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家族-03

 ラウラの言葉に、カルファスは口を開かず、ただラウラを見据えている。


その言葉を、カルファス自身も理解していると受け取りながらも、ラウラは続ける。



「まだまだ解析が足りない部分はあれど、どうしたプロセスを経て駆動しているかは、ある程度理解が出来ました。アレは【虚力】という精神エネルギーの一種を用いた駆動システム、というわけですな」


「とは言っても、起動と変身に必要なだけですけど」



 虚力とは人間の有する自我を司るエネルギーであり、基本的に女性が多く持つエネルギーであるとされており、この虚力が多ければ多い程、感情表現が豊かであるとされている。


クシャナの有するマジカリング・デバイス【イリュージョン】における起動と変身にもこの虚力が用いられている上に、太古には【姫巫女】という女性達が虚力を用い、人類社会に災厄をまき散らす【災い】を討滅していた、と言い伝えも残っている。



「加えてあの再生能力――アレは間違いなく【アシッド因子】によるものでしょう」



 煌煌の魔法少女・シャインの有する技にはいくつか不可解な点が見受けられる。


そもそも他者の身体を焼き断つ事が出来る程の熱量を放出できるにも関わらず、自身へのダメージが一切無いとしか考えられぬ点。


加えてその両腕に存在する――カルファスが【溶解炉マニピュレータ】と呼称している武装は、触れた相手の頭部だけを空間魔術で覆い、その空間内で摂氏三千度以上の熱によって蒸発させる事で、頭の欠片も残す事なく消滅させるというものだ。


しかし、三千度以上の熱エネルギーを造り出す術とは、魔術であれば大魔術にも近い領域の技術だ。いかにカルファスが作り出したマジカリング・デバイスであるとしても、使用者に何の負担も無いとは考え辛い。


 必ずどこかで、ヴァルキュリア本人の肉体を酷使しているとしか思えない。現にヴァルキュリアは、変身時には体調を改善させていたにも関わらず、変身を解除したと同時に疲労によって倒れている。



「我はエンドラスと約束をした。彼の……というより、彼の妻であったガリアの願いを果たす為には、ヴァルキュリア君も無事に生かしておく必要がある」


「……約束を反故になされるつもりかと思っておりましたけど」


「見くびらないで頂きたい。我は神としてこの国の頂点に君臨するつもりだ。その為に動いてくれる信仰者を救わずして何が神でありましょう。――我は名ばかりで、決して人を救い賜らない架空の神になるつもりは毛頭無い」



 ラウラの言葉は、今まさにエンドラスがこの場へと近付いてきている事を察しているからではない。


彼は自らが神として君臨する事の誇りを口にしているだけだ。その言葉は……カルファスが聞いても尚、嘘偽りでは無いと理解できる。


 痛む腕を押さえながら、聖ファスト学院の屋上へと昇ってきたエンドラス。彼は荒れた息を整えながら、ラウラの下へと駆け寄り、今ラウラの膝元に、足をつき、頭を下げた。



「……申し訳、ありません。アマンナ・シュレンツ・フォルディアスの殺害を、果たす事が出来ず」


「良い。我としても驚愕の連続であった故、致し方あるまい。それより」


「……カルファス・ヴ・リ・レアルタ」



 エンドラスが視線をカルファスに向けながらその名を告げると、カルファスはニッと笑みを浮かべつつ、彼の焼き断たれた左腕の傷を見据える。



「娘さんに相当痛めつけられたようですね」


「アレは貴様が与えた力であろうに」


「いいや。アレはヴァルキュリアが望んだ力を差し出しただけの事。使うかどうかは、お前の娘が決めた事だ」



 エンドラスを追いかけ、行く道を辿る様に追いついてくるドナリア。


その口に咥えた煙草を吹き出して、足で踏みつけながら――エンドラスが平伏するラウラと、目を合わせた。



「久しぶりだな、兄貴」


「……そうだな。我は決してお前と会いたいと思っていたわけではないが」


「そう言ってくれるなよ。俺は会いたくて会いたくて仕方なかったぜ。兄貴を喰い殺す為にな……!」



 屋上の床へ、右足を強く踏み込んで叩きつけると、その動作に合わせて地面から飛び出た爪が、ラウラを襲う。


 しかしラウラの足元より伸びた爪は、彼の周囲に展開されていた空気の壁にも似た防御障壁によって全て防がれ、折れていく。



「見くびるなよ愚か者。貴様の固有能力はエンドラスに対しては有効であったかもしれんが、防ぎようなど幾らでもある」



 エンドラスは、随分と事態が複雑化していると見受けられた。


ラウラとエンドラス、そしてドナリア、更には異国の姫でもあるカルファスという存在が、それぞれの思惑を他者へと向けている。


カルファスはラウラに対して敵意を抱き。


ラウラは自らの邪魔立てを企てているドナリアやカルファスを警戒し。


エンドラスは……カルファスと言う女の介入によって、事態が深刻化している事を面倒に感じている。



「ドナリアさん、今はラウラさんに敵う手段はないよ。この人、単純に強い人だし」



 そんなドナリアを制し、止めるのはカルファスだ。彼女の言葉を聞いて、単純な戦闘では彼に現状で敵う事が出来ないという意見は同感と理解しているようで、舌打ちついでに彼女へ問う。



