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自らという存在-02

 私達への報復や攻撃を抑える効果も勿論あるが、ラウラ王の野望を叶えるまでの時間稼ぎ、という両側面を持つって事か。となれば、私としても協力はやぶさかじゃない。



「でもそれなら、私達もそっちもフルメンバーで挑むべきなんじゃ? 正直私は、あまり戦力として好ましくないというか」


「いや、戦力を固めた状態で動くべきじゃない、というのが私の判断であり、そしてメリー様もその事について同意してくださっている……と思う」


「そこは、言い切らないんですね」


「そもそも今回の作戦については、私の独断だ。先ほどの通話においても、私は作戦内容を口にしなかっただろう?」



 そう言えば、メリーも作戦については細かく知り得ないような態度をしていた。アイツの態度は正直見ているだけじゃ判断できないからと、軽く流していた所はあったが……。



「ラウラはフェストラ様と同じく、帝国王としての素質に優れている。だがフェストラ様やメリー様と異なる点が一つだけある」


「……個々人の事を見ない」


「そうだ、よく分かっているじゃないか。奴は人間という存在が多種多様であるという事を、理解していない。否、理解しているつもりだろうが、完全な理解は致せていない、という言葉が正しいな」



 私がラウラ王をこれまで見てきた感想としては「人間を数でしかカウントしていない」という点だ。


勿論、エンドラスさんやシガレットさんを近衛として招き入れている所や、フェストラの能力を高く評価していた所から、個々の能力も見ていない訳では無いだろうが……何と言うか「コイツは人間何人分の働きをする」程度の目線でしか見ていない気がするのだ。



「例えばドナリアだ。確かにドナリアは馬鹿で、脳無しだ。だが奴の人を惹き付けるカリスマは確かなものだ。そして、その戦闘技能についても帝国軍人としては最良と言ってもいい。これはアシッド化していない時からも同様だった」



 ドナリアの事を低く評価してるんだか高く評価してるんだか、よく分からない事を言い出すけどあれかな。「人間的には好ましくないけど能力的には高いと思う」みたいな、私がフェストラに抱いている考え方と同じような感覚なのかな。



「だがラウラは結局、ドナリアを使い捨てる手駒として扱った。奴程度ならば他の人間をあてがえば良いと考えたのだろう。……ドナリアが執念深く、面倒な輩と見る事無くな。結果として奴は、この状況においても帝国の夜明けが有する理念を果たそうとし、ラウラの前に立ち塞がった」



 そう、ラウラという男は「能力は見るけれどその個人そのものを見ない」って感じなんだ。


多分、あの人が個人を見ているのは、お母さんとか本当に愛する、興味がある人だけで、それ以外の人達は「情報として」入手するだけって感じがする。


もし、フェストラの事を本気で調べ、奴の人となりを知り、奴を味方に引き入れておきたいと考えたのなら……多分、アマンナちゃんを殺すように部下へと命令はしなかった筈だ。



「ラウラは確かにそうして、色んな事に頭も回るし、行動予測も性格と言える。しかし……それは奴が高く評価している相手の行動予測しかしていない。私やドナリアの行動など、奴は思考を回しているかどうかも怪しい」


「でも、それがどうして大人数で行動しない事に繋がると……?」


「メリー様やフェストラ様が動けば、ラウラはこちらの狙いに気付き、奴自身がその妨害工作を施すだろう。それだけ二人についてを警戒し、思考を理解しようと努めている。しかし私やドナリアが動いた所で、その対処は対応を行う部下に一任するだろう。取るに足らない事だ、とな」



 ……なるほど、アスハさんやドナリアの行動は、ラウラからしたら「羽虫がその辺を飛んでる」程度のものでしかない、という事か。


けれどもし、この作戦にメリーやフェストラが一枚噛んでいると分かれば、それを危険と察知して、すぐにでも妨害工作をしてくる、と。



「加えて奴は思考能力が高い反面、私やドナリアのような『本能で考えて行動する』連中の行動予測を立てられないんだ。頭の良い人間は、愚かしい人間の行動を理解できない事と同じでな」


「自分の事を、そんな風に認識してるんですか?」


「している。私は残念ながら目が見えん。それはつまり、他者の顔色を窺う事も出来ないという事だ。そんな人間に出来るのは、他者の言葉に従うか、自分の心に従う事だけだ」



 自分の心に従う、それこそが自分にとっての『理念』であると、彼女は断言する。



「私はかつて、他者の言葉に操られてきた人形だった。だが、その在り方は『普通』ではないと気付いた……否、気付かされた。だからこそ、私は『普通の人間』と同じように、自分の心に従う覚悟を決めたんだ」



