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ラウラ・ファスト・グロリア-06

 永遠なる王――確かにアシッドとしての力を手にした彼は、寿命によって死する事のない存在だ。


そして同様にアシッドとしての力を有する者にしか、彼を殺す手段はない。


結果として彼はフェストラの言葉通り、永遠なる王として、この世に君臨し続ける事が出来るようになる。



「やはり、君達は優秀な人材だ。多大なる情報量、砂漠の中に落とされたパズルの欠片を探し当てるように、我の望みを見つけ出した」



 彼は新たに生まれた腕を広げた。腕を砕かれ、引き裂かれた事をまるで何と思う事も無いと、フェストラとメリーという二人の人間がここにある事を祝福するかのように、微笑んだ。



「フェストラは幼き頃からそうであった。聡い子で、実に先の未来を見据える事が出来た。故に我は君に多くの仕事を与え、それを見事にこなしていった」



 フェストラは何も答えない。ただ冷や汗を流しつつ、今にも剣を抜いて彼へと斬りかかりたいと考えるが……しかし、その大義名分を得る事が出来ず、ただ唇を噛みしめている。



「メリーもそうだ。君は暗部として優秀な人間であった。奇形な顔を有するが故に、その在り方を憎み、覆い隠す力を求めるその姿勢を、我は買っていたぞ」



 反してメリーは臨戦態勢のまま構え、何時でも動けるようにとアシッド・ギアをその身体に押し付け、クシャナへと声をかけた。



「クシャナ君、分かっただろう!? 確かに私たちは敵同士だ、いずれは戦う必要もあるやもしれん。しかし今はこの男を……自らが王で在り続ける事を望む悪逆・ラウラを討たねばならんっ!」



 彼は、彼の率いる【帝国の夜明け】はラウラという存在によって動かされていた。それに対する怒りも確かにあるだろう。


だが彼ら【帝国の夜明け】は、何よりも国の変革を望んでいた。より良き世界へとする為に戦うと決めた者達であるが故に、彼らが認めぬこの世界の頂で永遠なる命を以て君臨し続けようとする、ラウラの在り方を悪と説く。



「我が悪、とはな。言うではないかメリー」


「悪でないとは言わせない……我々とてこの力を手にする事を悪だと理解している、しかし理解の上で国の変革を願っただけの事だ!」


「アシッドの力が悪だと? 違うな、この力は確かにこの国を変革に導く――聖なる力よ」



 カツン、と。


彼の手にしていた杖が地面を一突きすると、それだけで威圧感のような何かがクシャナとメリー、フェストラの三人を襲う。


クシャナとフェストラは、強い風圧にも似た斥力場が襲う程度で事済んだが、しかしメリーには圧倒的な力の力場が襲い掛かり、本能的にその恐ろしさを理解した彼は、身体を強く突き飛ばされながらも、地面を滑りながらその力場に耐えた。



「フェストラ、君ならば理解できるだろう。我の野望とする世界を」


「……」



 フェストラは答えない。ただ、ラウラの事を見据え、唇を噛みしめるだけだ。



「国とはそもそも、民の集う地の事を指す。故に民が一つにまとまらねば、真に安寧なる世界を作る事は出来ない」


「民を一つにまとめる方法が、フレアラス様の教えであった筈だッ! この国は長らく、フレアラス教と言う一つの指標に民が付き従う事で、国内を安定させていた!」


「違う、違うんだ、メリー」



 メリーの言葉を否定するのは、ラウラではない。フェストラだ。


フェストラはラウラの言葉を理解できるからこそ……クシャナへ「戦え」とは命じる事が出来ず、彼も手を出せずにいる。


今はむしろ……メリーと言う男を止め、この場から逃げ出す事も算段に入れるべきだと、思案さえしている。



「……何が違うと、言うのです……!?」


「フレアラス教によって統一された国民があったんじゃない。『国民たちが侵略国家としての在り方を、神の名の下にと自分自身を騙し、一つにまとまらねばならなかった』んだ。……お前にも理解できるだろう?」



 そもそも、グロリア帝国と言う国は、長らく侵略国家として君臨する事が必要だった。


その広い国土に対し農業技術は拡充していたが、反して鉱物資源を用いた技術は発展途上であった上に、そもそも鉱物資源そのものが採れなかったという要因が大きい。


故に他国への侵略によって資源を調達する必要があり、人々は「自分たちの利益を求めて他国を侵略する」という非道なる行為に正当性を求めた。


結果として数千年以上の歴史を持つフレアラス教という宗教が『新約』という形に変わったのだ。


旧約におけるフレアラス様の教えは「自由を掲げた人間行動の原理」を多く提示しているが、新約における教えは「人間社会での規律遵守」が多く提示され……そしてグロリア帝国における規律とは「武器を取り、他国を侵略し、その先に真なる安寧が待つ」という考えの基に制定された規律だった。



――フレアラス様は「規律を遵守しろ」と仰せつかった。


――今の規律は他国を侵略し、国土と資源を得る事である。故に我々の行為は非道で無く「正義」なのだ。



そう。グロリア帝国民は、自分自身を騙す為に、宗教へ救いを求めたに過ぎない。



「だが今や、侵略国家としての在り方は終わり、民は自分自身を騙す必要がなくなった。つまり宗教と言う存在に固執し『在りもしない』神の名を騙る必要が無くなったんだ」


「……だがそれでは、人々は一つにまとまり等しないではないですか。十人十色異なる主義主張を持ち得る人間が多く蔓延る事、それ即ち多くの愚か者さえも肯定する事。それでは国家は無能ばかりとなり、停滞と失墜しかあり得ない!」



