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家族-02

「行くのだ」


「……悪い」


「良い。魔法少女として在り方を選んだのは拙僧であり、その在り方に殉じるだけの事だ」


「都合の良いことを言っていると自覚しているが……こいつ等は、兄貴に利用されているだけだ。なるべく、苦痛を残さないでやってくれ」


「申し訳ない。それは、約束できぬ」



 シャインは、自分の用いる力がどれだけ強力なのか、直感で感じ取ってしまっている。


加えてアシッドである彼らを止める為には、頭部を完全に消滅させるしかない。


 それを理解しているのか、ドナリアも黙って、その場から立ち去った。


 本能的になのか、立ち去っていくドナリアを追いかける事なく、シャインへと口を大きく開きながら襲い掛かる三人のアシッド。


シャインは地面を強く蹴りつけながら一度アシッドより距離を取りつつ、グラスパーを構え、突撃。


湧き上がる炎と共に、振り込んだ一刀によって上半身を焼き切られる一体。


だが残りの二体は、吹き出る炎の熱さを感じぬと言わんばかりにシャインへと飛び掛かり、彼女の小さく細い体を捕えた――かのように思われた。


しかし、寸での所で空高く舞い上がり、飛び立っていたシャインは、衝突する二者を上空から見据えつつ、空中で身体を回転させ、落下の勢いを利用しながら二者の頭部を強く蹴りつける。


上下半身を分断されて動く事が出来ない一体と、シャインによって蹴り付けられ、動きを抑制された二体。


シャインは鞘へとグラスパーの刃を納めると、自らの胸に両手を当てた。



「トドメ、参るぞ!」



 声に合わせるかの如く。


シャインが広げた両手に装着されたグローブを溶かす程に、青白い炎が燃え盛る。


プロテクターであるグローブの下、シャインの両手さえも溶かし、肉を焼く匂いさえも漂う中、しかし燃やされると同時に再生を果たしていく手を、グッと握り締める。



〈いよぉおお! 太陽の煌きィ!〉



 シャインの胸元が橙色の光りを発して輝きつつ、機械音声を奏でた。


未だ燃え盛る青白い炎に包まれた両手を、先ほど蹴り付けた二体の頭部を掴む為に使用し、燃え盛る炎によって焼かれながら絶叫を上げるアシッド二体の首を、無理矢理引きちぎる。


燃やされ続ける二体の頭部。その頭部を空高く放り投げた後、先ほど上下半身を分断させたもう一体の頭も掴み、首を引き千切りながら空へと投げ放つと――三つの頭部は空中で、何か薄い膜にも似た白いモノに覆われ、その場に滞留し続けていた。



「――カーテン・コール」



 その言葉と共に、彼女がグッと握り締めた両手の拳。


拳が作られると同時に、空中で滞留を続けていた三体のアシッド、その頭部を包んでいた膜ともいえるモノの内部に有していた熱量を上昇させ、頭部ごと完全に燃やし尽くしていく。


燃やし尽くす――否、その言葉は正しくない。


その膜の中では今、摂氏三千度に近い熱が循環しているのだ。アシッドにも存在する脳が沸騰するよりも前に、全てを蒸発して消滅させるには相応しい熱によって消滅するという表現が最も適しているだろう。


アシッド三体の頭を消滅させた熱を有した膜は収縮を始め、最後には内部に有していた熱を外部へ放出する事なく――今、消滅を果たした。


薄い膜は恐らく、空間魔術にも近い存在であり、その内部で発生している熱は外部に影響をもたらす事は無く、最後に空間ごと消滅させる事で外界に影響を及ぼす事が無いようにされているとしか考えられない。



「ハァ――」



 相手がアシッドとは言え、一度に三人の命を殺めてしまった。


それも、帝国の夜明けが使役するアシッドとは違い、ラウラという男の虚偽によって、ヴァルキュリアの事を「フレアラス教を歪めようとする存在である」と誤解したまま、その真偽を知る事なく、殺してしまった。


こうするしか方法は無かった――そう考えても、頭で納得するしか出来ずにいて、敵を倒したという高揚感は無かった。



「……クシャナ殿は、ずっとこうした感慨を以て、戦われていたのだな」



 今までヴァルキュリアは、戦いの中で誰かの命を直接殺めた事は一度も無い。


それはこれまでの相手が全員アシッドであったが故。結果として全ての処理を、クシャナに……ミラージュに委ねるしかなかった事を、今更ながらに後悔する。



「マベリック、ランス、ヤンサー……であったな。後でフルネームを伺っておこう」



 以前、クシャナがヴァルキュリアに語ってくれた事がある。



 ――彼女はかつてプロトワンとして、本能のままに多くの同胞を喰い、生き残った結果として、ハイ・アシッドに覚醒し、自我を獲得した、と。


――彼女にかけがえのない自意識と、命を生き長らえさせてくれたのは、間違いなく自分に喰われた者たちという存在があったからだ、と。


――だから、彼らを忘れないように、名前を覚えておく、と。


 ――それは過去の事だけではなく、これから喰う事になる人達も同様だ、と。



あの時は、クシャナの気持ちを理解していたかどうかは分からない。彼女が高潔な決意を以てそうしている、程度の事しか理解できなかったが……今、その気持ちを本当に理解できたのかもしれない。



