第12話 静寂の風が吹く
爬虫類の生命力は強く、大鷹の爪だけでは絶命まで到らなかった。
しかしベルナーたちリュイエールの重装兵はすかさず、トカゲの両後脚にツルハシ部分を打ち込んでおり、
「そら引けェェェーッ!」
最後の力を振り絞るかのように、一斉に後ろに引っ張った。
トカゲは腹ばいに。コーデリアは「蛇足だなァ」と声を上げ、大鷹に押さえつけられたままのトカゲの頭に剣を突き刺してトドメを刺した。
一方で、トラと戦っていた黒獣・ホーンドウルフにも動きが。飛びかかるトラを角で薙ぎ、起き上がりざまにその首を刺し貫いていた。
密林に長い断末魔があがり、そして密林は静寂の風が吹くだけとなった。
「終わったか」
ダナンは肩を押さえながらラウたちの下に歩み寄る。
傷が深いのか、指の間から血が滴っている。
「半数が、やられた」
振り返り言うそこには、バザラ族の男たちがたくさん横たわっていた。
中には近衛の姿も。誰もが武器を握りしめたまま息絶えている。
ラウもまた後ろを振り返った。
ダイアリザードと戦ったリュイエール兵も三名が死亡。起き上がれない者が半数を占め、己の無力感にがっくりと肩を落とした。
「戦い、死はある。目的果たす、勝利。果たせない、負け」
はい、と弱々しく頷く。
ダイアクラス討伐に向かった騎士団が全滅なんて話も少なくない。
犠牲者がこれだけに留められたのは救いだと思うべきか。
カトゥスが言った『犠牲の天秤』との言葉の意味が、今になって重くのしかかってくる。
(私の受け皿がもっと大きければ、犠牲は減らせたのかしら……)
その背後では、コーデリアが賑々しく武勇を誇っている。
ダイアリザードはトラと結託したのは、それを黒獣にぶつけるため。屠れば上等、負傷なら御の字、役目を終えれば直ちに共闘を破棄し、殺害していたことだろう。
利用するかされるか。
トカゲが進化したのがヘビと聞くが、狡猾さはどちらも共通している。
(恐ろしい相手だったわ……)
もし一つでもミスをしたら――。
ラウは迫る牙を思い出し、ぶるりと身震いをした。
 




