↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/76

第15話 潮流の境目

 援軍が到着したのは、それから十日後のことだ。

 ステルダム軍の歓迎に対し、自ら軍を率いたルデラ国の王・オリバーは心底嫌そうにしている。


「国王陛下。お待ちしておりました」

「……妹の要請でなければ来なかった」


 恭しく傅いたラウに、オリバー王はハッキリ言った。

 後ろに控える家臣もまた同情するような眼差しで王を眺め、そしてラウの横に控える大鷹を向く。


「ピュッ、ピュューイッ♪」

「そこはかとなく馬鹿にされている気がするのだが」


 国王の手前、されています、なんてラウは口が裂けても言えない。


「オリバー王。申し訳ありませんが、陸路の布陣について――」


 そこにステルダムの指揮官が地図を片手に。オリバーは家臣を引き連れ、憂鬱そうな足取りで作戦室のある建物へと歩を進め始めた。


「救護艇の準備も整ってきているようだけど」


 港には舟を担いだ兵士が駆け回り、波止めや桟橋に並べてゆく。

 海上戦は帆船による大砲の撃ち合いが主である。しかしそれによって仲間が海に放り出されることがあり、そんな彼らの救助、もしくは遺体の回収などの救護艇として使用されている。

 ラウはあまり使用されることがないように、と物憂げな顔でそれを眺める。


「ピュイ、ピュイ」

「え、どうしたの? 海上要塞に――」


 大鷹が鳴くそこに目を向けると、ラウは「あっ」と声が洩れた。

 せり出す大砲の横に兵士たちが並ぶ。青の海軍の制服をきっちりと着込み、士気高揚と敬礼をしていた。


「三フィート後退、成功ね」


 ラウもまた敬礼を、他の海軍に属する者たちもまた同じく――。

 懐の銅貨を金貨に変える。確信はあったのだが、自分一人だったらきっと大損していたに違いない。なのに一定以上の成果を得られたのは、ひとえに協力してくれた商人や兵士、海賊たちのお陰である。

 夜中に出航した補給船が砦に到達できた耳にした時、ラウは思わず顔を覆って泣きじゃくってしまった。実は不安で仕方なく、眠れぬ夜が続いていたのだ。


「よしっ」

「ピュイッ」


 大鷹もまた翼で敬礼をしていた。

 そしてラウは波高く揺らめく群青色の海に、両手の指を絡ませ、海の神に感謝とみなの無事を祈っていると――


「ヌ゛ォ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーッッ!」


 背後。ルデラ軍が集まる陣営の方から、急に獣の咆哮のような雄叫びがあがった。

 ラウと大鷹は驚きに跳び上がり、なんだと目を向ける。そこには部下らしき兵士が三人がかりで「ステイ!? ステイ!?」と、必死に抑えている。

 背に長柄の斧、腰裏に短い剣を二本。防具は革鎧に小手、すね当て――その格好に、ラウは見覚えがあった。


「蛮族って言うか……もはや野犬じゃない……?」

「ピ、ピィ……」


 それは、コーデリアだった。

 戦闘になると〈狼の皮を着た戦士(ウールヴヘジン)〉のようになると聞いていたが、目が完全に血走りフーフーと荒い息を立てる姿は、『飢えた犬』と形容した方が近い。

 驚いたのはステルダム兵とラウたちだけ。

 ほかのルデラ国の兵士たちは、見慣れた光景のように和やかに過ごしている。


『――もうすぐ潮が変わるぞーッ』


 船乗りが声を張り上げ、伝えて回る。

 海を向けば、揺らぐ波は小高に、開戦の鐘が鳴るのを待っているかのようであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。