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自らという存在-03

 地下施設へと続く階段はそこまで長いものじゃないと見える。私はマジカリング・デバイスを抜き放ち、アスハさんもアシッド・ギアをその手に握った。


細い階段を降りていくアスハさんに続き、私も駆け出していくと――降り立った先の地下施設の廊下には、既に五体のアシッドが、私達を阻むかのように立ち塞がり、涎を垂らした。


……これが防備、という事なのだろう。



「アスハさん、ちなみに支配能力って奴は、どれ位の相手に通用するものなんです?」


「相手がアシッドの場合、三人が限界だな。人間であれば、それこそ数十人まではいけるが」


「そうですか――なら、二人はこっちで処理します」



 マジカリング・デバイスの側面指紋センサーに指を乗せると同時に〈Stand-Up.〉と機械音声が奏でられ、私は口元にまで持ち上げたデバイスのマイクに、起動音声を吹きかける。



「変身」


〈HENSHIN〉



 それと同時に短く画面をタップし、発光し始める画面。その光に合わせ、敵対者と認識したか否か、アシッド達が駆け出してくる様子に合わせ、アスハさんが狭い通路を活かすように、その剣を横薙ぎに振るって、二体のアシッドを胸辺り斬り裂くと、そのまま残る三体のアシッドへと蹴りを叩き込んでいく。


胸辺りを斬られ、動きを止めたアシッド二体はその場に残るが、その時には既に変身を終えていた私が、床を蹴って出現させた黒剣を抜き放ち、突撃。



「お――りゃああッ!!」



 突撃と共に一体のアシッドへと体当たりしつつ、首に黒剣を突き刺して動きを抑制した私は、一時黒剣を放棄し、もう一人のアシッドが迫り、私へと伸ばした手を強く弾きながら身体を屈め、その腕を掴んで背負い投げる。


背中から落ちたアシッドから出た「ぐご」という呻き、首筋に向けて強く蹴りを入れた私の脚力に、筋力の弱い首が耐えきれず、グチュグチュと音を立てながら、首から上は千切れ、転がった。



「次!」



 先ほど地面に刃を突き立て、動きを固定していたアシッドから黒剣を奪いつつ、首を斬り裂いた私は、二体のアシッドが頭だけになった所で二体の髪をむんずと掴み、一体ずつその場で素早く食していく。


幾ら食べても好きになれない、脳や頭蓋、頭皮や髪を喰う感覚に吐き気を覚えつつも、しかし吐いてはならないと一口一口、大きく口を開けて、ボリボリと骨を砕きながら食す様は、あまり他者に見せたくはない。



「あまり喰うのに時間をかけるなよ。次がいつ来るかも分からんぞ」



 先ほど相手をしていた三体の内、一体の頭を片手に持ちながら喰らうアスハさんが、今もそもそと口を動かしながら髪の毛をプッと吐き出した。



「……残り二体は?」


「支配能力で施設内を暴れまわる様に命じた。これで少しは時間が稼げるだろうし、何体かのアシッドは共食いをしてくれる筈だ」



 今、その手に持つ頭の残骸を全て口に放り込み、ゴクンと飲み干したアスハさんは、腰に巻き付けていたベルトに取り付けられた、小さい水筒の一つを私に差し出した。口の中が脳髄液と血、皮膚や肉から溢れる油で塗れるから、水を飲んで流せという事だろう。



「作戦は先ほどの通りだ。お前は私の討ち漏らしたアシッドの処理をするだけでいい。それと――可食部は食えるだけ喰っておけ。そうすればお前も、ハイ・アシッドとしての力量を取り戻せるのだろう?」



 アスハさんが指を向けるのは、今私が倒した二体のアシッド……その頭を失った肉体だ。



「ただのアシッドでも、脳が稼働してるなら幻惑能力が効くかもしれん。利かずともお前の戦闘能力が上がれば、それだけ作戦遂行は容易くなる」


「……いや、頭を喰うだけでも、それなりに回復するんで、大丈夫です」


「そうか。無理強いはしないが……勿体ないな」


「勿体ない?」


「お前は確かに技量だけで見ればヴァルキュリアやアマンナには及ばない。しかし、筋は良い。肉体が追いつけば、それなりに戦える戦士足り得る筈だ」


「私は別に、戦士になりたいわけじゃ、ないです」


「だから勿体ないと言ったんだ」



 私は先を行く、と言いながら、アスハさんが先へと進んでいく。


細く長い通路から、人々の阿鼻叫喚というべき叫び声も聞こえてくる。


そんな中で私は……もう一体のアシッドが遺す頭を喰う準備を進めていく。



「思い出しちゃうなぁ……ホント」



 プロトワンとして、同胞であるアシッドを喰らっていた日々、既に遠き思い出となった事を思い出しながら、私は髪の毛を毟り、可能な限り可食部を減らした状態で、喰らい始める。



