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家族-08

「加えてアマンナはどうにも現行犯というより、暴行された後のように見えた。この状況において捕縛ではなく排除を優先したという事になれば、やはり突発的な判断として、お前ら二人を止めようとするのが一般的な行動だと思うが?」


「あー、私でもそうしちゃうかも。もしかしたら私ってばフェストラより反射神経が無いから、アマンナちゃんを守る為に自分の身体を身代わりにしちゃったかもしれないなー。そうしたら誰がどう責任を取るんだろうねー?」



 アマンナが、フェストラとクシャナにアイコンタクトを送りながら、身体を休める事が出来たと言わんばかりに、先ほどまでより早い動きでその場から立ち去ろうとする姿を見届ける。


サーペストとレガリアスは、アマンナの行方を目で追いながらも――追及するフェストラとクシャナを前にして、動く事は出来ない。


否、違う。これこそが二つ目の狙いだ。


今の二人には、脳裏で幾つかの考えが過っている。



――もし、今回のアマンナ殺害を命じた理由が、ラウラによる個人的な事情によるものであった場合。意気揚々とアマンナの首を獲ったと帰ったサーペストとレガリアスの行動が不当なモノとしてラウラにより処理されてしまう可能性もある。


――そうなった時に有利となるのはフェストラの証言であり、特にフェストラが言うようにラウラによる命令であると証明できるモノがない。


 ――ならば、今はフェストラの言葉に耳を傾け、彼の判断によって取り逃がしたという大義名分を得られれば、自分たちが罰される事はないのかもしれない。



自分たちの立場、自分たちの属する組織の立場、ラウラという男の狙いが不明瞭である事に加え、アマンナがどうした罪を以て排除されるべきであるのか、それをラウラから伺っていない事が、反論も出来ない理由となっている。


そして、二人の態度を見れば、長年人を見続けて政治の世界を生き抜いたフェストラには、彼らがどうした立場であったかを理解できる。


さらに、それはクシャナも同様だ。



「まぁ百歩譲って、ラウラ王からの勅命だと信じたとしよう。だがその場合、排除か捕縛のどちらかを命じられていた場合、捕縛の方を優先すると思えるが?」


「……ラウラ王の命では、排除の方が優先であるとされておりましたので」


「だがオレが先ほど『アマンナの捕縛及び身柄の安全を保障すると言うのなら、オレはお前達に従う』とした。この時点で何故一考する事無く排除に動いたと?」


「それは……アマンナ・シュレンツ・フォルディアスの逃亡を察知致しましたが故であり」


「十王族であるオレへの説明責任や、オレの提案へ返答を果たす事なく?」


「現場における臨機応変な判断が求められる状況と考えてしておりましたので……」


「なるほど。貴様らは現場における臨機応変な判断によって――オレの忠告は無視するに値すると判断したわけだな?」



 オレの忠告。それはフェストラが口にした『少なくともお前達の望んだ形にはなり得ない』という言葉だろう。


それはクシャナにも真意を察する事は出来なかったが、ある程度予想は出来る。


だがもし、この予想が正しければ……相当無理矢理な理屈ではないか、と首を傾げるしかない。



「理解した。――ならばオレは、作戦指令書も令状も持たずに女学生の殺害を企てるお前達の行動から『ラウラ王が不当にアマンナ・シュレンツ・フォルディアスの排除にお前達を寄越した』と判断しよう」


「な……?」


「大切で有能な部下であり、妹であるアマンナを、お前達に狙われたのだ。少なくともお前達の証言通り『ラウラ王が証拠やっ根拠も無しに、妹であるアマンナを排除しようと動いた』可能性もあるとして、自主防衛の為に身を隠す必要がある」


「お、お待ちください。それはつまり」


「ああ。貴様ら正規の帝国軍人が証拠も無しにアマンナを狙っている現状を鑑み、ラウラ王についてを信用する事が出来ないと判断。オレと妻になる予定のクシャナ、及びその周辺人物の安全を守る為に身を隠し、独自行動を執ると、お前達へ宣言する」



 ゾワリ――とサーペスト及びレガリアスの背筋に薄ら寒い気配が過った。


わざと言葉を濁している所はあるが――フェストラは今回の件を、サーペストとレガリアスの二人が行う現場判断に委ねた形となった。


この現場判断に委ねた形にした理由はいくつか存在するが、今この状況を有利足らしめているのは『フェストラの忠告を詳細に聞く事無く、アマンナの排除へと反射的に動いてしまった事』だ。


フェストラは『少なくともお前達の望んだ形にはなり得ない』という言葉だけを述べて、アマンナに行動を促した。結果として彼女は逃亡を果たす事が出来た。


だがそれと同時に、サーペストとレガリアスの二人が反射的に排除行動へと移ってしまったが故、フェストラは二人から『十王族からの説明要求及び協力の呼びかけに応える事なく行動に移ってしまった』というミスを引き出し、加えて『少なくともお前たちの望んだ形にはなり得ない』という曖昧な言い方だけしかしていない要求を、呑んだように見える状況へと仕立て上げたのだ。