 ラウラ王には、そうした個々人の『心に従う』という感情が、上手く理解できていない。


彼は理知的で、時に利己的だ。故に他者の感情が理解できず、また群集心理における統計的行動予測は立てられても、それから逸脱した思考が出来ないんだ。



「だが流石に五つあるアシッド・ギア製造所の破壊を行った後では、警戒はされる。そしてアシッド・ギア製造所を兼ねる完成品ギアの集積所も、私の事を既に知り得、防衛策を整えている筈だ――と、ここだ」



 歩いてきた下水道の先、かけられた梯子を昇るアスハさんに続き、私も梯子を昇って上がった地上の先は……シュメルの郊外にある、低所得者層地区に隣接している、伐採区画の辺境だ。



「こんな所で……?」


「ああ。正確に言えばここの地下、だがな」



 また地下か……と思わなくもないけれど、アスハさんが指さした先には、伐採作業を行う事業社の建てたプレハブ小屋みたいな小さい事務所。流石にそんな所でアシッド・ギアの製造を行っていないだろうから、あそこを入り口にして地下へと続いているのだろうとは、確かに思える。


ちなみに今、私達は少し離れた場所……伐採予定地の只中に用意されたマンホールから出てきて、誰にも視認されぬよう隠れながら、プレハブ小屋を見ている。



「伐採区画の作業に使う備品と偽れば、アシッド・ギアの搬入もある程度は容易となる。加え、この区画は一部を除き一般の出入りが禁じられているので、アシッド・ギア製造所に相応しかった」



 だが結局、その場所でさえもラウラ王の息がかかっていた、というわけだ。



「それで、突入に際しての作戦は?」


「……作戦? そんなものがあると思っていたのか?」



 大袈裟な位首を傾げてくるアスハさんに、私は思わず「無いの!?」と声を張り上げてしまう。



「ある筈ないだろう。ただ地下施設に用意されたアシッド・ギアを強奪し、そしてアシッド・ギア製造に用いる機材や技術者を殺すだけの事だぞ」


「いやそういう単純な目的だとしても、あっちはアスハさんが来るって事前に予見してて、その防衛策を講じてる筈なんでしょ!? ならこっちも相応の作戦を用意しましょうよ!?」



 この人、頭良さそうな顔して頭脳筋なのかな?


そう言えばメリーって、ドナリアやアスハさんの事を軍人とか同志として認めてる所はあったっぽいけど、ドナリアの聖ファスト学院突入事件とか、ドナリアが準備不足の状況で勝手に行動して困った、みたいな事も言ってたな。


もしかしてアスハさんも、考え方はドナリアに近い人……?



「……分かった。確かに私も考えなしだったかもしれないな」



 良かった、アスハさんは脳筋じゃ無さそうだ。人の言葉が正当であると認識したなら、自分の考えを改める素養はあるみたい。



「よし、作戦はこうだ。お前はアシッドを見つけ次第、喰い、無力化しろ。私はアシッドを無力化しつつ、アシッド・ギアを強奪し、機材や人員の処理に当たる。以上」


「違うそれ作戦じゃなくてただの目標! 作戦っていうのはどこからどう突入してどう行動してとかを細かく検討し実行する事であって!」


「行くぞ」


「話し聞いてッ!?」



 木々の隙間を縫うようにさっさと駆け出してしまうアスハさんの後ろ姿を追いかける事しか出来ない私は、次第に近付くプレハブ小屋へと突入していく彼女に合わせ、木々の隙間から顔を出し、駆け出してプレハブ小屋へと入った。


中に居た三人程の作業員……恐らく作業員を装った、ラウラ王の息がかかった人員なのだろうけれど、彼らがその手にアシッド・ギアを持ちながらも、それを挿入してアシッド化する事も出来ずに心臓を突き刺されて死亡している様子を目に映す。



「……あんまり、気持ちの良いものじゃないな」


「アシッドとなる前に殺してやる事も、一種の優しさだ。人である事を辞めさせるよりも、人として死ぬ事が出来る方が幸せに決まっている」



 和紙で剣に残る血や油を拭ったアスハさんが、地下施設へと続く扉を見つけ出すように、小屋内の床を足で蹴りながら、探索している。


そうしていると空気の流れる音や、地下へと続く扉故に音の異なる床を見つけ出したのか、小屋の隅へと右足を強く振り下ろし、その隠し扉を破壊した。


 破壊された扉の瓦解する音と合わせ、大量の空気が地下施設から吹き上がり、僅かに私のスカートが捲り上がる。いやん。おっと、そんな事は今考える事じゃない。



「気を引き締めろ」


「……正直、あんまり納得いってないんですけど……まぁ、ここまで来たら付き合いますよ」

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