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家族-12

 まっすぐ、力強く言葉を発するガルファレットの言葉。


死別という経験を経て三年、その間に彼がどんな経験をしたか、シガレットは情報として知ってはいる。


しかし、子供という存在を導く教員になる事で、彼がどれだけ自分の傍にいた頃と異なっているのか――それを感じ、目頭辺りが熱くなる感覚を覚えた。


 だが、弱気の顔を見せる事は出来ない。彼に背を向け、声だけで彼へ示すしかないのだ。



「……ガルファレット、行きなさい。貴方が守らなければならない人たちの下へ」


「シガレット様」


「私の事は、もうルトちゃんが知っているわ。彼女に聞けばいい」


「貴女も、共に来てください」


「無理よ。私は私なりに、色々と責任を取らないといけないの。……だから、ここで貴方とは道を別つのよ」



 最後に微笑を浮かべたまま、シガレットは浮遊を続けてどこかへと去っていく。


 彼女の背中が見えなくなるまで見届けて、ガルファレットはため息と共に両手に残るマナを拡散させるように放出し、力を抜いた瞬間に膝からガクリと身体を倒れさせた。



「全く……二日連続での戦闘は、流石に応えるな」



 元々ガルファレットは魔術回路の改造を両親から受けている事もあり、常人よりも桁外れに強力な魔術使役が可能な人間だと言っても良い。


だが彼の狂化状態についてマナの消費量も常人より多く、狂化状態を短いスパンで乱用すると、マナを循環させる魔術回路の酷使も相まって、身体機能の一部衰弱も起こってしまうのだ。


先日行ったエンドラスとの戦闘だけならば、数日程安静にしていれば、彼の魔術回路と連動する自然治癒で身体機能は自然に回復していくが、今日は狂化状態を一部だけに留める部分狂化という応用まで用いてしまった。



「だが、まだだ……俺を、排除しようとした、という事は……アイツ等がどうなっているか……っ」


「そこはまぁ、安心して良いんですけどね」



 何とか身体を起き上がらせようとするガルファレットの傍で、女性の声が聞こえた。身体が動かせないものだから、視線だけを声の方向へと向けると――そこにいたのは、既に幾度か顔を合わせている女性の姿が。



「プロフェッサー、ケー……」


「アマンナちゃんは無事逃げられて、クシャナちゃんとフェストラ君も戦闘終了。ヴァルキュリアちゃんはホラ、この通り」



 彼女……プロフェッサー・Kの肩にはヴァルキュリアが担がれていた。静かに呼吸をしているようで、あくまで気絶した彼女をプロフェッサー・Kが回収した、という事だろう。



「何が、起こって……」


「色々と、ね。何にせよこれから、シックス・ブラッドと帝国の夜明け、二つの組織が協力して戦う事になった、という事だけ覚えておいてくれればいいんじゃないですかね」



 その手に握る霊子端末を操作し始めたプロフェッサー・K。彼女の周囲から青白い粒子にも似た細やかな輝きがガルファレットも包んでいくと――次の瞬間には、ガルファレット達のいる場所が、どこかの廃墟にも似た外装をした建物の前、植生の濃い森の中とも言うべき場所となった。



「っ、ここは……?」


「帝国の夜明けアジトです。……じゃ、私はここで」



 ヴァルキュリアの身体をガルファレットの背中に預けるようにして降ろしつつ、彼女はまた霊子端末を操作してどこかへと去っていこうとする。



「いや、貴女にも色々と伺いたい事がある。是非、このまま合流してほしい所があるんだがな」



しかしそんな彼女を止めたのは――クシャナに肩を借りながら両足をゆっくりと動かす、フェストラである。


彼は目に見える部分においても怪我を何か所かしている様子であったし、クシャナもアシッドの持つ再生能力で癒えてはいるのだろうが、生々しい血の跡が残っている。



「だがまずは一つ聞きたい。アマンナは」


「大丈夫。アマンナちゃんはもう中にいる」


「……そうか。なら、残りの質問は中で聞こう」



 クシャナに支えられていた身体を自立させ、クシャナにガルファレットを任す。


彼女はガルファレットの両腕を抱えようとするが……しかし重すぎて持ち上げる事が出来ない。



「先生、ダイエットしてよ」


「俺のは贅肉じゃなく筋肉だ……いい、それよりヴァルキュリアを」



 少しハイリスクに思えたが、しかしこのまま寝そべっているわけにもいかない。マナを身体に投じて一時的なドーピング効果を働かせて立ち上がったガルファレットは、プロフェッサー・Kと向き合った。



「フェストラの言う通り……是非、貴女からもお話を伺いたい」


「……そんな大した事言えませんよ?」


「もう敵がラウラであるという事を知った。そして現段階において貴女にとっても一番最悪なシナリオは、ラウラがこの国の神として君臨する事――違うか?」



 フェストラとガルファレット、二人に挟まれながら迫られる彼女は、しばし考え込むように沈黙すると、ため息をついて頷いた。



「分かったよ。と言っても、立場上言えない事もあるんだから、その辺は勘弁してよね?」


「分かっている」



 全員で建物の中へと入っていき、フェストラは少し埃っぽい室内で口を押さえていたが、中へと進んでいくにつれて、清掃がしっかりと施されている綺麗な部屋へと辿り着いた。



「来ましたね、フェストラ様」



 言葉で出迎えたのは、メリーが一番最初であった。


広々とした部屋の椅子に腰かけたメリー・カオン・ハングダムと、その隣に立つのはルト・クオン・ハングダム。その二者から少し離れた場所で身体を休めているファナ・アルスタッドとアマンナ・シュレンツ・フォルディアスだ。