「もう二度と……こんな気持ちを、クシャナ殿一人に抱えさせるわけにはいかぬ」



 その気持ちを理解出来た今だからこそ――シャインは誓うと共に、今まで煌煌の魔法少女としてあった自分の変身を解除し、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスへと戻っていく。



「拙僧も、魔法少女になれたのだ……これからは彼女と共に……拙僧もその罪を、背負い続けて……いく」



空に舞い上がったマジカリング・デバイス【シャイニング】を握り締めながら……彼女はドッと湧き上がる疲労感によって、ふらつく体を前のめりに倒れさせるのであった。



**



倒れ込むヴァルキュリアの姿を、プロフェッサー・Kはただ見ている事しかしなかった。


彼女を助ける為にその場から駆け付ける事も無く……彼女はただ、聖ファスト学院剣術学部の屋上から、彼女の倒れる身体を見ているだけ。


そうする理由も、もちろんあった。



「……どういう事なのか、説明してくださるのかな?」



 彼女の背後に一人、初老の男性が杖を持ちながら現れた事を、察していたからだ。


白髪と白髭、その薄暗く鋭い目線から感じる殺気を受けながら、プロフェッサー・Kは振り返り、彼へと首を傾げてみせた。



「はて。なんの事です? 私はただの一般人、どこぞの皇族とは何にも関係ありませんことよ」


「おとぼけは必要ありませんぞ。……そんな目隠し一つで、我の目を誤魔化すつもりですかな? 貴女とはそれなりに交友関係があったと思っていたのですがな」


「交友関係? 冗談はよしてください。……貴方は私を利用しただけでしょう? ラウラ・ファスト・グロリア」



 男――ラウラ・ファスト・グロリアと同様に、殺気を送るプロフェッサー・K。


否、彼女も既に正体を知られている。ならば構うものかと言わんばかりに、アイマスクを外して、それを乱雑に放り投げる。


プロフェッサー・Kの正体……レアルタ皇国第二皇女、カルファス・ヴ・リ・レアルタとしてラウラの前に現れた彼女は、左手首に装着したリングへと、指を乗せた。



「我の情報網を掻い潜り、帝国の夜明けとシックス・ブラッドに手を貸す何者かがいるという事は知っていましたが、まさか貴女が関わっていたとは思いませんでしたよ」


「予想はしていると思っておりましたけれど?」


「フェストラはこう申しておりませんでしたか? 貴女が関わっていると予想はしていたが、貴女であってほしくなかった、と」


「ええ。ほぼそのまま言われました」


「我もその言葉通りであります。……まさか仮想敵国であるレアルタ皇国の姫君が、内政干渉とも言うべき加担の仕方をしていたとは」


「内政干渉なんて人聞きの悪い。私はあなた達の国作りにどう口を出すつもりもありません。……ただ、人命救助の為にと助力を求められて与えた技術が、地球からアシッド因子なんてモノを奪う為に使われるとは思いませんでしたので、憤慨はしております」



 ラウラとカルファスは、ある意味では旧知の仲であると言っても良い。仲という表現を用いるには、互いに互いの事を警戒する間柄と言っても良く、特にカルファスは、ラウラの事を嫌っている。



「人命救助ですとも。幼いクシャナ・アルスタッドを救う方法は、アシッド因子という力が無くては果たせなかった。蘇生魔術の理論を組み立てていた貴女に救いを求めても尚、癒す事の出来なかった赤子の彼女を救う為に、貴女の持つ次元技術を頼ったわけでありますからな」



 相手に聞こえる程に大きな舌打ちが、カルファスの口から奏でられる。それだけ気に食わなかったのだろうと、ラウラにも察する事が出来た。



「それで、貴女は何を企んでいるのです? 我の計画を、水面下で色々と邪魔立てしてくれていたようですが」


「そうですね。強いて言えば……ファナちゃんとアマンナちゃん、そしてガルファレットさんという人達を助ける……という言葉が近しいでしょうか?」


「では、あれは?」



 ラウラが指を向けるのは、気絶して倒れているヴァルキュリアだ。


正確に言えば、彼女の持つマジカリング・デバイス【シャイニング】と言うべきだろう。



「驚きましたよ。まさか最大熱量が摂氏三千度にも及ぶ超高熱兵器を、人ひとりの身に導入しようなどとはね」


「対アシッド用マジカリング・デバイス【シャイニング】――貴方達や帝国の夜明けに対抗する為の力として、開発したものですよ」


「何故それを、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオス君に?」


「使用適合者が彼女しかいませんでしたので」


「ならば一つ忠告を致しましょう――アレは即刻回収し、二度と使わせない方が良いでしょう」

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