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命じられし者-11

 グロリア帝国首都・シュメルの中でも一際目を引く建造物である帝国城には、主に帝国政府の用いる政府施設の他に、十王族も含めた政府高官用の城住施設、及び王邸宅としての役割も存在する。つまりフェストラやアマンナは普段から帝国城に住まい、仕事を行う際も帝国政府施設を利用している。



満身創痍と言っても過言ではない、シックス・ブラッド達の集まったフォルディアス家が用いる邸宅、その寝室には、アルスタッド家の三人が眠っている。


クシャナ・アルスタッド、ファナ・アルスタッド、レナ・アルスタッドの三人であり、この三人以外の面々は、派遣した帝国魔術師より治癒魔術を受けた上で、ある程度戦いの傷を癒した状態で、集まっていた。


そして――シックス・ブラッド以外にも、ルト・クオン・ハングダムもそこに居て、彼女はアマンナと共に窓際へ立ち、周囲を警戒している。



「……不甲斐ないのである」



 帝国魔術師も全員が退室し、盗聴や盗撮の危険性をアマンナとルトが排除した事を確認した所で、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスが呟いた言葉。


その言葉は、その場にいるシックス・ブラッド全員が感じている事でもある。



「今回の作戦に関しては、ファナ・アルスタッドの救出及び、レナ・アルスタッドの救出が最優先課題だ。それは果たせている」


「しかしこの現状は、敵との戦いに負けている事に他ならぬでは無いか……っ、!」



 フェストラの言葉に、椅子へ腰かけていたヴァルキュリアが勢い良く立ち上がったが、しかし彼女は両足のアキレス腱をアマンナによって斬られた影響もあり、痛みが走る。


治癒魔術を受けても、本来は自然治癒能力を高めるものでしかない。故に、怪我が深ければ深い程、その治りは遅くなる。



――ファナの治癒魔術を除けば、だが。



「……そちらにいらっしゃる、ルト・クオン・ハングダム殿と、父上がいなければ……拙僧らはファナ殿も失い、帝国城の占拠までされていたのであろう?」


「分かっている――オレ達の敗北という事実は変わらない。だが、今回の戦いはそもそも、今後数多ある戦いの一つでしかない。その一つで命を誰も落とす事が無かったという事実を受け止め、次に活かす。それこそ大切だ」



 今、目を向けるべきは他にある――フェストラはそう言葉にし、ルトを見据える。



「【命じられし者】――エンドラスは自身とルトについて、こう述べていた。この言葉の意味を、伺いたいのだが」


「答えられないわね」



 フェストラの問いに首を振り、そう即座に述べて、ルトは目を閉じた。


しかし、ヴァルキュリアとアマンナは、ルトへと視線を向けて問いかける。



「何故であるか? そもそもルト殿や父上は、ファナ殿を守っていたのだろう? ならば拙僧らと目的を共にしている。その真意を伺っても良い筈である!」


「……ルトさま、わたしも、わかりません……あなた達【命じられし者】という存在は……そもそも誰に、何を命じられ、ファナさまをお守りしているのです……?」


「答えられないわ」



 まるで、周囲の警戒を終えたと言わんばかりに窓際から立ち去り、寝室から出て行こうとするルトの背中に、フェストラが無駄と知りながらも、問いかける。



「ルト……お前が述べていたという言葉の意味、それはオレにも理解できん。ファナ・アルスタッドとは何者だ? 【新種のアシッド】とは何だ? そもそも何故、貴様がそうした情報や事実を知っている?」



 足と、ドアノブへと伸ばされた手の動きを止め、静止したルト。


変わらず返答はないが……しかし、言葉は聞こえている筈だと、フェストラの口は止まらない。



「そもそもアシッドとは何か、お前は……他の十王族は知っていたのか? いや、他の十王族はきっと直接は知らなかったのだろうが、十王族を動かせる立場の人間達は、知り得ていた筈だ」


「だったら何だというの?」


「このグロリア帝国と言う国そのものが――アシッド因子の製造に関与していたんじゃないのか? 【帝国の夜明け】はその情報をどこかから手にしただけだったんじゃないのか?」



 もし、フェストラの考えが正しければ――なるほど、確かにプロフェッサー・Kが言う通り【帝国の夜明け】という組織は、扱いさえ間違えなければ、打つ手の無い敵と言える存在はないだろうと、ガルファレットも考え、思考を回す。



「【帝国の夜明け】主要人物、その三人共が行方不明となった時期と、クシャナ・アルスタッドという女の出生が同じ時期、十七年前である事も、何か理由があるのか?」


「……どんな理由があると思うのかしら?」



 初めて、ルトがフェストラの言葉に、意味がありそうな返答をした。


 ドアノブにかけていた手はそのままに、身体だけをフェストラへ向け、彼も顎を引いて答えた。



「――例えば、クシャナ・アルスタッドという女がこの世界に現れた事が、全ての始まりだったんじゃないのか?」



 ルトは何も答えない。だが、瞳はただフェストラを見据えていて、その言葉が正しいか否かを物語っているようにも思える。



「クシャナ・アルスタッドという女が、レナ・アルスタッドから産まれた。そして、そんなレナ・アルスタッドの下に、ファナ・アルスタッドという捨て子が委ねられた。その両者がアシッドだと? コレを偶然と片付ける奴は本当の阿呆だろうよ……!」



