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ガルファレット・ミサンガという男-05

 彼の言葉を聞いて「まさか」とアマンナが口を開いた瞬間、メリーもコクリと頷いた。



「アマンナ君は、フェストラ様の欲する情報を取得する事が出来る。私も帝国の夜明けとして知るべきグロリア帝国王が有する謎を知れる。そしてルトは、ラウラ王がこの国に仇成す存在か否かを見極める事が出来る――まさに、ウィンウィンの関係というものだ」


「ふざけてる……敵である貴方に与える情報なんて、ない。貴方と手を組む理由なんてどこにも」



 反論するアマンナとは違い、ルトは頭を僅かに垂れながら、視線を泳がせている。



「おかしいと思わないか、ルト。ファナ君についても、レナ・アルスタッドについても、クシャナ君についても謎が多すぎる。その謎をせき止めているのは誰がどう考えても、ラウラ王でしかない」


「……それは」


「レナ・アルスタッドはまだいい。しかしクシャナ君とファナ君の謎は看過できない筈だ。彼女達はアシッドだった。そんな彼女たちの謎についてを知られぬように動く彼が何を企んでいるか、ハングダムとしては知るべきだろう」



 だが、その為に国へ仇成す【帝国の夜明け】という組織の頭目と手を組み、自国の王についてを調べる。これは如何な理由があろうとも背信行為と言わざるを得ない。


 ルトが答えあぐね、口の開閉を繰り返していた、その時だ。



「良いだろう。お前の口車に乗ってやろうじゃないか。メリー・カオン・ハングダム」



 研究施設の扉が開かれ、今フェストラ・フレンツ・フォルディアスが姿を現し、その手に金色の剣を握ったまま入室を果たした。



「――驚きですね、フェストラ様」


「何がだ。お前にとっては好ましい状況だろう?」


「ええ、その通りです。しかし貴方が私の言葉を信用してくださるとは思いませんでしたので」


「信用? バカを言うな。それに今の条件だけで乗るわけではない。もう一つ条件を付け足させて貰わねば、等価条件では無いだろう」



 もう一つの条件、そう答えながら、フェストラは剣に込める力を増させながら、剣先をメリーへと向ける。



「……その条件とは?」


「十七年前、お前たちの失踪から帝国の夜明け設立までの間、どうして姿をくらまし、どこで何をしていたか、それを語ってもらう。――まぁ、大まかの予想はついているがな」



 フェストラの言葉に、メリーはクククと笑いながらも、しかしそれを良しと言わんばかりに頷いた。


 そして彼が頷いた事を確認し、フェストラはメリーと数メートルの位置にある椅子に腰かけ、彼の言葉を聞く姿勢をとる。



「どこから、お話しをするべきでしょうか?」


「十七年前――お前たちの行方が分からなくなった所だ」


「フェストラ様がどのようにご想像なされているか、それを伺ってもよろしいでしょうか?」


「お前たちは【チキュー】……つまり、別の世界へと向かい、十七年の年月を過ごしていた……違うか?」



 ルトとアマンナが言葉を呑み、何も言葉を発する事が出来ない中で、フェストラの予想だけが研究施設内で響く。


その反響を聞くが如く、押し黙っていたメリーも……しばしの時を経て、目を押さえながら堪える事の出来ない笑みを長く溢した。



「やはり貴方は素晴らしい。状況判断能力に優れ、常人ならば思考が至っても推論から外してしまう答えでも、容易には排除しない」


「御託は良い。答えだけを述べろ」


「その通りですよ。私とドナリア、アスハの三人は、この十七年という年月を地球と言う世界で過ごしていた」



 フェストラにとっては予想していた事、故に彼は驚きも無く、ただメリーの目を見て真実か否かを計っている。


彼にはそうして相手の言葉を、言葉を告げる相手の表情や仕草を見るだけで、それが嘘か真かを計る技能もある。


だが――メリーが虚言を述べているようにも思えなかった。



「まず前提として、我々三人が何故地球へと出向く事となったか、それは未だ、私たちにも詳しくはわかりません。それはご了承ください」


「つまり、お前たちは意図してチキューという世界に出向いたわけではない、という事だな」


「仰る通りです。我々は何故、どうしてかも分からぬまま、いつの間にか地球の秋音市と言う街に訪れていました。私の場合は目が覚めた時には、秋音市という場所にいたのです」



 ただ――と、彼はこの時僅かに言葉を濁す。



「どうした?」


「いえ、今思い出しただけでも、おかしな状況だったと思いましてね……私達三人は、地球と言う世界で暮らす為の、新たな姿と戸籍を有した状態で存在したのです」



 意味が、よく分からなかった。


フェストラ以外のルトやアマンナも彼の述べた言葉が理解できず、首を傾げるしかない中、メリーも「上手く説明できず申し訳ありません」と一言謝った。



「何とも状況が複雑故に説明が難しくなってしまいました。分かりやすく言うならば、異世界転生……とでも言えばいいのでしょう」


「異世界転生……?」


「ええ、日本におけるサブカルチャー文化の一つでもありますが、死した存在が輪廻転生を果たし、それまで自分が暮らしていた世界とは異なる世界で、新たな生を果たす事を意味します」


