だよ。ミハエル・フォルテって奴と戦って、ソイツも倒した。ドナリアと合流してからこっちに戻るようにお願いしたから、もうしばらくしたらこっちに着くんじゃないかな?」



 とは言え、アスハとファナは相当に遠くまで逃走していた。その上疲労しているファナとアスハがドナリアと合流するまでに、それなりの時間が必要である事も想定できる。



「リスタバリオス、お前の方は無事だった、という事で良いんだな?」


「うむ、特に何の問題も無いのだ」


「どうせ、お前の方にはエンドラスが出向いていたんだろうが、何も無かったのならばいい」



 フェストラの言葉に、シャインが思わず口を結んだ。その態度でエンドラスが彼女と相対したという情報を抜き出した彼は「特には聞かん」と、彼女が言いたくないのならば良いと返す。



「それより庶民。お前、帰りが遅いんだよ。どうせチキューという世界を堪能していたんだろうが」


「悪かったってば。……それと、ありがと」



 ミラージュが若干、顔を赤めながら礼の言葉を述べると、フェストラが首を傾げた。



「礼を言われるような事はしていないが」


「いや、その……カルファスさんに、私の事を助けてくれって、頭下げたって聞いたから。お前らしくも無い事、させちゃったな、ってさ」


「頭を下げる程度で拾える命なら、お前のだろうが拾ってやるさ」


「でも、分からない事があるんだ。カルファスさんは、私を試すみたいに地球に呼び出した。直接こっちに返すわけでもなくさ。それを、お前が想定していると思う、みたいな事言ってた」



 そう尋ねると、彼は「あのクソアマ、やはりか」と若干口を悪くしつつ、誰にも聞こえる音で舌打ちを漏らした。



「彼女の事だ。オレの思い通りに動く事が嫌だから、お前がチキューに残る選択肢を提示するとは思っていた」


「わぉ、凄い。どうしてわかってたのさ」


「カルファス姫という人間を知ってれば、想定できるさ。この非常事態にそんな事をしてくるかは疑問だったが、しっかりしてきやがって」


「でも、お前はそれを想定しながら……私が帰ってくるって、思ってたのか?」


「ああ、思ってた。時間がかかっても、お前はどうせここに戻ってくるってな」


「それはまた、どうして」



 僅かな沈黙があったけれど、彼は観念するかのように、ため息をついた。



「お前が、オレと肩を並べて戦うって言っただろうが。……オレは、ただその言葉を、信じただけだ」



 その言葉を述べる時には、フェストラの顔も僅かに赤くなっていた。


ミラージュはそれに気付いていながらも、気付いていないフリをして――顔を逸らしながら、誰にも見えない角度で、小さく笑みを浮かべるのであった。

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