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家族-06

 まっすぐに、フェストラの目を見て言葉を返すクシャナと言う少女の言葉に、彼はただ押し黙り、何も言う事はない。


そんな態度がどこかモヤモヤとしてしまい、クシャナは頭を掻きながら「ともかくだ」と話を切り出した。



「何にせよ、このままじゃシックス・ブラッドの面々が色々とマズいんだよ」


「……何があったと言うんだ?」


「ファナがラウラ王から真実を聞き出して、ラウラ王の顔面にグーパンチしちゃったんだって」


「は?」


「で、ファナがラウラ王に喧嘩売っちゃって、ルトさんがファナを連れて逃げ出したってカンジ。今は帝国の夜明けが持ってるアジトに逃げ込んだよ」


「ちょ、ちょっと待て。それはつまり……ルトが帝国の夜明けに寝返ったという事か……?」


「一時避難の意味合いが強いだろうけど、まぁラウラ王はそう思わないだろうね」



 先ほどまでとは異なる、困惑と苦悩と言う表現が相応しい面持ちで、頭を抱えるフェストラ。そうした彼を見るのは少し面白かったが、話の本題ではない。



「ルトさんはファナの考えが正しいと判断し、ラウラ王から離反した。そして」


「ファナ・アルスタッドを守る為に、お前達がシックス・ブラッドの再結集を図る考えたラウラ王が、お前やファナ・アルスタッド以外の面々と、加えて離反して帝国の夜明け側へと就いたルト・クオン・ハングダムを、反乱分子として始末する可能性がある、という事だろう……!」



 説明するまでも無く、疾く思考を終わらせたフェストラが、困惑から次第に怒りへと表情を変えていく。


どうしてそんな事を、と怒鳴りたい部分はあるのだろうが、ここにファナはいない。故に怒鳴った所で何も変わらないと判断したのだろう。



「お前の妹は真面目な娘だと思ったが、こんな情勢でよくも仕出かしてくれたな……!」


「許してやってくれよ。ファナは子供なんだから」


「お前と二歳しか違わんだろうが!? 大体そのせいで他の連中がどれだけ迷惑を被ると思っている!?」


「でもこれで、お前も動かざるを得ない状況になっただろう? ――何せアマンナちゃんまでが、これで巻き込まれちゃったんだから」



 クシャナがニヤニヤと笑いながら。


服の中に仕込んでいた一冊の本を取り出した。



「コレ、何か分かるか?」


「……お前、何を持ち出してるッ!?」



 クシャナが取り出した本は、一瞥するとただの分厚いハードカバー製本に見えたが、良く見るとそれは本ではなく、記録をまとめたものだ。

纏められている記録は――フェストラ・フレンツ・フォルディアスの記録。


帝国城地下にある記録魔導機を用い、帝国王や帝国王候補たちの行動を記されたモノである。



「私が持ち出したわけじゃないって。多分、メリーの奴が持ち出した奴だと思うよ。あのドタバタ中に一冊だけ持ち帰るって、アイツも相当抜け目ないよね」


「それを何故お前が持っている!?」


「この本にある言葉を、お前に伝えて欲しいって言われてね」



 既に幾度も読み返しお腹を抱えて笑い転げた部分、その内容に再び目を通すと――クシャナはやはり強烈な違和感に強く噴き出した。



「くくっ、ぐ、ふくく……! えーっと……『アマンナ、ぼくの妹、アマンナ。小っちゃくてかわいい』……ぶはっ、駄目だ笑う……ッ!」


「なぁ……ッ!?」


「『アマンナは小っちゃいから、お兄ちゃんになるボクが守る』、『アマンナ、だいすき』……ぶふぅっ! ねぇねぇフェストラー。今でもこう思ってんのー? 思ってんなら何で口にしてあげないのさぁー。お姉ちゃんとお兄ちゃん同士で語り合おうよぉー」


「ふ、ふざけるな返せ……ッ!」


「返せって別にお前のじゃないじゃんか。ていうか行動記録魔導機って凄いね。コレどういう仕組みなんだろう。ねぇフェストラ、今のお前がアマンナちゃんに対してどんな気持ちか読みたいからまた地下室侵入しようよ」


「ああああああ――ッ!!」



 顔面に赤い絵の具をぶちまけたかのように赤色化した表情と混乱した頭を以て、強く地面を蹴ってクシャナの顔面を殴りつけるフェストラ。


痛みと同時に強く地面に叩きつけられたクシャナだったが、そこは赤松玲時代も合わせた数十回を越える自殺経験者、痛みに慣れている彼女である。


両手でしっかりと本を握り、口に血を滞留させながらも「絶対に読み続ける」と決意するかの如く、口を開く。



「『お兄ちゃんは頭のいい方がカッコいいから、真面目に勉強しよう』、『アマンナは女の子だし強いお兄ちゃんの方がいいと思うから、騎士って人になろう』……お前どんだけアマンナちゃんの事好きだったの? 若干引くんですけど」