 理路整然とした語らいが、そもそも事実確認において必要になるとは理解している。


だが、あまりに多くの情報が押し寄せて、フェストラさえも事実を整理する事の難しさが際立っていく。


その上で、彼らシックス・ブラッドは、どう動けばよいかも分からない、帝国の夜明けをどう対処すべきかも、命じられし者とやら達が、今後どう動くかもわからなければ、八方塞がりと言っても良い状況だ。



『お前の思う通り、答えてやるがいい。ルトよ』



 ノックも無しに、ルトの前にあるドアが開き、一人の男性が姿を現した。


長い白髪を全て逆上げ後ろでまとめ、首元まで伸ばされた白髭が目立つ者。


その者を見た瞬間――全員が席を立った後、痛む体に鞭を打ちながら、左足を床につけ、頭を深く下げるしかない。



「――陛下、何故こちらに」


「何。昔、身の回りの世話をしてくれたレナ君が賊に捕らわれたと聞き、老い先短い男が心臓の鼓動を早くして駆け付けた、とでも思ってくれれば良い」



 一本の杖を用いて歩み、ゆっくりとレナ・アルスタッドの眠るベッドへと近付く男性。


【陛下】と呼ばれた彼は、レナの美しい寝顔の頬に軽く触れた後、笑みも安堵も無く、ただ平伏する者たちへ、声をかける。



「頭を上げ、問いかけよ。フェストラ」


「……ハッ」



 有難き幸せでございますと、先に述べつつ、フェストラは頭を上げて、何を聞かねばならぬかと思考し――だがコレを確認せねばなるまいと、考えていた事を問いかける。



「……陛下なのでしょうか? エンドラス・リスタバリオスや、ルト・クオン・ハングダム……【命じられし者】を動かしておられるのは」


「その通り――彼らは我、ラウラ・ファスト・グロリアの命に従ってくれている、友人だ」



 男の名は、ラウラ・ファスト・グロリアであり、このグロリア帝国における王。


彼が命じ、ルト・クオン・ハングダムも、エンドラス・リスタバリオスも、動いていたという事だ。



――なるほど、確かにこれ以上の【命ずる者】もいないだろうと、フェストラは彼を見るまでその考えに至らなかった自分を恥じた。



「ルト。君が知り得、シックス・ブラッドに伝えても良いと思う事は、全て伝えてやると良い。フェストラは我の右腕に相応しい男だ。この国をより良き未来へと導く素養もあろう」


「よろしいのでしょうか?」


「構わぬさ――君も、多くは知らんのだからな」



 チラリと、ラウラの視線が、跪くヴァルキュリアへと向いて――同じ目線になるよう、彼も膝をつく。



「陛下、なりません」


「否、構わぬのだよ。……君が、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスかな?」


「は、ハッ! エンドラス・リスタバリオスの娘、ヴァルキュリア・ファ・リスタバリオスと申しまする!」


「緊張せずとも良い、我はただの老いぼれ故な」



 ポンポンと、ヴァルキュリアの頭に触れるラウラ。


まるで老人と孫の触れ合いにも似た一幕に、フェストラもルトも冷や汗を流すけれど……しかし、ラウラはすぐに手を離し、立ち上がる。



「我はこれで、失礼する。……フェストラ、ヴァルキュリア。君達が我の期待に沿う男に育ってくれることを、期待している」



 退室していくラウラに、言葉を返す事も出来なかった。


ただ嵐が過ぎ去った後のように、シンと静まる空気。


その中で、ルトがため息をつくと共に、フェストラと向き合った。



「……何を聞きたいのかしら?」


「色々とあるが――何よりもまずは、ファナ・アルスタッドという娘についてだ」



 やはりか、と言わんばかりにため息をついたルトが、近くにあった椅子を用意して腰かけると、フェストラもそれに続き、アマンナの用意した椅子へ腰かけた。



「私も、多くを知っているわけではないわ。彼女が第七世代魔術回路を持つという事、そして……生まれながらにして、アシッドの因子を持ち得ていた存在である、という事だけ」


「ラウラ王はその事を知っているのか? 知った上で、お前たち【命じられし者】に守らせていたのか?」


「当然知っていた……というより、私やエンドラス君のような【命じられし者】に、ファナ・アルスタッドちゃんという特異な存在を伝え、守る様に命じたのよ」



 そもそもラウラ王が知り得ていたから、ルトやエンドラスという者達が存在を知った、と言う事であり、彼女達の調査結果を受けて守る様に命じた、というわけではないらしい。



「……何故、ラウラ王がファナ・アルスタッドの存在を知り得るかは?」


「分からない。加えて言えば、私はファナ・アルスタッドちゃんの存在を認識していたけれど、エンドラス君は最近、その存在についてを聞いたそうね」


「……何だと?」


「命じられし者も一枚岩じゃなく、私とエンドラス君の行動も異なるって事。……私の守護対象はファナちゃんだったけれど、エンドラス君の守護対象は、どうやら……」



 チラリと、ルトの視線が一人の女性に向く。


レナ・アルスタッドだ。

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