第15話 潮流の境目
援軍が到着したのは、それから十日後のことだ。
ステルダム軍の歓迎に対し、自ら軍を率いたルデラ国の王・オリバーは心底嫌そうにしている。
「国王陛下。お待ちしておりました」
「……妹の要請でなければ来なかった」
恭しく傅いたラウに、オリバー王はハッキリ言った。
後ろに控える家臣もまた同情するような眼差しで王を眺め、そしてラウの横に控える大鷹を向く。
「ピュッ、ピュューイッ♪」
「そこはかとなく馬鹿にされている気がするのだが」
国王の手前、されています、なんてラウは口が裂けても言えない。
「オリバー王。申し訳ありませんが、陸路の布陣について――」
そこにステルダムの指揮官が地図を片手に。オリバーは家臣を引き連れ、憂鬱そうな足取りで作戦室のある建物へと歩を進め始めた。
「救護艇の準備も整ってきているようだけど」
港には舟を担いだ兵士が駆け回り、波止めや桟橋に並べてゆく。
海上戦は帆船による大砲の撃ち合いが主である。しかしそれによって仲間が海に放り出されることがあり、そんな彼らの救助、もしくは遺体の回収などの救護艇として使用されている。
ラウはあまり使用されることがないように、と物憂げな顔でそれを眺める。
「ピュイ、ピュイ」
「え、どうしたの? 海上要塞に――」
大鷹が鳴くそこに目を向けると、ラウは「あっ」と声が洩れた。
せり出す大砲の横に兵士たちが並ぶ。青の海軍の制服をきっちりと着込み、士気高揚と敬礼をしていた。
「三フィート後退、成功ね」
ラウもまた敬礼を、他の海軍に属する者たちもまた同じく――。
懐の銅貨を金貨に変える。確信はあったのだが、自分一人だったらきっと大損していたに違いない。なのに一定以上の成果を得られたのは、ひとえに協力してくれた商人や兵士、海賊たちのお陰である。
夜中に出航した補給船が砦に到達できた耳にした時、ラウは思わず顔を覆って泣きじゃくってしまった。実は不安で仕方なく、眠れぬ夜が続いていたのだ。
「よしっ」
「ピュイッ」
大鷹もまた翼で敬礼をしていた。
そしてラウは波高く揺らめく群青色の海に、両手の指を絡ませ、海の神に感謝とみなの無事を祈っていると――
「ヌ゛ォ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーッッ!」
背後。ルデラ軍が集まる陣営の方から、急に獣の咆哮のような雄叫びがあがった。
ラウと大鷹は驚きに跳び上がり、なんだと目を向ける。そこには部下らしき兵士が三人がかりで「ステイ!? ステイ!?」と、必死に抑えている。
背に長柄の斧、腰裏に短い剣を二本。防具は革鎧に小手、すね当て――その格好に、ラウは見覚えがあった。
「蛮族って言うか……もはや野犬じゃない……?」
「ピ、ピィ……」
それは、コーデリアだった。
戦闘になると〈狼の皮を着た戦士〉のようになると聞いていたが、目が完全に血走りフーフーと荒い息を立てる姿は、『飢えた犬』と形容した方が近い。
驚いたのはステルダム兵とラウたちだけ。
ほかのルデラ国の兵士たちは、見慣れた光景のように和やかに過ごしている。
『――もうすぐ潮が変わるぞーッ』
船乗りが声を張り上げ、伝えて回る。
海を向けば、揺らぐ波は小高に、開戦の鐘が鳴るのを待っているかのようであった。