「それ以上読むな殺すぞォ!!」


「あー、いやでもこの時のお前も四歳位だもんなぁ。ぐえ! 子供の時のお前ってアマンナちゃんの事が大好きなお兄ちゃんだったんでちゅねーぐぼっ! 王になる為に産まれたフェストラ君も、妹という可愛さの塊を前にしたらごほっ! メロメロになっちゃったんだねー剣は止めろよッ!?」



 何度殴りつけても本を手放す事なく、またクシャナの手から本を奪おうとしても、一大イベントだと言わんばかりに手を離そうとしない彼女の顔面に向けて金色の剣を振り下ろしたが、流石にそれは避けた。



「い、今すぐ……今すぐその本をこっちに寄越せ……ッ! そうしたら三回殺すだけで許してやる……!」


「アシッドの再生能力を複数回殺す為に利用するのやめてくれない? で、どうなのさフェストラ。お前まだアマンナちゃんの事をお兄ちゃんとして大切にしてんの?」


「だとしたら何だと言うんだ六回殺すぞ!?」


「何で今のアマンナちゃんに、お兄ちゃんとして寄り添ってやんないのさ」



 本をフェストラの胸につき返しつつ、少し真面目な表情で問いかける。



「不可抗力だったんだけど……私、アマンナちゃんが小さい頃、お前の父親らしい人に叩かれている夢を見たんだ」


「……なんだと?」


「『何故アマンナは第五世代魔術回路なのか』とか『お前はフェストラの妹じゃない』とか『フェストラの影として生きろ』みたいな事を、散々罵倒してた。私の幻惑能力が睡眠時にちょっと暴走して、夢に出てきたと思うんだけどね」



 クシャナ・アルスタッドというハイ・アシッドの有する固有能力は【幻惑】だ。この能力は、対象人物の深層意識を読み取り、読み取った内容を相手の脳内で再生させる事で惑わす能力となっている。


その能力は強力でこそあるが、赤松玲の時代も含め、クシャナにも若干制御しずらいものだ。


夢という無意識下の中で特定人物の深層意識に残る記憶を読み取ってしまう事もあって、アマンナの記憶もそうして読み取れてしまったのだ。



「その時、父親に連れられていたお前は……アマンナちゃんの事を見て、優し気に見てた。優しいお兄ちゃんの目だったよ、あれは。同じお姉ちゃんだから分かる」


「……何が言いたい」


「何でお前は、アマンナちゃんに『お兄さま』って呼ばせないんだ? 何でアマンナちゃんに、可愛い妹だって、大好きな妹だって、伝えてあげないんだ?」



 一度アマンナに問うた事がある。


何故、普段からフェストラに「お兄さま」と呼ばないのか。その問いに対し、アマンナは苦笑交じりでこう答えたのだ。



――お兄さまは、わたしにそう呼ばれるのが、好きじゃないみたいなのです。……たまに、わたしも間違えちゃうんですけど、その度に怒られちゃいます。



ずっと気がかりで、でも知る術も、聞く道理も無かったからこそ問わなかった事を、いい機会だと聞いた。



「……伝えた所で、どうなる? アイツは王となるオレの影として生まれ、育てられた。その事実は変わらない」


「でも、兄妹として愛し合う事は出来た筈だ」


「アマンナの性格を知っているだろう。アマンナはオレを狂信している。そんなアイツに家族としての情を植え付ければ、よりオレを守る為に無茶をするに決まってる」



 いや、と。


そこでフェストラが、諦めたような苦笑交じりの表情で、一度首を振った。



「それだけじゃない。……オレは、アマンナを愛しているからこそ、アイツに気付いて欲しいと願ったんだ」


「何をさ」


「アイツにはアイツなりの生き方が、在り方がどこかにあるんだと……それを何時の日か、アマンナ自身が見つけ出せる筈だと……兄としてそれを望んだ」



 お前も姉なら分かるだろう? と、そう訴えるフェストラの言葉に、クシャナも頷く。



「今でも、アマンナちゃんが好きなのか?」


「当たり前だ」


「アマンナちゃんを守りたいのか?」


「当たり前だっ」


「どんな困難があっても、アマンナちゃんを守ると言う意思は変わらないのか?」


「当たり前だ――ッ!!」



 クシャナの胸倉を掴み、強く叫び散らすフェストラの言葉。


その言葉を聞いて、クシャナは僅かに視線をフェストラから外し、クスクスと笑った。


彼女が何故笑ったのか、何故視線を僅かに外したのか、それが分からずフェストラが、クシャナの視線が向いた先へと顔を向ける。



「ぇ、……と、その……お兄……さま?」


「……アマンナ」



 顔を向けた先には……随分と痛々しい生傷を身体に負った、話の根幹にもあったアマンナという妹が、フェストラとクシャナの口論を聞いていたように、その魔眼を隠す髪の向こう側までが真っ赤になっている様子を見受けた。


つまり……アマンナはずっとそこにいて、フェストラはそれに気付かず、クシャナだけがアマンナもいると気付きながらも指摘しないでいたのだ。



「あの……お兄さまは、わたしの、事……妹と、見て」


「……ああ」


「わたしの……生き方を……お兄さまとして、望んでくれて、いたの、ですか……?」


「……それが、兄としての在り方だ」

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