「アイマスクは良いのかよ、プロフェッサー・Kとやら」


「うん。ラウラさんの前だと隠しても意味ないしね」



 仲睦まじい、というわけではないが、ある程度見知った顔同士の会話をするドナリアとカルファス。プロフェッサー・Kという名前を偽名として活動していた事は明白であり……ラウラは深く深く息を吐いた。



「なるほど、愚弟の因子が強力なモノとなっているとは感じておりましたが、それは貴女の差し金でしたか」


「ええ。私はどうも、貴方とフェストラ君が嫌いですので」


「だが貴女はフェストラにも加担をしていた」


「最初はあの子に加担していたつもりも、するつもりもなかったんですけどね……説教されちゃったので。子供には優しくしとこうかな、とね」



 説教。かつてガルファレットに柔らかな言葉でたしなめられた事を思い出すカルファス。しかしラウラはその意味を理解できないでいる。



「先ほど貴女は、ファナやアマンナ、ガルファレットを助ける為に動く、と仰いましたな」


「ええ。正直、それ以外の面々が最終的にどうなろうと、個人的にはどうでも良い事だと思っています」



 ピクリと、僅かにエンドラスの眉間が動いた気もした。


しかしカルファスは睨み返す事で気配を放出すると彼を圧し、エンドラスは冷や汗と共に押し黙ったままとなる。



「……なるほど。同族に対する情という事ですかな? 彼女達はそれぞれ形は違えど造られた存在だ。故に近しい存在である貴女には、他人と思えぬようだと」


「ねぇ、それ以上余計な口を利かないでよ? それ以上言うなら、私も本気でお前を排除する方向で動くから」



 つい先ほど、エンドラスヘと向けられた気配とは別種の殺気が、全体に向けられた気がする。


カルファスは、第七世代魔術回路を持ち得て、戦闘技能にも富んでいるラウラでさえ、警戒が必要となる。


カルファスと言う女はそれだけの力量と技術を兼ね備える人物であり、現状のように直接手を出してこない状況が続いてくれるのなら、その方がラウラとしても好ましい。



「……失礼。言葉が悪くなりました。しかし、現状私はラウラさんに直接手をかけるつもりはありません。貴方に敵対する者と認識して頂く分には、構いませんけれど」


「今口にした三人――アマンナはともかくとして、ガルファレットは優秀な帝国騎士と報告を受けておりますし、ファナについても、私は幸せを望んでおります。決して悪いようにはしないつもりですが?」


「幸せにならないから言ってるんですよ。もしファナちゃんを幸せにしたいなら、今すぐこんな計画を取りやめて下さいな」


「何故幸せにならないと言い切れるのです?」


「人の気持ちが分からない神気取りの痛い爺には分からない事なんですよ。もし人の気持ちが分かっているのなら、シガレットの婆さんを蘇らせる理由もない」


「貴女も人の気持ちを理解できる存在とは思えませんが?」


「それは、まぁ同感ですけど」



 初めて、ラウラの前で自然な笑みを見せたカルファス。


彼女はポケットの中に入れていた霊子端末を取り出して、ドナリアへと視線を向ける。


一度撤退するぞ、という視線であると理解できたドナリアは、しかし聞かねばならない事があると、ラウラへと問いかける。



「マベリックやランス、ヤンサーに法螺話を吹き込んだのは、兄貴なんだな?」


「如何にも。エンドラスをあの状況から逃がす為の策であると同時に、あのシャインという魔法少女が有する能力を把握するための、いわば捨て駒だ」


「アイツ等は確かに、軍拡支持派の人間だが、俺達【帝国の夜明け】に与する事なく、中から国を変えていこうとする気概の持ち主だった」



 軍拡支持派も一枚岩じゃない。ドナリアたち【帝国の夜明け】に与して国の変革を望んだ者も居れば、三人のように軍拡支持派に属していながらも、今ある平和や平穏を崩して良い筈がないと、国に仇成そうとする者たちを排しつつ、何時の日か強靭な国家と成ってくれる事を望む、高潔なる者達も居た。


だからこそ……エンドラスもラウラも、彼らがあんな最後を迎えた事に、残念と感じている。



「兄貴の提唱する政教分離政策の廃止を訴えながらも、しかし国と言う存在に罪は無いと、自分たちが守るべき民の為と、兄貴の下に就き続けてくれたアイツ等を、アンタは捨て駒と呼ぶのかよ」


「貴様が犠牲にしてきた者達と何が違う? 大局においてはエンドラスと言う存在が不可欠であると認識した我が、エンドラスの代わりに犠牲となるべき数を見定めただけの事だ」

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