少し前のお話 part1
三人称になっております
暁月 希悠はとあるビルの会議室にいた。希悠の他には希悠と同じ年齢かそれ以下の人間が4人。いずれも若手投資家として一部から注目を浴びている人物である。今日は月一で行われている意見交換会だ。と言っても名前のイメージとは違い、ほぼ世間話。何を買ったとか、あそこのレストラン美味しかったとか、新車でドライブしようとか、ゴルフやりませんか?とかだ。
だが、今日は皆、少しぎこちなかった。ぽっちゃりした28歳の男、階前 翔が話が途切れた時、意を決したと言うような表情と声色で「皆、聴いてくれ」と言った。
「何だよ?そんな切迫したような表情で?」
こう、返したのは三鷹 端音。31歳のベンチャー企業専門の投資家だ。彼が言ったようにこの好景気に投資家がして良いような表情では無い。株を買えば誰でも儲かるなんてレベルなのだから。
「慣れない分野に手を出して負債でもかかえたか?」
と、戯けたような声で言ったのは桜木 海斗。この場での最小年、26歳だ。イマドキイケメンで絵に描いたような人物だ。サブでモデルもやっている。ただ、性格はよく言って腹黒い。
「いや、あれだろう。金が増えすぎて怖くなったんじゃ無いのか?」
そう、言ったのは希悠。ニヤニヤ笑っている。脚を組んで無駄に偉そうだ。
現在の好景気、引き金は一般人の投資参入だと言われている。国の政策で、投資を推し進め、リスクマネージメントに優れたAIを国が無料公開したからというのもあるとも言われているが……。日本の株価がバカみたいに上がり続けたのだ。理由となるのは、人の心だろう。今まで投資に手を出していなかったもの達が、続々と手を出して、政府の金融政策によって儲かったのだ。
そこからは言伝で鼠算ほうしきで増えていったと言える。そのおかげで日経平均株価は40000円を超えた。ハッキリ言って異常である。この異常に敏感に気付いた階前がどうしようかとあたふたしているのだ。希悠はそれが面白くてニヤニヤ笑っていたわけでは無いのだろうが……
「違う。お前ら、この好景気どう思う?」
翔は希悠と海斗の反応を不愉快に思ったのか、舌打ちをしてこうのように聞いた。
「儲かっていいなーって思ってるけど?ちょっとおかしい感じがしないでも無いけどさ」
いち早く答えたのは、紅一点、赤に髪を染めたスレンダーで目つきが鋭い女性。名を一条 奏という。趣味は剣道、柔道、殺陣、アクロバット。何と戦うつもりなのだろうか。いつも、フランクで考えなしに見える女性だ。
「俺もそうだな、簡単に稼げるうちに稼いでおきたい。」
奏に続く形で言ったのは海斗だ。彼は欲に忠実なのか危険性など眼中にも無いようだ。
この好景気の危険性。それは大暴落だ。この現在、株価の上昇は末期に限りなく近い。こう考える人が増えてきている。政府やマスコミの戦略で巧妙に隠されているが露呈するのも時間の問題だ。何かおかしいなと直感的に理解している奏や、不安に思っている翔が異常なのであって、海斗の反応が一般だ。
海斗がアホみたいな印象を持たれると困るのでここで補足。海斗は完全な感覚派。ビックリするほどの幸運と直感で他4人と同列視されるレベルまで登った男だ。海斗の第六感と運は伊達ではない。
「端音と希悠はどう思ってるんだ?」
海斗の言葉から少し間があいても口を開かない二人に痺れを切らしたのか翔が催促するように言った。
「わからん。」
翔の言葉から秒針が半分回った頃に端音が言った。その言葉を聞き、海斗と奏は硬直し、翔は「マジかよ」とこめかみを押さえて呟いた。希悠は端音をじっと見ていた。端音は今まで景気の予想はピシャリと言い切っていた。上がる、下がる、売りなどと。その予想は外れた試しがなく、日本全体の景気に限るなら国内に彼を勝る予測能力を持つ人間はいないといわれているほどだ。
「じゃ、じゃぁ、希悠は?お前はどう見ている?」
いち早く回復した翔が端音に熱い眼差しを向ける希悠にすがるように聞いた。薄らと汗をかいている。
「端音の言葉で確信した。これは終わる。機はもうすぐだ。確実に、何かが起こる。」
希悠は翔をまっすぐ見返し、そう言った。
「俺の違和感と、お前らの予想。これは前兆か………」
この意見交換会の僅か1週間後株価の大暴落が起こり、日本は恐慌に陥った。この時、彼ら5人は1株も所有していなかった。
これは、希悠がゲームを始めることになった要因の一つである。
三人称に出来ていたでしょうか??
実際、ビジネス的な投資という意味で株式を所持していなかったと言うだけで、個人的に恩のある企業や横のつながりの関係で様子見を決め込んである物もあります。90%程度を売却し、赤字にならないように切り抜けたイメージを持っていただけると幸いです。




