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決別-06

「しかしカルファス。君も意地が悪い女だな」



 先ほど伊吹に渡されたミネラルウォーターのキャップを開け、水をガバガバと飲み込んで口と喉を流す。そんな私の状況を見てニヤニヤと笑う伊吹を一発ぶん殴りたい。



「意地悪って何がさイブキン」


「イブキンは止めてくれ。……そのフェストラとかいう少年に頼まれていたのなら、プロトワンに色々と任せず、君が直接回収をすれば良かっただろうに。何せそのラウラとかいう男が最初、クシャナを放出しようとした次元は、生命体の存在しない次元だったのだろう? それを地球へと転送したのなら、直接君の下に転送すれば良かったじゃないか」



 え、と私がカルファスさんを見ると、カルファスさんも僅かに微笑みながら、それに頷いた。



「元々ラウラさんが放出しようとした所はここじゃなかったの。私がちょっとばかし細工して、クシャナちゃんの転移次元を地球にしたのと合わせて、クシャナちゃんの出迎えを、玲ちゃんにお願いしたってカンジ」


「でも、何でそんな面倒臭い事を……? フェストラには、連れ戻して欲しいって頼まれてたんでしょ?」


「理由は三つ。一つは分かると思うけど、フェストラ君のお願いを素直に聞くのが癪だったから。確かに、あの子が頭を下げるのは珍しかったから、クシャナちゃんを助け出す所まではやってあげたけど、そこから先は各々の自主性に任せようって思ってね。……まぁ、フェストラ君も何となく想像はしてるだろうけど」



 最後の言葉はよく意味が理解できなかったけど、続けて彼女が二本指を立てた。



「二つ目。クシャナちゃんにも、そろそろ自分なりの戦う理由を思い出して欲しかったから。……もう、クシャナちゃん以外の面々は、戦う理由をしっかり定めてる。あのヴァルキュリアちゃんだって、今じゃ自分の望む未来を見据えてるのに、クシャナちゃんが何時までもウジウジしてるばっかじゃ、盛り上がらないじゃん?」



 それは……言われてしまうと、少し弱い。


確かにもし、こうして地球に訪れる事が無いまま戦っていたら、私は自分自身の幸せがどこにあるのか、それを見つける事が出来ないまま、戦いに赴いていたのかもしれない。


そしてそれは、精神的な面において、ラウラと戦う時にマイナスな要因となり得る可能性も十分にあり得る。



「三つ目。……赤松玲ちゃんを助けてあげたかったんだ」


「赤松玲を?」


「うん。私自身、ちょっと特殊な人間で……簡単に言えば、私も作られた存在なんだよ。とは言っても、私を作り出したのは私自身だから、自業自得なんだけどさ」



 苦笑するカルファスさんの表情は、どこか憂い気で、それでも内面にある寂しさのような物を悟らせまいとする感慨が、どこか読み取れてしまった。


故にそれ以上、彼女の事は問えなかったけど、その感情を代わりに発露してくれた。



「だから、作り出された人を見ると、どうしても他人に思えないの。玲ちゃんの事も、クシャナちゃんの事も、ファナちゃんの事も、アマンナちゃんもガルファレットさんも……調べれば調べる程に、なんか放っておけなかった」



 赤松玲は、確かに成瀬伊吹に作られた存在であり、数多く居た同胞も、彼女自身の手によって全てを滅ぼしてしまった。


彼女はそれでも、一人で幸せを掴んだと思っていたし、実際に幸せを感じていたのだけれど……一人でいる事の辛さを感じ、やがて幸せだと感じられなくなった。


そんな彼女と私を邂逅させる事で、彼女の中に変化を呼ぼうとした。


彼女が変わり、前へ向いて、幸せを望むようになってくれるようにと、カルファスさんは願ったのだ。



「だからクシャナちゃんが例えば、玲ちゃんと一緒にこの世界で生きていくって選択したって、フェストラ君には悪いけど、私としてはそれも良いんじゃないかって思ってた。……でも、クシャナちゃんも玲ちゃんも、ちゃんと自分の中にある幸せの容を確認できて、過去と決別し、こうして私の下へと辿り着いてくれた。それが、嬉しかったよ」



 結局……私はカルファスさんの手の平で、踊らされていたという事だ。


でも、何だか悪い気はしない。私ならこうした選択をするだろうと、そう考えてくれていたって事でもあるし、それがどこか嬉しいという感覚もある。



「……なんか、柄にもない事言っちゃったね。あんま気にしないで。私はただ、自分に都合が良くなるよう色々と手をこまねくだけの悪女だと思ってくれれば良いよ」


「いや……私としては、貴女がそうした方法を執ってくれて、良かった。赤松玲とちゃんと話せたし、キャトルや綾子ちゃんとも会えた。……もう、地球に思い残す事も無い。これでようやく私は、本当に赤松玲やプロトワンから、決別出来たんだから」



