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家族-05

 真意。ヴァルキュリアに伝えるべき――エンドラスが何故、ラウラに加担するのか。


 そして……彼女の母であり、エンドラスにとっては唯一無二の妻であるガリアの願い。


だが、それをどう説明すればいい?


 エンドラスは娘との語らい方を、分からないでいた。


だからこそ、これまでの中で娘をシックス・ブラッドという組織に身を置かせる事しか出来ず、自らの手が届く所に居させる事が出来なかった。


娘も娘であれば……親も親で子供との距離を計り違え、語らいを怖がっていたのかもしれない。



「それに、あの娘の持つマジカリング・デバイスは、クシャナ君の持つデバイスよりも危険な代物だ。強力というだけじゃない。……アレは、彼女を人ならざるモノに変革させ得る兵器だ。可能な限り、ヴァルキュリアは戦いから遠ざけておいた方が良い」


「……承知、致しました」


「もう、今日は休みなさい」



 カツン、と杖を屋上の床に打ち付けたラウラ。すると、エンドラスの左腕に出来た傷口を埋める、高熱によって熱されて閉ざされた傷口を含め、もう少し深めに腕が切断された。


痛みに耐えたエンドラス。シャインによって斬り裂かれた切断面も含めた二の腕の切断によって、彼に埋め込まれた新種のアシッド因子が再生を始める。


少しずつ生えてくる腕、エンドラスはその再生を終えて苦痛が消えると……まるで「この世の終わり」を痛感した者のように、ズンと沈んだ表情を浮かべた。



「今後については追って伝える」


「……かしこまりました」



 覚束ない足取りで、立ち去っていくエンドラス。


彼がここまで弱弱しく見えた事は、ガリアの死去日以来だろうかと。


ラウラは自分らしくない過去の振り返りをしてしまった事に頭を振るうのである。



 **



フェストラ・フレンツ・フォルディアスの振るった金色の剣、それが幻想の魔法少女・ミラージュの振るう黒剣と合わさり、互いの刃を弾き合う音が、幾度となくその通りで繰り広げられていた。


だが二者は、剣戟における音を気にする事はない。


何であれば、振るわれた刃を必要以上に警戒しても居ない。


ただ、互いの放つ言葉に耳を傾けているだけだ。



「お前そもそもさ! 色々と注文つけたい所はあるんだけど、まず私に対する対価って意味合いだと、支払われる金額少なくない!?」


「どこが少ないと言うんだ!? 一般就労規約に則った分の給料は支給していた筈だぞ! 危険手当も振り込んでやっただろうが!」



 ミラージュの振るった黒剣、しかしその踏み込みや角度の浅さが要因か、金色の剣によって弾かれると同時に、ミラージュの手から離れて宙を舞い、ミラージュは二歩遠ざかりながら分身を出現させた。



「大体アルスタッド家の警護全般にどれだけ人手を割いてやったと思ってる!? しかもレナ・アルスタッド誘拐時には帝国警備隊では死者も出たんだぞ!? その分を考えれば貴様へ支払う金額は過剰支給とも言えるだろうが!」


「っ、何の罪もない一般市民を守るという意味合いで、その辺は防衛費用で落とす事が前提だろ!?」



 出現した四体の分身に対抗するのは、フェストラが左手の指で鳴らした音を合図に出現した魔術兵達だ。


その手に握られるバスタードソードがミラージュの分身体を即座に斬り裂き、消えたタイミングとほぼ同時で、ミラージュも弾き飛ばされた黒剣を拾い、再びフェストラへと斬りかかった。



「お前がファナ・アルスタッドやレナ・アルスタッドへの防衛について、身柄をこちらで確保する事を望んでいなかった事がそもそも問題を複雑化した原因だろう!? 最初からあの二人を俺主導の下で警護出来る状況を作れれば良かった話を、お前が『家族を巻き込むな』と拒否したんだろうが!」


「あの時お前そんな事を事細かく説明しましたかー!? 何時何分何秒この星が何回自転した時ですかー!?」


「何だその煽り方!?」



 そんな不毛な言い争い、加えて互いに「相手が気に食わない」という考えしか持たずに、スタミナ調整も至らずまともな戦いをしようとする気が無いから、余計に疲れがたまる。


 だからだろう。フェストラが振るった金色の剣も、ミラージュが構え直した黒剣も、接触の衝撃によって二人の手からまたも弾かれた。


ミラージュは腰を捻り力を込めるようにして振り込む拳。


そしてフェストラは冷や汗が吹き出る感覚と共に、懐から取り出したゴルタナを、ミラージュの突き出す拳に合わせて叩きつける事で、強固なゴルタナが彼女の拳を受け止めた。



「ホントに、私はお前が嫌いだ」


「オレだってお前が嫌いだ」


「何時だって自分勝手で、成果の為なら方法も選ばず、時に民衆さえも犠牲にする……そいういう風に自分を演じて、自分だけが傷つこうとする、お前が嫌いだ……ッ!」


「何時だって人生に達観し、俯瞰的な場所から周囲を見渡す事で、早い内から状況を見据え、手に負えないモノに対し諦める事に慣れた女……そう自分を偽っている、お前が嫌いだ……ッ!」



