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ドナリア・ファスト・グロリア-05

「我々【帝国の夜明け】は、そんな大それた変革を望んだわけではない。あくまで【汎用兵士育成計画】の実施、加えて政教分離政策の撤廃によって、フレアラス教の下で民衆が一つにまとまり、汎用兵士育成計画による防衛力の強化を望んでいただけだ」



 だからこそ、帝国の夜明けとしてはフェストラ・フレンツ・フォルディアスという男を重要視し、彼をこの国のトップに据えようと考えていた。


メリーも、アスハも、ドナリアも、自分たちが国のトップとなり、導いていく事は考えていなかった。


軍拡支持派の人間だけで構成された政府という存在の危険性を彼らは理解している上に、彼らは【軍国主義】を掲げた国作りがしたいわけではない。


あくまで彼らが望む未来は【国防】に重点を置いたものであり、侵略国家への回帰を考えていたわけでもない。そして今のままでは満足に国防を果たす事も出来ないと考えただけだ。


フェストラは大胆な思考の持ち主ではあるが、国際社会にも目を向ける広い視野を持ち得る。


帝国の夜明けが切り開いた未来で、国防を考慮に入れ、かつ過去の忌まわしい侵略国家としての在り方ではなく、平和を考慮した国作りを出来る人材だと、帝国の夜明けは彼を信じていたのだ。



「だが……実際に【永遠なる王】という統治は可能なのであるのか? 新種のアシッド因子というのは、ファナ殿のように単純な戦闘能力を持たぬ存在なのだろう? その程度の存在でしかないラウラ王を神と崇め奉る事など」


「それはアシッドと言う存在についてを知り得ている者の考えであり、そしてラウラという男についてを知らぬ者の考えでもある」



 どういう事だ、とアスハの言葉にヴァルキュリアが首を傾げたが、アマンナが口を挟む。



「……ヴァルキュリアさまは、初めてアシッドに遭遇した時……その【死なない】という特異性に恐怖は致しませんでしたか……?」


「それは……した、と思われる」



 初めてアシッドに遭遇した時、ヴァルキュリアは確かにその身体を両断した筈だ。


しかし、その両断した身体を再生し、再び襲い掛かろうとしたアシッドに、声はあげなかったが、恐怖した事は覚えている。



「アシッドという存在において、もっとも恐ろしいのは食人や、通常よりも四十八倍優れた遺伝子情報や身体能力を持ち得る点などではない。【死なない】という部分だ」


「死なないという事は……それだけで人智を越えた存在であるのです……排斥しようとしても、排斥し得ない存在……自分たちの力が一切及ばない存在……一般市民にとって【死なぬ王】という存在は……恐怖し、信仰を注ぐ事で生かして貰う事しか、出来ない存在なのです」



 信仰を注ぐ事で生かして貰う。


それこそがヴァルキュリアやアスハが嫌悪感を抱く部分であり、故に彼女達はラウラのやり方を【悪行】と断じる。



「恐怖を以て国内の混乱化を望んでいた我々が言うのもなんだが……自国民を恐怖させ、信仰を集める王など、私は認める事が出来ん。エンドラス様が何故、そんな悪行を企てるラウラの下に就くのか、それが分からない」



エンドラスという人名を語るアスハにヴァルキュリアはビクと僅かに震え、その様子に気付いたのか、アスハが問いかけた。



「エンドラス様から真意を聞いたのか、ヴァルキュリア」


「……聞いた事は聞いた。が、よく分からぬ事が多すぎる」



先日、ヴァルキュリアはエンドラスと顔を合わせ、彼がラウラの下に就き、彼の野望に与する理由を問うた。



 ――もう、正しい国の在り方に興味はない、と。


――ただ、ガリアの願いを叶えたい。……それだけだ、と。


 ――ガリアの願いを叶える為にラウラ王の力が必要だ、と。


――その為になら同胞だろうが、国の在り方だろうが、何もかもをかなぐり捨てる、と。



そう証言していた彼の言葉を、全てを語り終えた時には……アマンナもアスハも、俯きながら表情をしかめる事しか出来ていなかった。



「ガリア……というのは確か……」



 アマンナが調べたリスタバリオス家の内情、それを彼女の口から語られるよりも自分から語ろうと、ヴァルキュリアが頷き、答えた。



「拙僧の母上だ。ガリア・リスタバリオス。六年前……拙僧が十一の頃に亡くなった、元帝国軍指令部の人間である」


「旧姓は、ガリア・サーニオス。第四世代魔術回路を持ち、エンドラス様の提唱した【汎用兵士育成計画】の賛同者でもあった。その縁と、汎用兵士育成計画の体現として必要であるとし、後に婚姻を果たした……というわけだ」



 ヴァルキュリアが口にしなかった情報には、アスハが補足した。


ヴァルキュリアは母の旧姓も、エンドラスと結ばれた理由も知らないでいた。そもそもヴァルキュリアは、父であるエンドラスとも、母であるガリアとも、長く多く話をした事は一度も無かったと思う。


エンドラスとはまだ訓練において会話がそれなりに成立していたが、ガリアとの会話は、それこそ両手で数え切れる程しか覚えがない。むしろ幼い頃から仕えてくれていた給仕の方が、よほど会話をしたものだろう。