 方法が、目的がどうあれ、カルファスさんの願いは善意から来るものであった。結果として今、私は私の幸せを掴む為にしっかりと動けている。


だから私はカルファスさんの想いを受け取り、それに対してお礼をしなければならない。



「ありがとう、カルファスさん。貴女のおかげで、私は一歩踏み出せたんだ。……これから先は、私達の望む幸せと、ラウラ王の望む幸せによる戦いだから、その願いを確認できて、本当に嬉しかった」


「……もぉ、ズルいなぁクシャナちゃん。そんな事言われたらお姉さん、嬉しくなっちゃうじゃん!」



 私の肩を乱雑に叩いてくるカルファスさん。その細身の体からは想像できない程に力強い一撃を喰らい私は思わずよろめいてしまったが……そんな私の手を取り、何かを握らせた。


最初はマジカリング・デバイスのような物かと思ったけど……少し違う。何だコレ、マジカリング・デバイスよりも少し大きい、鉄製のケースみたいな……。



「ソレ、イリュージョンのマジカリング・デバイスが持つ機能を拡張させる外部デバイスツール。使い方は、装着すれば分かると思う。戻ったらすぐに戦いが待ってるから、いざって時に使って」



 そのケースは全体的に濃い朱色のケースとして形成されているが、ケースの上部からマジカリング・デバイスを入れ込んでハメるタイプのアクセサリーか何かなのだろうか。


試しに一回入れてみると、デバイス右側面の指紋センサーと画面には触れるようになっているし、あまり使用に苦は無い。


どちらかというとデバイス下部は大きく膨れ上がっていて若干重い。下部には四ミリ程度の穴が開いているけれど、中を見ると金具のような物も若干見える。多分ここが追加デバイス機能を一手に担っているのだろうとは思うが……。



「使い方は、変身すれば分かるようにしてる。それと同時にこのデバイスが持つ危険性も、しっかりと認識出来るようになると思う。……正直、クシャナちゃんにコレを与えるのは、心苦しい所もある。ヴァルキュリアちゃんに与えたシャイニングもだけど、大きすぎる力は、時に使用者を壊す事だってあり得てしまうから」


「……でも、それを与えたいって思ったんですよね。カルファスさんは」


「うん。貴女とヴァルキュリアちゃんなら、きっと乗り越えられるって信じてる。そして……その力を、自分だけじゃなくて、誰かの幸せを叶えてあげる為に振るえる、優しい女の子だって事も」


「なら、私は信じます。どうせこれ以上、私にとっちゃ危険なんて有ってないようなものだ。有難く使わせて貰いますよ。帰ってすぐに戦いがあるなら、なおさらね」



 カルファスさんと手を繋いだまま、並んで黒い門の前に立つ。一寸先は闇とはよく言ったもので、本当に目の前がどこに繋がっているかも分からない。



「大丈夫。時間の強制力も時空間の乱れも、全て調整済み。飛び込んだ瞬間、グロリア帝国に着く。向こうからこっちの世界に来て流れた時間と同等の時間しか経過してないから、まだフェストラ君達も持ちこたえてるハズ。だから――助けに行っておいで!」


「……はいっ!」



 カルファスさんの手が離された瞬間、私は強く前に飛び出した。


この先に待っている世界でどんな事が起きようとも、私は戦う。



――皆の幸せを守る存在、魔法少女として出来る事がある限り!




「……あ、ちなみに飛び込んだ先、二千メートル上空だから気を付けてね~」


「ハァ!? 何そ」



 と、ここまでが地球でカッコよく決意し、黒き門に飛び込んだ私が。



「れ聞いてないィイイイイイイッ!!」



 ここからが黒き門より抜け出し、恐らくグロリア帝国の上空を一人で舞い、落下している私が発した言葉である。もう言葉というか悲鳴だけど。



「ちょ、また頭トマトみたいになる! 変身、変身しなきゃ……ッ!」



暗くて良く見えないけれど、下方に鬱蒼としている森や、近くの滝が小さく見えている。流石にこの高さから落ちる経験は無く、恐怖心が煽られる。


 先ほどまでカッコよく決めようとしてたのに、今は先ほど渡されたケースのせいで上手く指紋センサーに指を乗せる事が出来ず四苦八苦するも、何とか無事に指紋センサーに触れる事が出来た。



〈Stand-Up BOOST.〉



――その聞き慣れない機械音声が流れた瞬間、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が、脳内に走る。



それは、このマジカリング・デバイスに新しく付与された力を用いる為の情報が一括して脳にインストールされるが故の衝撃。だからこそ、その力がどれだけ強大かを、自覚してしまった。


今までの変身とは比べ物にならない力。


この力をもし、ハイ・アシッドとしての欲求に負け、人を喰らう為に用いてしまったら……そんな事まで脳裏にチラついてしまったけれど。



「……大丈夫。私には、仲間がいるさッ!」



 そう、もう一人で戦う必要なんてないんだ。


私には信頼できる仲間が居て、どれだけ私が内に封じ込めている欲求に抗えなくなっても、止めてくれる力を持つ者達がいる。


だからこそ――私はその力を使う事を恐れず、左手にアシッド・ギアを取り出し。


 ケース下部に存在する四ミリ程の挿入口に、アシッド・ギアの先端部……USBコネクタを挿入した。



「――変身ッ!!」


〈HENSHIN〉

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