特にアマンナは、ファナによって治癒を施された後なのか、すぐに立ち上がるとフェストラの胸に飛び込んだ。



「お兄さま……ッ」


「い……ッ、いきなり抱きつくな。痛いだろうが」


「ご、ごめんなさい……」



 つい気持ちが昂って強く抱きついてしまった事が要因で、痛みを訴えたフェストラ。そんな彼の事を慮って身体を離した後、少し距離を置こうとする彼女に、フェストラはため息をつくと同時に、アマンナの頭を撫でる。



「……あとで、少し話をしよう。それで良いだろう?」


「あ……は、はいっ」



 彼の言葉に、嬉しそうな表情を浮かべるファナの事を、プロフェッサー・Kが見ていた事は、誰も知らない。


それに気付くよりも前に、ファナが動いたからだ。



「お姉ちゃんも無事で良か――ヴァルキュリア様が大怪我の上に気絶してるゥッ!?」



 最初は笑顔で姉の帰還を心待ちにしていた可愛らしい妹としての表情をしていたファナが、クシャナに背負われていたヴァルキュリアの事を見るや否やクシャナを無理矢理退かし、ヴァルキュリアに「イタイノイタイノ・トンデイケーッ」と治癒魔術を展開していく。なおクシャナの身体もそれなりに疲労が溜まっていたのか、ファナに横っ腹を押された事で「ヴッ!!」と声をあげながら倒れた。



「ファ、ファナ……お姉ちゃんよりも、ヴァルキュリアちゃんを優先なのかい……? お姉ちゃんは悲しい……っ」


「お姉ちゃんは後ッ! それよりヴァルキュリア様が凄く怪我して――あれ、無いや」



 ヴァルキュリアに治癒魔術を展開する事で、彼女の負傷状態を確認するファナだったが、しかし感じ取れる負傷は一つも無い事を確認。


胸元にそれなりの出血跡があり、それ以外にも負傷した形跡こそ残っているものの、今すぐ治療が必要な怪我はなく、首を傾げるファナ。


しかし体力はごっそりと減っているのか、気絶したまま起き上がらない彼女に展開した治癒魔術は大きく貢献したようで……数十秒ほどファナの展開した治癒によって体力と意識を取り戻したヴァルキュリアは、身体をすぐに起き上がらせ、周りを見渡した。



「む、え、あ……こ、ここはどこであるか……?」


「帝国の夜明けアジトだよ。色々とあったが、覚えてるか?」



 薄暗い建物の陰に隠れていたように、一人の男が声をあげる。ヴァルキュリアと共にエンドラスと対峙した、ドナリア・ファスト・グロリアだ。


彼は煙草に火を灯すと同時にプロフェッサー・Kへと視線を向けると、彼女はコクンと頷いた。



「ヴァルキュリアちゃん」


「プロフェッサー・ケー殿、であるな」


「初めまして……じゃないんだけどね、一応。それより、覚えてる?」


「覚え――あっ」



 彼女とドナリアの言葉通り「思い出した」ヴァルキュリアは、自分の身体を満遍なく触れて何かを探すようにした。


結果、彼女の着ていた制服のポケットに、六インチ液晶が搭載されたベゼルレスタイプのスマートフォンと同様の外観をしたデバイスが入っていて、それを握った彼女は、プロフェッサー・Kに「コレは」と問うた。



「対アシッド用マジカリング・デバイス【シャイニング】だよ」


「……や、やはり夢ではなかったのだな!」



 立ち上がったヴァルキュリアが、その手に握るマジカリング・デバイスを見せびらかすように横向きで倒れるクシャナへと近付き、彼女へ嬉々とした声を浴びせる。



「クシャナ殿クシャナ殿! 拙僧も魔法少女になれたのだ! 煌煌の魔法少女・シャインであるぞ! 己の事を言うのは気恥ずかしいのだが、輝きに充ち満ちた気高く美しい姿になれていたと思うのである!」


「は……? ヴァルキュリアちゃんが魔法少女に……?」



 嬉しそうにしているヴァルキュリアとは異なり、ドナリアとプロフェッサー・Kを除く面々は怪訝な表情を浮かべている。


特に……フェストラとメリーは目を細め、強くプロフェッサー・Kを警戒したようだった。



「どういう事か、聞かせて貰おうか」


「ええ。……もう、三人称視点で高みの見物、という訳にはいきませんよ。プロフェッサー・K」



 二者による言葉を受け、プロフェッサー・Kは深くため息をついて、心底イヤそうな表情を浮かべたが……その表情変化でさえも、誰に気付いてもらえることは無かった。

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