もしここで『お前達への法的処置も検討する』等と具体的な言葉にした場合、二人もそこでアマンナの行動に際して反射的な行動を押さえる事が出来たかもしれない。


だがあえて曖昧な物言いの要求にした事で、その瞬時における行動抑制を排したのだ。


そして紛いなりにも、サーペストとレガリアスの二人は、帝国騎士として名を連ねる者達。


帝国の夜明け構成員であるドナリア達と異なり、今現在も職務に就く正式な帝国軍人だ。


そんな二人が「ラウラ王からの勅命」としての証拠も無く行動していたとすればフェストラは「ラウラからの不当な命令に動かされた者達」と、ラウラ当人を訴訟する事も出来るようになる。


これによって最後にフェストラが口にした『オレと妻になる予定のクシャナ、及びその周辺人物の安全を守る為に身を隠し、独自行動を執ると宣言する』という言葉の意味が利いてくる。



「今後、オレと直接血の繋がりがあるアマンナ・シュレンツ・フォルディアスや、オレの組織していたシックス・ブラッドの構成員であった面々、加えてアルスタッド家の身柄を不当に確保・排除するような動きが確認されれば……オレはお前達への訴訟へと踏み切るつもりだ。その時に何と裁判所で説明するかは考えておけよ」



 これが三つ目の狙い。彼ら二人が寄越された事により、ラウラ王への不信を過らせたフェストラが、今後ラウラの監視状態から離れて行動する為の布石として使ったのだ。


これにより、ラウラがどの様に行動するかは二通り考えられるが……どちらにせよフェストラ達からした場合、有利にしか物事は運ばない。



一つ目はこのままフェストラやクシャナの周辺人物……つまりアマンナやヴァルキュリア、ガルファレットやファナというシックス・ブラッドの面々が狙われる事の無い状況をラウラが認め、かつフェストラはラウラからの命令権より逃れた独自行動を執る事が可能と言う事。言ってしまえばラウラはフェストラの術中に嵌り、彼らに何も手出しが出来ぬ状態となってしまう事に他ならない。



二つ目はラウラがまた別の人間をシックス・ブラッドの排除に動かす事だが……フェストラが今封印空間から取り出す二枚の紙に記すのは、誓約書ともいえる法的効力を有する書類。


小難しい内容が並び立てられる書類だが、端的に内容を述べるとすれば「シックス・ブラッドの面々や周辺人物を不当に確保・排除するような動きが見受けられた場合には『サーペスト・ランディ』及び『レガリアス・ビスト』の両者、加え両者へ命令を下したと証言する『ラウラ・ファスト・グロリア』への訴訟と調査へと踏み切る」という意味のものである。


もしそうした動きにラウラが動く場合、フェストラにとって何が重要となるか――それは帝国城地下に存在する、ラウラとフェストラの管理記録だ。


この訴訟が行われた場合、事実関係の確認に最も理想となるのは……ラウラとフェストラの身体に埋め込まれている魔導機と連動する行動管理魔導機によって記された記録である。


フェストラの記録には『ラウラ王よりの勅命により、アマンナ・シュレンツ・フォルディアスの排除または捕縛を命じられた二人が現れた』等の旨が記されている筈であるし。


ラウラの記録には『サーペスト・ランディ及びレガリアス・ビストの両名にアマンナ・シュレンツ・フォルディアスの排除または捕縛を命じる』とする旨が記載されている筈だ。


 となればラウラは「不当に十王族の血縁者を狙う者」として矢面に立つ事となる。


加えてその訴えを起こす人物がフェストラ、という事になれば余計に厄介な事となる。


相手がフェストラで無ければ、いくらでも情報操作・隠蔽は可能かもしれない。


だがフェストラは情報操作・隠蔽を行う為に必要な各広報事業社に顔が広い。つまりフェストラ本人が動いて情報操作・隠蔽における証拠を掴む事は比較的容易であると考えられ……もしそうなった場合、ラウラへの社会的信用は地に落ちる。



「……確かに、帝国の夜明けが味方に引き入れたいと考えるわけだね」



クシャナは、そこまで頭の中で整理した上で、どれだけフェストラと言う男が、一瞬の内に思考を回す事が出来る人間であるか、それを少し恐怖してしまった。


ここまでの流れで、目の前にいる二人がどう動いたとしても、フェストラにとってはマイナスになる事など一つもなかった。


全て「どれだけ自分にとってプラスな状況になるか」というものでしかなく、どんな状況になったとしても劣勢になる事はあり得なかったのだ。

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