「……ガリアさまの望み、というのは?」


「決まっている。ガリア様の望みは【汎用兵士育成計画】の実現。娘であるヴァルキュリアが、計画の体現者となる事。それ以外に在り得ない」


「なぜ、言い切れるのです……?」


「ヴァルキュリアが生まれる前、妊娠なされたガリア様が、この願いを公言なさっていたからだ」



 十七年以上前、ヴァルキュリアという娘を妊娠し、生まれるよりも前に、ガリアは「産まれる子供に汎用兵士育成計画の体現者となるべく教育をしていく」と公言し、事実ヴァルキュリアはそれだけの実力を有する子供となった。



「ならば、ならば何故、父はラウラ王の野望に加担するのであるか?」


「恐らく【命じられし者】として動く事でラウラへ取り入り、汎用兵士育成計画の実現を果たす。その上でヴァルキュリアを計画の体現者とする。ラウラの傀儡でしかなかった【帝国の夜明け】に就くよりも、ラウラと共に在った方が効率的だと判断されたのだろう。……悲しい事だが」



 確かに――理屈は通っているように思える。


エンドラスは亡き妻の願いを叶える為にラウラへ取り入り、汎用兵士育成計画を実現させる事を目的に行動。


一見すると、帝国の夜明けに参加してテロリズムを掲げた方が効率は良いようにも思えるが、しかし帝国の夜明けがラウラによって裏から手引きされているという現実を知れば、むしろ悪手でしかないと判断するだろう。



「だがラウラも、汎用兵士育成計画を実現する気があるとは到底思えない。エンドラス様は計画を盾に、利用されているだけだ――そんな悪逆を許せる筈がないっ、あの温厚なるメリー様が怒られる理由も分かる」



 怒りを含んだ言葉を吐き散らかしたアスハ。


彼女はヴァルキュリアとアマンナの二人へと向き合い、思いの丈を叫ぶ。



「フェストラ様は確かに、お前達の命を守る為に決断をなされたのかもしれない。だが、結果としてフェストラ様に待ち受ける未来は、ラウラの傀儡というものでしかないっ」



 フェストラはラウラの統治法が最良であると考えてしまった。だからこそ、シックス・ブラッドを解散させ、彼は元々の在り方に戻ると決めた。


そうなれば、彼は十王族の一人として、ラウラに仕える事となるだろうと思われる。


彼もまた【命じられし者】となるのか、その才能を飼い慣らされるだけなのか、それは分からないが……話を聞く限り、ラウラはフェストラの能力を買っている。つまり、彼を右腕として使うつもりである事は間違いないだろう。



「……何が言いたいのであるか?」


「ラウラを共に討とう。勿論、我ら帝国の夜明けと、貴様らシックス・ブラッドの求める理想は異なると理解している。最後には別ち、戦う必要もあるだろう。しかしこのままでは、双方の理想を叶える事も、何を果たす事も出来ない……っ」



 ラウラを討つ――その言葉は単純に思えて、実に難しい提案だ。


フェストラも言っていたが、彼はこの国における絶対権力者だ。つまり、彼を討つと言う事は国への反逆行為。


それ即ち、この国そのものを敵に回す事と同義なのだ。



「そちらは今、アスハ殿しかこの場におられん。他の面々はどの様に考えているのであるか?」


「……メリー様は今、悩まれている。帝国の夜明けという組織が、ラウラによって手引きされた組織であるのならば、その存在を解体する事も一つの手ではないか、と」



 しかし、それはそれでヴァルキュリアからすれば、若干都合が悪い。



「理解できるだろう、ヴァルキュリア。ラウラ王の言う通り、帝国の夜明けは反政府勢力の管理には丁度いい。我々としても国の変革は望んでいるが、国家そのものの転覆や、意味の無い死を望んでいるわけでも無い」



 反政府勢力は現在、帝国の夜明けという受け皿が在る事で彼らに管理され、無差別的なテロ行為に至る事は無いと言ってもいい。


現在はドナリアかメリー、どちらかの思惑が絡む形で動かされ、結果として一か所に受ける被害は大きいが、無闇に無関係の人間を巻き込まないように状況作りが出来ている。


もし、帝国の夜明けという組織が解体すれば……受け皿を失った、何も知らない反政府勢力が彼らの手から離れ、時に非人道的な行為に走る可能性も、否定できないのだ。



「ヴァルキュリアは元々真面目な子供だ。故にこうした反逆行為に納得できるとは思っていない。ゆっくりと考えてくれればいい。しかしアマンナ、お前はどうだ」


「……どう、とは?」


「フェストラ様を王とし、この国に正常なる安寧をもたらすんだ。お前はシュレンツ分家の人間、フェストラ様の影である事を求められた女だ。それを一番に考えるべき人間だろう?」



 帝国の夜明けと組み、フェストラを新たな王の座に就かせる事。


それは確かに――アマンナ・シュレンツ・フォルディアスとして、採るべき選択なのかもしれない。


僅かに頭をあげ、しかし何と口にするべきか、応えあぐねていた時……ヴァルキュリアがアマンナの肩に手を回し、その小さな体を、今一度抱き寄せる。



「混乱している者へ、一度に大量の情報を流して決断を促すやり方は感心せぬ」


「ヴァ……ヴァルキュリア、さま……?」


「今のアマンナ殿は、ようやく自分の生きる道を選ぶ、岐路に立つ事が出来たのだ。ならばここから先は、アマンナ殿が考え、自分で道を決めるべきなのだ。その選択を惑わそうとする者は、拙僧が許さん……!」

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