 一度拳を引き、今一度振り込まれる拳。


しかし互いの拳は、それぞれがそれぞれの頬を殴りつけ、勢いよく殴られた身体が、互いにのけ反ってしまう。


狭い通路の壁に身体を預けたフェストラと、ゴルタナを握った右の拳で殴られ、地面を転がった事で変身が解除されたミラージュ……クシャナ・アルスタッド。


それでも……クシャナは口を切って僅かに出る出血を自身の再生能力によって癒し、立ち上がる。



「なぁ、フェストラ」


「……なんだ」


「私たちはそろそろ、素直になるべきなんじゃないかな」


「……素直だと?」


「うん。お前の言う通り、私はずっと……自分を偽ってきたんだよ」



 クシャナはずっと、自分の心を偽り続けて来た。その事実を認識していながら、見て見ぬフリをし続けてきたと言っても良い。



――否、偽り続けて来たのは、赤松玲という名を持っていた時からだろうと、今考えれば分かる。



「戦いは嫌いだ。それは嘘じゃない。だから戦いに巻き込みやがったお前を、若干恨んでるのはホントの気持ちだよ」


「恨みたければ恨めばいい。お前に恨まれた所で、オレは何とも思わん」


「でも違うんだ。本当は私も、戦わなきゃいけないんだって、心の中で思ってたんだ。色んな事をお前に押し付けて、私はお前に動かされて仕方なく戦っているだけだって、そう思い込む事で……自分を偽り続ける事で、戦う理由を見出してきた」


「それがオレの目的だった。お前が戦わなければならない状況に仕立て上げて、オレの手中に置く事が」


「けれど、お前はそうして私とアシッドが戦う事を……後ろめたく思ってただろう?」



 初めてこの世界、この場所でシルマレス・トラスというアシッドの頭を喰った時。


フェストラは、咽び泣きながら倒したシルマレス・トラスの頭を喰うクシャナを見て、驚嘆していた。


 否、コレも正確に言えば違う。


フェストラは結局、その景色を見た事で、彼女の生涯における苦悩を、察してしまったのだろう。


アシッドと言う存在が何か、どう対処しなければならないか、クシャナがどうした存在なのか、彼女が咽び泣きながらアシッドの頭を喰い尽くす所を見て……クシャナがどれだけ、苦しみながら今まで生きて来たか。


それを察する事が出来たからこそ、彼女を利用する事に対する罪悪感を覚えた。


けれどアシッドという存在に対抗する為には、クシャナという存在が必要だ。だから、罪悪感と使命の狭間で、彼は【利害関係】を作り出した。



「……何が言いたい。お前の言っている事は何ひとつ理解できん、もっとはっきり物事を言ってみろ!」


「私はお前が嫌いだけど、お前の不器用で優しい部分は嫌いじゃないって言ってるんだよ!」



 正直に打ち明けたクシャナの言葉に、フェストラは目を見開いて言葉を失った。


クシャナ本人も、僅かに顔を赤め、素直に打ち明けた自分の言葉を恥ずかしがるように、口元を押さえる。



「べ、別に、お前が好きってわけじゃない。けど、それでもお前のそういう所は……まぁ、気に入ってる。だから……私はお前についていこうって思ったんだ」


「……だから、シックス・ブラッドを再開してくれと?」


「違う。今はただお前の、正直な想いを聞かせて欲しいだけだ。ラウラ王に従う事が、お前にとっても正しい事だって言うのなら、私も無理強いはしないけど……お前が納得していないなら、お前と一緒に戦いたい。今度は、お前の言いなりじゃなくて、お前に色んな事を押し付けるんじゃなくて、お前との利害関係じゃなくて……一緒に、肩を並べて」



 一緒に、肩を並べて戦う。


互いの利益など関係なく、共に戦う関係。


それこそが――本当のチームであるのだと、クシャナは唱える。



「私だけじゃない。きっとファナも、ヴァルキュリアちゃんも、ガルファレット先生も……アマンナちゃんだってそう思ってる筈だ」


「……正直な気持ちを曝け出した所で、お前達を巻き込める筈がない」



 涙はない。しかし、今にも泣き出してしまいそうな表情を以て、フェストラは嘆き始める。



「ああ、そうだよ。オレは、オレ自身を誤魔化しているよ。嘘をついているよ。自分自身を偽っているよ。ラウラの考えは許容できないと。だが、どうしろというんだ」


「それを、お前に考えて欲しいんだ。私にも出せる知恵があるなら、いくらだって捻り出してやる」


「そうじゃない。お前達を巻き込めないんだよ。ラウラへの反旗は、生か死かという平等で単純な戦いじゃない。国と個人の戦いだ。社会的抹殺も、実質的抹殺も為すがままの権力を持ち得るラウラとの戦いに、お前達を巻き込む事なんて出来ない。それは、オレの両肩じゃ重すぎる責任だ」


「その責任をただお前に押し付けたくない。だから共に肩を並べようって言ってるんだよ」


「それがどれだけ困難な事か、分かって口にしてるのか?」


「それだけの困難を分かち合って、助け合いたい。少なくとも私はそう思う」

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