「クシャナ・アルスタッドと同様の状況、という事か」


「――そうか、彼女も異世界転生を果たした結果、クシャナ・アルスタッドとしてこの世界に訪れたのか。なるほど、ならば色々と説明がつく」



 この時僅かにフェストラは自らの失敗を悔やんだが、しかしクシャナが仮に異世界転生を果たした結果だとメリーたちが知った所で、大した影響は無いだろうと、ポーカーフェイスを貫いた。



「私は遠藤怜雄という名で、ドナリアは成田正吾という名で、アスハは山口明日葉という名で、それぞれ赤子の状態から第二の生を歩む事となりました。――しかし、これもまた面白い事にね、我々三人の持つ記憶と【特性】がそのまま第二の生にも反映されていたのです」


「記憶は分かる。お前がメリー・カオン・ハングダムとして生きていた時の記憶という意味だろう。しかし特性というのが分からん」


「私は【顔面奇形】、アスハは【盲目と触覚失認】……まぁドナリアに関しては特性と言うには弱いかもしれませんが、彼は金持ちの家における次男として生まれました」



 ドナリア・ファスト・グロリアという男は、この世界における前帝国王・バスクの二子だ。つまり、彼はそうした金持ちの次男という特性をそのままに転生を果たした、という事だろう。



「我々が誕生した、地球の暦における二千二年から二千十六年まで、私達三人はそれぞれの生を過ごしました。そして、日本における中等教育学校において、私達は再会を果たしたのです」



 再会を果たした、とは言っても、三人はその頃から面識があったわけではない。


ドナリアとメリーには面識があったが、しかしアスハは二人の事を良く知らず、また盲目も合わさって二人の顔も知らなかったのだ。



「最初はアスハの何気ない一言から始まりました。彼女は盲目と触覚失認の状態に加え、幼い頃から虚言癖があると診断されていましたが……どうにもその虚言が、私とドナリアにとっては【グロリア帝国】での出来事と一致したのです」



 例えばアスハが「私が元々いた世界には魔術や剣術と呼ばれる技能があり、そうした技能を重要視した国家が存在した」と述べた時、他の子供たちは「アニメや漫画の見過ぎだ」と嘲笑うだけだった。


しかし、メリーとドナリアには、アスハが述べた言葉は「グロリア帝国と言う国で用いられている技術体系と同じである」と察する事が出来たのだ。


結果として、彼らは十四年という年月を経て再会を果たし、現状における理解を深め、自分たちが異世界転生を果たしたと自覚するようになったという。



「そして我々三人は、何時の日かグロリア帝国へと戻り、国の変革を果たそうと誓ったのです。その為に、今いる地球という世界で知識を蓄えようと過ごし始めて数年……今から半年前の地球歴で二千十九年に、元の肉体に精神が返り咲いた」



 それは突然の事であったと、メリーは当時を振り返りつつ、述べる。



「その十七年間、私達は地球にいた。そして少なくともこの世界で私たちが生きていたという記録は存在しない。行方不明の状態で処理をされていた。しかし、私たちの肉体は生きていた。それどころか――アシッドという存在に変貌を遂げていたのです」



 コンコン、と頭を叩いたメリーに、フェストラは目を細め、事態がここでさらに読めなくなったと唸り声をあげる。



「つまり……お前たちは異世界転生とやらを果たして過ごし、十七年経った時にまた、元々自分たちの有していた肉体へと精神を戻した、と言いたいんだな? それも、知らぬ間にアシッド化していた肉体に」


「ええ。……素っ頓狂な事を言っていると自覚はあります。しかし、これが真実なのです」



 だが、クシャナと同様の地球に対する知識を持つ事や、十七年間という月日を行方不明状態で過ごしていた訳は、何となく理解できた。


そして、異世界転生というクシャナと同様の出来事が彼らにも訪れていて、アシッドという意味合い以外にも、帝国の夜明け三人とクシャナの間に共通項が出来た。



「――メリー、一つ聞くぞ」


「何でしょう」


「もし、お前達をチキューという世界に転生させ、十七年という月日が経過した後、この世界へ再び戻した存在が、この世にいるとしたら……それが誰か、予想を付けているのか?」


「ええ――恐らくフェストラ様と同じ人物を想像しております」


「なるほど、合点がいった。だから貴様は敵であるアマンナやルトの力を借りてでも、ラウラ王に迫ろうというのだな」



 立ち上がったフェストラ、彼は研究施設の出入口へと、アマンナの手を引きながら歩み始める。



「丁度オレもラウラ王について、より詳細を知ろうとしていた所だ。――お前達の力を貸せ。そうすれば、全てを知る事が出来る筈だ」

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