――思い出からどこを喰わねばならないのか、それを瞬時に把握できるようになるまで順応しているか、否が応でも思い知らされるようで、気分はあまりよろしく無かった。



**



「何とまぁ、意外と数時間程度で綺麗になるものだな」



 グロリア帝国首都・シュメルを囲むように高くそびえ立つ壁の向こう側、その木々の中に建てられた帝国の夜明けアジトを根城にすると決めたシックス・ブラッド一同が滞在して、おおよそ一時間と少々。


その間に散らかっている部屋や埃に塗れている部屋の掃除を敢行していた面々だったが、フェストラが帰ってきた時には、全員で使用する事を目的としたホールは、埃一つない綺麗な広間として蘇っていた。



「……えっと、ほとんどは、ガルファレット先生が、片付けて……」


「アタシたち別の部屋の掃除してたんですけど、そっちは全然ですからね! えっへん!」


「ファナ殿、それは誇るべき事ではないのである」


「掃除のコツは大きなモノから小さなモノへ取り掛かる事と、上から下にモノをやる事、要らぬモノは捨てるという事だ。瓦礫や朽ちた木々等は勿論要らぬから、一旦外に放り投げた」



 土足で上がり込む事が若干心苦しいと感じる程に、ガルファレットの掃除した部屋は床も綺麗に磨かれている。帝国騎士というのは部屋の掃除という雑務さえも端的に完璧にこなすものだというお手本とも言えただろう。



「それよりフェストラ、僅かに戦闘の形跡が見えるが、どこへ行っていた」



 フェストラの着ていた聖ファスト学院の制服、その襟元が何かに引き裂かれたような跡があって、ガルファレットが上着を脱ぐように指示。


上着を脱いで彼へ渡しながら「少し帝国城の様子を見てきた」と、事実を軽く語る。



「レナ・アルスタッドの様子もな」


「っ、お母さん、大丈夫でしたか!?」



 先ほどまで無邪気に部屋の片付けについて偉ぶっていた筈のファナが、レナ・アルスタッドという名前を聞いた瞬間に顔・声色を双方変え、フェストラの前に駆け出してきた。


そうして小さな体で駆け出す姿が、何か小動物のような存在に思えて、思わず頭を撫でてしまったフェストラだったが、しかしすぐに「安心しろ」と平静を保って声にする。



「連れ出してくる事は出来なかったが、レナ・アルスタッドの安全は誰よりもラウラが保障する事だろう。警備状況も見てきたが、特に大きく問題はない。故に後々、オレ達が困る事にはなりそうだが」


「そっか……よかったぁ……っ」



 安堵の息をつくファナがフェストラに頭を下げながら別の部屋掃除に戻っていく姿を見届けながら……残るアマンナとヴァルキュリア、そしてガルファレットが、まだフェストラに視線を送り続けていると気付いた。



「ラウラは本気でオレ達を殺そうとしている。とはいえ、庶民やファナ・アルスタッドについては別だろうがな」


「お前が衣服だけとはいえ、負傷しているという事はどうにもそういう事らしいな」



 椅子に腰かけ、自前のソーイングセットを用いて上着の仕立てを行うガルファレットに、フェストラも頷いた。



「それで、共に向かったクシャナ殿はどうなされたのだ?」


「相手がアシッド複数体だった事もあり、庶民に気を引いて貰った。メリーに連絡し、近くまで出向いていたらしいアスハが援護に向かったそうだ」


「無事を確認しているわけではないのであるか!?」


「庶民の件で声を荒げるな。ファナ・アルスタッドが心配するだろう」



 思わず声量を上げてしまったヴァルキュリアが口を閉ざすと、今度は立ち代わりとでも言うのか、アマンナがまさに小声という声量が相応しい声で「ですが……ヴァルキュリアさまの心配も、最も、です」と、ヴァルキュリアに同意した。



「クシャナさまは……特別、能力に優れるわけでは、ありません……例えあの、アスハが共に居たとしても、対処出来るか否かは、別になります」


「問題はない。……庶民は気付いているかどうかわからんが、奴の実力は高くなってきている。あのマホーショージョとかいう力の使い方を分かってきているんだろうな」



 今ここにいる面々において、クシャナと直接相対したのは、フェストラ以外に居ない。


今日行ったクシャナとフェストラの戦いは、双方ともに本気になり切れずいた遊びにも近しいものだったが、しかしそうした戦いにおいても、フェストラはクシャナの実力が高くなっている事を実感していた。

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