 彼の言う「愚か者」とは、ただ防衛力という存在を容認しただけで「侵略の意志」と飛躍させる者の事であり、エンドラスやドナリアは、そうした存在に悩まされてきた。


だからこそメリーやドナリア、そしてエンドラスは、フレアラス教という宗教の下で主義主張の統一を図ろうとした。


結果として自由な在り方は否定されるが、しかし結果として安寧を得る事が出来るならばと、彼らは主張している。


だが、フェストラはそこでメリーの考えを否定するかの如く、首を横に振る。



「だから、ラウラ王はアシッド因子の力を、自らに取り込んだんだよ」


「……何、ですって?」



 クシャナにも理解できない。話が繋がっているようにも思えない。


今まで強制されてきたフレアラス教という宗教の存在を自由信仰とする事と、ラウラという存在がアシッドと化す事に、繋がりがあると思えなかったのだ。



「オレも、ずっと考えていた。何故エンドラスがお前たちに付くのではなく、ラウラ王に付き従うのか」


「……意味が、解りません」


「エンドラスの思想はお前たちに近しいものの筈だ。帝国の夜明けという組織が確認された時、オレはずっとエンドラスの動向を追って、何時か帝国の夜明けに付くものだと考えていた」



 だが、その考えは外れた。


そして今のラウラ王という存在を認識した上で、考えを改め……これが恐らく真実なのだろうとした。



「フレアラス教は、そもそも有史以前に【神の子】として担ぎ上げられた【レイバー・フレアラス】という男の説いた教えを基に作り出された宗教だ」



 レイバー・フレアラスという男は、神が処女である筈の女を孕ませた結果に産まれた子供であるとされ、周囲の人間は彼を「神の子」として担ぎ上げる事で、人々の思想を彼に集めた。


そして彼の教えは数千年以上の時を経ても尚残り続け、彼の像が信仰の受け皿であるとされている。



「分かるか? 人々の信仰を集めるには、それ相応の理由が必要だ。フレアラス教は確かに人々を信仰の下でまとめるに相応しい存在だった。だが言ってしまえば、もうフレアラスは『生きていない存在』なんだ」



 それは、メリーとて理解している。彼は確かにフレアラス教信者ではあるが、しかし妄信しているわけではない。むしろ、その宗教と言う存在が、聖者も愚者も一つにまとめる為に相応しい存在であると考えていただけに過ぎない。



「……だが、ここに今、人々の信仰を注がれるに相応しい【神如き力】を有した存在がいるだろう?」



 フェストラが指を向けるのは、ラウラ王だ。


彼の言葉を聞き、ラウラも頷く。



「それが、アシッド因子を持つ存在だ。凡人では決して到達し得ない『死なぬ存在』――その存在が人前に立ち、自らの存在を証明して『我こそが神である』と名乗れば、それだけで信仰を注がれるに相応しい存在となる」



 実在しない【フレアラス】にではなく、実在する王である【ラウラ】を神とし、信仰を集め、その下で民を一つに束ねる事。


それこそがラウラの理想とする世界――『国家の安寧化』に至る道だと……フェストラはそう述べて、噛みしめていた唇に、より深く噛みついた。


 彼の唇は切れ、血が流れるが……しかし傷口はすぐに癒える事など有り得ない。


彼は――アシッドではないから。



 **



 扉を叩く音が、回数自体は少なくなったが、一打毎の力が強くなっているように感じた。


占拠した管制室の中で、しばし目を閉じて身体を休ませていたアマンナは、自らの髪の毛を僅かに逆立てて、魔眼を何時でも発動できるように準備を整えながら、扉の前にいる気配を数えた。


恐らく、丸太か何かで管制室の扉を無理矢理こじ開けようとしているのだろう。丸太にも強化魔術を施せば、同様に強化魔術の施されて固く閉ざされる扉を破壊する事は、確かに可能だ。



「……そろそろ、ですね」



 扉が破られた瞬間、時間停止の魔眼を用い、警備隊員達がアマンナを認識するよりも前に脱出し、難を逃れる事、それがフェストラの立てた計画だ。


なるべく意識を集中して音を聞き、まだ数分程度は扉が破られるまで時間がかかるだろうと――息を吐いてその時を待とうとした、その時。


ふと、丸太による扉を殴打する音が、止んだ。



「……え?」



 それどころか、周囲から人の気配が消えた。正確に言えば、一人を除いて他の何人かが僅かに扉から遠ざかったのだ。


まるで、危険だから遠くへ避難していなさいとでも、命じられたかのように――



「まずい……!」



 考えが及んだ瞬間、アマンナは扉から飛び退いて壁際に避難。


瞬間、強固な管制室の扉を、何度も斬り裂くような音が鳴り響いた。


 扉は鋭い切れ味の剣によって何十回と斬り裂かれた後、その剣撃の圧力に耐えきれぬと言わんばかりに、瓦解し、瓦礫をまき散らしながら、扉付近に作ったバリケードごと崩れ去った。


瞬間、アマンナは時間停止の魔眼を発動し、時間が停止した事を確認しながら、その剣を振るう男の脇を通り抜けつつ……男の顔を確認する。



(エンドラス……リスタバリオスッ!)

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