第9話 敵を知ること
追い返した以上、こちらも責任を負わねばならぬ。
何ごとかと兵士たちがやってきたが、ラウは事情を説明しようとしたコーデリアの肩を引く。
「何もありません。少し“商談が”こじれただけです」
得も言えぬ圧を感じ、その場にいた全員が息を呑んだ。
――内通者がいる
それも内情を知る後方部隊から。
兵士たちが去ったあと、コーデリアにその考えを伝えた。
「内通者……やっぱりか、どーりでピンポイントでくると思ったッ!」
「でも、まだ証拠がないので断定までは……」
「いーや、絶対にそうだね。B3拠点からE7への移動を知ってなければ、あんなえぐり込んで突っ込んでこねえ」
くそッ、と手の平に拳を打ちつける。
左腕は二か月の大怪我と聞いたが、完全に治ったような仕草だ。
「ですが、どうやって居場所を敵に伝えているんでしょう。あまり身内を疑いたくないですが、部外者と接触する機会なんて滅多とありませんし」
「んー……これは、どっかに裏口を作られてんな。前線でも接触する方法はいくらでもあるが、回数が増えれば疑われる。アタシらも探っていた中で情報を流したとなりゃ、書簡か何かだ」
「裏口、ですか?」
「実行に必要な情報を一つ渡すだけで済むようにな」
敵陣に乗り込む前から念入りに下準備をしていた。
情報を入手し、最小限の戦力で相手の要所を叩く。そうして力の差を見せつけつつ時間を稼ぎ、目的を果たせばすぐに撤収する――。
戦争の経験値が高いだけあって、コスト面から見ても用兵に無駄がない。実にいやらしい戦い方をするものだ、とラウは舌を巻いた。
「完全にこちらが後手に……」
「後手に回ったなら、それを利用してやれ。規模が大きいほど融通は利かねえし、想定外に弱い。一発逆転の大ばくちを仕掛けるチャンスだ」
頭を見つけ、ぶっ潰せば相手は大崩れする。
総攻撃がくればと意気込むコーデリアだったが、
「相手に力押しの選択はないかと思います」
ラウは頭の中で算盤の珠を弾きながら言う。
「おん? どうしてだ?」
「こちらにはサニーがいますから。姑息な手段で奪おうとしたところからして、いると困るのは確か。コストを抑えた戦い方でも、鎧を綺麗なままにしておきたいことが窺えます」
事業では必ず予算を計上する。計画に従って進めるのだが、数字にズレが生じた場合は実績をもって修正してゆく必要がある。
金貨を得るはずが銀貨となった。それが損失を出すことが安易に予想できる博打によるものとなれば、経営者としての信用がガタ落ちだ。
相手の目的が時間稼ぎならなおさら。言うなればこの戦争自体は、相手指揮官にとって『必要な無駄』なのである。
コーデリアは納得ゆかないのか、腕を組んで唸った。
「そうとも言い切れねえんじゃねえか。堅実に攻めて、最後はどーんはよくあるぜ」
ラウは「堅実ですね」と、そのまま返す。
「堅実って、商人に言わせれば『リスクを嫌うこと』なんですよ」
こちらには相手に不利益を与える相棒のダイアホークがいる。
相手にとっての博打は、こちらでは『一手』である。確実な勝利を計画しているなら、こちらは相手が通ってきた裏口から負かしにゆけばいい。
共謀者であるルガート商会から、失敗したと報告が届けられる前に――。




